123.闘技場2戦目
お茶漬に言われて掲示板を眺めるつもりでメニューを開く。
あ、ウィンドウで任意の試合が見られるんだった。
中央上空にある巨大ウィンドウでは5秒ほどランダムで試合の模様が表示されては切り替わってゆく。自分のウィンドウで選択した試合を、巨大ウィンドウに表示させることも可能だ。自分以外は他の映像を見ていることになるが。
ペテロ達はどうしたかと、教えられたブロックを検索する。ペテロの名前の上に白丸が書かれ、選択しても画像表示に移らないので、どうやら試合は終わった模様。相手の名前が灰色に暗くなっているのでペテロが勝ったのだろう、そうこうしているうちに本人が帰ってきた。
ペテロ:ただいま。勝ったよ〜
ホムラ:おかえり、おめでとう。
お茶漬:おめおめ
菊 姫:おめでとうでし!
ペテロ:速いと有利だねwすぐ対策立てられちゃいそうだけどw
ホムラ:やっぱり対策されるんだろうな、困る。
お茶漬:ホムラのは困るとかそういう話でもないような……
ペテロ:そういえばホムラはパーティー戦なのにもう終わったの?
菊 姫:ひどかったでし
ホムラ:状態異常+異常中ダメージ増加魔法コンボで瞬殺してきた
お茶漬:あれそういう魔法だったの?
ホムラ:うん。【風】・【雷】・【光】系統の魔法は速いし便利。
菊 姫:せめて名乗るとかないんでしか?
ホムラ:名乗る?
菊 姫:シンとレオはやってたでしよ?
ホムラ:ヤァヤァ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ?
ペテロ:先生、それ勝名乗りw
お茶漬:勝ってから名乗るプレイ。……勝名乗りだったのそれ?
ペテロ:平家物語だったかな? もう慣用句になってるっぽいしいいのかな?w
菊 姫:せめて戦い始める前に名前名乗って間をおくでしよ!
お茶漬:しゃべらせても貰えない可哀想な対戦相手。
ホムラ:そんな、間なんか置いたら攻撃くらって負けちゃうかもしれないじゃない。
ペテロ:全くです。忍びは密やか・迅速がモットーですよ。
お茶漬:こんがらがってきた
菊 姫:あ、シンが勝ちそうでしよ
慌ててメニューの『観戦』からブロックを選びシンの名前を探し、試合の模様をウィンドウに映す。
菊姫の言うとおり、重戦士相手にシンがコンボを決めて勝つところだった。金属鎧を殴るのは殴っている方が痛そうに見え……
ホムラ:シンの武器、あれはファイアポリプか。なんというか殴られても全く痛くなさそうなんだが。
菊 姫:うん、個人戦もあの装備で口上叫んでたでし。
ペテロ:「吾こそはファスト街の獣人シンなり。 敵を征伐するため、今ここに立つ!」
おそらく個人戦でシンの述べた口上をペテロがなぞる。
水まんじゅうの餡が赤くなったようなぷにぷにつるるん、としたボクシンググローブをもっと丸くしたようなアレをつけて、その口上を告げたのか。
おかしいな、見た目が気に入らなければ外見変えられると言っておいたはずなんだが。ネタ武器として気に入ったということだろうか。キャラの見た目が渋いだけに、残念すぎるちぐはぐさ。殴るたびぷにぷにと擬音がつきそうだ。
菊 姫:あの武器、見た目あんななのに強いでしよ?
お茶漬:僕らって本当に火力だけはある
ペテロ:耐久がね
菊 姫:紙装甲でし!
ホムラ:痛そうだなおい。
話しているとおり、シンは大幅にHPを減らしての勝利だ。
ちなみに試合している者同士では【鑑定】できない限り相手のHPは見えないが、ウィンドウには数値でなくゲージとして可視化されている。観客が試合の駆け引きにピンと来ずとも、ハラハラワクワクできるように、だそうだ。
闘技場の運営は賭けで成り立っています。
あれです、賭けがある事を知った時に、お茶漬とペテロが私に賭けると言い出して、他の三人も私に賭けた。ご祝儀入札ありがとうございます。オッズは高いが、ソロ参戦に哀れまれたのか他にも私に賭けた人がちらほらといるようだ。あとソロ、私だけじゃなかった! 選択を間違えたのか自信満々なのかは謎だが、何名かいる模様。
オッズが一番低いのは、炎王のパーティーだが、ロイたちのパーティーと人気を二分している。よく攻略アナウンスで名前が流れるので当然といえば当然だろう。
パーティー戦も個人戦も優勝者を当てるだけのものと、優勝準優勝を正確に当てるもの、優勝準優勝が入れ替わっても構わないので決勝に残る二組を当てるもの、など様々だ。個人戦のほうでは優勝する職業を当てる、なんてものもある。私も、「烈火-クロノス」で買ってみたので頑張って欲しいところ。
ソロ参戦の中にはアキラ君もいたのだが、すでに名前がグレー。ソロとパーティーの戦い方の参考にしたかったのに、気付いた時にはいなかった。早く気付けば見られたのだが、まあ、負けたなら参考にならんか。住人も数多く参加しているらしい雰囲気なのだが、生憎名前の一覧からはどのパーティーが住人なのか判別がつかなかった。
シ ン:ただいま〜、勝ったぜ!
ペテロ:お疲れ
菊 姫:おめでとうでし〜
ホムラ:おめでとう!
お茶漬:乙、装備大丈夫?修理する?
シ ン:けっこう食らったしなぁ、頼む!
お茶漬:僕の範囲外なのはおとなしくメニューから金払って修理してね。
ああ、側にいるとそんなこともできるのだな。私も寂しいから向こうへ行きたい。
シンも鍛冶持ちなはずだが、生産はほとんどやっていないらしく、よくお茶漬と菊姫に装備の修繕を頼んでいる。私の通常装備も菊姫のお世話になっている。
『白、王様苺あるぞ、王様苺』
『む、よこすのじゃ』
寂しくなって、つい白を甘やかす。
夢中で食べているところをそっと触ると、反射なのか無意識でやっているのか、首筋の後ろの毛が少し逆立ってぼわっとする。迷惑そうではあるが食べるのをやめない白、ほわほわです。ちょっと癒された。
シ ン:ホムラ早えぇな〜、勝敗は?
ホムラ:勝ったぞ。
菊 姫:瞬殺をみたでし。
お茶漬:理不尽をミタ。
ペテロ:www
ホムラ:ひどいなおい
シ ン:おめおめ? レオはどうした?
お茶漬:おっと、どうなったかな
ホムラ:ブロックいくつだっけ?
ペテロ:33の上から8番
ホムラ:ありがとう
ウィンドウを操作して映像を切り替える。
切り替えた途端、いい笑顔で場外に飛んでいくレオの姿。
お茶漬:何があった。
ペテロ:敵に吹っ飛ばされたというより、自分で場外に飛んでったような……w
シ ン:自信満々なオウンゴールを見た気分だ。
菊 姫:相変わらずよくわからないでし。
ホムラ:レオはちょっと目を離して、目を戻すと衝撃的場面になってたりするよな。
レ オ:ぐああああああああああああああああ
菊 姫:おかえり
シ ン:おかえり
ペテロ:おつwww
お茶漬:華麗なる場外
ホムラ:派手だったな、お疲れ。
帰ってきたレオを労った後は、ロイ達や炎王の試合を覗いたりして雑談。ペテロは真面目に次の対戦相手の情報を集めている模様。
そうこうしているうちに2戦目の組み合わせが出揃い、再び一斉の試合開始。
お茶漬:ホムラさん、ここはひとつまた見たことがないような攻撃で。
菊 姫:話題と言う名の娯楽の提供をするでし!
ホムラ:無茶振りするな!
レ オ:わはははは
《総合第2試合を開始いたします》
レオの笑い声を最後に、再び白い光の筒が現れ外界と遮断される。
『白?』
『問題ない』
マッチング時間のカウントダウンが来る前にO.K.を選ぶと、試合のステージに出される。
◇【レンガード】vs 【白銀の騎士】◇
◇Ready◇
◇Go!◇
開始の合図とともに飛び出して行く白、残像が見えるようだ。
今回の試合で、白がつけた効果は【混乱】。全員パーティー名の白銀色の装備で揃えた、騎士・騎士・聖法使い・聖法使い・精霊使い・魔法使いのちょっと拘りがありそうなパーティー。騎士がこちらに踏み込もうとして明後日の方角を向く。聖法使いが何故か力の付与を自分にかけ、魔法使いは杖の向いた方向とは45度違った場所、ななめ前にいた聖法使いに魔法を叩き込んでいる。
『む、一人かかっておらんのじゃ』
『聖法使いか、二人いるから一人、精神特化だったのかもしれんな』
一人正気で取り残されて、仲間に一所懸命『混乱回復』をかけている。
ガラハドが混乱にかかったときは即座に治していたし、冷静に混乱状態を見るのは初めてかもしれないな、と思いつつ。
「【風水】『氷原』」
攻撃になるかどうかは知らんが、お茶漬の要望を叶えてみる。【風水】は地形を変え、極端な地形はそれによるダメージを与えることもある。本来は水脈を見つけて泉を作ったり、森を生やしたり、雨を降らせたり、自然の気が歪まないようゆっくり整えるスキルであるらしい。気は精霊とも置き換えられる。
『氷原』を選んだのは特に意味はなく、相手パーティーの名前から連想しただけなのだが。【風水】の地形効果の便利なところは、治しても原因たる地形気候に囲まれていれば、即座にまたかかることである。
「うわあああああっ!」
「と、とまらない!」
「きゃあっ!」
「こ、こないでぇぇ」
あれです、氷面を面白いように滑って行きます。
混乱から癒え、再びこちらに向かうために大きく踏み出した矢先の出来事。側にいた別の騎士を巻き込んでさらに加速して滑って行く。
『凍結』とか『凍傷』は『氷河』や『吹雪』があるのでそちらの様子。当然私も氷と化したステージにいるのだが、『浮遊のサイハイブーツ』で浮いているため、無問題だ。地に足が付いていたところで【運び】もあるので滑ることはないだろうけれど。
あ、一人落ちた。
『お主、ひどいのぅ』
『大勢の混乱と滑って行く様はなかなかヘンだな、何故か若干嬉しそうに見える』
『闘技大会に張り切って出場しただろうに……、せめて魔法で屠ってやるのじゃ』
確かに騎士が屁っ放り腰の四つん這いで悲鳴をあげながら滑って行って場外に落ちる姿は哀愁漂うものがある。仕方がない、武士の情けだ。
「『フロストフラワー』」
『フロストフラワー』×3。
雷と共に大会に向けてスキル上げをしてきたので氷は34までスキルレベルが上がっている、だが、レベル30で覚えた魔法は単体対象の『雪の抱擁』で、敵一体を雪で閉じ込め行動を阻害、MPを吸い取る補助魔法。ちょっと今の場面には向かない、一回戦と同じくここの選択は範囲魔法だろうと。
作られる氷の彫像。
だがしかし、滑っている最中の姿。
その滑稽な氷の彫像にヒビが入り砕け散る。
《レンガード WIN!》
地形効果・気候効果と相性のいい魔法は攻撃力やその効果が強くなるということを今知った。




