119.再びの三匹
「ちょっとホムラさん、鳩しまって」
「何故?」
「平和の象徴が洞窟の形にみっちり詰まってて気になります。別なの希望」
「幸せの象徴のほうに変えるでし」
【幻術】で『鳩』と『青い鳥』が出せるようになった、邪魔になるので進んできた後方の洞窟に出していたのだがそれでも不評の様子。
「『青い鳥』なら小さいし、そっちのほうがいいんじゃない?」
止めろと言われないのは、菊姫以外の全員に『認識阻害』のアイテムを作ることになったからだ。『認識阻害』を装備に使えば正体を隠し、アイテムとして使用できるようにすれば敵のヘイトを取りにくくなるそうな。盾の菊姫としても、他の面子のヘイトが下がればやりやすい。
もうすでに世の中に出回っているらしいが、私が作れるようになれば安価に供給できる。
「そうか」
ちょっと【幻術】を洞窟に詰めるの楽しかったのだが。
そんな会話をしながらもゾンビ相手に危なげなく戦闘をこなす。本当に一度目とは雲泥の差だ。
「結局、三匹のオークって均等に削って同時くらいに倒す、でFA?」
「兄弟で倒す順番があるのかもだけど、均等に削ってもいけるかな? 少なくとも前回のあれより酷い状態にはならないと思う」
「だと思う。前回はひどかった」
シンの問いにペテロが答え、お茶漬も同意する。
階段を降りたボス部屋に続く通路で、ボスを倒す手順の確認をしている現在。前回はここまでの道中も『痛み』に慣れないために、ものすごく苦労をした記憶がある、【痛み耐性】が仕事をするようになったのか慣れたのか微妙なところ。
「あれより酷くはならないだろ」
「あんなギリギリは嫌でし」
私と菊姫がしみじみといえばレオも……
「わはははは! ……どんなのだっけ?」
「「「「「オイ」」」」」
全員でツッコミを入れる。あの大ダメージ攻撃連発のギリギリな戦い忘れたのか!
前回はどう考えても攻略手順を間違えて、一体倒した後は全て単調な大ダメージ攻撃を食らった。真面目にお茶漬のMP切れて、薬飲むその間をとったら死ぬ! みたいなアレだったのに。
「なんという鳥頭!」
ペテロの言葉にレオ以外が頷く。
「解りやすい」
「僕ら何で前回気がつかなかったんだろう」
「痛かったからだと思うでし、何もかも痛いのがいけないんでし」
盾の菊姫の後方でお茶漬と私と三人で赤・緑・青の兄弟オークを前に雑談。話している内容はボスの攻撃順についてだ。三匹を均等に、でもなく、倒す順番がある、でもなく。正解はランダムで光った部位を攻撃。一瞬光っては他のオークのどこか、あるいは同じオークの別の部位と、逃げる光を追うのだ。結構な速さで光は移動し、光っていない場所を攻撃すると前回のような大ダメージが襲ってきた。
光に当てるのはすこぶる難しいが、仕組みは単純。何故前回光っているのに気がつかなかったんだろう。菊姫の言うとおり、痛みは人の思考を奪うようだ。
流石にボスはお互い本職に戻るということで、お茶漬は回復、私は攻撃に役割を戻している。お茶漬が【格闘】をあげている理由は、その先の派生に【チャクラ】というHPMP回復スキルがあるからだ。お茶漬曰く、「あると思ったらあった。正解正解」だ、そうだ。
「これ魔法辛いんですが」
【無詠唱】で発動できる私でも当てることが結構難しい。他の部位に当てないように単体魔法から選ぶ、【金魔法】レベル30『ミスリルの槍』。うっかり【範囲魔法】を重ねてしまいそうになるのを意識して抑え、光を追う。
「でも当たれば魔法はダメージ多い見たいよ?」
三匹のオークの向こう側にいるペテロが言ってくる。ペテロもお茶漬もよく人のダメージなんか見ている暇があるな。
だが、私にもわかる。このボスで一番活躍しているのはレオだと。
「わははははは! モグラたたきおもしれぇ〜!!!!」
速さも相まって、光を叩くスピードと正確さがすごい、どんな動体視力と反射神経をしているのか。
私は【無詠唱】で発動はできるが、杖が指し示した上に現れた『ミスリルの槍』がオークに着弾するまで、当然ラグがある。『ウッドランス』など木属性の魔法ならば敵の直ぐそばから現れるのだが、あっちはあっちでピンポイント攻撃できる魔法を少なくとも今は持っていない。
近接は近接で三匹の間でランダムで光るものを追うのは大変そうだ。近すぎると次の光がどう考えても見辛い、うまく次に繋ぐための攻撃した後の位置取りやら面倒そうだ。
「ああ! クソッ! ダメージ上がらねぇ」
「三匹の間で行ったり来たりでコンボまで無理だろ。一回も飛ばさず当ててるだけですごいぞ」
嘆くシンに言う。魔拳士は職業の特性上、決まった順でスキルを当てないとダメージが上がらない。
「そこを一瞬でキッチリコンボ技が出るのがいい拳士ってなもんよ!」
ここにも修行好きが一人。
《長男オークの藁×3を手に入れました》
《次男のオークの木×3を手に入れました》
《末っ子のオークのレンガ×4を手に入れました》
《兄弟オークの魔石を手に入れました》
《楢×10を手に入れました》
《防毒の首飾り+2を手に入れました》
《『三匹のオークの鍋』を手に入れました》
何事もなくクリア。
そして鍋。
「鍋ってなんだ鍋って」
ついツッコミを入れる。
「鍋だろう?」
シンに疑問はない様子。
「オーク鍋、猪鍋みたいなもんでし?」
「わはははは、食うか!」
「煙突から落ちた狼鍋?」
「消費アイテムで一定時間『反射強結界』が発動するみたいね」
消費……食うのか。
「ふははははははっ! 鍋バリアアアアアァァァァァアアアッ!!!」
叫んだかと思ったらレオが金色に発光しだした!
「いやあの、一応レアだからね? ホイホイ使わないように」
「十回使えるみたいだからあと九回?」
呆れたように注意するお茶漬とペテロ。
「レオだし、諦めろ」
嫌いじゃないしなレオのノリ。
「面倒で慣れないと時間がかかるけど、死にかけるボスでもなかったな」
発光しながら走り回るレオを眺めながらボス戦の感想を述べる。
「当て損なうと三匹のHPの差分、攻撃が返ってくる感じだったね」
ペテロはしっかり分析していたようだ。
「5層ボスが痛みと部位破壊に慣れるためのボスとするなら、三匹のオークは、痛みに惑わされず正確に当てろってことなのか」
「ここで攻撃を早く正確に当てる修行ができそうだね」
「カオスでし!」
ペテロと話していると菊姫の声が上がる。その声にレオから菊姫の視線の先へ私とペテロも視線を移動する。
あ、シンが混じった。
「ってこっちはこっちで猫足テーブル……っ」
お茶漬がこちらを見て呆れた顔をしている。
「いや、どうせ鍋の効果が切れるまでこのカオスは続くんだろう?」
ペテロも普通に席についていて茶を飲みながら、ボス戦の話をし、レオを何気なしに眺めていたのだが。
「ますますカオスでし! 温度差がひどいでし!」
そう言いつつも結局は菊姫とお茶漬も席について、謎の踊りを踊るレオとシンを眺めながら雑談に参加する。今回は紅茶と口にするとほろほろと崩れるプレーンとチョコの市松模様のクッキー、甘さ控えめでほんの少しだけほろ苦くノエルが気に入ってくれたものだ。
コーヒーが飲みたいなどと我儘を申すやからがいるので、二杯目はコーヒーにした。シンとレオの踊りの解説が時々交じりつつ、近況や後の予定について話す。
「ホムラもシンも闘技大会出るのか〜。部門なににするの?」
「一番上にあった『総合』選んだぞ」
「ソロでしか?」
「ソロだな」
『剣』のみだったり、スキルなどがランダムで封じられる禁止だか、拘束ステージだか、他にもいろいろあったが、時間的にも都合が良かったので総合にした。
「そういえば、闘技場修正アナウンスきてたね。"闘技場の住人のスキルを一部使用不能にしました"って」
「ゲームバランスクラッシャーなスキルでもあったのかな」
ペテロが最近の運営からのアナウンスの話を振ってくる。
「あ、僕もそれ掲示板で見た。なんかすんごい18禁なステージになりかかったとかなんとか」
「やっぱりそれが修正されたの?」
「なんだそれは」
「どんなバグでしか!」
掲示板利用組がさらりと流し、見ない組の私と菊姫がツッコむ。
闘技場で18禁とか意味がわからない。
「ちょっと出場が怖くなってきたぞ」
ちょっと前に鼻歌交じりな状態で闘技場を見学してきたというのに。
「大丈夫でしょ、対処されたみたいだし」
「何をどう対処したというのだ……そっちはそっちで怖い映像が浮かぶんだが」
「チョンぎられたんでしかね?」
「菊姫はっきり言わないで! 僕のもひゅんってなるから」
「話題を変えようか」
下ネタに突入する前にペテロが流れを止めた。というかヒュンってなるということはお茶漬はタオル外したんだな。
話題を今後の金儲けと『建築玉』『意匠玉』の素材集めの話に変え、そちらの方はあともう一度ここのボスをやり、素材は各自自分の持っている収集を担当、私の都合がよければ転移は手伝う方向で。
『定着貝』は先ほどから踊り狂っている釣り人二人。
『建草』は私と菊姫で採取。
『内包粉』採掘はペテロとお茶漬の担当となった。
二十四時間三百六十五日ゲームをしていられる環境の方々は、とっくにそれぞれ好きな街へ移動をして、移動先でクエストをこなしている。見たことのないボスを自力で死にながら攻略するのも楽しいものなのだが、実際にそれをやっているのは前線組やら攻略組とやら呼ばれるメンツが多い。まあ、他に踏破者はおらんのだから必然的にそうなるだけかもしれんが。
ボスの攻略方法は口コミで広がっていき、比例してクリア者が増える、掲示板に載るとあっという間にそのボスの人口密度が高くなり、クリア者をどんどん排出する。
で、何が言いたいかというと、『ウォータ・ポリプ』は今現在掲示板に攻略方法を誰か載せたばかりらしく、混んでいてボスの周りで待っているのもなかなか大変なので、『ウォータ・ポリプの卵』は落ち着いてから、となった。




