114.青竜
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ありがとうございます。
「青竜どうする? 私、回復か? あ、銀は無事ミスリルの方が高かった」
銀から加工した、ミスリルを渡しながら聞く。
「損がなくて良かった良かった。戦闘は回復・自力盾でお願い。私がメインで相手しないとダメなのと、これから行く洞窟、魔法吸収してその分ボスと青竜を強化するから攻撃魔法も禁止で。あと青竜倒すわけじゃないから」
「了解。だがしかし、なんだその魔法使い不要ステージ」
「ボスそのものはむしろ魔法に弱いよ。特化の攻撃職ばかり優遇されないようにじゃない? 私のイベント始まってて一緒に行くと通常ボス留守だけど」
「そういえば街の解放ボスは、ギルドの募集広告も門で溜まってた奴らの募集もそんなんだったな」
倒したいボスが魔法に弱ければ魔法特化、物理に弱ければ物理特化の攻撃職しか募集していないという。みんなレベルが上がり、どの職でも楽になって来たのか、流石にファストからサーでの募集は職の縛りは緩くなっているようだが。
「もらった薬で足りてたし、色々技能取りすぎて回復手段取得完全にぬけてた。私より素早い敵とか必中攻撃もってる敵連発ツライ」
「回復手段というかそれは耐久が……」
「それは言わないお約束」
ペテロと話しながらナルンの山道を進む。
ペテロのスキルに都合がいいので、暫く使わなかった『シャドウ』を使っての道中だ。
私の装備は半減指輪付き黒尽くめ。だがしかし、手伝いなのに死ぬ訳にはいかんので『鬼の腰帯』と『疾風のブーツ』『技巧の手袋』は装備。
ペテロは相変わらずトリッキーな戦い方で途中消えたりするので余計に敵の敵視が回復役に来る。二人旅だと回復職には無理かもしれない。
ついでにただの移動もペテロについていけないというのもある、私も『疾風のブーツ』を装備しないと置いて行かれるだろう。装備すればむしろ私のほうが速いのだが、移動スキル使用で再びペテロが上回る。
「ところでホムラ、あとで練金で素材に『認識阻害』つけて〜」
「認識阻害?」
「あれ、幻術もってなかったっけ?」
「レベル1です」
「あげて。35まであげて」
「ぐふっ」
相変わらす爽やかかつ、笑を含みながらの口調なのに無茶振りである。
そんな訳で、私は『シャドウ』を使いながら幻術レベル1の『蝶』を振りまきつつ移動することになったのだった。
幻術なら鱗粉とばさないからいいよな……。今から蝶は苦手だと自己申告するのも間抜けだ。ここは虚勢をはる。MP回復しながら蝶を垂れ流したら、幸いすぐレベル5になった。が、自分の視野範囲の離れた距離から出せるようになっただけで、出せるものは『蝶』のまま。なんの苦行だ。
そんなこんなでナルン山脈は青竜の住む洞窟である。
山中の敵は速さにまかせて大部分をスルーしてきたが、洞窟内は狭いのでそうはいかない。
「私、ここも後ろからついてゆくんでいいんだよな」
「うん、回復してくれるだけで有難い」
洞窟内は最初土壁だったのが岩壁に変わり、やがて青白く濡れた岩壁に変わっていった。それに加えて壁や天井から滲み出す水が溜まるのか、足元に一センチくらいの水が常に存在している。
青竜というからには色が青いか水属性の竜かだが、この分だと後者だろう。レーノみたいにつるんとしてるのかね。
「ホムラ、浮いてる?」
「足元水はねるから『浮遊』をかけてる。踏み込みの時とか癖があってスピード重視だったりすると制御大変っぽいけど、ペテロにもかけるか?」
実はそっと【空中移動】も併用しているんだが、当然ながらこちらは自身にしか効果がない。『浮遊』だけだとやはりふわふわとして、心もとないのだ。
「かけて〜」
「はいはい」
【空魔法】のレベル上げだ。『蝶』を出しつつ『シャドウ』をかけ、自分とペテロの『浮遊』が切れないようにする。魔法のレベル上げもさることながら、同時使用の私の修行でもある。中々慣れない。
が、ペテロはあっという間に慣れやがった!
「これいいな」
壁走ってますよ、この人。
「練金で『認識阻害』付けられるなら、『浮遊』も付けられるんじゃないのか?」
サキュバスさんのサイハイブーツ譲渡不可なんだよな。ソロ報酬は大体譲渡不可と破壊不能が付いている。破壊不能とはいっても神器と違って、使えば耐久は落ちて防御は下がるのだが、壊れずに耐久1で止まる。
耐久は街の修理屋で金を払ってメンテナンスしてもらうか、それぞれ装備に対応している生産職持ちにメンテナンスしてもらうか、もしくは対応している『修理材』を使って自分で修理するかだ。
後者二つはフィールドやダンジョンで耐久回復できるため、『腐食』やら『劣化』持ちの敵がいる場所や、長旅では重宝する。
「ん、出来るだろうけど、一時的な付与とか発動じゃなく"装備に効果を固定する"のは付ける素材がね、調べて取ってくるの大変。『転移石』みたいにアイテムとして発動して消えるパターンもあるし」
「何に『浮遊』が安定してつくか調べるところからか、それは難儀だな」
そういえばクリスティーナに渡した水晶は幸運の効果はともかく、悪意ある相手を指し示すあれは三回だかで消えたな。
「そそ。もともとついてる素材もあるし、後からつけるのも属性、強化、耐性系はつきやすいけどね。それも強力なやつは素材選ぶと思うよ」
「宝石に魔法陣あわせて練金すると安定するぞ?」
「アイルでスキル取れるみたいだね。でもあれも練金と同じく魔力と器用いるから早いうちに生産特化しないとキツそう。ホムラ持ってる?」
「取ったが、さすがに制限つくから【魔法陣】はおまけくらいなものかな」
「残念」
そんな会話を交わしながらも出る敵を倒していっている。
ここに出る敵は棘鱗蛇、水蜥蜴、井蛙など、みんな青色で爬虫類か両生類系の敵ばかりだ。例外は水が湧き上がるように現れる馬型の魔物ケルピーか。もふもふが恋しい……。
攻撃が来ても私は困らないのだが、それはペテロも知っている。それでも気を使ってくれているらしく、すべての敵をひと撫でして敵視を自分に向けてから本格的な攻撃を始める。蛇と、一部蛙の舌の攻撃はフィールドの敵や迷宮10層あたりの敵と比べて大分速く、ちょっと危うく見えるがケルピーの全体攻撃が被らなければ、大技は避けているか潰しているし平気そうだ。
話し振りからして一度来たことがあるんだろうしな。
気を使ってくれてるようだし、せっかくなので回復の練習をする。魔法での『回復』は敵視の上昇率が高いので【投擲】の練習しがてら回復薬を投げ、敵視を取らないようにしながら回復する。蛇が一匹こっちに来たので斬り捨てる。
「難しい!」
「まあ、私も盾じゃないし。敵視集めるスキルなんて持ってないから」
ペテロが笑いながら言う。
回復職のお仕事は味方の回復は当然、大事なのは敵視を取らないことである。でないと、防御の低い回復職に敵が殺到し、回復職が沈む。回復役が居なくなった後のパーティーは言わずもがなである。
一番いいのは敵視を取らず常にフル近くのHPを保つことだが、フル回復して敵視を取るくらいならば、生かさず殺さずな回復を心がける。敵視は特に10も減っていないHPを1000回復するなどすると跳ね上がるのだ。
時々お茶漬が薬での自己回復を促したり、みんなで水の精霊の回復を入れるのは『回復』の手数が間に合わないだけでなく、その辺の事情もある。うちのパーティーは攻撃力に偏って防御力が怪しいので、みんなすぐHPが減ってお茶漬は大変だ。それを思うと【水の精霊】で全員が回復できるのは僥倖。
ドバッと回復してタゲ取ったら斬り捨てたい私がここにいる。
向いていない役割です!
でも職業を疑似体験しておけば、回復役が攻撃役にやってほしくない行動などがよく分かるのでいい経験ではある。なので大人しくちまちま回復している次第。パーティー全体の動きを読んだり、敵の攻撃を予測したりしてソツなく回復する本職の方々はスゴイ。
「着いた」
狭かった洞窟が終わって、不自然な広い空間――多分留守だというボス部屋――を抜けたその先は広々とした青水晶の空間。
柱のような青い透明な水晶が視界を埋める。下から揃って同じような方向に伸びているならともかく、天井から斜め下へ伸びていたりとなかなか自由だ。
「綺麗だな」
「うん。前回来たときはここ、水につかってて大変だったんだけどね。青竜戦、水晶けっこう危ないから気をつけて」
「へえ」
光源がどこにあるのかわからないが、地中の広い空間の中青く浮かぶ大小の水晶柱群はほんのりと輝き圧巻な風景を見せている。
足元にはあい変わらず水が溜まっており、だんだん深くなっていっているようだ。水晶を避けつつ奥へと進むと大きな気配が。
「青竜! 約束通りお前の鱗、貰い受けるぞ!」
「ほう、また来たか小僧」
珍しいことにペテロが熱血っぽい。
「今度は前のような醜態はさらさない!」
「一人増えたところで何ほどのものぞ! こい!」
一回来て負けてるのか、熱血はそのせいだな。
青竜はパルティンより一回り大きいだろうか? 金属のようなゴツゴツとした外殻を持つ彼女とも、レーノの皮の表皮とも違い、キラキラと輝く鱗を持つ。この場所を覆い尽くすような青水晶と同じく半透明な青を宿す鱗。場所も相まって清廉な印象を与える竜だ。
青竜が長い首をもたげて吠える。
問答を聞きながら観察している間に戦闘開始である。
「『ヘイスト』」
「『現し身』『猛毒の刃』」
ペテロは二人に増えた。そしていつの間にか短剣の二刀流である。
黒ずくめのペテロ二人が影のように、左右対称の動きをしながら青竜に襲いかかる。
「ちょっと、ペテロさん」
「今忙しい。早いうちに毒入れなきゃ」
「言っちゃなんだが、とっても悪役っぽい」
「忍者は正義じゃありません!」
いっそ清々しい答えが返ってきた。
天井や壁から様々な方向に伸びる水晶を足がかりに、一時も停滞することなく攻撃を続けるペテロ。とっくに青竜は毒状態。
「おのれ! ちょこまかと! 一度目より速いではないか!」
青竜が当たらない攻撃に切れたのか、『アシッドレイン』の全体攻撃を仕掛けてくる。毒にしたら毒に仕返されたみたいな何か。
「『異常回復』」
「小僧! 癒し手を連れて来たか!」
私はおまけなので淡々と回復のお仕事をしようかとおもっていたら尻尾が飛んで来て、私の乗った水晶柱を砕いてゆく。尻尾そのものは避けたのだが、割れた水晶が私の身体をかすめてゆく。見れば割れた水晶は鋭利な刃物の様に薄く菱形にキラキラと輝いていた。
思わぬ方向から来た攻撃に結構食らってしまった。
それに【空中移動】『浮遊』が効いていなければ、砕かれた水晶と共に落下していただろう。落下した先は鋭利な水晶の上だ。ここの水晶はプレイヤーの足場となると共に、青竜の攻撃手段でもあるらしい。
ペテロが危険だと言っていたのはこのことなのだろう。
基本、聞かれない限り初めての場所は詳しい説明は無し、死に戻ったら初めて説明するというのがクラン面子の以前のゲームでもあった暗黙の了解。ちなみに死に戻りには当然のように行ったことのあるメンツも付き合うことになる。本当にいい仲間に恵まれていると思う。たとえ【猛毒】でHPが削れるのを待って、速さを生かして逃げまくっている奴でも。
青竜かわいそうなんだが。
《青竜との戦いで勝利条件をクリアしました》
《青竜の鱗×4を手に入れました》
《青竜の水晶×5を手に入れました》
《青竜の牙×1を手に入れました》




