108.島は島でも
夜は騎獣(仮)が潰れているので置いて、ペテロと『ティガルの星屑』を掘りに。ペテロは銀が高く売れるので『銀』目当てだ。
「ちょっとペテロさん、教えておいてなんだが夜に行くのは嫌なんですよここ」
「ホムラこれから昼でしょ? 私ちょっと他のメンツが来る夜までクエスト進めたいし、時間的に今が都合がいい」
別な門から出て回り道をしようという提案も「男二人でいけば恋人と待ち合わせとか言われないでしょ」というペテロに却下を食らう。
「おう! 兄ちゃんたち、なんだ二人で告白して好きな子にどっちか選んでもらうのか? 相手は美人なのかい? 青春だねぇ〜。星降る丘に待ち人がいてくれるといいな! 頑張れよ!」
いい笑顔で送り出された。
「うわぁ、これはうざい」
……内臓シャッフル号に乗らずに済んでホッとしたが、今回も門番が無駄に恋愛脳。ペテロも納得した様子。しかも丘にはカップルがいていちゃこらしている始末。
満天の星空の下、風に乗ってかそけき声が聞こえて来る。
「……アルバル侯を継ぐのは僕だ。幼い頃からそう思って国のためとか…普段言っているけれどそれ以上に君の存在が今の僕には重要に思えるんだ。だから…」
「ミハイル様…」
ガコンッ!
ガコンッ!ガッ!ガッ!
「ちょっ! ペテロ」
早く帰らないかなーとしばらく黙って様子を見ていたらいきなりペテロさんがですね。
「いやあ、普通の恋人なら大人しくしてたけどね」
いい笑顔である。
「いや、まあ、国より恋に生きるなら先に爵位捨てろよ税金ドロボー、とは私も思うけどちょっと空気読もうぜ?」
「空気読んだ結果がこれです」
構わず採掘を続けるペテロ。
まあ向こうは【暗視】ない限りよく見えんだろうが、声は聞こえたか? こっちが風下なんで微妙なところだがとにかく掘削の音で雰囲気もなにもぶち壊した。
私も混ざったしな、採掘に。
「ところで店員の獣人幼児二人は痩せすぎじゃない?」
「ああ、スラムで餓死寸前な感じだったの拾った話してなかったか?」
「神殿に押し付けたやつか」
「そう。さすが獣人回復早い方だと思うけど、まだもうちょっとかかるな」
「将来内臓系が心配ですな」
「現実的な怖いこというな! ……ところで犬系の獣人って玉ねぎやら大丈夫なのかね?」
「さあ? 問い合わせてみたら?」
「ん、そうする」
採掘しながらペテロと話す。
「ドラゴニュートとイケメンの店員はあれもクエストかなんか?」
「ドラゴニュートはそっちのパルティン山で出会ったんだが、社会科見学に下山させられた感じだな。主の金竜に。イケメンはスラムであった無精ひげ男が髭そったら出てきたのがアレでびっくりよ」
「パルティン山脈は金竜か~」
「ナルンは青竜だっけ?」
「そそ、ウロコ貰いにいかなきゃ。どっかに暗黒竜いないかな」
「邪神の使徒とかなんじゃないか?」
「あらこわい」
全く怖そうでなく言うペテロ、その怖さを持つ竜だから欲しいのだろうが。
「憑依防止もっとくか?」
「一応ください。宝珠型がいいな」
「はいはい。でかいの無理」
ネタバレに引っかからない程度に情報交換しつつ、どうでもいいことを話しながら採掘。因みに今の私は白から一転、真っ黒だ。出かけると言ったら、カルに仮面をつけていない時は用心のため白禁止令を言い渡された。
仮面の効果は人の聞いた名前の認識を変えるほどに強烈なのだが、一旦こちらからバラしてしまえば、何で仮面程度で隠せると思ってるの? になるらしい。
いいじゃないか、アニメの魔法少女なんか顔丸出しなのにバレないんだから。
心配性だなと思いながらいうことを聞いている私だ、なにせヴェルスのお陰で黒白は簡単に変えられる。そもそも着替えもあっという間だしな。
カップルに構わず掘って、お目当ての『銀』と『ティガルの星屑』を入手。
ペテロは『ティガルの星屑』を初ゲットなので後で生産実験するそうだ。私は『銀』を練金で『魔法銀』にできるか実験をすると言ったらペテロが売り払う予定だった『銀』をくれた。
「どうせ売り払う用だし、ミスリルにして返して」
「ミスリルは高いけど、銀をどれほど使うかコストがわからん」
「多少ロスしても生産上がるでしょ、遠慮せず使いなさい」
「了解、ありがとう」
クエストを進めるというペテロと別れてログアウト。
昼を食ったらいよいよ島探しだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
おはようございます。
結局いつもの宿屋に泊まった私です。
布団買わねばとは思っていたのだが、すっかり忘れていた。
昨夜はあれから店に戻って『魔法銀』を作った。無事『銀』のまま売るより高く売れることが判明、よかったよかった。
属性石をあるだけ『転移石』と『帰還石』に変えて、調薬と料理もした。
薬は高回復薬はHPが多い盾職の人は買っていったようだが、他の職ではまだそんなに需要がないようだ。だがついでなので材料が安い内に購入して在庫確保に努めてみた。
酒屋の方は時間促進しても酒が出来るのは先なので諦めて、友人たち用に少々。
いつ何のノリでダンジョンに潜って店を空けるかわからんから暇があるときは真面目に生産をですね。うん、三日坊主にならないように気をつけよう。
そして布団がないことに気づくプレイ。
「今年のファガットでの『闘技大会』がいよいよ始まるね」
「去年は野外の【皇帝】や【王】が怪我やら病気やらでごそっと引退したからな。今年は新しい出場者が多くなるんだろう?」
「ですな。私は残念ながら行けそうもないんですが、息子が商用も兼ねて見に行くんですよ」
「そりゃ、うらやましいね。宿は大丈夫なのかい?」
「もう馴染みのところに手配済みです」
「闘技場の【皇帝】を倒すのはでてくるかね」
宿屋で朝食を食べていると、商人らしき客と店主の会話が耳に入る。
いよいよ『闘技大会』が始まるようだが、あれか、今のうちに宿を確保しておかないと野宿か。ファガットではシーサーペントですでに厩に泊まってるからな、今回はちゃんと宿に泊まりたい。今から行って予約を入れてこようか。それにしても、情報収集のためにも宿屋暮らしのほうがよさそうだな。
そういうわけでファガットに来た。島探しは一応、二日めの店が開店したのを見届けてからの予定なので午前中はフリーだ。神殿で蝋燭を買いつつ神官に尋ねる。
「闘技大会ってどこで行われるんだ? オススメの宿があったら教えてくれ」
戦い事は冒険者ギルドに聞いたほうがいいのかもしれんが、なにせこの街のギルド職員はアモーレな感じで相手をするのが疲れる。フレンドリーだが飽きっぽい受付ってどうなのか。
「闘技場はナヴァイ・グランデから近い島ですよ。普段は荒くれ者を隔離するのに便利ですが闘技大会の時だけは宿泊施設が不足して、このナヴァイ・グランデの宿もいっぱいになります。闘技大会の開場時間に合わせて臨時便の船が運行するんでそう不便ではないですが」
「闘技大会は十七日間もの間、休憩を挟みながら続きますからお目当ての種目の日程で取るといいですよ。勿論全日程見られてもいいですが。本大会ですので最終日は人気ですね」
現実世界では三日間か。
こちらの世界では十時頃から期間中は毎日あるらしい。魔物との対戦だったり、魔法使い数十名による花火のようなアトラクションだったり、【剣の皇帝】による演武だったり。そのうち日曜日からのものがプレイヤーも参加する本大会である。これまた時間経過が変えられていて現実時間零時までの二時間の間に多くの試合をこなせるらしい。
金曜日、土曜日の各種目で戦果を上げておけばシードで参加できるようだ。説明を読むと試合数を免除する目的というより、時間までにログインできない強いプレイヤーが、一時間遅れて入れるようにする対策っぽかったが。
「オススメの宿は、金銭に糸目をつけないならこの街『ナヴァイ・グランデ』の名を持つ宿、この宿は本土側にありますが船も闘技場の席も用意してくれます。庶民的な贅沢ならば島の『ウルク』、夜中まで酒と賭け事とお祭り騒ぎで闘技大会を味わいたいなら『闘魚ベタル』の宿でしょうか。『ウルク』は今申し込んでギリギリかもしれません」
自国を代表するイベントの闘技大会の話をするのがうれしいのか、嬉しそうにニコニコと教えてくれた。
「ありがとう」
島にゆくルートを聞いて、蝋燭の料金を払い、拝殿に進もうとすると呼び止められた。
「あと、もしあなたが観客としてでなく出場するならば、闘技場におけるランクによって待遇の変わる『強者の夢城』もありますよ。【SSS】になれば『ナヴァイ・グランデ』のスイートよりさらに待遇はいい」
会釈して礼の代わりとする。
『ウルク』を全員分予約しておくのがいいか、とりあえず部屋の空きがどれほどあるか見ておこう。
……ファルに捧げる重い……いや、思い人の名前が彫ってある蝋燭は相変わらずホラーにしか見えんが、とりあえず礼拝を終え教えられた船着場に向かう。
初めて来た時は日差しがきつくて日陰が恋しかったが、早朝となれば日差しも照り返しもそうきつくはない。
【酔い耐性】があれば船も怖くないな!
闘技場のある島は一応正式名を『ハダル』というそうだが、誰もその名では呼ばず、ただ『闘技場』とか『闘いの島』と呼ぶ。
島の入江の正面に円形の闘技場が、その隣に目立つ楼閣がある。闘技場に併設されたそれが『強者の夢城』なのだろう。船の真っ直ぐに正面にある二つの建物がだんだん近づいてくるのはなかなか気分を盛り上げる。
『ウルク』はやや左にそれた白い建物だと船頭が教えてくれた。
最終的には闘技大会出場目当てというのもあるだろうけれど、どうやら普段行われているプレイヤー対プレイヤー・プレイヤー対NPCでも勝つとそこそこ賞金がもらえるらしく、ダンジョンに潜らずここに住み着いて戦っている者も多いらしい。
そしてあれです、ウルクにたどり着いて空きを聞いたらすでに埋まる寸前。
お茶漬もログインしてきたので、ペテロと二人にどうするか聞く。一泊十万シルと空いているのが結構お高めの部屋なのである。最終日とその前日だけね、宿も稼ぎどきらしい。この分だと『ナヴァイ・グランデ』は一桁二桁多そうだ。
お高い部屋なので一等席ではないものの闘技大会のチケットを宿泊日の翌日分、もしくは前日分に限り手配してくれるという。チケットがないと当日、料金を支払って入場して立ち見だそうだ。チケットが余れば当日も売り出すが大体早いうちに売り切れてしまうという。一応、発売初日ならば一般人でも正規の値段で購入できたらしいが、すでに転売屋のお手元に大部分のチケットが行っているらしい。
ホムラ:じゃあ、二日間予約するだけ予約しとく。
大会十日前まではキャンセル料そんなに高くないみたいだし。
お茶漬:おつおつ。三人には夜確認しよう。
チケット持ってるか出場資格あるか、ナヴァイに宿取ってるかじゃないと、船に乗せてもらえない可能性があるとこが国もかしこい。
ペテロ:ありあり。立ち見はヤダっていうと思うよw
私、まさに転移でいいやっておもってたww
ちなみに他の宿屋もあるが、この島に一般客が泊まれる安全・静かな宿屋はここしかないと言う。流石に切った張ったは少ないが観光客目当ての置き引きやらスリやら空き巣の多発地帯なうえ、そのへんがクリアでも試合そのものや、それに付随する賭け事に熱くなった奴らの喧騒を防ぐ壁の厚さが足らんらしい。そして大会が近くなるにつれ値上げされてゆき、最終的に厩に泊まることさえ有料に。
昼まで間があるので闘技場を覗いてみるかな。
宿を確保した後、日陰を選んで石畳の路地を歩きながら仮面を被る。友人同士のPvP、もしくはパーティー同士の対戦は他のゲームで経験があるのだが、どうにも知らんプレイヤーとの対戦は苦手だ。
回数をこなせばあっという間に慣れてしまう気もしないでもないが、PvPよりもあちこちウロウロしたいタイプなのだ。
闘技大会前に一度くらい参加しておこうか。
確か大会中でなくともリング持ちは【皇帝】と戦えるのだったか。
闘技場の受付で登録。
仮名登録が可能。Mr.Xとか変態紳士とかすでにいて笑う。
『レンガード』でいいか。
ロイ達とダンジョンに行った時はまだ生産者名をつけていなかったし、その後は特に薬も飯も「自分で作ったもの」と公開していない。迷宮は炎王達としか混ざらんかったし、生産物から辿られることはなさそうかな。うん、特に問題はなさそうだ。
店のおかげで仮面姿は大勢に見られてる気がするのでこっちの名前を隠すのは今更だ。
名前の登録後、対戦エントリー。
闘技場はモンスターとも住人とも戦えるが、【普通ステージ】のほかに【同等装備ステージ】、【拘束ステージ】なるものがある。
【同等装備ステージ】は装備のビジュアルはそのままに初期装備相当の能力になるらしい。さすが仮名登録を受け付けているだけあってステージ上にいる間は観客席などからの鑑定不能の心遣い付き。
【拘束ステージ】はランダムで色々封印されたり、状態異常を付加されたりというトリッキーなステージ。魔法禁止・回復魔法禁止・HP回復薬使用禁止・アイテム使用禁止・剣禁止など被害甚大な封印からバーサークや混乱の状態異常ランダム、頻度は少ないが回復などの嬉しい効果がくることもあるらしい。
ステージを降りない限り封印を喰らい続けるらしく、一戦ごとに拘束は増え、クリア時の報酬も連戦した分だけ高くなる。
複合職、特化職よりダンジョンでは不遇だったりするらしいが、これをするには有利そうだな。
ちょっとやってみたいけれどそんなに連戦するような時間はない気がするし、カルに体術系のなにかお勧めがあるか聞いてからにしたほうがいいかな。武器も魔法も封印されたら何もできない私です。
通常ステージ、希望対戦相手はプレイヤーと住人にチェック、ランクは同ランク希望。
エントリーしてマッチングを待つ。
ドキドキするね!
もちろん闇夜に黒いローブは遠目に白いっぽい髪と頭部しか見えない。
ペテロも忍者装備は黒だよ!




