9.工房と新しい装備
「おい、お前。名前は何と言う?」
「ホムラだ」
「そうか、オレはルバだ。ホムラは魔術士だな?」
少し残念そうに言われてしまった、あれか物理か? 脳筋好きか? 私は体育会系とは程遠いぞ?
最初は気難しげにどんよりしてたのに寧ろ今は快活な老人だ。短い間にいったい何があったのか。
「ゆくゆくは魔法剣士になりたいのだが、まだまだ先だな」
「ほう、剣が欲しくなったらオレに言え、刀ならもっといい」
「唐突だな、刀鍛冶なのか。だがわかった、ありがとう」
違った、筋肉スキーじゃなかった。後ろに一房だけ、十cmほど伸ばした髪を束ねあとは短髪白髪頭のガタイのいい老人、正体は鍛冶屋だったか。
営業しているわけではなさそうなので、菊姫に教えてよいか聞いたらそれは止められてしまった。しばらく話して、腕のいい長杖工房を教えてもらって別れた。
そしてようやくやって来ました長杖屋!
そしてなんと、武器屋で見た杖の製作者のいる工房でした。家族でやっていて息子が見習いになったところらしく、あの杖がはじめて売りに出した杖だそうだ。遠回りすぎる。
「おや、では武器屋に戻って買おうか、親父さんのは正直いって予算が厳しいのでな」
「気に入ってくれたの?」
「ああ、あの杖を基準に探していたんだ。工匠区であれより能力がよくて値段が安いものがあったらと、なかったらもともと戻ってあの杖を武器屋で買うつもりだった」
ちょっと視線をそらしてはにかむ少年、十六歳だそうだが小柄な身体と淡い金髪のせいでもっと年下に見える。男率高かったのでいっそ美少女に見えるくらいだよ!!
「ちょっと待ってて!」
そういい残すと奥へ消え、戻ってきたときには1本の杖を抱いていた。
「これ、よかったら使ってくれないかな?」
差し出された杖は武器屋で見たものと性能が一緒だった。見た目が多少細くて白っぽいのが違いか。
「僕の手に合わせて細くしすぎちゃったんだけど、はじめて父に売り物になるって言われた杖なんだ。記念に取っておこうと思ってたけど……」
「うれしいが、使うからには壊さないと約束できない」
「杖もきっと使ってもらったほうがうれしいよ! そのために生まれてきたんだもの」
だから遠慮すると続けようとしたところに次の言葉がかぶせられた。
王道な職人受け答えだなおい! 物語として読むだけならベタな展開に読み流すところだが、目の前で真剣に言われるとこの駆け出しの職人の気持ちを大事にしたくなる。
「わかった、ありがとう。大事に使うよ」
7,500シルを差し出す、サイフに痛いけどここは出さねば男がすたる。
「僕から言い出したんだし、貰ってよ」
「これには材料費だって技術料だってかかってる、タダはダメだ」
「じゃあ、5,000シルで。その代わりまた僕に作らせて!」
「わかった」
少年から杖とパートナーカードを貰いました! 自分のパトカを渡せない不便さよ。改善してくれんかなこれ。
その後、待ち合わせの時間に遅刻しそうになりながら、お茶漬に教えられたローブ屋に駆け込んで4,000シルのローブを値段買いし、みんなと合流して辻馬車で広場まで戻ってきた。辻馬車はいくつか往復するコースが決まっていて、一律100シルだった。
速くて楽だとみんなが喜ぶ中、私はひっそりと酔っていた。くらくらして気持ちが悪い、まさかゲーム世界でも酔う体質とは。
みんなは服や武器以外にも靴を買ったりアクセサリを買ったりしていて、戦利品を見せ合った。買い物は改めて時間の合わないソロのときにでも行こう。
ユリウス少年のいる工房は杖・本、魔法武器全般を扱っており、定価であっても良いものなので、お茶漬にもメールでしらせたのだが、既に短杖専門の場所で購入済みだった。何せ時間ギリギリだったのだから仕方がない。
そして【武器防具鑑定】【道具薬品鑑定】がレベル2になったのだが、他のみんなはレベル3になっていた。赤裸々なサボり結果だろうか。【裏口鑑定】とかいうスキルがあったら上がっている自信があるのだが。
ペテロは迷子を送って、送った先の被服店でパトカを貰っていた、幼女の。
「やはりロリコンだったのか」
「ロリコンか」
「ロリコンだな」
「ロリコン!!」
「身の危険を感じるでし」
「まて! 貴様ら!!」
レオは工房の親父に気に入られたらしくなぜか鍛冶見習いで弟子入りしてた。
行動が斜め上すぎる。
昼を少し過ぎた時間のレストランは、昨夜程ではないものの混雑しており、私たちは広場のベンチに腰掛け、口の広い素焼きの壷に蓋の代わりに楕円形のパンが乗せられたものをレストランの野外食売り場で購入し、食べている。壷の中味はモウのテイルの煮込みで、味は牛だ。壷の中味を千切ったパンですくってパンごと食べる。なかなかパンの配分が難しいが、旨い。
EPが減る暇が戦闘中しかない生活をしています。
「さてじゃあ、装備新しくしたところで狼リベンジ行く?」
そういう事になった。
「【スラッシュ】でし!」
灰色オオカミが光となって消える。
《灰色オオカミの毛皮を手に入れました》
《灰色オオカミの牙を手に入れました》
「途中【遠吠え】しようとしたの止めたけど、あれ攻撃何くるんだろう?」
スライムの粘液の体験からかペテロは敵のスキル発動を阻止できる【仕手】を取ったそうで、ただいま練習中だ。【遠吠え】は止められたが、その前までオオカミが使っていたスキルを止めるのはすべて失敗している。
タイミングがかなりシビアで敵の使うスキルごとにも違うらしい。しかも当たっても発動する確率は100%ではなく、自分より格上の敵相手にはかなり低くなるそうだ。当たって発動しなかった場合は1か2というあるか無しかのダメージがでるので傍目からも判別はできる。
「威圧で動けなくなるとかでし?」
「ネズミ算改めオオカミ算、オオカミ増量サービス」
「オオカミ増量キャンペーンなら応募してもいいかな」
昨日は命からがら逃げ出したオオカミ相手にこうである。初遭遇からレベルも上がり、装備は一段階どころでなく良くなっているので、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「じゃあ、攻撃参加するからオオカミ呼んでもらおうか」
「わはは! 威圧のほうだったりしてな!!」
オオカミ増量のほうでした。
お陰でレベル10になった。三匹同時は楽勝で五匹になると菊姫のダメージの回復でお茶漬にタゲ移ってしまって危うくなる場面がでるのだが、五匹になる前に減らせば問題なく、何か失敗して五匹目を呼ばれそうになっても【遠吠え】は止めやすいのかペテロの【仕手】が大活躍だった。
スキル【知力強化】【水魔術】【木魔術】【気配察知】【気配希釈】のレベルが上がった。
【木魔術】はレベルが8になったところでとったのだが、今までの魔法のように当ててすぐダメージというのではなく、足止めをする『蔦』や、敵に十秒毎に僅かだがダメージを与えつづける『葉』などを覚えた。
まだレベル2なのでこの二つしかわからんが、増えるのは補助系の魔法なのかもしれない。こうなると【土魔術】も気になるところ。
あとSP7あるし思い切って【スキル鑑定】とセットで取った。【土魔術】の最初の魔法は『泥』で効果は暗闇。
【土魔術】を覚えて戦闘後、【風魔術】がリストに追加された。初期以外にも魔術はあるのか、光とか闇もありそうだ。【風魔術】の必要SPは2、当然覚えた。
「そう言えばここ、人少なくないか?」
休憩中にシンがマンガ肉をほおばりながら不審げにいいだした、何処で買った。
「あー、他は西門の先でゴブリンと戦ってるらしい、ゴブリンだと低確率で装備強化に使う魔石が手に入るんだってさ」
掲示板をよく見ているお茶漬が答える。
「へー」
「そう言えば、Eランクの常時依頼もゴブリンだったな」
焼き串を食べながら答える、焼き串ではEPの回復量が不足になってきた。
「失敗もするけど+10まで修理屋で鍛えられるって」
「どんな失敗でしか?」
「耐久の基礎値が下がる、10回失敗すると壊れるって」
壊れるまでいかなくても、耐久100/100から10/10とかになったら一戦毎に修理しないといかん気が。いや、むしろ一回で壊れるのか。強化、怖いな。
「それはまたレオとシンが好きそうな」
「ギャンブルだな! わははは」
「まあ、混んで敵の取り合いだろうし、出にくいなら宿屋ボーナスある時間帯のほうがいいかな」
「だな」
「初期装備は必ず10にできるから保険でやっといたほうがいいかも、いやいらんかな」
オオカミ狩りを再開して、暫くすると真っ黒いオオカミがいた。今までの灰色オオカミと違い、最初から灰色オオカミのお供を連れており、間違いようのないほど灰色オオカミより大きい。
「なんか強そうなのがいる」
「シンの先輩なんじゃないか? 後輩から一言いってやって」
「あそこまで大きいと迫力でし!」
「菊姫最小だしな」
男で最大近い私の四倍近く大きい気がするぞ、黒オオカミ。
お供は四匹、レベルが二つ上がったし大丈夫だとは思うが、黒いオオカミの強さがわからん。だがせっかく見つけたのでやることにした。ポーションを飲んだりしてHP・MP・EPをフルにする。
「逝くでし!」
ちょっとニュアンスが違いませんでしたか今?!
戦術は菊姫がタゲ取った後、黒オオカミに挑発いれて他を一回ずつ叩くのにあわせて私が『泥』をかけて行く、【暗闇】にかかって目の見えなくなったオオカミ達は攻撃にミスがでるので菊姫に集まるダメージ負担が軽減されるのだ。
黒オオカミには『泥』は効かないか効きづらいかしたので、『葉』をかけてとりあえず放置。
菊姫の殴っている灰色オオカミへの攻撃に参加し、一匹沈めると『泥』の効果が切れかけるので先ほどと同じ手順でかけ直す。
一匹沈めると残った三匹のうち二匹が【遠吠え】して、それぞれ新しい一匹を呼ぶ。片方はペテロが【仕手】で止めてくれるのだが、数が減らない。灰色オオカミだけの時のように二匹呼ばれないだけマシだが。倒すと増えるお供を無視して、黒オオカミを先にやろうとしたら倒さなくても一定時間経つと【遠吠え】を使ってきた。
そこへ黒オオカミの【咆哮】で恐怖にかかり全員の動きが阻害される。すぐに動けるようになったが、攻撃や使用していたスキルが解除された。それによりタゲを取っていた菊姫でなく攻撃が私にとんで、一撃でHPが半分にされた挙句、『出血』という状態異常がついてHPが少しずつ減ってゆく。
私、そんなに防御力が無いのかとあせったが、【咆哮】の次に来る黒オオカミの攻撃はランダムで他のやつらも必ずHPは半分持って行かれていた。そういう攻撃なのだろう。【咆哮】はお供にも強化がかかるらしく、灰色オオカミの攻撃力も増大する。
寧ろ【咆哮】の次の攻撃が菊姫に当たったときが厄介で、HP半減を回復前に強化された灰色オオカミの攻撃が集中、クリティカルが発生すると流石にあやうい。
灰色オオカミが仲間を呼ばなくなるまで頑張れば勝てそうではあるが、酷い消耗戦になりそうだ。
お茶漬は、菊姫の回復をしながらHP半減と出血で減ってゆくみんなの回復で大忙し、全員のHPを半分以上に保っていないと【咆哮】が来た時に死ぬ。
【遠吠え】をしていない狼に当てるともれなく一匹サービスされるので適当に二匹に【仕手】をするのも危険がある。
「これもうちょっと攻撃力上がって、一匹倒す時間一ターン短くなれば楽だね」
「ちょっと倒すタイミングが遅いと仲間呼ぶタイプはきついね」
お茶漬とペテロが戦況を分析、今回は分析というほどでもないかもしれんが。相変わらずこの二人は戦闘は理詰めなんだな、と思いつつ灰色狼を眺める。ちなみにその理詰めはレオがぶち壊すんだが。
「ん? 【遠吠え】前に後ろ足で軽く地面掻いてないか?」
もふもふ不足の尻尾が揺れていて見づらいが。
「OK! 任せろ!」
《灰色オオカミの毛皮×20を手に入れました》
《灰色オオカミの牙×18を手に入れました》
《灰色オオカミの血×6を手に入れました》
《黒オオカミの毛皮を手に入れました》
《黒オオカミの牙を手に入れました》
《黒オオカミの魔石を手に入れました》
《土魔術がLv.2になりました》
《スキルリストに【恐怖耐性】【止血】が追加されました》
黒オオカミはシンの四連コンボで光になって消えた。灰色オオカミを全部倒した後は早かった。
火力のある拳士カッコいいが、仕事をするシーフも格好良い。
「キツかったけど、スライムよりストレス無くていいかな」
「オレも【仕手】とるかな」
「EP回復薬とかないかな、戦闘中に食べるの大変だった」
「あったら欲しいでし」
「同じく〜」
休憩後、採掘ポイントがあったので、それぞれ別れて行動。私は【気配察知】と【気配希釈】をかけながらだったので平気だったが、近くで菊姫が絡まれたので助けた後は同じ所で採取。
ベリーの時に採ったものが、みんなから見ても無くなったので、取り合いにならない様に少し離れて採取していたのだが、【採取】持ちが採取できるものは、採り尽くしても他のプレイヤーは同じ所で採取でき、気にしなくていいことが発覚、仲良く並んで採取した。
ベリーなどの【採取】持ち以外が採れる食料でも違いがあり、【採取】を持たない者が採ると、見た目通り一つ採れば一つであるが、【採取】すると一度に一つから三つ採れて効率がいい。
ここでは薬草と止血草、強心の実がとれた、名前からして黒オオカミ対策の薬ができそうだ。
因みに絡んできたのは灰色オオカミ一匹でHPポーションを菊姫が飲みながらなんとか【遠吠え】前に倒せた。【火魔術】が4になっていたのが幸いだ。
夜になった。
ただいま再び戦闘中。
場所は角ウサギがいた浅い森だ、交戦しているのは蝙蝠。基本攻撃の当たる低い位置にいるのだが時々大きく羽ばたき届かない位置に留まり【吸血】というスキルを使ってくる、効果は定番のこちらにダメージ、あちらに回復だ。
私の魔法とお茶漬、シーフ二人組の投擲は届くので蝙蝠が上にいる間はシンと菊姫がポーションで回復にまわる。
一戦終えたところで菊姫も【投擲】をとった。シンはSPが無くてその後もコウモリが上に行ったら回復役だ。二戦目が始まる前にポーションをシンに渡しておく。
物理って大変だなーと思っていたら、【風魔術】の『突風』で、確実ではないけれど下に落せる事が判明。コレといい【仕手】といい色々な職業がいると戦闘が楽だ。
「うーん、飛んでる敵対策今の内にとれってことかねぇ〜」
シンがでかい手で不精ヒゲを撫でながらうなっている。
「菊姫とダメージ比べて思ったけど、投擲は純粋なSTR依存じゃなくDEXはいってるっぽい」
「そりゃ、シーフの初期スキルですし」
お茶漬の考察にペテロが応える。
「私も魔法耐性がある敵が出てこないうちに物理なんとかしよう」
金魔術じゃだめかな。ダメだな、詠唱阻害とかありそうだし。沈黙とか。
「コウモリは効率悪いな~そろそろいい時間だし、宿に戻ろうか」
「だなー」
お茶漬の言葉に同意する。現実時間二時、流石に寝なければ明日の仕事に影響する。
こうして私の一日目が終わった。
□ □ □ □ □
・増・
Lv+3
スキル
【木魔術】【土魔術】【風魔術】
【スキル鑑定】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.10
Rank E
職業 魔術士 薬士
HP 214
MP 347
STR 10
VIT 11
INT 40(+6)
MID 14
DEX 9
AGI 10
LUK 10
NPCP 【ガラハド】【-】
称号 【交流者】
スキル(2SP)
■魔術・魔法
【木魔術Lv.2】【火魔術Lv.4】【土魔術Lv.2】
【金魔術Lv.3】【水魔術Lv.3】【風魔術Lv.1】
■生産
【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.1】
■収集
【採取】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.2】【植物食物鑑定Lv.2】
【動物魔物鑑定Lv.3】【スキル鑑定Lv.1】
【武器防具鑑定Lv.2】
【気配察知Lv.2】【気配希釈Lv.2】
■強化
【知力強化Lv.2】
■その他
【MP自然回復】【暗視】【地図】