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101.山積

「いやいやいや?」



 それ騎獣と違うよな?

 絶対違うよな?

 どこに乗るんだ?

 どう見ても違うよな?

 騎獣ってペットの一種だよな?

 これがペットってないだろう?

 この世界、そういう文化が存在するのか?

 人間側では奴隷制度もないはずだよな?

 魔族は獣人を奴隷にしていると聞いたが。




「パルティン様!」

「我が力を与えているからしょうがないとはいえ、お前は金属性に偏りすぎだ。いい機会だから少し我から離れて修行してこい。元の属性の水と釣り合ったら戻っていいぞ」

すがるドラゴニュート君、改めレーノに向かって手をひらひらさせて私のほうに追いやる仕草をするパルティン。


「いやいや? 私が騎獣にしたいのはもっとこう毛のある柔らかいものでな?」

「毛のある柔らかいもので空を駆けるものはここにいないぞ? 空を飛ぶので手頃なのはグリフィンか。飛ぶタイプでもふもふなのはそれこそエルフのいる大陸の騎獣だ、そんな時間をかけられても困る。レーノ(これ)で我慢しておいて後で乗り換えろ」


「お主の周りは妙なものばかり集まるのう。敷地を探すために騎獣がこれしかないなら同胞のためだ、その間もふられてやってもいい、はよう家を探すのじゃ」

「……っ」

白のもふり許可!

だがしかし……っ!


 レーノを見れば地面にめり込みそうになっている、放っておくとキノコが生えそうな勢いだ。支援は期待できそうにない。


「いや、レーノにずっと付いていてもらうというのもパーティーを組む上で困る。固定とまでいかないがよく組む友人が五人おるのでな」

六人がパーティーの最大だ、諦めろ! 私も一時のもふもふに流されるな! がんばれ私!



「ふむ、これを貸そう」

「?」

そう言いつつ、私にではなくレーノに何かをつけ、振り向いて私にまた言う。


「『召喚の指輪』だ。片割れの『召喚の首輪』をしたものを強制的に召喚する。普段レーノには自由行動をさせておいて喚び出せばいいだろう」

「そんな趣味の悪いものはいらんっ」

レーノに着けたのは首輪か!


「遠慮するな」

パルティンに右手を取られて指輪をはめられそうになる。


「遠慮ではなく!」

拳を握って手を引き抜こうとする私の腕を脇に挟み込み固定して指を開かせようとする。ちょっとパルティンさん、胸! 胸が! いや、そんな場合じゃないぞ、私!


「諦めるのじゃ」

「ちょ、白! くすぐるな!」


   ・

   ・

   ・

   ・


 数分後、やりきった爽やかな顔のパルティン。

 ドラゴンの力は強かった、素早さなら装備で勝てるのだが、先に捕まってしまっていては勝負が見えていた。

 ……決して胸ともふもふに屈したわけではない。途中腕挫十字固うでひしぎじゅうじがためなんて知識として知ってはいるけれど、食らうのは初めてな技で太ももやらいろんななにかに動揺なんかしていない。


 ドラゴンさんは恥じらいがない。



 レオを蹴り飛ばすのを別にしても【格闘】とかちょっと取得したほうがいいのだろうか。


「お前はあちこち見て回れ。一人で、あるいはホムラと、あるいは他の誰かと。一途なのはいいがそれでは願いが叶った時潰れるぞ」

キノコが生えたようにジメジメと沈み込むレーノにそう言い放つと飛び去って……、戻ってきた。


「とりあえず満月の時は帰ってきていいぞ。ミスティフを守るものが必要だしな」

レーノに甘いのかミスティフに甘いのか微妙なところ。

 飛び去る金竜を見ながら、右手の小指にはめられた指輪をそっと外そうとして外れないことにため息をつく。


 ピンクゴールドに薄ピンクと濃いピンクの宝石を花弁のようにあしらった華奢な指輪。

 あからさまに女物ですね、困ります。

 これも意匠変更だ!



 ジメジメしているレーノをそのままに、デート中らしいミスティフが視界に入る中、予定通りベリーを採取し始める私。今は無心になりたい。

 フードに体の大半を包み、肩口から顔を出した定位置のご機嫌な白にたまにベリーをやりつつせっせと摘む。

 果実水、ジャム、ジェラート、タルト、スムージー、ブランデーにつけてもいい。

 炭酸水はクエン酸と重曹で作れたのだったか。

 面倒だしどこかに炭酸泉ないものか。



 美味しいものを想像してだいぶ気分が浮上したところで、採取の合間にミスティフのことについて白に聞く。


「困ったことにミスティフが番うのは物質界(こっち)でしかできん。騎獣の魂の話に似ておるが精霊界では個が気薄になるでの、番う前に一緒くたになって下手をすると、二匹で一匹のミスティフになってしまう。精霊界にこもっているわけにいかんのじゃ」


 満月の夜は精霊界と物質界が近くなり、月の光に惑わされて精霊界に戻り損ね、捕まるミスティフが多かったのだという。

 それでパルティンが、満月にはレーノに帰ってこいと言い、満月までに家を持てと言ったのかと納得する。


 精霊界では、ミスティフだけでなく、精霊も気まぐれに集まり溶け合い強力な精霊を作り精霊王に近しい存在になったと思えばまた気まぐれに分かれてゆくなど個と個の境目が薄い世界だという。名前を持つ『個』である精霊が個を保つために人と契約するのもまた飼い主を求める騎獣と本質的には似た理由なのだという。


「ホムラさん!」

「お? 復活したか」

「僕を貴方の騎獣にしてください!」

「いきなり吹っ切ったな」

吹っ切ったというより振り切れた?

「パルティン様が言うからには僕に足りないものがあるのでしょう! それを知るために協力願います!」

振り切れた方向が行き止まり方向じゃないだろうかそれ、視野は狭いままだった。


「パルティン様の教えを知り、ドラゴンとなるためなら一時的に騎獣となる屈辱にも耐えてみせます!!!」

あれ、むしろひどくなったような気が?


「もしやヤケクソ?」

「さあ、最初の行先はどこですか!?」

「まて。一緒に行動するのはともかく、私は人型に騎乗するのは嫌なんだが?」

「今日もう暗いしの、孤島を探すのは無理じゃ。ホムラは星降る丘に行く予定ではなかったかの?」

私が話している言葉にかぶせて白が言う。


「はい! 星降る丘ですね」

「いや、まてどうやって騎乗させるつもりだ?」


 手早く負ぶられました。


「行きます、舌噛まないでください」

「え、ちょっ、わっ!」



 うわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(ドップラー効果)





 拝啓 


 私の悲鳴を聞いた方へ

 乗り心地は最悪でしたが、ドラゴニュートの足は速かったです。


 敬具



《『鍛錬』によりVITが上昇しました》



 じゃない!

【酔い耐性】持っててよかった。

 速い、速いがなんの保守もなく内臓がシャッフルされるのはキツイ。

 高速のダチョウに乗ったらこんな感じだろうか。ダチョウにすら乗ったことがないが多分きっと体勢的に?


 レーノが前屈姿勢でそのまま走るという器用なことをしてくれたおかげで思ったより位置については安定していたのだが、私の上半身がスピードによる強風で煽られ乗っているのに苦労した。下手をすると後ろに倒れて後頭部を引きずられる羽目になるんじゃないだろうかこれ。


 ちなみに白はさっさと帰還済みである。


 そしてここで鍛錬効果が。

 戦闘以外で上がるとは聞いていたがこんなことで上がるとは。鍛錬カウントになるほど過酷だったのかよ!などと思いつつ星降る丘の地面に転がっている私。


 前回来た時は寝転がって星空を満喫したというのにこの体たらく。

「人間は外殻弱いですね」

「そもそもそんなもの持っておらん」

「ティガルの星屑でしたか、僕も【採掘】はもってるんで掘っときますよ」


 気持ちよく私の訴えはスルーされたが、手伝ってくれるようだ。パルティンのねぐらに採掘ポイントでていたし【採掘】でおかしくはないが、パルティンの言葉を考えればレーノは水属性。【釣り】ではないのだな。

 パルティンに出会う前の彼は何をどう選びとってきたのだろうか。



 まだグラグラするが、関係のないレーノだけに掘らしておくわけにもいかずよろよろと私も採掘を始めた。


 二箇所掘ったところで漸く回復とリフレッシュの存在を思い出した。

 まだ自分の称号・スキルがピンとこない。必要な時に的確なスキル・魔法を使用できるどころか把握もまだだ、先は長そうだ。



 ティガルの星屑をレーノから受け取り、対価を払おうとして固辞された。

 私はこれから落ちて現実世界で睡眠だ。休みだけれど店やら家やら目白押しなので早起きしてログインしよう。

 異邦人の特性(・・)でこれから二日近く眠ったままになること、その後少し用事があるのでそれを片付けてから家の場所探しに出発したいことを伝えるとレーノのほうもそのほうが都合がいいとのこと。

 勢いで出てきてしまったが、今まで住んでいた場所の片付けやら、やり残して気になっていることを二、三きれいにしてくるそうだ。


 今から食事を作るのは面倒だろうと、何食分か押し付けた。

【餌付けする者】については、「好感度だけで関わるわけじゃなし、どうせ関わるのなら好感があるほうがお互い良いでしょう」と軽く流された。

 もうこの称号の説明面倒だし省略していいかな。



 起きたら雑貨屋をなんとかしなくては。

 そして冒険者ギルドのアル辺りに、大陸から離れたところにある島の所有権がどうなっているか確認しておこう。孤島だと思ったら船舶の給水地だったりしたら目も当てられない。


 そういえばレーノは人間の街に入って騒ぎにならないのだろうか。その辺の確認もしなければ。

調べなくてはならないことが増えた!



 ジアースに魔法で転移、店舗に神殿の門から転移。


 委託で器用さの指輪の出品をチェックして素材を何種類か買い込む。アクセサリーを作るために金属素材に絞って検索する。


 銀は生産のレベル上げに使うプレイヤーはまだまだ多いのでお高い様子。魔法銀(ミスリル)の出品が少しあったので、星降る丘で『ティガルの星屑』と一緒に出た銀やらもろもろ売り払って何点か購入。

購入した後で気がついたのだが、これプレイヤー製だ。なんだろう?

 鍛治屋のスキルかな? それとも錬金で銀に闇魔法か光魔法あたりを合成するのだろうか?

もう銀は売ってしまったので次回手に入れたら実験しよう。


結魂(ゆこん)石』は水のしずくのように透明。

形の加工は『結魂石』の時にしろとタシャは言っていた。カットして反射面増やしてもいいが、冒険中光っても使いづらいだろうか。丸か涙型でいいかな?


 反射の弱いつるんとしたのと反射の強いラウンドブリリアントカット、ペアシェイプブリリアントカットを用意、形的にはそう変わらんので以降の作業も楽なはず。


 ちなみにカットはスキルで出た。

『オールドヨーロピアンカット』とか表示された時の困惑。文章でのスキル説明はピンとこなかったが、アイルで宝石関係の本を購入した後は図説付きになったため想像しやすくなった。贅沢を言えば出来上がりプレビューが欲しい。


 カットを終えた『結魂石』から錬金した『冥結界(めいけっかい)石』はごく薄く青く淡く輝く。

ここに魔法陣を入れ込むのだがさて何色が良いだろう?

 つけっぱなしなことを前提に考えると完成品は飽きのこないシンプルなものがいい。ついでに他の貴金属をつけた時に邪魔にならないもの。


 控えめな色というとなんだろう、同系色で青でいいかな?

 面倒だし、青でいいか。


 購入したインクは青・赤・緑。

 ちなみに赤と緑を合わせると黄色になる、光の三原色採用のようだ。全部合わせたら白になるのだろう。インクもそのうち自分で作ろう。

【ストレージ】のおかげで荷物の量を気にせずにいられるのがいい。まあ、整理できてなくて忘れ去り気味なアイテムがやばいが。


【魔法陣】にはレベルがあるがレベルが上がると魔法陣を覚えるのではなく、扱えるインクと紙、もしくは皮などが増える。最終的には攻撃魔法を空中に書いた魔法陣から出したり、何かを召喚したりできるらしいが、今のところ私は紙に市販のインクで書ければ魔法石が作れるので満足だ。

 あまり強い魔法陣はもっと大きな宝石かランクの高い宝石に入れんと割れるし。


『結魂石』もたくさん作って同じものを錬金で重ねまくれば大きなものもできるのだが今回の目的とはそぐわんしな。『冥結界石』でもできそうだがこちらは試していない。

 小さくともランクは高いので私の作れる範囲の魔法陣であればどれでもOKそうだ。


 魔法陣はルーン文字のようなシンプルなものから二重三重の円の中に六芒星(ヘキサグラム)やら五芒星(ペンタグラム)やら星を表す記号やらを合わせた複雑奇怪なものもある。

 一度間違わずに描き切れば以降、簡単に書けるようになるのだが一度は自力で描かなくてはならない。


『幸運の魔法陣』が青いインクと相性も悪くなく、誰がつけても嬉しい効果なきがするので『冥結界石』に入れるのは『幸運の魔法陣』にする。ほんのわずかではあるが戦闘中ならクリティカル率とドロップ率が上がるはず。

 私の【魔法陣製作】のレベルが高くて、市販でないインクを用意できていればもうちょっと効果の高い『幸運の魔法陣』が込められるのだが、あまりこだわりすぎて時を逸するのも怖い。


 ペンダントや指輪、イヤーカフスを作る、他より少し効果が高くできた『幸運の魔法陣』を使ってミスリル製の指輪とイヤーカフスを2つ。

 これは形はシンプルにしたが透かし彫りやら頑張った。

 うん、イヤーカフスと指輪の量が多くなったのは仕方がない。幾つか作った中からうまくできたのをガラハドたち用に選んだからな。



 作業を終えると布団を買い忘れていて宿屋に駆け込むオチが待っていた。


 本日はこれまで。

 おやすみなさい。




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― 新着の感想 ―
(ドップラー効果)の記述だけで、ホムラの悲鳴が音程を変えながら移動していく様子がくっきりイメージできてしまい……腹筋痛い。 「坐す」の時も思いましたが、細かい表現がお上手というか好きです。 電子書籍も…
[気になる点] 六度目ほどの読み直しで気になる点を言うのも今更な気がするのですが、冥結界石を作る際に必要だと言われた”浄化”ってどこにいったのでしょうか?? 確か、神様に言われていたような気が……無く…
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