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99.ミスティフ

「おぬしも大概ひどいのう」

「せめて名乗るなりなんなりすれば考えたんだが。怪しい上に、こちらが問いに答えたのに何も情報を渡さないという態度はいただけないな」


 とりあえず猫足テーブルを出してドラゴニュートが転がる横でお茶をしている。

 どうしようかこれ。


「な、んなんですか、あなた、方は」

「お? 根性あるな」

「やった我が言うのもなんだが毒だけでも治してやらんか?」

「いいが、毒消しあったかな?」

神聖魔法は全部治してしまうため、使えないので荷物を漁って毒消しを取り出す。


「ところで真面目な話、人をつけ回しておいて怪しさ満点、名乗りもしないって簀巻きにされるのも仕方がないと思うのだが"何なんだお前?"って返していいか?」

「いや、普通、簀巻きまではいかんじゃろ?」

白が余計なチャチャを入れてきたので取り敢えずもふる。


「召喚獣を、囮、に使う、よう、な貴方、には騎、獣は渡せ、ない!」

「「囮?」」


 痺れているため聞き出すのに時間がかかったのだが要するにこのドラゴニュート君は騎獣を守っており、私が騎獣の生息域に入ったので警戒していたら通り過ぎて肩透かし。


 では一体何を? と思ったのと帰りに騎獣を狩るかもしれないと、つけていたらしい。


「それで私が白を盾に使って後ろから攻撃していたように見えた、と」

「構図的にはそうじゃのぅ」

実際は白が殺る気で突っ込んで行った後、私が倒していたんだが。まあ、遠距離職が誰か、もしくは何かを盾に使うのはよくあるが、白は盾系の召喚獣には全く見えないだろうし近接系にも見えそうにないので誤解を受けても仕方がない気がしないでもない。


 普通は召喚獣の行動は飼い主が指定するらしいし。白は完全放し飼いだ。



 戦闘中に殺気を感じたのはそういうわけか。悪い人間、もとい悪いドラゴニュートではないようだ。


「白が喧嘩っぱやいのが原因か」

「おぬしが戦闘に滅多に呼び出さないのが悪いんじゃ!!」

「戦闘中はもふる暇がなくて困る」

「嘘じゃ! 魔法しかつかわんのは戦闘中隙を見てもふってるためじゃろう!」

「気のせいです」

背中の毛と尻尾を立ててシャーシャー言ってる白もかわいい。


「ええい! そこなドラゴニュート、我の被害を分散するため毛皮増量の騎獣を見繕え!」

「!?」

そういうことになった。


いや、ならない。

「ちょっと! なんで僕が騎獣を見繕わなくてはいけないんですか!」

「思いの外流暢に話すな貴様。白はああ言ったが、誤解とはいえ私の方も無駄に警戒させてたのがわかったし、気にせんで帰っていいぞ。怪しかったとはいえ、さすがに簀巻きにした相手にそこまで求めん」


 口の構造は一目見て人と違うことがわかる。手足が長く、指も長い。爪はなかなか丈夫そうだ。そして膝のあたりまで来る尻尾。胸板はあるのに猫背と手足が長いせいで印象は細い。


「帰れるわけないでしょう! あなたこそ帰ってください!」

「断る」


「もう夜になりますし、明日、明日改めて来ましょう!」

「パス。今帰ったらしばらく来られんかもしれんしな」

店の開店準備があるのである。

 ちなみに白は帰還済み、手元が寂しい。


「わかりました、じゃあすぐ探しに行きましょう! さあ!」

「いや、茶を飲んでもう少しベリーを摘んでゆく」

白が摘んだ分をだいぶ消費しているのだ。せめて春ものの木苺と『ブラックジュエルベリー』はもう少し摘んでおきたい。


「いやいや、今なら騎獣探し付き合いますから! ベリーの方を後にしましょう!」

「なんだ? 今晩ここにいさせたくないのか?」

「……っ!」

ビンゴ?


「よし、ベリーを摘もう」

鼻歌交じりで『ブラックジュエルベリー』を摘み始める私とあわあわしているドラゴニュート。


「だいたい騎獣がどうのと言っていたくせに、他に大事なものがあるとあっさり犠牲にするのだな」

「だって貴方、召喚獣と仲がいいじゃないですか! 誤解したのは謝りますよ! 騎獣となる獣を害するモノは排除しますが、正しい縁を結ぶのを邪魔する気はありません!」

「ここに居させたくない理由は明かせない程度の男なのに、騎獣は任せられるのか? ふ〜ん?」

私ならいきなり簀巻きにしてくる初対面の男は信頼できないが。


「わかりました! 話します!」

え? 信頼(そっち)!?

何か神々の寵愛効果で住民からの好感度アップ混じってた気がしたけどそのせいか!? 大丈夫かこのドラゴニュート騙され人生歩まないだろうな?


「但し、これから話すことを他の人間に話したり、ここに現れるモノに危害を与えるなら全力で殺します」

「応」

ドラゴニュートの瞳孔が細くなる。


「ここに出るのはミス……、あ、あーーーーッツ!!!」

「なんだ?」

「どこかで見たことあると思ったら!!!」

いきなり叫び出すドラゴニュート君。あわあわしたり叫んだり大変落ち着きがない男だ。


 たぶん男。

 リザードマンに会ってもの牡牝の別がつく自信がないのだが、ドラゴニュートはどうなのだろう。リザードマンは牡牝で胸の違いがない上、牡のナニも一般的な爬虫類と同じく体内収納式、声もシューシューと漏れる息のため、男女の別を聞き分けるのは人間には難しいと聞く。

 思わずそっと胸と股間に目をやったが、服を着ているドラゴニュート君。少なくとも胸はない。リザードマンより人間よりの姿をしているし、声の低さで判断して問題ない気もする。


「ちょっと貴方、先ほどの白い召喚獣はミスティフですか!?」

「え? ああ、ミスティフですよ?」

何故だか詰め寄られている私。


「呼び出してください!」

「無茶言うな、次に呼び出せるのは三時間後だ」

呼び出しっぱなしにしていたし。通常は必要な時だけ呼び出し、まめに帰還させて戦闘中に呼び出せる時間を確保するものらしいが。


「三時間……」

「何なんだいったい」


ハァ、とため息をついてからドラゴニュートが話し出す。

「ここに出るのはミスティフです」

「うん?」

「ミスティフなんです」

「ああ?」

「ちょっと、なんでそんなに反応が薄いんですか!」

次に続く言葉を待っていたら叱られた!


「ここに出るのがミスティフで、白の同胞なのはわかったが、それがなんだ?」

「貴方、ミスティフの毛皮の価値を知らないんですか!」

「白の毛皮が最高なのはよく知ってる」


 何か話がかみ合わないのでよくよく話を聞くと

 ミスティフは夜間月光のもとでのみこちらの世界に姿を現すが、その毛皮のせいで乱獲の憂き目にあい数が極端に減っているとのこと。特に遥か昔、大陸中に名を広めた美姫がミスティフの毛皮を寝室に敷き詰めた者の妻となる、と言い出した時が酷く、姫自身を望んだもの、王の座を望んだもの、美姫を真似てミスティフの毛皮を望む者によって狩りつくされる勢いだったそうだ。――ちょうど白が暴れた時代。


 もちろん現在ミスティフの毛皮は途方もなく高い。


「そういうわけでミスティフは超希少種であり、僕の主人からも騎獣より優先して保護するよう申し付けられてるんですよ。白いミスティフなんて僕も初めて見ました」

ミスティフは通常、全体が茶色で胸と腹と、尻尾・手足の先が白か黒だけらしい。


「ここにいるのは彼方此方から保護したミスティフ達です。ただ主人の庇護下に入れるには相性があまりよろしくなくてこんな半端なところにいますが」

「主人とは?」

ドラゴニュートの主人というとドラゴンを想像するわけだが。


「今参られます」

「ん?」

聞き返そうとした時、上から結構な風圧が襲ってくる。飛ばされぬように足を踏ん張り、腕を上げて砂礫から顔を守っているとそれはすぐに収まった。


「貴様が白いミスティフの主人か!」

「ん? ドラゴニュートさん(・・)?」

は、胸があるし羽根があるのか。


 そこには膝まで届くような見事な金の巻き毛、金目の少女が居た。羽根装備である。風圧から言ってもっとでかいものだったような気がするのだが、口調は偉そうだが私の胸までもなさそうな少女である。


「誰がドラゴニュートだ! 見てわからんか、我はこの山脈が主人パルティン、金竜パルティンだ」

……わかりません。

 胸を張って答える少女に言いたい、私の見たことがあるドラゴンは「肉」と「バハムート」だけだと。どっちも言っちゃいけない気がするので言わんが。


「人の姿のドラゴン()初めてみた」

「人の身でドラゴンに相対することなど早々あるまい、話しやすいように近しい姿を取ってやったのだ。だが確かに紛らわしい、先ほどの無礼は許そう」

ちらりとドラゴニュート君の方を見、自分の姿と比べたのか、間違えても仕方がないと自己完結したようだ。


 美しく可愛らしい見た目なのにその瞳がそれを裏切る。長い睫毛に縁取られたこぼれそうな目であるが、こちらを映す瞳に見た目を否定する覇気がある。

 それこそ、少女がドラゴンだと言い出しても信じるほどには。


「それにしても人間、我に逢うて普通に話すか」

「何だ? 敬ってでも欲しいのか」

「いや、だいぶ抑えているとはいえ我もここな山脈の主人、人にはきつい気を放っておる。自分で言うのもなんだがコントロールが下手でな。怖気や恐れはないのか?」

「特にないな?」

「ほう?」


 伊達に神々やらバハムートと会っていない、これくらいなら平気だ。あと神々は神気というべきものを大分抑えてくれていたのだろうことはヴェルスに会った時に自覚した。それでも抑えていたのかもしれんが奴は神気バリバリだった。まあ、ヴェルスに会った時は大分慣れていたせいか平気だったが。

 あの神気にあてられていたら登場の仕方が多少マヌケでも畏れ敬い跪いていたかもしれん。危険危険。



 そして現在、金竜パルティンの寝ぐらでお茶をしながら白の再召喚時間を待っている。ドラゴニュート君はその場に残り、パルティンの命で木苺を摘みながらミスティフの居場所に不埒ものが現れないか見張っている。採掘は持っているが採取はないそうだ。『ブラックジュエルベリー』はこの会合(?)が終わったら私が既に摘んだ部分も復活しているだろうし改めて摘もう。


 ドラゴニュート君、パルティンに絶対服従である。

 結構ひどい扱われような気がしたのだが、嬉々として従っているのでなぜかと思えば、ドラゴニュートという種族はドラゴンの(めい)を叶えるたび、ドラゴンの力が貰えドラゴンに近づいてゆくという。


 (めい)(いのち)だという。(めい)を与えるそのドラゴンも自分の(ちから)を与えるということは力を補充しない限り自分が弱体化することでもあるので、そうそう気軽に命を与えることはなく、ドラゴニュートがドラゴンに焦がれ力を望んでも(めい)を与えられることは珍しいのだという。


 ドラゴニュートは遥か昔、ドラゴンと魔人、あるいは人間と血が混じった種族と言われ、ドラゴンへ崇拝に近い憧れと、混ざった血を捨て自らがドラゴンに戻りたいという思いを強く抱いているという。……この辺は本で読んだのだが、そのドラゴン回帰の方法の一つがこれなのか。


「このまま行けばあと二回の脱皮くらいで夢が叶いそうなんです」と嬉しそう、表情がわからんかったが声からして嬉しそうにドラゴニュート君は言った。顔の構造が違うのでよっぽど大きなリアクションを取ってくれない限り、小さな表情の変化は読み取れないのだ。

 ちなみに次の脱皮は何事もなければ四十年後、気が長い……。


「その白とやらは本当にミスティフか?」

「本人が言っていたし、ドラゴニュート君もそうだと言うし、ミスティフなんだろう? 私は白以外のミスティフを見たことがないからわからん」

「そうか、そうなると姿を見てもあまり話こめんな。そなたの召喚獣であるならまあ大丈夫だとは思うが」

そわそわしているパルティン。


 もふもふスキーらしいが、金属性が強く、精霊獣にあまりいい影響を与えない自覚があるため側に寄れないジレンマを抱えるかわいそうなドラゴンである。


「すでに過去やらかしてしまってな、ミスティフが一匹、夜の帳が明けても精霊界に戻れぬようになってしまった」

シュンとするパルティン。ミスティフを寝ぐらに招いて保護のできない理由がこれらしい。

 パルティンがいつもいる山脈の南、バロン側は木々が少なく、岩肌が目立つ。かわりに鉱物資源が豊富だそうだ、属性持ちの強い竜や強大な精霊たちは気候や地形にまでその属性の影響を与える。


「その戻れなくなったミスティフはどうしたんだ?」

「そのミスティフは我に他のミスティフの保護を約束させて、まだミスティフがどこかに残っていないか世界を回っておる。強い個体だったからな」


 真っ黒なミスティフだそうだ。ちょっと見てみたい。

 存外話好きなパルティンの話を聞いたり、一応【餌付けする者】の称号効果を話した上で料理を振舞ったり、その礼に寝ぐらにある竜鉱石を少し分けてもらったりするうち再召喚時間が来たのでミスティフの生息域に移動する。


 前述の理由であまり長い時間生息域にいて環境を荒らしたくないというパルティンの意向で寝ぐらにわざわざ移っていたのだ。ちなみに竜に戻ったパルティンに鷲掴みされてそのまま運ばれました。



「あ、そろそろ時間ですか?」

ドラゴニュート君がこちらに気づいて寄ってくる。

「ああ、もう呼び出せる」

日も落ちてもう地平線沿いにかすかにオレンジ色の雲を残すのみ、ミスティフも出る時間だろう。

 二人の視線を集める中、白を呼び出す。


「なんじゃ、戦闘ではないのか」

開口一番がこうである。なんでこんな好戦的になってしまったんだろう。


「白、紹介しよう。金竜のパルティンだ」

とりあえずもふもふな尻尾に釘付けでキラキラした目をしたパルティンを紹介する。




「我は白じゃ。金竜が騎獣と決まったのか? 派手じゃのう」





 パルティンと、ドラゴニュート君が固まった音を聞いた気がした。






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― 新着の感想 ―
白って、意外とホムラ強火担?
[一言] 〉金竜が騎獣と決まったのか? 乗るのが竜でいいならバハムートがいるし……
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