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8.散策

 商店街めぐりはまず広場に面した武器屋から。

 はじめてこの世界に降り立ったこの広場は、南門から入ってすぐに半円を大きく描くようにしてある。中央に噴水を配し、領主館へと続く北に伸びる大通りと、南の外壁に沿って東西に伸びる比較的広い道、大通りを挟んで東に冒険者ギルド、西に商業ギルドがありそれぞれのギルドの大通りとは反対の隣から斜めに延びる道は東西の門につながっている。


 商業ギルドから南壁までの間に武器屋、防具屋、服屋、道具屋が大きな間口を広場に向けている。街壁に囲まれた家々は普通利用できる土地に制限があるため、ひしめくように建ち、間口は狭く、三階四階と上へ上へと伸びてゆくのが普通だが、広場に面して建つ店はむしろ高さより幅の方が広い。

 反対の冒険者ギルドから南壁までに建つ店は多少様子が違って、修理屋と薬屋は武器屋の半分程度の間口しかない、もっともこれは扱う商品の大きさや量、薬屋に到っては東門前に薬師ギルドが別途あるためだが。レストランは野外用の食事を売る店を隣に併設しており、生産材料屋は生産施設の貸し出しがあるため武器屋よりも広い。西側よりも幅は不ぞろいだが、高さとデザインを揃えているため広場の風景は整っている。


「テーマパークの土産物屋が並んでるトコみてぇだな」

「一応、この広場で全部済ませることは済ませられるね」

お茶漬が言う通り、見て回る暇も惜しく、金を掛けて構わないからすぐに戦闘をしたい冒険者は、ほぼ広場でこと足りるように出来ている。強いて言うなら宿屋は冒険者ギルドの北隣で噴水広場に面してはいないくらいか。


 この街を造り治めているのは騎士伯、冒険者で多大な戦果と功績をあげ爵位を賜わった男の何代目かだ。今でも武勇を尊び冒険者に寛容な領主だそうだ。魔物の存在する世界で騎士伯は王族に立礼が許される、私が思っていたより高い地位にあり庶民の人気もある。

 迷宮都市のあるターカント公国は騎士伯から公爵になった元冒険者の起こした国で物語にもなっており、主役の騎士伯ガルレイは子供や冒険者たちの憧れだそうだ。


 露店で仕入れた知識を思い出しながら店を回る、先ずは武器屋からだ。


「うをう!」

レオがはしゃぎだした。

中に入ると中央に私の身長くらいある大きな剣が床に突き刺さったようにディスプレイしてあり、その後ろには緩くカーブを描いて左右に伸びる階段が二つ。一階は量産品や、鍛冶見習いの造った品が置いてあり、二階はそこそこの武器、三階は一点物の一級品を扱っている。売っているのは武器の括りなのに様々な種類があり、デパートを彷彿とさせる。一階の仕切られた区画で研ぎと直しも出来るようになっている。

 隣の防具屋も造りは一緒で中央のディスプレイがフルプレートアーマーになっていた。そしてやはり、大きなディスプレイの鎧にレオがはしゃいだ。


 三軒とも三階まで見たがまだ私たちの懐具合に適うのは一階で扱っている商品だ。

【武器防具鑑定】を一軒目の武器屋で慌ててとった。他は全員持っていた罠よ。


 次の道具屋は一階にモデルルームのようにフル装備の生産施設があり、二階から携帯用の道具を販売していた。生産施設も道具扱いなのかとびっくりした。

 武器屋で見習いの作ったコーナーにあった杖がちょっと欲しかったけれど、工匠区を回るまで我慢だ。とりあえず工匠区で手ごろなのがなかったときのために覚えておこう。


 次は大通りほどではないけれど馬車の通れる幅の通りに面している小売店巡りの予定だったが、飛ばして近いほうの武器防具屋の裏手にある露店に行くことになった。細い路地を入ってしばらく歩くと日除けをつけた店が建ち並ぶのが見えてくる。


「あったあった、じゃあ一時間後ここ集合で」

歩いているのはNPCが多く、昨日の露店よりはるかに空いている。昨日は宿からあぶれ、食事のないギルドの簡易宿舎に泊まることになった面々がギルドの職員に聞いてあの路地に押しかけていたのだ。こっちの露店はあまり知られていないか、それとも他のプレイヤーは戦闘に行っている時間なのかもしれない。


 うん、そしてもう放し飼い宣言なのだな。確かに六人で連れ立って歩くには一軒一軒の店が小さいし困難な気がするがもう諦めるのかお茶漬よ。

 それでも最初は固まってみて歩いていたのだが、やはりばらけた。職業が違うと見たいものも変わるので仕方がない、私も気がついたら調理道具と調味料を買っていたし。我慢できずに【料理】をとった! 職業リストに【料理人】が増えた!

 

 そしてますますアイテムポーチの容量がピンチだ。ダメだ、工匠区行く前にここで見つけよう。そういうわけで私はポーチやら袋物を探して露店を見て回った。


「ホムラ~~~」

菊姫が手を振って呼んでいるので手を上げて答えてそちらへゆく。

「どうした?」

「いいポーチがあったでし!」

菊姫の立つ後ろの店を覗くとローブやらズボンやら古着を扱う店で、到底アイテムポーチを扱う店には見えない。


「いらっしゃい! アイテムポーチだね? ちょうどあと一つあるよ」

もう菊姫から話を聞いているらしく、店番の男が話しかけてくる。どうやら古着と一緒に普段は引き取らないアイテムポーチをいくつか入手し扱いに困っていたらしく、菊姫に安く売ったらしい。

5,000でいいと見せてくれたアイテムポーチは


アイテムポーチ

容量 200

耐久 10/100


 広場の店で見た容量200のアイテムポーチは二万だったので破格だろう。

 だが耐久やばくないか?

 耐久が0になるとアイテムは壊れる。アイテムポーチが壊れたときにどうなるか想像に難くない、たぶん地面に中のアイテムがばら撒かれるのだろう。

 不穏なことを思いながら鑑定していると菊姫がつついてきた。


「わたちが耐久回復できるでし、材料代引いてもこっちのほうがお得でし」


 買いました。菊姫に修理のための糸20本分200シルを支払いさっそく端によって修理してもらった。武器防具もまだだというのに所持金が一万シル切りそうだ。あの武器屋で見た杖7,500シルだったな、色々足りない気がしてきた。

 初期のアイテムポーチと入れ替わるのかと思っていたら、アイテムポーチの隣の空きスロットが一つあって一緒に追加で装備できた。初期のほうは耐久の表示がないので壊れることがないのだろう、武器防具も初期装備は耐久値が設定されていない。壊れることがないなら大事なものはこちらに入れておけということだな、と納得した。


「菊姫ありがとう」

「どういたちまちて~、でもお金がやばいでし」

「同じく」

 二人で笑って、その後は買わないと決め一緒に店の冷やかしを楽しみ、待ち合わせ時間が近づいたので移動する。まだ皆戻っていなかったので、昨日買ったベリージュースを菊姫に渡して二人で飲みながら待った。


 工匠区は北東の区画にあり、広場から二キロ以上歩く。まず露店からの入り組んだ細い路地を抜け、馬車の走れる通りに出て右に向かう、百mほど先には商業ギルド、冒険者ギルド、宿屋のある四辻が見える。マップを出せば初めての狭い路地も迷うことはないので便利だ。てくてく歩きながら露店の戦果について話す。


「つい【料理】をとってしまった」

「こっちでも食い意地はるでしか」

「わはは、じゃあこれをやろう」

【料理】を取ったことを話したらレオが昨日釣った『ヨルマス』という魚をくれた、記念すべき一匹目の釣果をくれるとは……後で焼いて返そう。


 辻馬車が拾えることが判明したのは工匠区に入る前の通りだった。



 また集合時間を決めてそれぞれ工匠区を見て回る。最初は職業的に近いお茶漬と一緒に見て回っていたのだが、短杖専門工房を見かけてその中へ消えてゆくお茶漬とは途中で分かれた。武器ならなんでも作っていたり、一定のランクまでの武器しか扱っていなかったり、それこそ長杖しかつくっていなかったりと工房ごとに様々な特色がある。いや、特色のない工房もある、とにかく様々だ。


 長杖とローブを扱う店を探す途中、短剣専門の工房を見つけ、レオとペテロにメールで場所を伝える。長杖専門工房も見つけたがあの武器屋の杖を基準とするとイマイチだった。


 狭い入り組んだ路地を歩いているとだんだん方向感覚が怪しくなってくる。まあ、マップを開けば待ち合わせ場所に戻るのは容易なので気にしないことにしよう。今はマップ閉じて散策と風景を楽しんでる。


 両側の家屋の壁の迫る狭い路地、ところどころ路地をまたぐ家同士をつなぐアーチ。工房の二階が住居になっている場合も多いらしく、洗濯物や壁を這う蔓バラや葡萄が時々現れる。狭い空間で緑を手に入れようとすると蔓性の植物に偏るのだろうか? そんなことを考えながら歩いているとすっかり工房を覗くことを忘れ自分好みの路地の風景を探して歩いていた。


 我に返ったのはローブ専門みつけた~というお茶漬からのメールのおかげだ。

 工房を無視して大分奥まったところまできてしまった、真面目に探そう。


 そこにメールがもう一通、予想外にガラハドからだった。中身は酔っ払って意味不明に近いメールを夜中に送った軽い謝罪だったので、気にしていない旨、返信した。


 さてこの路地は左右は壁だけで工房への出入り口は見当たらない、路地を見ていたので気にしなかったが工房の入り口の向いている通りからも外れてだいぶ来てしまったようだ。工房を探すルートとしては、一本隣の道が正しかったんだろう、隣と言うには入り組みすぎているが。路地の風景として開けっ放しの中から怒鳴り声などがする入り口は避けていたせいだ、どちらかというと蔦に覆われた裏口の木戸を求めていた結果がこれである。


 ここまでくると先に進んでこの路地を抜けたほうが早いだろうか? 戻ったほうが早いだろうか?


 マップを開くのが早いな。

 

 マップを開いたら私は道じゃない所に居ました。なんだここは、獣道扱い!?


 もしや倍率を変えるとでるとかかと思いマップを見る、倍率変えても何も変わらない、説明は操作説明しかのっていない。今度は【地図】の説明を見ると、うん、【スキル鑑定】取っていなかった。説明はないけれど、チェック項目があったので、『常に上書き』にチェックを入れた。スキル鑑定ないし、と思ってスキルを選んで眺めることがなかった罠よ。

 たぶん貰った地図とかだと、基本的な国や街の整備した道、国に認知された道しかマップに出ないのだろう、普通の地図に隠し通路とか表示されてたら隠し通路ではないものな。


 メールで皆にマップにない道もある旨伝える。いい加減【スキル鑑定】とるべきだろうか? 残り3SPだしなどうしようか~と思いながら歩くと、歩いた分だけ建物表示の真ん中に道ができる。ちょっと面白い。



 路地は行き止まりだった。突き当りには三段の短い階段を上がった上に木造に黒い鉄の鋲を打った小さめの扉があった。扉の左右に三段の階段の幅だけ地面が露出し、右から沙羅の木っぽい細い木がひょろりと古びた扉の上に枝を投げかけ、左からは葡萄の蔦が扉の側面から上に回り込むように壁を覆っていた。


 いい、とてもいい!


 いい雰囲気の風景に、ひとりテンションマックスになっていると扉が開き、出ようとした男とバッチリ目があった。


 恥ずかしい! だがしかし!


「すみません、SS……写真を撮らせてもらっても?」

「撮ってどうするんだ?」

凄んでくる老人。怖いと思う前に露店の老人を思い出した。露店の老人よりわずかばかり年上な気がするが、老いてなお背筋は伸び頑健な体をしている。

「時々眺めてニヤニヤする」

よそ事考えてたせいで正直過ぎる答えを返してしまった。SSスクリーンショットと写真どちらが通じたのか。


「……衆道か、貴様」

ものすごく嫌そうな慄いた顔で言われた。衆道とはまた古風な、じゃなく。

「いや、扉だから。この路地の風景だから。貴方じゃないから!!!!」

あわてて誤解を解いた。

 いや、いい感じのじーさんなので老人SS集めてもいいが。


「客でもないのか、すまん」

「客? 何か取り扱ってるのか?」

「……もう廃業した」

「まだまだ元気そうなのに勿体無い。でも悠々自適でゴロゴロするのもいいな、貴方には似合わないけど」

衆道の古風な言い方のせいで浮かんだのは某時代小説で、その主役は小柄な老人だ。体躯豊かなこの老人ではイメージが違う。

「似合わんか?」

「似合わないな、早朝に剣の素振りでもやってそうなイメージだ」

「わかるか」

吃驚した顔でこちらを見てくる。



やってるのかよ!!!!



□    □    □    □    □

    

・増・

スキル

【料理】【武器防具鑑定】


□    □    □    □    □    


ホムラ Lv.7

Rank E

職業 魔術士 薬士

HP  160

MP  253

 STR 10

 VIT 11

 INT 31

 MID 13

 DEX  9

 AGI 10

 LUK 10


NPCP 【ガラハド】【-】

称号 【交流者】


スキル(3SP)

■魔術・魔法

【火魔術Lv.3】【金魔術Lv.3】【水魔術Lv.2】

■生産

【調合Lv.1】【錬金調合Lv.1】【料理Lv.1】

■収集

【採取】

■鑑定・隠蔽

【道具薬品鑑定Lv.1】【植物食物鑑定Lv.2】

【動物魔物鑑定Lv.3】【武器防具鑑定Lv.1】

【気配察知Lv.1】【気配希釈Lv.1】

■強化

【知力強化Lv.2】

■その他

【MP自然回復】【暗視】【地図】



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― 新着の感想 ―
[良い点] 何回も見返す度に「ここが伏線だったのかぁ...」ってなる場所が多くて何度も読み返してしまう最高の作品だねぇ
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