ボス?【エレファンテレクス】
ユルングを倒してから、46階層の探索を続けた。
最初の一体を倒してからも、何度もユルングは現われた。
それを倒しながら少しずつ46階層を進んだ。
途中、アイテムをいくつか見つけたけど大したものじゃなかった。
回復薬なんかだ。
敵の強さにアイテムが見合ってないけど、役に立たないわけじゃないからありがたく手に入れておいた。
ユルングはかなりの経験値がもらえるらしい。
ようやく、当初の目的だったレベル上げをすることができた。
46階層を探索する間にワビスケたちのレベルはいくつか上がった。
レベルが上がると、ユルングとの戦闘時間も短くなって効率よく進めるようになっていった。
そうして、47階層に到達した。
「うん?
この先にモンスターがいるよ」
「ユルングか?」
「違うみたい。
気配が全く違うよ」
「違う?
強いヤツか?」
「いや全然。
ユルングと比べると随分弱いよ。
あ、ほら来たよ」
「なんだアイツ?
エレファンテ?
見たまんま、象だな。
エイシの言う通り、ユルングと比べるとかなり弱いぜ」
「一つの階層で違う種類のモンスターが出てくるのって久しぶりだね」
「ああ。
最初の5階層まで以来だな」
最初はゴーレムとかトロールとかラプトルとか出てきたんだけど、途中からは一種類しか出てこなくなっていた。
そのせいで余計に手抜きっぽい感じになってたんだけど、この階層は違うらしい。
「とりあえず倒すで」
マイコさんがハンマーを手にエレファンテに突っ込んで行った。
そして、そのままあっさりと倒す。
「なんや、ホンマに弱いな。
ユルングが出てくる前の牛とか豚とかと同じくらいちゃうか」
「だなあ。
まあ、難易度設定がおかしなダンジョンだからな。
そんなこともあるんだろう。
気にせず進もう」
それからはユルングの亜種とエレファンテが半々くらいの割合で出てきた。
明らかに強さに差があって同じ階層のモンスターとは思えなかったけど、別に問題があるわけでもないから、そのまま進んだ。
◇
48階層に到達した。
到達してすぐに気づいた。
激しい戦闘の気配がある。
「奥の方で誰かが戦ってるよ。
かなり強いもの同士が戦ってるみたいだ」
「ん?
戦ってる?
他のプレイヤーか?
俺たち以外に、もうこの階層まで来てるヤツがいるってのか。
そんなはずはないと思うんだけどな。
とにかく、見に行ってみるか。
手を出すかどうかは見てから決めよう」
僕たちは戦闘の気配に近づいた。
近づくにつれて戦いの音が聞こえてくるようになった。
硬いもの同士がぶつかり合っているような音だ。
激しい地響きと獣の雄叫びも聞こえる。
しばらく進むと、戦闘の現場が見えてきた。
そこでは、巨大な象のモンスターとユルングの群れが戦っていた。
他のプレイヤーの姿はない。
モンスター同士が戦っているみたいだ。
「こ、混沌……。
これぞまさしく混沌と呼ぶにふさわしい光景じゃないか。
ふふふ、今こそ僕がこの混沌の戦場を浄化する一筋の光明となって――」
混沌さんがその光景を見てよく分からないことを言いだした。
ここまで順調に進んだせいか、混沌さんがこういうノリになる場面がなかった。
確かに、今目の前に広がっているのは混沌とした戦場だと思う。
「なんやアイツら。
仲間割れか?」
マイコさんも首を傾げている。
「いや、モンスターは種類が違えば仲間じゃないぞ。
珍しくはあるが、別種のモンスターが争ってることはある。
ファフニールと這いずりしものだって戦ってたしな。
えーと、あのデカイ象はエレファンテレクスだ。
うん?
エレファンテレクス?
ってことはアイツはエレファンテ系モンスターの王って扱いなのか?」
「そうなん?
今まではレクスって付くヤツは全部ボスやったやん。
アイツは違うん?」
「どうなんだろう。
普通に考えれば、この階層にいるってことはボスじゃないってことだと思うんだが。
ちょっと待てよ……」
ワビスケはそう言って、エレファンテレクスを注意深く観察し始めた。
スキルを使って色々な情報を確認しているらしい。
便利だな。
僕にもあんなことができればいいのに。
雰囲気でアイツが相当強いことは分かるけど、細かいことは分からない。
「ステータス的には、……かなり強いな。
このダンジョンの中では最強だ。
ユルングよりも強え。
攻撃力と防御力はセグンタと比べても遜色ねえクラスだ。
総合的に見ても、セグンタには及ばないがファフニールとは同レベルなんじゃないか。
物理耐性や魔法耐性なんかも持ってる」
「そらまた、えらい強いな。
普通のエレファンテはあんな弱いのに」
「そうだな。
ていうか、アイツやっぱりボスみたいだぞ。
いや、正確には元、なのか?
このダンジョンのラスボスって設定だったっぽい」
「そうなん?
ほな、この階層が最後なんか?」
「いや、違うと思う……。
『座を奪われしもの』って書いてあるんだ。
多分、座ってのがボスの座って意味だと思うんだが」
「なんやそれ?
意味分からへんねんけど。
ステータスにそんなことが書いてあるん?」
「ステータスってか、称号?
なんかよく分からねえけど、そんな感じのとこに書いてんだよ」
「ふうん。
それもスキルで見えるん?」
「ああ。
レンズではこんなの見えたことなかったから、俺も初めて見るんだけどな。
だけど、書いてあるってことは間違いじゃねえだろ。
なんか、スキルを使えば割と細かい設定まで読み取れるらしいぜ」
「便利、かどうかはよく分からへんけどすごいやん。
そんで、結局ウチらはどうしたらええん?
アイツら全部まとめて倒したらええんか?」
「できたらそうしたいとこなんだが、さすがにあれを一気に相手するのは難しいんじゃないか?」
ワビスケの言葉の通り、巨大な象とかなりの数の大蛇が暴れまわっている様子はちょっと近寄りがたいものがある。
実際、あそこにいるモンスターは全部かなりの強さのヤツばかりだから、下手に介入して僕たちだけに標的を変更されたら勝てるかどうかかなり怪しいと思う。
「だったら、ここから攻撃すればいいんじゃない?
あれだけ大きな相手だったら、ここからでも攻撃を当てられるでしょ。
それにこれだけ距離があれば、もし何かあってもすぐに逃げられるわ」
アリアが言った。
僕もそれがいいと思う。
「そうするか。
アリアの魔法があればそれなりのダメージは与えられるだろうから、数くらいは減らせるかもな。
エレファンテレクスは魔法耐性があるからあんまり効かないかもしれないが、ユルングを倒せるだけでも十分だしな。
熊、みんなに遠距離攻撃の武器を貸してやってくれ。
俺は自分の武器を使う」
「おう。
ちょうどいいタイミングだ。
ちょっと試してもらいたい武器があるんだ」
「試してもらいたい?
使ったことない武器なんてあったか?」
ワビスケが不思議そうに聞いた。
「ああ。
ここに来るまでの間に作ってたんだ。
スキルを使って」
「ここに来るまでって……。
ああ、それでか。
このダンジョンに入ってから全くしゃべらねえし戦闘にも最低限しか参加しねえから寝てんのかと思ってたら、そんなことしてたのかよ」
「そうだ。
ワシがいなくても問題なさそうだったからな。
探索はお前らに任せて、自分のスキルを試すことにしたんだ」
熊はさっきから満面の笑顔だ。
スキルで作ったという武器に満足しているからだと思う。
「まあ、それは実際問題なかったけどな。
で、何を作ったんだ?」
「セグンタから採取した素材を使った武器だな」
「お、できたのか。
また剣とか作ったのか?」
セグンタの素材と聞いて、ワビスケが興味を示した。
確かに、相当強い武器が作れそうだ。
「いや。
それもそのうち作るつもりだが、移動しながら作ってたからな。
まだ小さなものしか作っていない。
今回作ったのはお前のロケットランチャーとワシが持ってる銃なんかの弾だ」
「へえ、弾ね。
いい出来なのか?
スキルを使ったってことは、もちろん普通の弾じゃねえんだろ?」
「出来はまだ分からん。
一応、それなりに使えるものができたと思ってはいるが、使ったことがないからな。
だから、試してもらいたいんだ。
アイツらが強力なら相手に不足はないだろう」
「なるほどな。
ちなみにどんな弾なんだよ?
当たった敵は絶対に倒せるとかか。
熊のスキルって設定を好きに書き換えられるんだろ?」
「ワシもそれを期待していたがな。
さすがにそんなに都合のいいスキルじゃないらしい。
その素材で可能な範囲のことしか設定できんようだ」
「つまり?」
「セグンタの素材ならセグンタクラスができることまでしか設定できんということだ。
相手を問答無用に倒すようなめちゃくちゃな能力は設定できん。
もっと使い慣れれば、もう少しできることは増えるのかもしれんが、現状ワシができるのはそれくらいだ」
「そりゃそうか。
そんなことができたらバランスが壊れるよな。
そんじゃ、どんな設定にしたんだよ?
そうは言ってもセグンタクラスだったら、相当なことまでできるだろ?」
「それは使ってのお楽しみというやつだ」
そう言うと、熊はワビスケにロケットランチャーの弾を渡した。
それから、僕たちにもそれぞれ遠距離攻撃用の武器を貸してくれた。
「そんじゃ、試してみるか」
ワビスケの合図で一斉に攻撃を開始した。
目の前に阿鼻叫喚の地獄が広がった。