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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
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ダンジョン【王が集いし迷宮】

「早速探索を始めるとするか」


 ワビスケが言った。

 僕たちはゴミ屋敷の外れにあるダンジョン【王が集いし迷宮】に来ている。

 5階層ごとに現れる中ボスが、同系統のモンスターの中で王と呼ばれる存在だから、この名前らしい。

 僕たちは以前、イベントの報酬として15階層までの探索は済ませた。

 ただ、その時はあくまでも仮の公開でダンジョンが正式公開されたのは、今日からだ。


 その連絡は一昨日、エスクロさんからダンジョンの公開を聞いた日の深夜に来たらしい。

 それを確認して、昨日一日かけてニグートからゴミ屋敷まで戻ってきた。

 道中は、混沌さんが古代魔法の使い方が分からないとか騒いでいたこと以外は特に問題はなかった。


 そう、混沌さんは古代魔法が使えなかった。

 スキル古代魔法!!とか叫んでいたけど、何も起きなかった。

 さすがにちょっと気の毒だった。

 混沌さんはしばらく一人で試した後、古代魔法が使えるアリアにやり方を聞き始めた。

 自分から人に聞いたりするタイプじゃないと思ってたから、意外だった。

 だけど、結局まだ使えるようにはなっていない。

 アリアは混沌さんに教えるのを面倒くさがっていて、あんまりちゃんと教えていないから、そのせいかもしれない。

 混沌さんはそれでも諦めずに色々やっているみたいだから、そのうち使えるようになると思う。

 本当に、早く使えるようになればいいと思う。

 使えないと分かった時の混沌さんの落ち込みようは目に余るものがあった。

 何か手伝ってあげたいけど、僕にはどうしようもない。


 そういえば、エスクロさんとはニグートで別れた。

 僕たちとは別行動でやらないといけないことがあるそうだ。

 残念だけど、仕方ない。

 多分、そのうちまた会うと思う。


 そんなこんなで、これからダンジョン探索だ。


「今回の目的はレベル上げだ。

 もちろん、メインストーリーを踏まえてってことなんだが、このダンジョンもメインストーリーとは無関係じゃないらしいからな。

 攻略はきっちりやっておこう。

 ちなみに、ゴミ屋敷の掃除屋や他のプレイヤーもここの探索には来るらしいぜ」


「ま、当然やな。

 自分がホームとする街に新しいダンジョンができたんやから。

 来るに決まってるやろ」


「そうだな。

 ただ、俺たちはそういうヤツらと違って、15階層までは飛ばせるからな。

 エスクロが俺たちに向いてるって言ったのも納得だぜ。

 他のヤツラが16階層までたどり着くのには時間がかかるだろ。

 俺たちはしばらく深い階層を独占的に探索できるってわけだ」


 そうことらしい。

 以前の探索の時に、管理者とそういう約束をしたんだとか。


「どうやったら16階層まで行けるの?」


「ああ、入り口で16階層まで飛ぶかどうかの確認メッセージが出るんだよ」


「何それ?

 それって僕やアリアも一緒に行けるの?」


 プレイヤー限定の機能とかだと使えない可能性もある。


「大丈夫だと思うぞ。

 こういうのはパーティー単位での移動のはずだからな。

 とにかく、試してみるか。

 準備はいいな」


 ワビスケはみんなに確認すると、入り口に向かった。

 実は今、けっこう緊張していたりする。

 このダンジョンには色々なトラウマがあるからだ。

 トロールとか……。

 16階層でも怖い思いをした。

 だからと言って入らないってことはないんだけど、やっぱりちょっと気は重い。


「よし、着いたぜ」


 ワビスケのその言葉に我に返った。

 周囲を見渡す。

 そこは、見渡す限りの広い草原だった。


「何ここ?」


「だから、16階層だって。

 前は何も実装されてない空間だったが、ちゃんとできあがってるな。

 あんまりダンジョンって感じじゃないが、まあダンジョンなんて何でもアリだからな」


 ちょっと安心した。

 記憶の場所とはあまりにも雰囲気が変わっているから、前のことを意識せずに済みそうだ。

 それに、僕とアリアもちゃんと一緒に移動できたし。


「ここからはちゃんと警戒して進むぞ。

 俺たちのレベルを考えれば、ボス以外は楽勝だろうが、初めての場所だからな」


 そう言いながら、ワビスケが剣を構えた。

 ファフニールの素材から作った剣だ。

 セグンタの素材もあるけど、時間がなくてまだ加工できていない。

 今の僕たちの手持ちではこれが最高の武器だ。

 僕も一回り小さい剣を構える。

 ポケットにはマナウェポンも入れておいた。

 練習のためにも使いたいとは思っているけど、どんなモンスターが出てくるか分かるまでは確実に強い武器を使うことにする。


「あ、あっちに何かいるよ」


 遠くにモンスターの気配を感じた。

 同時に、草むらの陰から小さな影が飛び出してきた。

 ウサギだ。

 ツノが生えているからモンスターだろうけど、あんまり強そうじゃない。

 と思ったら、すぐ目と鼻の先までそのモンスターが迫っていた。


「え?」


 そのままツノを突き出して突進してきた。


「うわっ」


 咄嗟に避ける。

 ウサギはそのまま僕の後ろまで進んで止まった。

 そして、こちらを振り返る。


「エイシ、油断すんな。

 ソイツ、見た目は弱そうだが、素早さは半端じゃねえ」


 ワビスケが注意してきた。

 いつもと違ってレンズは付けていない。

 スキルでステータスを調べたんだろう。

 それにしても、あっという間に接近されていた。


「うん。

 気を付けるよ」


 僕は集中しなおして剣を握った。


 と、目の前を黒炎が通っていく。

 それは、ウサギのモンスターを飲み込みながら草原に一筋の焼けた道を作った。


「こんな雑魚でモタモタしてらんないわ。

 レベルを上げるのよね?

 だったら、早く進みましょ」


 アリアだ。

 ウサギが何かしてくる前に一気に倒してしまった。

 相変わらず頼りになる。


「そうだな。

 ちなみに、さっきのモンスターはラピッドラビットって名前らしい。

 ステータスは素早さ特化って感じだな。

 特に目立った能力はねえ。

 攻撃を当てることができりゃ倒せる。

 おそらく中々攻撃を当てられないから、この階層クラスの敵ってことなんだろうが――」


「そんなの、周りごと焼き尽くせばいいのよ。

 それなら多少素早くっても関係ないもの」


「だろうな。

 俺たちにはアリアがいるから問題ない。

 確かにレベルを上げるなら、今さらこんなとこで足踏みしてられねえからな。

 さっさと行くか」


 そこから、大量のラピッドラビットに遭遇したけど、アリアの魔法で一蹴した。

 19階層までは、そうして一気に進んだ。

 17階層以降、微妙に種類の違うウサギ系のモンスターが現れたけど、どれも大差はなかった。


「このダンジョンはずっとこんな感じなのかな?」


 こんな感じ、というのは5階層ごとに同じようなモンスターが出てくることだ。


「管理者は、一応俺たちの意見も反映してダンジョンを作るとは言ってたけどな。

 今のところ、そうは思えねえよな」


「もっと奥まで行ったら変わるんちゃう。

 まあ、最悪このまんまやっても、対策立てやすいからレベル上げは捗るやろ」


「確かにな。

 とりあえず、アリアの魔法で倒せるうちはどんどん進むか。

 苦戦するようになったら、そこからレベル上げを始めよう」


 みんなまだまだ余裕だ。

 というか、敵が出てきてもアリアがすぐに倒すから、今のところ僕たちは何もしていない。


「僕の華麗な活躍の場が……。

 真・絶対最凶剣の伝説が……」


 混沌さんは何もできていないことに残念がっている。

 だけど、楽に進めるってことは悪いことじゃない。

 どうせそのうち苦戦するようになるんだろうし。


 そのまま、20階層に到達した。


「ここには中ボスがいるんだよね?」


「おそらくな。

 ラビットレクスとか、そんなんだろ。

 まあ、今の俺たちなら問題ないはずだぜ。

 お、言ってるそばから。

 アイツだ。

 ……やっぱ、ラビットレクスだな」


 ワビスケの視線の先には雑魚よりも二回りくらい大きなウサギがいた。

 ウサギとしてはかなり大きい。

 人間の子供くらいの大きさがありそうだ。


「なんか、ウサギってあれだけ大きいとかわいくないものなんだね」


「そうだな。

 いや、厳密にはアイツはウサギじゃないんだがな。

 まあ、倒すのに躊躇せずに済むから、その方がいいだろ。

 ステータス的には、えーと。

 あんだけ鈍そうな見た目してるくせして、素早さがやべえな。

 今までの雑魚よりも一段とすげえ。

 それ以外の能力は大したことないが、この素早さだとまともに攻撃を当てられないんじゃないか」


「試せば分かるわよ」


 アリアはそう言うと、さっきまでよりも大きな黒炎を放った。

 ラビットレクスのいる一帯ごと焼こうとしたんだろう。


 黒炎がラビットレクスを飲み込もうとしたとき、その姿が消えた。


「消えた?」


 完全に僕の視界からは消えた。


「いや、そっちだ」


 ワビスケが横の方を指さした。

 そこには、さっきまでと全く同じ無傷のラビットレクスの姿があった。

 黒炎を食らった様子はない。

 速すぎて見えなかったけど、高速で避けたみたいだ。

 ワビスケは今の動きを追えたらしい。


「チッ。

 今のを避けるなんて、めんどくさいヤツね」


 アリアはそう言って、再び黒炎を放った。

 さっきよりも大きく、スピードも速い。

 だけど、ラビットレクスは再びそれを避けた。

 今度はギリギリ僕も目で追えたけど、めちゃくちゃな速さだ。

 早く動くって分かっていないと消えたようにしか見えないだろう。


「なんなのよ。

 鬱陶しいわね」


 アリアは三度黒炎を放とうとする。


「ちょっと待ってや。

 コイツはウチにやらせてくれへん?」


 マイコさんがアリアに静止をかける。


「え?

 別に構わないけど、かなり素早いわよ」


「だからこそ、ウチのスキルを試すのにちょうどいいんやって」


 マイコさんはそう言うと、熊特製のハンマーを構えた。


「アクセル」


 マイコさんがそう呟いた次の瞬間、姿が消えた。

 さっきのラビットレクスと同じだ。

 すごい速さで動いたんだ。


 ドゴッ!!


 大きな音が響く。

 音の方を見ると、マイコさんのハンマーがラビットレクスに叩き込まれたところだった。





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