スキル
エスクロさんによると、僕がセグンタを倒した時にやったことはプレイヤーのスキルと同じような力らしい。
「スキル?
あれが?
今までに聞いたのとは全然違ったぜ。
モンスターやアイテムの気配が分かるとか、そんなのがスキルじゃないのか?」
「比較的低レベルで習得できるのがそういうものだね。
もっと高レベルで覚えられるのが、さっきエイシがやったようなことさ。
というか、君たちもそろそろスキルを習得したと思うんだけど。
セグンタを倒してレベルも上がっただろ?」
「何?
…………本当だ。
スキル、覚えてるじゃねえか。
気づかなかったぜ。
マイコ、熊、お前らはどうだ?」
「ウチもや」
「ワシもだ」
どうやら、三人ともスキルを習得していたらしい。
「僕もだ!
僕もスキルを手に入れたぞ!」
ついでに、混沌さんも覚えたらしい。
さっき、エスクロさんが英雄だって話をした時に、
「え、英雄?
そんな、まさか。
混沌を司る僕を差し置いて、この人が英雄だなんて……」
とか何とか言って勝手に凹んでいたけど、スキルの習得に気づいたことで復活したみたいだ。
「やったぞ!
スキルだ。
当然、僕のスキルなんだから僕にふさわしい混沌としたやつだろ。
えーと、なになに……」
混沌さんは大喜びしている。
気持ちは分かる。
スキルって響きがいいよね。
混沌としたスキルの意味は分からないけど。
ワビスケたちもそれぞれ自分のスキルを確認している。
「……古代、魔法?
古代魔法!
よく分からないけど、すごそうだぞ!
僕に相応しいスキルだ!
よし、早速試し――」
「こらこら、場所を考えろ」
スキルを使おうとした混沌さんをワビスケが止めた。
「名前からして、かなり危険な部類のスキルの可能性が高いだろ。
そんなもん、ここで使ったら部屋が吹っ飛ぶかもしれないぞ」
「わ、分かってるよ。
ちょっと冗談で言っただけだろ」
混沌さんはそう言うけど、絶対分かってなかった。
やる気満々の顔をしていた。
「ワビスケたちのスキルはなんだったの?」
混沌さんの古代魔法もすごそうだけど、それより他のみんなのスキルが気になる。
「ウチのはアクセルや」
真っ先にマイコさんが答えてくれた。
「何それ?」
ただ、名前だけではどんなものなのかよく分からない。
「なんか、それを使ったら早く動けるようになるらしいで。
程度はスキルの熟練度によって変わるらしいし、明日にでも試してみるわ」
それって、僕がセグンタを倒した時の動きに似てる?
「ワシはリセットだ。
色々なものの設定を書き換えられるらしい」
設定を書き換える?
「そんなん今までもできたんちゃうの?
そうやってアイテムを作ってたんやろ?」
確かに。
「いや、厳密に言えば少し違う。
ワシが主にやってるのは、ある設定を持ったアイテム同士を組み合わせて複合した設定を持つものを作るってことだ。
特定のものの組み合わせで全く新しい設定を作ることもできるが、一度出来上がった設定を書き換えることなんてできない。
やろうとしてもできなかった。
スキルというだけあって、面白そうな能力だな」
それは僕がやった設定の上書きと似ている。
というか、同じものじゃないだろうか。
「ワビスケのはどんなんやったん?」
「俺か?
俺のは魔眼だ」
「魔眼?」
「ああ。
全てを見通す目だと」
「なにそれ?
全てってなんなん?」
「さあな。
だが、スキルを使えばお前らのステータスはレンズなしでも見えるようになったぜ」
どうやら、ワビスケは既にスキルを試しているらしい。
「それってすごいことなん?」
「多分な。
だけど、俺はレンズを使えば今までも同じことができたからな。
今までにあったアイテムでも代用可能なスキルか。
微妙だな」
ワビスケは言葉通りの微妙な表情だ。
「見えるのはレンズを使ったときと完全に同じ情報なの?」
「マイコと熊を見た感じだと、ほとんど同じだな。
多少の違いはある、が……。
おお?
エイシ?」
ワビスケが僕を見て固まった。
「何?
どうかしたの?」
「お前、市民Aって……」
「うん?
うん。
市民Aが何?
って、あれ?」
ワビスケに市民Aって名乗ったことあったっけ?
「いや、市民Aか。
なるほど。
それより、お前の能力なんだが」
ワビスケは僕の名前については、それ以上聞いてこなかった。
「能力?
分かるの?」
「ああ。
どうやら、俺のスキルだとお前の能力も見ることができるらしい。
レンズでは何も見えなかったんだけどな。
スキルを使ったら色々見えるみたいだぜ。
全てを見通すってのは伊達じゃねえ。
ただ、はっきりとは分からないんだ。
なんかおかしい」
「おかしい?
どんな風に?」
「それがな、ええと名前はちゃんと見えた」
ああ。
それで市民Aって分かったのか。
「だが、ステータスはよく分からねえ」
「よく分からない?
どういうこと?」
「なんか文字化けしてて、読み取れねえ」
「文字化け?」
「ええとな、見えてるデータが意味の分からない文字の羅列になってるんだ。
攻撃力とかは全く分からねえ。
だけど、お前が持ってる能力、プレイヤーでいうスキルに当たるやつだが、それの数がすげえ。
文字化けのせいで中身が分からないから確かなことは言えないが、エスクロが言うとおり、お前がセグンタを倒すときに使ったのはその能力のどれかなんだと思うぜ」
「スキルはプレイヤー一人につき一個ちゃうんか?」
「ああ。
プレイヤーはな。
エイシはプレイヤーじゃないから、そんなの関係ないんだろう。
どうしてこんなに持ってるのかは分からないが、少なくとも10以上はありそうだ」
「さすがエイシね」
「そうだね」
なぜかアリアが誇らしそうに言って、エスクロさんも頷いている。
二人の反応の意味が分からない。
「え?
エイシはプレイヤーじゃないのか?」
混沌さんが不思議そうな顔で聞いてきた。
そういえば、混沌さんには僕とアリアはプレイヤーってことにしてたんだった。
どうしよう。
本当のことを言ってもいいんだろうか。
「ああ、そうだ。
っていうか、本当に気づいてなかったんだな。
だけど、別に問題ないだろ。
今までだって問題なかったんだから」
ワビスケがなんでもないことのように言う。
あ、言っていいんだ。
「まあ、そうだな。
別にエイシが何だって構わないよ。
そんなこと、大して問題じゃない。
だけど、ずるいぞ。
プレイヤーじゃないから、スキルがいっぱいってなんだよ。
それだったら、僕だってもっとたくさんスキルが欲しいのに」
混沌さんは僕がプレイヤーじゃなくても気にしないらしい。
混沌さんのこういうところは気を使わなくてすむからありがたい。
「でも、僕はみんなと違って自分のスキルなんて分からないから、何が使えるのか分からないんだよ。
たまたま、使えるやつだけ使ってる感じだしね。
自分に何ができるのか分からないなんて、持ってないのと変わらないと思うんだけど」
「うーん、それは確かに困るな。
宝の持ち腐れだ。
もったいない」
混沌さんは僕がどんな状況か分かってくれたらしい。
責めてこなくなった。
「俺がお前の能力をちゃんと調べられたらいいんだけどな。
そうしたら、何ができそうなのか教えられると思うんだが。
なんで見えねえんだろ」
「エイシはイレギュラーな存在だから仕方ないさ。
こんなキャラクター、他にはいないだろ?」
エスクロさんが肩をすくめながら言う。
「それは確かにな」
ワビスケも頷いている。
いや、僕は市民Aだから、むしろありふれてると思うんだけどな。
「もしかしたらスキルの熟練度が上がったら見えるようになるかもしれないし、しばらくは様子を見るしかないよ」
「そうだな。
だけど、やっぱお前は面白いぜ。
お前に目を付けた俺は正しかったってことだ」
ワビスケは嬉しそうだ。
僕としては、あんまり実感はないんだけど、ワビスケがそう思うのならそれでいい。
「アリアとエスクロの能力も半分くらいは見えねえ。
っていうか、このスキルってプレイヤー以外の能力はちゃんと見えないんじゃねえのか?」
「そんなことはないと思うよ。
たまたま、ここにいるのが特殊な人間ばかりってだけさ」
「まあ、管理者に協力する元英雄とバグのおかげで存在する森の魔女だもんな。
今さらながら、すごいパーティだぜ。
ちなみに、アリアの能力で見えてるのは古代魔法だ。
アリアが使う魔法は古代魔法ってことなんじゃないか?」
「え?それって――」
「な、なんだって?
じゃあ、僕にもあの黒炎とか使えるのか?」
アリアの言葉を遮って混沌さんが騒ぎ出した。
「分からねえけど、多分そうだろ。
良かったな。
お前のスキル、大当たりなんじゃないか?」
「当然だ。
神に選ばれし僕だからな。
やったぞー。
これで、ますます混沌という名に相応しくなったんだ。
がんばるぞー!」
混沌さんはめちゃくちゃ嬉しそうだけど、後ろでアリアがものすごく嫌そうな顔をしている。
まあ、気持ちは分かる。
混沌さんには悪いけど、あんまり一緒にされたくはない。
「というわけで、スキルは数じゃない。
質だ。
僕は一つしかスキルがないかもしれないけど、質で言えば僕の勝ちだ」
なぜか、混沌さんが僕をビシッと指差して言ってきた。
「え?
うーん。
勝負をした覚えはないんだけど。
まあ、それでいいよ」
めんどくさいから、簡単に負けを認める。
「はっはっはー。
古代魔法。
使うのが楽しみだぞー!」
混沌さんの嬉しそうな声がしばらく部屋に響いていたのだった。




