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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
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撃破

「マイコ、熊、分かってんな?

 このままじゃ、俺たちただの足手まといだぜ!」


「分かってるわ!

 これじゃエイシ君一人で倒したことになるからな」


「ああ。

 いいとこ取りは趣味じゃないが、任された以上、止めはきっちり刺す」


 三人はそれぞれの武器を手に、倒れたセグンタに向かっていった。

 混沌さんも加わっている。

 その姿はとても頼もしく見えた。

 心配する必要はなさそうだ。

 僕はそのまま横になっていることにした。

 ちょっと起き上がるのもつらい。


「エイシ、大丈夫?」


 アリアが傍に来てくれた。

 僕の隣に座る。


「なんとかね。

 見ての通りヘロヘロだけど、怪我はないよ。

 アリアこそ大丈夫?」


 横になったまま答える。


「多少疲れたけれど、あなたほどじゃないわ。

 でも、あんな信じられないような動きをして、よくその程度で済んでるわね。

 というか、あんなことができたのね。

 ホント、あなたってどこまですごいのよ」


 アリアは少し呆れたような口調で言ってくる。


「いや、僕だってあんな風に動けるなんて知らなかったよ。

 ただ、アリアが危ないと思ったから、どうにかして助けなくちゃって、それだけを考えたんだ。

 そうしたら、自然とできたんだよ。

 自分でもどうやったのかよく覚えてないんだけどね。

 もう一度やれって言われてもできないと思う」


 実際、何をどうしたのか全く分からない。

 今までもそうだったけど、切羽詰まった時だけ何かのスイッチが入ったみたいに色んな事ができるようになる。

 ……あれ?

 それって、もしかしてダメ人間ってやつなんじゃ。

 ギリギリの状況まで追い込まれないと何もできない、みたいな。

 うーん。


「……ありがとう」


 一人で悩み始めた僕にアリアが感謝の言葉をかけてきた。


「え?」


「エイシのおかげで助かったわ。

 あなたが来てくれなかったら私は今頃どうなってたのか分からない。

 また助けられちゃったわね」


 アリアは笑顔で話している。


「いやいや、僕の方こそいつも助けられてばっかりだし、ちょっとでもアリアに恩返しできたんだったら良かったよ。

 さっきだって、アリアの援護があったからスムーズにセグンタを追い込めたんだし、僕なんてまだまだだよ」


「ふふふ。

 どれだけすごいことをしても、エイシはエイシね。

 もっと誇ってもいいと思うんだけれど、そういう所もあなたのいい所なのかもね。

 とにかく、助けてくれてありがとう」


「どういたしまして?」


 アリアが真っ直ぐに僕の目を見てお礼を言ってくるもんだから、照れてしまった。


「どうして疑問形なのよ。

 締まらないわね。

 ……まあいいわ。

 あとのことはみんなに任せておけば大丈夫そうだから、あなたはゆっくり休んでなさい」


 アリアはそう言うと、さらに僕に近づいてきた。

 そして、僕の頭をガシッと掴んで、自分の膝の上に乗せた。

 いわゆる膝枕の状態になる。


「アリア?」


「こんなゴツゴツした所で寝転んでるよりはちょっとはマシでしょ?

 いいから、気にしないでゆっくりしてなさい」


 気恥ずかしさはあるけど、確かに床の上に直に寝るよりもずいぶんと楽になった。

 なんだかすごく落ち着く。

 あまりにも心地よくて、戦闘中なのも忘れて気づかない内に眠りに落ちてしまった。





「この姿を見てると、ただのNPCと変わらねえんだけどな」


「ホンマ、場違いなんは置いとくとしても、人目もはばからずにいちゃいちゃしてるだけのバカップルにしか見えへんのにな」


「がっはっは。

 メインストーリーの中核を担うボスの前で堂々と昼寝とはな。

 小僧は大物だ」


 周りの騒がしさに目を覚ます。

 すぐ上に顔を真っ赤にして震えているアリアの顔があった。


「んん。

 あれ?

 僕、寝てた?」


 寝起きで状況が分からなくなっていたから、とりあえず目の前のアリアに聞いた。


「ええ、寝てたわよ!

 そりゃもうぐっすりと。

 気持ちよさそうにバカ面晒してね!

 どうして、この状況でそんなに熟睡できるのよ」


 いきなり罵倒された。

 あれ?

 確かアリアに促されて休んでたと思うんだけど。


「なんや、アリア。

 ずいぶん酷い言い草やな。

 もしかして、バカップルて言われて照れてるんか?

 そんなはずないやんなあ。

 みんなが戦ってるのも気にせんと、膝枕で寝てるエイシ君の顔をずーっとニコニコ眺めてたんやし、今さら照れるなんてことないよなあ」


 いつもながら、マイコさんがうざい。


「うるさいわね。

 ニコニコなんてしてないわ。

 エイシがちゃんと休めてるのか確認してただけよ。

 大体、戦いって言っても楽勝だったじゃない。

 そんなの見るまでもないわ」


「そんなん言うて。

 ウチらがセグンタ倒したん、気づいてなかったんちゃうん?」


「ちゃんと気づいてたわよ。

 気配で分かるわよ」


 あ、セグンタ倒したんだ。

 気配がないからそうだと思ったけど、寝ていて全然気づかなかった。

 ワビスケたちに任せれば大丈夫だとは思ってたけど、ちょっと拍子抜けだ。


「あー、二人とも。

 楽しそうなのは何よりだが、とりあえず今はその辺にしといてくれ」


「楽しくなんてないわ!」


「いや、悪い悪い。

 まあ、とにかくセグンタを倒せたわけだし、今はもっと話さなきゃいけないこともある」


 アリアはまだむくれている。

 僕もそろそろ起き上がった方がいい気がするけど、今動くのはなんだか怖い。

 しばらく、大人しく様子を見ることにしよう。

 触らぬ神に祟りなし。


「で、色々確認したいんだが」


 ワビスケがエスクロさんの方を向いた。


「そうだろうね。

 僕ももう少し話しておかないといけないと思ってるよ。

 だけど、一旦ここからは離れよう。

 ニグートの運営をやってるプレイヤーはセグンタがいなくなったことに気づいているはずだ。

 多分、今ここに向かってるだろうね。

 鉢合わせすると面倒だ」


「そうか。

 そういえば、そんなヤツらもいたな。

 じゃあ、長居は無用か。

 ここは他には何もないのか?」


「イベントに関するものはないよ。

 特にお宝が眠ってるってこともなかったはずだし、素材はもう十分熊が採集しただろうし」


 ああ、熊が満足そうな顔をしているのはそのせいか。

 僕が寝ている間に一通りのことは済ませたらしい。


「あの、一つ気になってることがあるんだけど」


 ワビスケたちに確認したいことがあった。


「なんだ?」


「セグンタを最初に見つけた人はここにはいなかったの?

 セグンタを倒したら解放されたりするのかと思ってたんだけど……」


「いや、いなかったな。

 どうなんだ?」


 ワビスケがエスクロさんに聞く。


「その人に関しては、僕もあんまり詳しくは知らない。

 だけど、多分この要塞のどこかにいると思う。

 ずっと幽閉されてるんじゃないかな。

 セグンタにとって目障りな存在だからね。

 エイシの言う通り、セグンタを倒したことで解放された可能性はあるけど……」


「居場所は分からないんだな?」


「残念ながらね」


「そう、ですか……」


 自分と同じような能力を持っている人って聞いてたから、興味があった。

 できたら、少し話をしてみたかった。


「その人を見つけたいんだったら、僕やワビスケに聞くよりもエイシが自分で探した方が早いと思うよ。

 気配に人一倍敏感なエイシだったら、この要塞にいれば見つけられるかもしれない」


「でも、かなり広い建物だから、人なんてたくさんいますよ」


「そうだけど、彼も少し変わってるからね。

 プレイヤーでもなくて、普通の人でもない、少し変わった雰囲気の人を探せばいいんだよ」


「なるほど」


 僕は黙って気配を探る。

 最近、前にも増して気配には敏感になっている。

 探れる範囲も広くなった。

 要塞を隈なく調べる。

 プレイヤーがたくさんいる。

 その一部が地下に向かおうとしているみたいだ。

 多分、これがエスクロさんが言っていたニグートの運営に関わっているプレイヤーたちだろう。

 ここに来るまでには、まだしばらくかかりそうな位置だ。

 他にも、プレイヤーじゃない普通の人もかなりいる。

 それ以外の人を探る。

 しばらく探していると、思っていたよりずっと近く、この広間の奥に小さな気配を感じた。


「あれ?

 この広間の奥に誰かいるよ」


「奥?

 どこだ?」


「あそこの奥。

 多分、隠し部屋じゃないかな」


 指を差してみんなに教える。


「そんなのがあるのか?」


「いや、僕も知らない。

 もしかしたら、セグンタが作ったのかもしれない。

 調べてみよう」


「案内するよ」


 僕は起き上がった。

 まだちょっと体が痛いけど、普通に動くくらいは問題ない。


 広間の奥へと進む。


「ここだよ」


「よし、任せろ」


 僕が示した場所を熊が殴りつけた。

 すると、簡単に壁が崩れた。

 奥には小さな部屋がある。


「本当に隠し部屋か。

 すごいね。

 さすがエイシだ」


 エスクロさんがしきりに感心している。


「お、エイシの言う通り、誰かいるぜ」


 部屋の奥には鎖に繋がれた人がいた。

 虚ろな目でぼんやりしている。


「大丈夫ですか?

 助けに来ましたよ」


 そう声をかける。

 だけど、その人は答えない。


「この距離でずっとセグンタの気配を感じ続けていたわけだからね。

 正気じゃなくなったんだろう」


 エスクロさんが沈んだ声で言う。

 その言葉に僕は肩を落とした。


「いや、待て。

 なんとかなるかもしれないぜ」


 ワビスケがかばんをごそごそ漁りながら言った。


「どういうこと?」


「ソイツが今どんな状態なのかは分からないが、どんな異常も治す薬ってのがあるんだよ。

 レアな割に使う機会が多くないから、俺も大量に持ってるわけじゃないんだが……あったあった。

 これだ」


 それは、回復薬や毒消しとは色の違う液体だった。

 ワビスケがそれを繋がれている人に飲ませる。



「う、ううん。

 あれ?

 ここは?

 いや、私は確かセグンタに。

 あなたたちは?」


 その人は弱々しく、だけどしっかりと話し始めた。


「大丈夫ですか?

 もうセグンタはいませんよ」


「セグンタが、いない?

 ……本当だ。

 あの嫌な気配がなくなっている」


 その人はやっぱり気配が分かるらしい。

 僕と同じようなことが分かるんだろうか。

 それが気になっていた。


 とりあえず、鎖を破壊して解放する。


「ありがとうございます。

 どうやら、助けて頂いたようですね」


 丁寧に頭を下げられた。


「何があったんですか?」


 そんなにゆっくりしているわけにはいかないんだけど、少し話を聞くことにした。

 ここに向かっているプレイヤーの位置は把握しているから、多少話すくらいなら問題ない。

 その人は簡単に今までの経緯を話してくれた。

 その話はエスクロさんに聞いた話とほぼ同じで、特に新しいことは聞けなかった。


「あの、あなたは気配を探れる以外に他にも何か特別な力を持っていたりしますか?

 例えば、剣から何かを出せたり、危険なことがあると周りの景色が遅く見えたり」


 僕は聞きたかったことを聞く。


「……すみません。

 あなたが言うような力は私にはないと思います。

 私は人より少し気配に敏感なだけです。

 ここを見つけるのにもかなりの時間がかかったくらいだから、それも大した力とは言えないでしょうけど。

 他に何か特別なことができたことはありません」


 申し訳なさそうに言われた。

 そう、なんだ。

 少しがっかりした。

 いや、別にこの人にがっかりしたわけじゃない。

 常々、僕が使える技は他の人にも使えるものなのか疑問に思っていた。

 ワビスケたちの反応から、誰にでも使えるものじゃないことは明らかだけど、この人の話を聞いた時に、もしかしたら僕と同じようなことができる人なのかもしれないと思った。

 ワビスケが知らないだけで、意外とできる人は他にもいるのかもしれないって思ったんだ。

 もしそうなら、もっとちゃんとした力の使い方なんかを聞けるかもしれないなんて、密かに思っていた。

 僕自身、漠然としか分かっていないせいで役に立つ場面がかなり限られている。

 もっと自在に使えれば、楽に行動できるようになると思う。

 エスクロさんは、この人は僕とは違うみたいに言っていたけど、初めて見つけた手掛かりだからずっと気になっていた。

 もちろん、この人自身を心配していた気持ちもあるけど、正直、力のことを聞きたいという気持ちの方が大きかった。

 だから、同じじゃないと分かってがっかりしてしまった。

 でも、そんなことを顔に出すわけにもいかないから、気持ちを切り替える。


「いえ、変なことを聞いてすみませんでした。

 とにかく、無事で良かったですよ。

 セグンタに協力している人たちが来る前にさっさと街へ戻りましょう」


 それから、みんなで来た道を引き返すことにした。






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