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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
7/86

開拓都市クインタ・フロンティエ 【ゴミ屋敷】

 ワビスケによると、進む先に見えてきたのが開拓都市クインタ・フロンティエ、通称ゴミ屋敷らしい。


 近づくにつれてゴミ屋敷と言われる理由が分かってきた。

 なんだか汚い。

 別に臭くはないけれど、変な匂いとかしても不思議じゃない雰囲気がある。

 空や地面の色も淀んでいる気がする。


「じゃあ、街に入るぞ。

 いったん馬を預けるからついて来い」


 僕はワビスケの後を進む。

 街に入ってすぐ、横道に入った。


 街の中はさらに汚かった。

 ワビスケが言った通り、壊れているっぽい機械や布や液体や草や生き物の模型?や本当によく分からないものがたくさん落ちていた。


「ここで馬を預ける」


 それは、そこそこ大きな倉庫のような建物だった。

 きれいではなかったけど、周りに比べると幾分マシに見えた。


「ちょっと待ってろ。

 すぐに預けてくるから」


 ワビスケは馬を二頭連れて中に入って行った。

 僕は街の様子を眺める。

 これはワビスケが言った通り、ニグートの方に行った方が良かったのかな。

 そう思わせるのに十分な光景だと思う。

 だけど、不思議とそれほど嫌悪感は湧いてこないんだよね。

 ゴミと一緒に何か面白そうなものも転がっていそうな、そんな気になってくる。

 始めてファスタル以外の街に来てテンションが上がっているせいかな。

 僕はちょっとワクワクしながら目の前のゴミの山を見つめていた。


「預けてきたぞ。

 とりあえず、いったん休むから、休めるところに行くぞ」


 そう言うワビスケは周りのゴミを気にせずに進む。

 いったん入り口の所に戻ってきた。

 僕は入り口付近に女の子が立っているのを見つけた。


「あの、こんにちは」


 なんとなく、話しかけてみた。


「ようこそ。

 ここは開拓都市、クインタ・フロンティエよ」


 僕は、その反応にドキッとした。

 前の僕と同じセリフだ。

 じゃあ、この子もずっとここで?


 僕はよっぽどおかしな顔をしていたんだと思う。


「あの、どうかしました?」


 その女の子は心配そうな顔で話しかけてきた。

 あれ?

 普通に話せるのか?

 いや、僕がプレイヤーじゃないからか。


「おーい、エイシ?

 どうかしたのか?」


 立ち止まって動かなくなった僕を心配したのかワビスケが戻ってきた。


「ワビスケ、この子って」


「ああ、お前とは違うぞ」


 ワビスケは僕の言いたいことをすぐに理解してくれたらしい。

 僕にそう言われた女の子は不思議そうにしている。


「まあ、歩きながら話すか」


 ワビスケは再び進みだした。

 今度は僕もついていく。


「あの子は確かにこの街の入り口で街の名前を教えてくれる。

 他の街にも大体は同じような人間がいる。

 でもな、いつ行っても同じ人間がいるってことはない。

 大体、何人かで交代してるみたいだ。

 それに、お前みたいにずっと同じところにいたりはしない。

 それなりに動く。

 同じ場所で一人で朝も昼もなく同じことを繰り返していたのはお前だけだ。

 だから、俺はお前には何かあると思ったんだけどな。

 まあ、それはこれから分かることか。

 ああ。

 別に何もないなら何もないでいいからな」


 そうだったんだ。

 僕は自分の役割だから、ずっとファスタルの紹介をしていた。

 でも、他にはそんな人いないのか。

 考えたこともなかったけど、僕がおかしいのかな。

 よく考えたら誰に与えられた役割なのかも分からないし、どうしてあんなにこだわっていたのかも分からないな。

 ちょっとだけ、むなしい気持ちになった。


「あんまり深く考えてもしょうがないと思うぞ。

 今はもうお前も自由に動いているわけだしな。

 これからは好きにしたらいい」


 ワビスケの気安さが心地よかった。

 エスクロさんも好きにすればいいって言ってたし、しばらくはそうしてみよう。


「そうだよね。

 うん、ありがとう」


「おう。

 じゃあ行くぞ」


 そのままワビスケの案内で街を進んだ。

 街の中は道らしい道はなかった。

 その辺に転がっている物をどけて、空いたスペースが道、みたいな感じだった。


 本当に汚い。

 なんでこんなことになってるんだろう。

 開拓都市ってことは、元は街じゃなかった場所を切り開いて街にしたんだろうけど。

 街を作っているときにゴミが集まることってあるのかな。


「ここだ」


 僕がこの街のありかたについて考えている間に目的地についたらしい。

 大きな建物だ。

 きれいではないけど、周りのゴミの量は比較的少ない。

 どうもこの街は使われている建物の周りだけゴミをどかしているみたいだ。


「ここは宿屋さんなの?」


「いや、知り合いのグループの建物だ。

 頼めば寝床くらいは貸してくれる」


 そう言ってワビスケはドアに近づいた。

 ノックをする。


 少し間があった後、中から声が聞こえた。


「何の用だ?」


「情報屋のワビスケだ。

 寝床を使わせてほしい」


「合言葉を言え」


 合言葉?

 そんなのが必要なんだ。

 なんだか秘密基地みたいで面白い。


「トゥ抜きのバックサイド5」


 ワビスケが謎の言葉を言う。

 とぅ?ばっく?ふぁいぶ?


「条件は?」


「フラットバーンで」


 ドアが開いた。


 え?

 え?

 何今の?

 合言葉なんだろうけど、何を言っているのかよく分からなかった。

 もっと普通の言葉じゃないの?


「ワビスケ、何今の?」


「合言葉だよ。

 この建物の責任者の趣味だ。

 意味は聞くな。

 説明するのがめんどくさい。

 別に重要でもなんでもない」


 ワビスケは本当にめんどくさそうだ。

 僕たちは中に入った。


「やあ、ワビスケじゃないか。

 久しぶりだね」


 そう言って迎えてくれたのは、よく日焼けをした若い女の人だった。


「ああ、ご無沙汰だ。

 相変わらずあの合言葉かよ。

 そろそろ変えたらどうだ?」


「え?

 いいじゃないか。

 適当に言われても絶対に出てこない言葉だし」


 まあ、合言葉だったらそれは大切だよね。


「私の得意技だし」


 え?

 さっきのって技の名前なの?

 全然イメージできない。

 どんな技なんだろ。


「エイシ。

 考えるな。

 お前が気にすることじゃないし、お前が思っているような意味の技でもない」


 ワビスケがそう言ってくる。

 隠されると余計に気になるんですけど。

 僕はワビスケに教えて欲しそうな顔をしたけど、無視された。


「エイシ?

 何その子?」


「ああ、紹介する。

 コイツはエイシだ。

 ちょっと迷惑かけたから面倒をみることにした。

 仲間だ」


「へえ、ワビスケが仲間ねえ。

 エイシくんだね。

 私はここを拠点に活動しているグループ【ゴミ屋敷の掃除屋】の代表をしているミナミだ。

 これからよろしくね」


「はい、エイシです。

 ワビスケにここまでつれてきてもらいました。

 お願いします」


「ふむ。

 君はプレイヤーじゃないよね。

 うん?

 どこかで見たことある顔だね」


 僕はドキッとした。

 ファスタルで大勢のプレイヤーに追いかけられたことを思い出したからだ。

 またここでも追いかけられたら嫌だ。


「ああ、そりゃそうだ。

 プレイヤーは誰だって最初にコイツに会って話をしてるだろうからな」


 ちょっと隠したい僕の気持ちを無視してワビスケはすぐに説明しだした。


「え?

 うーん。

 ああ、思い出したよ。

 ファスタルの入り口にいつもいる子か。

 懐かしいなあ。

 私も、というか最初はみんなそうだけど、ファスタルにいたからねえ。

 なんでまたこんな所に?

 私の記憶が正しければ、君はずっとファスタルの入り口にいたはずだけど」


 僕の心配とは裏腹にミナミさんは軽い感じで聞いてきた。


「なんだか動けるようになったので来てみました。

 ファスタルを出たのは仕方なくですけど」


「仕方なく?」


「ああ、まあそれは俺のせいなんだけどな。

 ちょっと俺がエイシが動いてるのを見て興奮しちまって、近くにいた初心者どもがエイシに群がったんだ。

 で、エイシはファスタルにいられなくなったから、ここへつれてきた。

 ここならファスタルの入り口にいたキャラが何してようが気にするやつはいないだろうしな」


「ああ、なるほどね。

 確かにファスタルにいるようなプレイヤーたちなら、珍しいものを見つけたら飛びつくかもね。

 特に、ワビスケみたいなのが反応してたらなおさらだね。

 あんたはもっと考えて動いたほうがいいよ」


「ああ、反省してる。

 けどな、俺が興奮するのも無理はないぜ。

 だって、あのファスタル君が自分で動いて話してるんだからな」


 あのファスタル君っていうのがどういう意味なのか分からないけれど、僕は絶対に動かないと思われていたみたいだ。

 まあ、否定はできないけど。


「で、さっきも言った通り、この街ならそういう心配はないだろう。

 だから、エイシがよければしばらくはこの街に滞在したら良いと思ってる。

 ただ、ここはろくな仕事がないだろう。

 一応、エイシの仕事も探さなきゃならないんだけどな」


「ああ、だったらうちのグループを手伝ってよ。

 ちょっと欠員が出て人手不足なんだよ」


「おお、そりゃちょうど良かった。

 良かったな、エイシ。

 仕事ありそうだぞ。

 どうする?」


「うーん、僕にできることならやってみたいんですけど、どういう仕事があるんですか?」


「うちのグループは名前の通り、このゴミ屋敷の掃除をしている。

 まあ、掃除と言っても、ゴミの中から使えそうなものを見つけてちょっとでも街が綺麗になるようにしているだけなんだけど。

 だから、仕事っていうのはゴミの中から使えるものを発掘すること。

 もしくはゴミの有効な活用法を考えること。

 最初は頼まれたものを探してきてくれたらいいよ。

 どうする?

 やる?」


 それだったら僕にもできそうな気がした。

 さっき街の様子を見て面白そうなものがありそうだと思ったし、それを探すのが仕事になるならちょうどいいよね。


「はい。

 お願いします」


 こうして、僕の仕事が決まった。





合言葉に意味はありません。

作者の趣味です。

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