メインストーリー【世界の覇権を狙うもの】
「世界の覇権?」
それを取り戻すことがドラゴン種の狙いらしい。
どういうことかよく分からない。
『そうだ。
世界創造時、覇権を握っていたのは我ら龍種だった。
当時、最も力のある種族が我らだったからだ。
人も他の動物も龍種の支配下にあった』
ワビスケの方を見る。
何か知っているかもしれないと思ったからだ。
だけど、ワビスケは首を横に振った。
初めて聞く話らしい。
『我らの統治によって、今のように雑多な魔物が蔓延ることなく世界は安定していた。
だが、ある時人の中に特別な存在が生まれ、状況が変わったのだ』
「特別な存在?」
『英雄だ。
ヤツは龍種を凌駕する戦闘能力と人心を掌握するカリスマを持っていた。
そして、我ら龍種が気づかぬ内に、人のみでなく他の種族をもまとめ上げ強大な戦力を築き上げていたのだ。
我らがそれに気づいた時には既に遅かった。
ヤツらの軍勢は各地に散っていた龍種をことごとく打ち倒し始めた。
英雄以外に龍種に比肩する力のある者などいなかったが、数は力だ。
圧倒的な物量を前に龍種と言えど成す術はなかった。
時が経つにつれて我らは数を減らしていったのだ。
そして、その争いの最後に私を含めた龍種の頂点に立つ四龍は封印され、他の龍種も地下に身を隠すこととなった』
「封印?」
『そうだ。
この地も封印され、何人たりとも侵しえぬ領域となったのだ。
だが、先頃その封印が解かれた。
ここだけではない。
おそらく、他の四龍の封印も解かれているのだろう。
世界中の龍種の動きが活発化している。
そして、人を打倒し世界の覇権を取り戻そうと目論んでいるようだ。
ファフニールもそう考えていた』
「え?
でも、ファフニールはそんな風には動いてなかったですけど。
ずっとここにいたみたいだし」
最初は僕らのことも眼中になかったくらいだ。
『あれは、我を狙っていたからだ』
「ファフニールは人を倒したかったんじゃないんですか?」
『最終的にはそうだ。
だが、そのためにファフニールは配下を必要としていたのだ。
過去には物量をもって人に敗れたのだ。
ファフニールとて馬鹿ではない。
それなりの戦力を用意しようとしたのだろう。
この付近にいる下位の龍種の支配権は我が持っている。
ファフニールは我を打倒してそれを奪おうとしていたのだ』
「そんなことしなくても協力したらよかったんじゃ……」
人間的には協力されたらひとたまりもないんだけど、ドラゴン側からすれば争う理由なんてない。
『ファフニールも最初はそう提案してきた。
しかし、我が拒絶したのだ。
我は人と事を構えるつもりはない』
あれ?
話が違う?
いや、このドラゴンはさっきから色々教えてくれるし最初から敵対的ではないんだけど、ドラゴンは人を倒したいって話だったんじゃ……。
『我は封印されてからこれまで、人のことをずっと見てきたのだ。
封印されていても、見ることだけはできたからだ。
そして、人に興味を抱くようになったのだ。
人は面白い生き物だ。
我の想像もしない行動をすることがある。
故に、我を滅ぼそうとしないのならば好きにさせることにした。
ファフニールにそう伝えると、ヤツは我を滅ぼそうとしてきたのだ。
もっとも、その扉を越えることができなかったようだが』
「這いずりしものは?」
『あれは我が守護者として喚んだ古の魔物だ。
ファフニールがあまりにも五月蝿いのでな。
排除しようとしたのだ。
惜しくも返り討ちにあったようだが、結果としてそなたらがファフニールを打ち取ったのだから良かろう』
なるほど。
大体話は分かった。
「じゃあ、あなた以外の龍が人と敵対しているんですね?」
『おそらくそうだが、全ての龍種が敵対の道を選んだわけでもなかろう。
我のようなものが他にもおるやもしれん。
我も他の龍種の動きを全て把握しているわけではないのでな』
「ちなみに他の四龍はどこにいるんですか?」
『それはそなたら自身で調べるがいい。
我は人と敵対するつもりはないが、仲間の龍種を売るつもりもない』
それはそうか。
「じゃあ、英雄っていうのは?
どこに行ったんですか?
ていうか、ワビスケは知ってたりするの?」
「いや、存在自体初耳だよ。
さっき言ってた世界設定も聞いたことねえし。
英雄って言っても人間なんだろ。
もう死んだことになってるんじゃないのか?」
『英雄は滅んではいない。
我ら龍種の封印後、長らく何者かと争っていたようだが今は表舞台から姿を消しているようだ。
少なくとも我の感知する範囲には今はいない』
「その英雄の名前はなんていうんですか?」
『我は知らぬ。
人は皆、英雄と呼んでいただけだ』
「そうですか」
なんだか色んな新しいことが分かったけど、分からないことも増えたような。
「話は分かりました。
色々ありがとうございます。
みんな、一旦出よう。
ある程度の情報は得られたし、これからどうするか相談した方がいい」
ワビスケがうれしそうな顔をして言った。
初めて聞くことがたくさんあったからだと思う。
「あの、また聞きたいことがあったら来てもいいですか?」
僕はオリジンに確認しておく。
もしかしたら何か教えてほしいことが出てくるかもしれない。
『よかろう。
ここに辿り着く力のある者の話ならば、聞く価値はあるだろう』
価値のないようなことは聞くなってことだよね。
何気にハードルを上げられた。
まあ、僕も気軽に何か聞けるような相手じゃないことは分かっている。
僕たちはオリジンがいる部屋を出た。
一息つく。
戦ってもいないのに、すごく緊張した。
「来たで」
「ああ、来たな」
マイコさんとワビスケが頷き合っている。
「何が?」
「メインストーリーの解放通知だよ。
予想通り、ここからメインストーリーが始まったんだ。
【世界の覇権を狙うもの】だとさ。
さっきのオリジンの説明通りだな。
おそらくドラゴンを討伐していったらクリアってことになるんだろう。
オリジンの口ぶりからして、四龍ってヤツがボスだと思うぜ」
「どこにいるんだろうね」
「多分、すぐに何らかの情報が出回り始めるだろう。
メインストーリーともなれば、今までの個別のイベントと違ってほとんどのプレイヤーが参加するだろうからな。
まあ、情報の真偽を確かめるのも骨だから、本当は自分たちで見つけるのが一番なんだが」
「今ウチらは他のプレイヤーより一歩進んでる状態やから、一番に見つけられる可能性も高いんちゃう」
「それは微妙なところだな。
オリジンがファスタルにいるってことは、他のヤツはここ以外の場所にいるんだろう。
ってことは距離的には俺たちはソイツらから離れてる可能性が高いんだ」
「そう言われたらそうやな。
ほな、とりあえずファスタルは出た方がいいってことやんな?」
「ああ。
当初の目的も果たした訳だしな。
ただ、今日は外に出ない方がいいから、この遺跡でレベル上げをしよう。
四龍ってのがオリジンと同じくらい強いんだったら、まだまだ今のレベルでは勝てないからな」
「そんなに強いの?」
「ファフニールをクワドラプトルとしたら、オリジンはヤマタノオロチより強いくらいだ。
ステータスの数値だけでも、それくらい力の差がある」
「え?
それって強すぎない?」
「メインストーリーのボスだからな。
そんなもんだろう。
それに、多分何かの能力も持ってると思っといた方がいいな。
単純にレベルを上げれば勝てるなんてことはないだろう」
「そやな。
オリジンも能力は持ってたん?」
「いや、それは俺のレンズじゃ読み取れなかった。
これもかなりレアなアイテムなんだが、さすがはボスって所だな。
とにかく、できるだけ強くなっといた方がいいのは確かだ。
というわけで、俺たちは今日一日はこの遺跡でモンスターと戦うことにしますけど、統括はどうします?」
「とりあえず街に戻るまでは同行させてもらおう。
後で調査員を派遣するにしても、ある程度下調べしておいた方が都合がいいからな。
それに、帰り道も分からんしな」
「じゃあ、引き続きお願いします。
で、お前はどうする?」
ワビスケが混沌さんに話しかける。
「え?
僕も一緒に行くに決まってる」
「別に構わないが、ファフニール討伐までの協力関係だったからもう帰ってもいいんだぜ。
やられた仲間が街で待ってたりするんじゃないのか?」
「そうはいかない。
僕はその子に助けてもらった恩があるし、剣を作ってもらう約束もある。
それに、仲間なんていない」
その子っていうのはアリアのことだ。
そういえば、ファフニールの攻撃から守られてたっけ。
僕なんかその何十倍も守られてるけど。
混沌さんは意外と律儀だな。
「恩なんてないわよ。
ついでなんだから」
アリアは別になんとも思っていないみたいだ。
「そんなわけにはいかない。
僕は命を救われたんだ。
だから、これからずっと君を守る使命がある!」
混沌さんが熱く語る。
よく分からない論理だ。
ずっとっていつまでなんだろ。
「何それ?
気持ち悪い。
そんな使命ないわよ。
用が済んだんだから、早くどっか行きなさいよ」
アリアがめちゃくちゃ冷たい。
混沌さんが打ちひしがれている。
「いや、アリア。
そこまで言わなくても」
「いいのよ。
この手のタイプにははっきり言わないと分からないんだから。
大森林にいた時だって、何回も何回もちょっかいかけてくる変なヤツがいたもの。
顔も覚えてないけど、いくら追い返してもまたやってきたのよ。
ホント、気持ち悪かったわ。
何を考えてるのか分からなかったけれど、こういう思い込みの強いヤツには最初にちゃんと言わないといけないのよ」
アリアの言葉に、なぜかワビスケがビクッと反応した。
「ワビスケ?
どうしたの?」
「い、いや、なんでもねえ。
βテストの時にしつこく大森林に行って、そのたびにぶっ飛ばされたりしてねえ。
最後の方は意地になって、一日に何回も行ったりしてねえ。
未だになんであんなことしてたのか分からない恥ずかしい過去だなんてことは断じてねえ」
ああ。
なるほど。
そういうこと。
だから、アリアを仲間にするときにあんなに反対したのか。
そういえば、ファスタルでも僕に何回も何回も話しかけてきたもんな。
ワビスケってそういうところあるよね。
「まあ、聞かなかったことにするよ。
でも、混沌さんって元々ワビスケか熊の知り合いなんだよね?
だから連絡して協力してもらったんでしょ?
だったら、あんまり邪険にするのも悪いと思うんだけど」
「いや、俺は知らねえ。
熊の知り合いだろ?」
「ワシも知らんぞ。
ワビスケが呼んだと思ってたが」
「あれ?
じゃあ、誰の知り合いなんだ?
おい、お前、混沌だっけ?
誰から連絡をもらったんだ?」
いや、混沌っていうのは僕が勝手に呼んでるだけなんだけど。
「混沌?
違う。
僕の名前はケイオス・ファウダーだ」
混沌さんの名前はやたらとカッコよかった。
「ケイオス?
ってやっぱ混沌じゃねえか」
「馬鹿にするな。
ケイオスだけじゃない。
ファウダーもどこかの国の言葉で混沌って意味だ」
「……なんじゃそりゃ。
じゃあ、お前の名前は混沌・混沌じゃねえか」
「カッコいいだろ?」
「いや、どんな感性してんだよ。
明らかにおかしいだろ」
あれ?
僕もカッコいいと思っちゃったんだけど。
「別にいいだろ。
混沌って言葉が好きなんだよ」
思った通りだった。
「まあ、お前の好みなんてどうでもいい。
誰からの連絡で今回の探索に参加したんだ?」
「えーと、差出人はワビスケだったと思うけど」
「はあ?
マジかよ。
ちょっと待てよ」
ワビスケが少し黙った。
「…………あ」
ワビスケが変な声を出した。
「どうしたの?」
「いや、今回けっこうな人数に一斉に連絡をしたんだけどさ、一人間違った連絡先に送ってたらしい」
「間違った?
そんなことあるの?」
「俺は情報屋なんて肩書き上、膨大な数のプレイヤーの連絡先を知ってんだよ。
その中から必要な相手だけ選んで協力依頼を送ったんだが、そのピックアップ作業で間違ったみたいだ。
今回はレベル100以上でそれなりに動ける人間だけを選んだつもりだったんだが、一人だけ連絡先のリスト上で一つずれたヤツを選んじまった。
それがコイツだ」
間違えて送ったのが混沌さんなのか。
ていうか、偶然で混沌さんを引き当てるってすごいよね。
中々こんな人いないと思うんだけど。
ある意味奇跡だ。
ワビスケの変な強運が招いた事故だ。
いや、別に混沌さんに不満があるとかじゃないんだけど。
確かに一人だけちょっと浮いてた気はする。
「とにかく、僕は呼ばれて来たんだし、恩もあるし、剣も作ってもらうから、しばらくついて行くからな」
かなりひどいことを言われたはずの混沌さんは、それでもめげていない。
心が強いと思う。
いや、普段からあんなに変な言動を周りに気にせずに言い続ける人なんだから、心が強いのは当たり前か。
そうして、なし崩し的に混沌さんも同行することになった。




