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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
62/86

ファスタル最強の助っ人

「いらっしゃい!

 お、お前か。

 来ると思ってたぜ。

 ちょっと待ってろ。

 なんか食わせてやる」


「え?」


 気がつくと、僕は喧騒に包まれていた。

 周りにはたくさんの人がいて、好き好きに騒いでいる。

 ここは……ファスタルの居酒屋?


 あれ?

 ファフニールは?

 なんだ?

 どうなったんだ?


 僕はファフニールに食べられたはず。

 いや、食べられかけたところで意識が遠のいたから、はっきりとは分からないけど。

 もしかして、消えた仲間たちと同じように僕もやられて街に戻ってきたのか?

 全然そんな感じはしない。

 体に痛みはないし、そもそもプレイヤーじゃない僕がそんなことになるのかも分からない。

 それに、そうだとしたらなんで居酒屋なんだろう。

 もし戻るとしたら入り口のところだと思うんだけど。


「僕はどうしてここに……」


「ああ?

 どうしてってお前、外出禁止の日はいつもここに来るだろう。

 今日も外出禁止日だからな」


 ただの独り言だったんだけど、僕のつぶやきに居酒屋のおじさんが答えてくれた。


「今日は外出禁止の日?」


「ああ。

 ついさっき日が変わって禁止日になったとこだ。

 なんだ?

 気づいてなかったのか?

 相変わらず変わったヤツだなあ」


 そうなのか。

 元々、いつが外出禁止日なのかなんて知らない。

 いつも気づいたらここにいて、それから外出禁止日だって知るんだ。

 ファフニールと戦い始めた時は既に夜だったから、戦っている間に日が変わっていたのか。

 多分、ちょうど僕がファフニールに食べられかけた瞬間に変わったってことなんだろう。

 僕は食べられずにすんだのか。

 助かった。

 運がよかった。

 だけど、僕はここに飛ばされて助かったけど、みんなはどうしてるんだ?

 一緒に飛ばされたりはしていないみたいだ。

 ということは、まだ遺跡で戦っているはずだ。

 意識をなくす前、みんなが尻尾の一撃で吹っ飛ばされるところを見た。

 あれで無傷ということはないだろう。

 今ごろ危ない状況になっているんじゃないだろうか。


「お、ファスタルの入り口にいた坊主か。

 最近見なくなってたから心配してたんだぞ。

 この間の大量発生の時にモンスターに襲われただろ?

 あの時は大丈夫って言ってたが、そのすぐ後にいなくなったからな。

 何かあったのか?」


 調査員の統括だ。

 外出禁止日には統括はよくこの居酒屋にいる。

 話しかけられたのは初めてだけど。


「あ、いえ、大丈夫です」


 上の空で答えた。

 今は遺跡に残された仲間のことが気になる。

 すぐに何とかしないと。

 でも、どうすれば。

 そうだ。

 移動石を使えば……。

 けど、僕が戻ってもあのファフニールに勝てるのか。

 激怒状態になってから明らかに強くなっていた。

 いや、やらないうちに悩んでどうする。

 とにかく早く戻らないと。


「そうか?

 確かに見たところは元気そうだが。

 あの時は悪かったな。

 次からはあんなことがないようにする。

 まあ、お前には迷惑かけちまったからな。

 もし何か困ったことが起きたら何でも言え。

 助けてやる」


 困ったこと?

 助けてやる?

 統括の話はほとんど聞いていなかったんだけど、この二つの言葉は大きく僕の頭に響いた。

 同時に、いつかワビスケが言っていたことを思い出す。


『あの人は化け物みたいなステータスだ』


 ワビスケは確かに統括のことをそう言っていた。

 化け物みたいな、というのがどれくらいなのか分からない。

 だけど、ワビスケがそう言うってことは相当なはずだ。


「あ、あの、いきなりで申し訳ないんですけど、お願いがあるんです」


「おう、なんだ?

 何でも言え」


 統括は朗らかに答えてくれる。


「実は、今仲間が強力なモンスターと戦っていて、このままじゃやられるかもしれないんです。

 いきなりで、しかも危険なことで本当に悪いと思うんですけど、一緒に戦ってもらえませんか?」


 ずいぶん身勝手な頼みだと思う。

 突然危険なことに巻き込もうとするなんて最悪だ。

 僕だったら多分断る。

 でも、仲間を助けられる可能性があるならすがりたいと思った。


 僕の頼みに統括はきょとんとしている。

 当然だ。

 ほとんど見知らぬ相手から、いきなり訳の分からないことを頼まれたんだ。


「わっはっは。

 ファスタルの入り口にいた坊主が何を言い出すかと思えば、強力なモンスターとはな。

 不思議なこともあるもんだ。

 いいぞ。

 任せろ。

 いくらでも一緒に戦ってやる」


 統括は、笑顔で承諾してくれた。


「え?

 だけど、いきなり危険なことを――」

「俺は統括だぞ。

 困ったファスタル市民を助けるのは当然だ。

 だが、今日は外出禁止だからファスタルの街には出られんぞ」


「大丈夫です。

 アイテムで一気にその場所まで行けるんです」


「そうなのか?

 それならそれでいいが。

 急ぐのか?」


「はい。

 今も戦っているはずです。

 できたらすぐに行きたいんですが」


「そうか。

 じゃあいつでもいいぞ」


 とんとん拍子に話が進む。

 僕の説明になっていない話に統括はすぐに応えてくれる。

 とてもありがたいけど、本当にいいんだろうか。


「本当にいいん――」

「仲間がピンチなんだろう?

 だったら俺に対する気遣いなど無用だ。

 すぐに向かうぞ」


 統括はすごい人だ。

 街のみんなが頼りになるって言ってたのも分かる。


「ありがとうございます。

 じゃあ、行きます」


 僕は統括の腕に触れて移動石を使った。





 目の前にはワビスケがいた。

 そして、その後ろからファフニールの太い尻尾が迫ってきていた。

 まさか、攻撃されている最中に戻ってくるとは思ってなかった。

 ワビスケは反応しきれていないみたいだ。

 絶体絶命の状況だ。

 このままじゃ戻ったところなのにすぐにやられてしまう。


「おらああああああああ」


 茫然とする僕を置いて統括が飛び出した。

 そして、迫ってくるファフニールの尻尾を殴り飛ばした。

 一気に尻尾を押し返す。

 というか、その一撃は尻尾だけじゃなくファフニール自体を吹っ飛ばした。

 ファフニールはそのまま壁に激突する。


「は?

 なんだ?

 何が起きた?

 って、エイシ……と、統括?」


 ワビスケが混乱している。


「ごめん、戻ったよ。

 大丈夫だった?」


「え?

 あ、ああ。

 なんとかな。

 いや、お前こそ大丈夫だったのかよ。

 ファフニールに食われたのかと思ったぜ」


「うん。

 僕もそう思ったんだけど、気づいたらファスタルに戻ってた。

 まあ、それは後で話すよ。

 みんなやられてない?」


「大丈夫だ。

 お前がやられてから全然時間も経ってないからな。

 まだ持ちこたえてる。

 で、なんで統括が?」


「助けを頼んだら引き受けてくれたんだ」


「エイシー!」


 アリアが離れた所から大きな声で僕を呼んだ。


「あなた、大丈夫だったの?」


「うん。

 ごめん、心配かけて。

 大丈夫だよ」


「ホントに心配したんだから。

 何があったのよ?」


「後で話すよ。

 今はとにかくアイツを倒そう」


「そうね。

 ちゃんと後で説明してよね」


 僕たちはファフニールに向き直った。

 ファフニールはちょうど立ち上がったところだった。


「あの一撃でも起き上がるか。

 坊主が強力と言うのも頷けるな。

 よし、本気でやってやる」


 統括はそのままファフニールに突っ込んだ。

 ファフニールは爪で統括を切り裂こうとしたけど、簡単にかわされている。

 そして、逆に強烈な拳の一撃を食らってまた吹っ飛んでいった。

 統括はさらに追撃を加えていく。

 強い。

 めちゃくちゃ強い。


「さすが統括だな。

 まさかここまでの強さだったとは。

 よし、俺たちも行くぜ」


「うん」


 統括に続いて僕たちも攻撃を再開した。

 ファフニールは未だに激怒状態みたいだ。

 かなり強引な攻撃をしてくる。

 だけど、正面の攻撃は統括が引き受けてくれているし、黒炎はアリアが弾いてくれた。

 僕たちは攻撃に集中する。

 僕がポテンシャルナイフで細かい攻撃を繰り返して、そこにワビスケとマイコさんが続いている。

 混沌さんも折れた剣で器用に攻撃を続けている。

 たまにファフニールの攻撃でやられそうになるけど、それは熊がうまくフォローしているみたいだ。

 僕たちは手を緩めずに攻撃を続けた。



 そして、ついにその時が来た。

 マイコさんがハンマーで頭に強烈な一撃を見舞った。

 フラついたファフニールに熊の爆発攻撃が続く。

 ファフニールは苦し紛れに黒炎を使おうとしたけど、アリアがそれが吐かれる前に顔面ごと迎撃した。

 魔法耐性があっても流石に顔面を吹き飛ばされてはひとたまりもなかったみたいだ。

 ファフニールが大きくぐらつく。

 下がってきた頭を下から統括が蹴り上げる。

 頭が跳ね上がって、懐が無防備になった。

 僕は首の付け根辺りをポテンシャルナイフで深く切り裂く。


「ワビスケ!」


「任せろ!」


 僕がつけた傷に向けてワビスケがアメノムラクモを突き刺した。

 それは深く深く刺さる。

 ファフニールの動きが止まった。


「どうだ?」


 僕たちはファフニールの様子をうかがう。

 数秒後、ファフニールは音を立ててその場に崩れ落ちた。


「終わった?」


 レンズでファフニールを見ていたワビスケに確認する。


「ああ、終わったぜ」


 ようやく、ファフニールを倒すことができた。





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