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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
6/86

旅立ち

 ワビスケと一緒にファスタルの街の外に出た。


「でだ、今からどこに行くかなんだが」


「うん」


「どこに行きたい?」


「え?

 どこって言われても、僕はファスタルの外のことなんてほとんど知らないって言ったでしょ。

 ワビスケが決めてよ」


 外に行ってみたいと思ってはいたけど、具体的な場所なんてほとんど知らない。


「そうだなあ。

 まあ、ファスタルから出るとして、この街道あるだろ?」


 ワビスケは目の前の大きな道を指さして言う。


「これをこっちにずーっと行くと、混乱の大国ニグートに着く。

 逆にあっちにずーっと行くと、開拓都市クインタ・フロンティエに着く。

 距離はニグートの方がかなり遠いが、街として大きくて綺麗なのはニグートだ。

 歴史もあるし、観光名所なんかもある」


 なんだか、露骨にニグートを勧められている。

 確かに観光に興味はある。

 商人の人がニグートは発展しているって言ってた気がするし、悪い場所じゃないと思う。

 けど、僕にはそんなことよりも気になることがある。


「プレイヤーの人が少ないのはどっち?」


 僕はしばらくプレイヤーとは関わりたくないと思っていた。

 ワビスケもプレイヤーだけど、それはいい。

 不特定多数のプレイヤーというのが怖い。


「ああ、そうか。

 それもそうだな」


 ワビスケはすぐに僕の考えていることが分かったみたいだ。


「プレイヤーは圧倒的にニグートの方が多い。

 イベントも多いし、なかなかいい装備も整うからだ。

 クインタ・フロンティエにもそれなりにプレイヤーはいるが、変わった奴が多い。

 あの街にいる連中はあんまり街の外のことに興味がないから、エイシにとってはそっちの方が都合がいいかもな」


「じゃあ、その開拓都市の方に行こう」


「でも、汚いぞ?」


 ワビスケはちょっと顔をしかめている。


「え?」


「クインタ・フロンティエは別名ゴミ屋敷と呼ばれている。

 いや、別名と言うより、最近はみんなゴミ屋敷としか呼ばなくなっているくらいだ。

 街全体がごっちゃごちゃで何がなんだか分からないような都市だからだ。

 まあ、それが面白いってやつもいて、そのせいでそれなりの数の人間がいるんだが。

 そんな風に集まっているから、変わった奴が多いんだ」


「ファスタルも綺麗とは言えないと思うけど」


 そうだ。

 ファスタルも結構ごちゃごちゃしていると思う。

 他の街を見たことがないから比べようはないけど、お世辞にも綺麗とは言えない。


「いや、ファスタルの汚さとは種類が違う。

 ファスタルのは単に整理ができていない汚さだ。

 どっちかというと街の作り方が雑って感じだな。

 別にそれぞれが汚いわけじゃない。

 ゴミ屋敷の方は本当に汚いんだ。

 古くて壊れた機械が捨てられてたり、道端に謎の液体がこぼれていたり、誰のものか分からない靴が片方だけ転がってたり、本当にゴミ箱をひっくり返したような街なんだ。

 ああ、まあ別に触ると病気になるとかじゃない、と思う。

 ただ、触らない方がいいものもあるかもしれない。

 実際、よく分からないものが多い。

 そういう街だ」


 うーん。

 確かにそんな風に言われて行きたいとは思えない。


「他に行けるところはないの?」


「まあ、ニグートの向こうのトライファークとかもいい国なんだが、遠いからな。

 ファスタルから行くならニグートかゴミ屋敷の二つが妥当だな。

 ゴミ屋敷は素通りしてその先の街を目指してもいいが、一度はそこに向かった方がいい。

 途中ちょっと途切れる所があるが、ゴミ屋敷までなら道がちゃんとしているんだ。

 街道から外れると、途端に強いモンスターと出くわす可能性が高まるからな。

 俺は、戦闘能力は高くないからあんまりモンスターとは会いたくないしな」


 僕もモンスターは避けたい。

 前に狼に襲われかけたことがトラウマになっている。

 まあ、僕が動けるようになったきっかけでもあるんだけど、怖い思い出なのには変わりない。


「じゃあ、とりあえずゴミ屋敷?に行こう」


 なんだか、ゴミ屋敷に行こうって言い方が嫌なんだよね。

 僕の初めての外出なのに、目的地がゴミ屋敷って。

 まあ、本当にゴミ屋敷ってわけじゃないから別にいいんだけど。


「おう、了解だ。

 じゃあ、馬借りてくるからちょっと待ってろ」


「歩いていくんじゃないの?」


「歩いたら何日もかかるからな。

 馬の方が楽だ

 普段なら別にゆっくり歩いていってもいいんだが、今はちょっとな。

 今の所はお前がファスタルを出たのは誰にも気づかれてないが、バレて追いかけてこられたら歩きはまずい。

 すぐに追いつかれるし、逃げようもないしな」


「それはそうかもしれないけど、僕、馬を借りるお金なんて持ってないよ」


「ああ、そんなこと気にすんな。

 仲間には遠慮させないって言っただろ。

 まあ、金がないとこれから困るのは確かだな。

 ゴミ屋敷に着いたら一緒に金を稼ぐ方法を考えてやる」


 ワビスケは意外と優しい。

 最初の印象は良くなかったけど、多分いい人なんだと思う。


「じゃあ、ちょっと待ってろ。

 フード被っとけよ。

 せっかく街を出たのに、いきなり他のやつに見つかったら元も子もないからな」


「うん」


 僕はフードを被って待つことにする。

 ワビスケはすぐに街に戻って行った。


 僕は辺りを見渡す。

 ここは入り口からそんなに離れていない。

 僕が立てた看板も見える。

 うん、ちゃんとしっかり立っている。

 目に見える距離なのに、街の中と外では空気が違う気がするんだよね。

 別に壁があったりするわけじゃないんだけど、なんだかここの方が開放的な空気を感じる。

 自然と頬が緩んだ。

 まだ何もしていないけれど、冒険に飛び出す気分だ。

 そんな風に機嫌よくその辺りを歩き回って待っていた。


 しばらくして、ワビスケが戻ってきた。

 馬を二頭連れている。


「おう、待たせたな。

 行くか」


「うん。

 うん?

 僕、馬に乗ったことなんてないんだけど」


「ああ?

 そりゃそうか。

 まあ、乗ってりゃ慣れる。

 こいつらは馬と言っても、人が乗りやすい様に改良された品種だから、すぐに乗れるようになる」


 そう言って、無理やり乗らされた。


 確かに乗るだけなら思ったよりは難しくなかった。


 そのまま移動を始めた。

 これならワビスケの言う通り、すぐに慣れるかも、そう思った。



 すぐに、最初の考えが甘いことを思い知った。

 確かに乗ること自体は難しくなかったし、曲がるのも馬が勝手に曲がってくれるから、僕は特にすることもなかった。

 でも、思ったよりお尻が痛かった。

 そんなに大きく揺れているわけじゃないと思うんだけど、乗っていたら意外と振動が伝わってくる。

 ワビスケは平気そうにしているから、それこそ慣れの問題なのかな。

 とにかく、今はお尻が痛い。


「エイシ、大丈夫か?」


 ワビスケは心配してくれるしありがたいけど、それで治ったりはしない。


「お尻が痛い」


「ああ、まあ最初はな。

 すぐに慣れるよ」


 やっぱり慣れの問題らしい。


「とりあえず、一回休憩するか」


 小屋のようなものが見えてきたところで休憩することになった。

 休憩所みたいだ。


「このペースで進んだらゴミ屋敷にはすぐ着く。

 とりあえず、まっすぐ向かおう。

 それで、向こうについたら、ちょっと休憩だ。

 昨日からぶっ通しだからな。

 俺もちょっと疲れた」


 そう言えば、昨日はずっと僕を探してくれたんだよね。

 打算もあるって言ってたけど、基本的に面倒見がいいタイプなんだろうな。


 ちょっと休憩してすぐにまた出発した。

 お尻は痛かったけど、僕もだいぶ馬に慣れてきたからスピードを上げて進んだ。

 馬が疲れないか心配だったけど、大丈夫みたいだ。


 途中、街道から逸れた所にモンスターがいるのが見えた。

 けっこうたくさんいた。

 大きめで二足歩行のトカゲって感じのやつだ。

 数がいるとなかなかおっかない。


「あれはラプトルだ。

 頭が一つのやつが普通のラプトルで、先頭に頭が二つあるちょっとでかいやつがいるだろう?

 あれがバイラプトルだ。

 多分、あの群れのボスはあいつだ」


「強いの?」


「いいや。

 雑魚だな。

 あんだけ数がいたらちょっと鬱陶しいが、それでも雑魚は雑魚だ。

 ラプトル種ってのは頭の数がそのまま強さを表しててな。

 バイラプトルの上位種にクワドラプトルってのがいて、そいつは頭が四つになるんだが、かなり強い。

 普通に一対一で戦ったらなかなか勝てない。

 倒すにはコツがある。

 さらに上位種になるとオクトラプトルってのがいる。

 こいつは別名ヤマタノオロチって呼ばれるんだが、伝説のモンスターって扱いだ。

 そうそうお目にかかれるもんじゃない。

 出てくるとしたらなんかのイベントのときだな。

 さらに、神話にはもっと上位の、無数の頭を持つキリアラプトルってのが出てくるが、おそらく実在はしないと言われている」


「へえ、ワビスケって物知りなんだね」


 僕は感心してそう言った。

 ワビスケって頭が良くなさそうに見えるのに、意外と頭がいいっぽいんだよね。

 人は見かけによらないって本当なんだ。


「お前、俺のこと馬鹿だと思ってただろ?」


「う」


 図星をつかれた。


「まあ、いいけどな。

 俺は一応情報屋みたいなこともしてるからな。

 色んなことを知ってて当然だ」


 そんな感じで道中も色々話しながら進んだ。

 ワビスケは本当に色んなことを知っていて、色々教えてくれた。

 話を聞くのは面白かった。


 それからしばらく街道を進み続けて、先の方に街らしきものが見えてきた。

 なんだか、黒い。


「あれがゴミ屋敷、もとい開拓都市クインタ・フロンティエだ」





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