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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
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特訓

 僕はマナウェポンを取り出した。

 アリアが守っていた大森林の秘宝だ。

 使い方も知っているらしい。


「これの使い方を教えてほしいんだよ」


「マナウェポン?

 もちろん私も使えるようになってほしいけれど、今日はあなただって疲れてるでしょうから休んだほうがいいんじゃない?」


「僕は大丈夫だよ。

 それより、これからもあの遺跡を探索するんだったら、僕ももっと強くならないといけないと思うんだ。

 ワビスケたちはどんどんレベルが上がって強くなっていくし、アリアは元からすごく強いし。

 ボヤボヤしていたら、僕だけ置いていかれちゃうからね。

 それに、もし今日これを使うことができていたら、あの大群ともっと楽に戦えてたと思うんだ」


 アリアに見せてもらって、マナウェポンなら遠距離攻撃ができることも分かっている。

 それが使えたら、戦い方の幅が広がることは明らかだ。

 それに、マナウェポンを使うことでウォームレクスを倒したあの技を使えるようになる可能性もあると思っている。

 あの技を自在に使えれば、今日みたいな大群が来てもそれなりの対処ができると思う。

 アリアの負担も減らせるはずだ。

 今日はアリアの魔法に頼ってばかりだったから、アリアがこんなに疲れ切っているんだし。

 僕はもっとがんばらないといけない。


「エイシは今でもかなり強いと思うけれど……。

 そうね。

 あなたがそれを使えるようになるに越したことはないわね。

 私が分かることは教えるわ」


「ありがとう。

 それで早速なんだけど、えーと、マナだっけ?

 それを使って武器を形作るんだよね?」


 自分で言ってて全く意味が分からない。


「そうね。

 エイシは私が使う所を見たから、大体のイメージは掴めていると思うんだけど――」


 そう言ってアリアは僕の顔を見た。

 アリアがマナウェポンを使った時のことを思い出す。

 あれはカッコよかった。


「うん。

 光の剣だよね」


「そう。

 別に剣じゃなくてもいいんだけどね。

 私が作れるのがそれくらいなのよ。

 エイシが使いやすいなら槍でも斧でも、なんでもいいの」


「へえ。

 やっぱり、すごく便利だよね。

 それで、どうやって作ればいいの?」


「それが、ちょっと説明しづらいのよね。

 神殿で儀式を受けたら、使い方が自然に分かるようになるらしいんだけれど。

 エイシはそれを受けていないから、自分で感覚を掴むしかないのよ」


 アリアの表情から簡単ではなさそうなことが分かる。

 まあ、覚悟はしている。

 なんて言っても秘宝だしね。


「そうなんだ。

 それで苦労するって言ってたんだね」


「そう。

 魔法を使う時の感覚に少し似ているから私は使えるんだけど。

 簡単に言うと、あなたのマナで武器のイメージを形作って、それをマナウェポンに伝えるのよ。

 マナって言うのはあなた自身の中にある力で、それを武器のイメージにするの。

 魔力って言ってもいいんだけど、名前なんてどうでもいいわ。

 とにかくしっかりと武器のイメージを作ってあげることが大切よ。

 はっきりしたイメージを作るほど強い武器にすることができるわ」


「イメージ……」


 はっきりとは分からない。


「エイシがダンジョンで使った技あるじゃない?」


「ウォームレクスを倒した時の?」


「そう。

 あれを出すような感じでやればいいと思うんだけど」


「うーん。

 あれはなんだか自然に使えそうな時だけできるんだよね。

 でも、考えてみれば確かにすごく集中した時にだけ使えるから、そのこととしっかりイメージを作るっていうのは関係があるかもしれないね。

 うん。

 まだよく分からないけど、とにかくやってみるよ」


「そうね。

 実践あるのみよ。

 がんばって」


 マナウェポンを握り締める。

 どんな武器がいいかなとか、これが使えたらどんなことをしようかなとか、できなかったら嫌だなとか、いろんな雑念が浮かんでくるけど、意識して考えないようにする。

 そして、ウォームレクスを倒した時のように集中する。

 集中だ。

 ……徐々に、周りの音が聞こえなくなる。

 それから、使いたい武器のイメージを作る。

 最初から夢のような武器を作ろうとしても思い浮かぶはずがない。

 まずは一番使い慣れたポテンシャルナイフをイメージすることにする。

 今まで使い続けたポテンシャルナイフの形、重さ、質感、そういうものを考える。

 そして、その情報を僕自身の中から引き出す。

 それらをまとめて、ナイフという一つのイメージにする。



「武器のイメージが作れたら、今持っているマナウェポンにそれを伝えるの。

 あなたが考えているイメージを細かくマナウェポンの上に書き込む感じよ」


 アリアは僕の集中を妨げないように静かに、落ち着いた調子で説明してくれた。


 今持っているナイフのイメージを手に持っているマナウェポンに上書きする。

 心なしかマナウェポンが少し重くなった気がする。

 同時に、マナウェポンが光り出した。


「あ!

 光った」


 思わず声が出てしまった。

 その瞬間、集中が途切れて光も消え去った。


「ダメだ……」


「でも、すごいじゃない。

 今ので感覚は合ってるわ。

 その要領でイメージを作ればいいのよ」


「うん。

 もう一回やってみるよ」


 落ち着いて集中しなおす。

 成功の兆しが見えたことで興奮しそうになる意識を抑える。

 じっくりと焦らずに自分の中にイメージを作る。

 ある程度しっかりしたイメージを作ることができたところで、もう一度マナウェポンに書き込む。


 また、ぼんやりと光り出した。

 今度は集中を切らさないように注意して、そのまま僕のイメージをマナウェポンに伝える。


 すると、マナウェポンからなんだかぼんやりした光の塊が出た。

 剣の柄の先に光の玉が付いているような形だ。

 決してナイフには見えない。


「何これ?」


 あまりの見た目にまた声を出してしまった。

 でも、今度は光は消えない。


「ここまできたら、マナウェポンにイメージを伝えるのは完了しているわ。

 だから、もう消そうとしない限り消えないのよ」


「でも、何これ?

 一応僕はナイフを作ろうとしたつもりなんだけど」


「多分、エイシの作ったイメージがぼやけていて、こういう形になったのよ。

 もっとしっかりとイメージを作らないとちゃんとした武器にはならないわ」


「そっかあ。

 僕としては、かなりしっかりイメージしたつもりだったんだけどね」


「最初でこれなら上出来よ。

 ちょっとずつできるようになればいいんだから」


「そうだね。

 これから毎日練習することにするよ」


 僕も最初からうまくいくとは思っていない。

 感覚を掴めただけでもよしとしよう。


「これ、どうやって消すの?」


「簡単よ。

 ここには武器なんてないって思えばいいのよ。

 自分が伝えたイメージを消せばいいの」


「えーと、あ、ホントだ。

 消えた」


 消すのは簡単にできた。

 作るのもこれと同じくらい簡単だったらいいのにな。


「ちなみにマナウェポンでエイシと同じような技を使う時は、武器を作った上で飛んでいく斬撃のイメージを上書きすればいいのよ」


「なんだかすごく難しそうだね」


「そうね。

 私は魔法を撃つ時に同じようなことをしているからそれほど難しくはないんだけれど、慣れていなかったら中々できることじゃないかもしれないわね。

 まあ、エイシは元々似たような技を使えるんだから、その感覚でやればいいんじゃないかしら。

 多分、普通の人が同じことをしようとするよりは簡単にできるようになるはずよ」


「そうだといいんだけどね。

 とりあえずは思った通りの武器を作れるように練習するよ」


「ええ。

 がんばってね」


「それにしても、明日にでもマナウェポンのことをみんなに話そうかと思ってたんだけど、やめておこうかな」


「どうして?

 話せばいいじゃない。

 みんなはゴミだと思ってるんでしょ?

 驚くわよ」


「うん。

 でも、きっと話したらすぐに使ってみせろって言われると思うんだよね。

 あんまりさっきの出来損ないを見せたくないな。

 恥ずかしいしね」


「あら、意外とそういうこと気にするのね。

 じゃあ、うまくできるようになってからお披露目したらいいんじゃない?」


「うん。

 そうするよ」


 多分、さっきみたいなのを見せたらワビスケとマイコさんは爆笑すると思う。

 どうやったらこれで戦えるんだよ、とか言いいながら。

 簡単にその光景が想像できる。

 そんな、見えてる地雷を自ら踏みに行くみたいなことは絶対にしたくない。


 よし、練習頑張ろう。


「ありがとう、アリア。

 おかげで何をすればいいのか分かったよ。

 僕はもうちょっと練習するから先に休んでて」


「そう?

 じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうわ。

 本当は練習にも付き合いたいんだけれどね」


「いいよ。

 今日はアリアに頼りっぱなしだったんだから、しっかり休んでてよ」


「分かったわ。

 エイシもほどほどにしてちゃんと休みなさいよ」


「うん。

 分かってる。

 明日もあるからね」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


 アリアは宿に入って行った。

 僕はそれを見届けてから、しばらく一人で練習を続けた。

 早く実戦で使えるものにしたい。









「よし、行こか!」


 朝からマイコさんが元気だ。

 遺跡探索が楽しみなんだろうな。

 昨日は昼からだったから、今日の方がじっくり探索できるしね。


「熊、弾は用意できたのか?」


「ああ、かなり多めに作ったぞ。

 ケルベロスの牙と爪がいい材料になった。

 しばらく弾切れの心配はないと思ってくれていい」


「よし。

 エイシ、昨日は遅くまでなんかやってたみたいだが、上手くいったのか?」


「残念ながら、まだまだだね。

 だから、まだワビスケたちにも教えられないんだ。

 上手くいくようになったら見せるよ」


「お、焦らすじゃねえか。

 待たせた方が俺たちの期待値が上がるぜ。

 今サクッと見せた方が楽になるぞ」


 ワビスケはそれなりに気になっているみたいだ。

 僕に何をしているのか話させようと誘導してくる。


「その手には乗らないよ。

 大丈夫。

 上手くいったらちゃんと話すし、その時には期待にも応えられると思う」


「言うじゃねえか。

 こりゃますます楽しみだな」


「全然上手くいく気配が見えなかったら、その時は話すよ。

 アドバイスしてもらえるかもしれないし。

 だけど、とりあえずしばらくは自分でがんばってみるよ」


「おう、やりたいようにやれ。

 それで困ったら遠慮なく言え」


「ありがとう。

 助かるよ。

 アリアは昨日はしっかり休めた?」


「おかげさまでね。

 今日はすごく調子が良いわ。

 これなら、昨日のモンスターの群れの一つや二つくらい吹き飛ばせそうよ」


 アリアが必要以上に過激だ。

 絶対にできないとは言い切れないのが恐ろしいところなんだよね。

 まあ、体調が良さそうで何よりだと思うことにしよう。


「じゃあ、地下遺跡探索二日目、開始だぜ!」






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