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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
54/86

始まりの都市

 僕たちは地下遺跡を奥へ奥へと進んだ。

 もう急ぐ必要はないんだけど、今日の所は細かい探索はやめて、ただ奥に進むことにした。


 途中、クワドロスに何回か出くわして戦った。

 だけど、まったく苦戦することはなかった。

 ワビスケたちのレベルが上がったおかげもあるけど、それ以上にアリアの魔法が効果的だったからだ。

 アリアはあんまり体調が良くなさそうに見えたから僕は戦ってほしくなかったんだけど、本人がやりたがって断りきれなかった。

 ここまで進んでいるプレイヤーは他にはいないはずだから、アリアが魔法を使うこと自体は問題なかったし、実際戦闘はその方が楽だった。

 

 クワドロスの姿が見える前に僕が気配でその位置を確認して、アリアの魔法で先制してもらった。

 不意打ちでアリアの魔法を食らったクワドロスはたいてい混乱して、そこを僕たちが攻めるとあっさり勝てた。

 そんな感じの戦闘をさっきからずっと繰り返している。


「お、またレベルが上がったぜ」


「ホンマや。

 すごいな」


「どうやら、さっきの二人組が聞いた情報は本当のことらしいな」


「この遺跡はすぐにレベルが上がるってやつ?」


「ああ。

 事実としてこんだけレベルが上がってるからな。

 疑いようがねえ」


「そやな。

 それに、その情報がホンマってことは他の情報も信じられるんかもしれへんな。

 この遺跡には重要な意味があるって言ってたけど、なんか知らんの?」


「残念ながら知らねえ。

 この遺跡の意味なんて情報、聞いたこともないな。

 そもそも、そんなこと今まで誰も深く考えたことないんじゃないか。

 中に入れるかどうかだけが話題になってたしな」


「そやんなあ。

 大体、ファスタルなんて最初に来る街やしそんな大きなイベントがあるとも思えへんねんけどな。

 始まりの都市って言われてるくらいやし」


「まあ、言ってたのは僕だけどね」


 僕としてはずっと自分がいた街に重要な意味があるとしたら、それはうれしいことだ。

 だから、この遺跡に何かあることを密かに期待していたりする。


「始まりの都市、か。

 うん?

 そういえば、かなり今さらな質問なんだが、始まりの都市ってのは正確には何の始まりのことを言ってるんだ?」


 ワビスケが思いついたように聞いてきた。


「え?

 何のって言われても――」


「そんなん、冒険の始まりの都市って意味やろ。

 プレイヤーは絶対ここからスタートするんやから」


「そんなことは俺だって知ってるよ。

 てか、お前には聞いてねえよ。

 エイシ、本当にそうなのか?」


「うん。

 そういう意味もあるよ」


「やっぱそうなのか……」


 ワビスケはちょっとがっかりしたような顔をした。

 何かを期待してたんだろうか。

 本当に今さらだ。

 みんな知ってることだと思うんだけど。


「でも、それだけじゃないよ。

 たくさんあるうちの一つの意味がプレイヤーにとっての始まりってことなんだよ」


「なに?

 本当か?

 じゃあ、他にも意味があるのか?」


 ワビスケは、というかマイコさんと熊もだけど、僕の言葉に驚いているみたいだ。

 何を驚いているんだろう。


「あれ?

 知らなかったの?」


「知らねえよ。

 で、何の始まりの都市なんだ?」


「何の、というか全ての始まりの都市だよ。

 プレイヤーたちにとっての始まりの都市でもあるし、それ以外の人にとっても始まりの都市だし、世界の始まりの都市でもあるし、物語の始まりの都市でもあるし、変化の始まりの都市でもあるんだよ。

 僕も細かいことを知ってるわけじゃないけど、何かが始まる時はいつもファスタルからなんだって。

 それで僕は始まりの都市だって――」

「待て待て。

 ちょっと待ってくれ。

 何の話だよ。

 世界の始まりはまだ分かる。

 ファスタルが一番最初に作られた街って意味だろ?」


「多分そうだと思うよ」


「物語の始まりと変化の始まりってなんだよ?」


「細かいことは知らないってば。

 言い伝えみたいなものだと思うよ。

 僕はそういう意味でずっと始まりの都市、ファスタルだよって言ってたんだけど」


 ワビスケには特に何回も何回も言ったはずだけど。


「いや、そんなもん分かるか!

 はしょり過ぎだろ!」


「伝わってなかった?」


「伝わるわけないだろ!」


 うーん。

 けど、僕が言うセリフは決められていたし、それで中身を伝えたことになってたはずなんだけど。


「まあいい。

 とにかく、そういう設定だったんだな。

 まったく、この世界は随所に不親切設計が隠されてるな。

 だが、そうだとすると色々話が変わってくるな」


「え?

 何か変わる?

 今の話なんてずっと前からのことだよ」


「お前にとってはな。

 もしファスタルが全ての始まりって言うなら、この遺跡の探索に重要な意味があるって話も俄然真実味が増してくるんだよ。

 大規模アップデートの直後に開かれた遺跡。

 管理者に近い人間がプレイヤーをその遺跡に入るように仕向ける状況。

 そして物語の始まりの都市、ファスタル。

 これらから予想できることが一つあるんだ」


「またもったいぶって。

 何が言いたいねん」


「ファスタルから始まるメインストーリーの解放だ」


 マイコさんと熊がハッとした表情になった。


「メインストーリー?」


 僕とアリアはピンとこない。

 初めて聞く言葉だ。

 プレイヤーだけに分かる話だろう。

 よくあるんだけどね。


「ああ。

 メインストーリーってのは、簡単に言うとこの世界全体に関わるような大きな出来事のことだな。

 これまでの大量発生イベントなんかとは違って、もっと大きな規模の事件か何かが起きるはずだ。

 つまり、世界が動き出すってことだ。

 物語がファスタルから始まるってんなら、今回の遺跡を調べることでメインストーリーが始まるって可能性がある」


「特に矛盾してるようには感じひんけど、アンタの勝手な予想やろ?」


「そうなんだが、一応今回のアップデートについてそういう噂は出てたんだ。

 メインストーリーの解放があるんじゃないかってな。

 アップデートの詳細でそのことに全く触れてなかったから、ただの噂だろうとも言われてるけどな。

 ただ、レベル上限の解放やスキルの実装があったのに単発のモンスターやダンジョンが追加されるだけってのはちょっとおかしいんじゃないかって言うヤツも結構いるんだ。

 ソイツらは今回のアップデートはメインストーリーが動く前触れだって考えてるらしい。

 俺もどちらかと言えばその意見に賛成だった」


「けど、今まで全く動かんかったのに、急に始まるもんなん?」


「その辺はいわゆる大人の事情ってやつだろうな。

 最近、ちょっと停滞気味だったから、テコ入れが必要だと判断したんだろう。

 それがアップデートかとも思ったが、それはメインストーリーのための前座に過ぎなかったのかもしれないな」


 僕は話についていけてない。

 多分、アリアもだ。


「よく分からないんだけど、これから大きな何かが起きるってことだよね?」


「そうだ。

 まあ、根拠は俺のカンと一部のプレイヤーの意見だけだが、けっこうそういうのは当たるもんなんだぜ。

 とにかく、ここの探索を進めれば分かる話だな」


「そやな。

 ウチは半信半疑って感じやけど、そんな可能性があるんやったらどんどん行こか」


「ああ。

 まあ、もし本当にそんなデカいイベントが控えてるんだったら俺たちだけで進めるのは無理だからな。

 俺からそれとなくこの遺跡に関する情報を流してもっとプレイヤーをファスタルに集めることにするぜ」


 なんだかワビスケもマイコさんも楽しそうだ。

 メインストーリーっていうのはそれだけ魅力のある話なんだろう。

 そんな二人を見ていると僕も楽しくなってきた。







「行き止まりだね……」


「行き止まりだな……」


 意気揚々と進み始めて10分ほど経ったところで通路を塞ぐ扉にぶつかった。


「なんやねん。

 せっかく盛り上がってきたところやったのに」


「ホント、がっかりね」


「ふむ。

 ちょっと調べるか。

 ワビスケ、協力してくれ」


「おう」


 熊とワビスケが扉を調べ始めた。


「……ふむ」


 二人は頷きあっている。


「開きそう?」


「いや、全然分かんねえ」


「なんやねん!

 思わせぶりな態度して。

 ちょっとどいて!」


 マイコさんがハンマーを手に扉の前に立った。


「おい、下手なことすんなよ!

 無理矢理やって開くはずないだろ。

 攻撃なんかしたら、ペナルティーがあるかもしれないだろうが」


「ぐっ。

 じゃあどうやって開けるつもりなん?

 こんな扉があるってことは絶対この先になんかあるやろ。

 さっきの話からしたら、メインストーリーの鍵があるかもしれへんのやで」


「そうだ。

 だから、絶対にこれは開ける。

 ちゃんとした方法を調べて開けるんだ。

 多分、この遺跡を調べればヒントがあると思う。

 俺たちはここまで全部すっ飛ばしてきたから気づかなかったが、これを開ける仕掛けなんかがあるのかもしれない」


「ほな今から調べよか」


「いや、今日は帰ろう。

 一旦帰って装備を整えて明日改めて挑戦だ。

 これを開けたら、今までより強いモンスターが出てくる可能性があると思う。

 だったら、ちゃんと準備をして出直した方がいい」


「……確かにそやな。

 今日は随分戦闘もこなしたし」


 マイコさんは意外と冷静だった。

 もっと突っ込みたがるかと思ったけど、僕たちの状態が良くないことをちゃんと分かっているみたいだ。

 ワビスケと熊の遠距離攻撃は弾切れだし、アリアはすごく疲れてるっぽいし。

 一度態勢を立て直した方がいいのは明らかだ。


 そうして真っ直ぐ帰った。

 帰り道でもケルベロスやクワドサラマンダーと出くわしたけど、相手にならなかった。

 特に問題なく宿まで戻ってきた。


「じゃあ、俺はさっき言ってた遺跡の情報の拡散と合わせて情報収集もしておくぜ」


「銃の弾なんかはワシに任せろ。

 素材は今日大量に手に入ったからな。

 明日までには、ある程度の量を用意しておこう。

 マイコ、手伝え」


「分かった。

 任せて」


「アリア、疲れてるだろうからゆっくり休んでほしいところなんだけど、お願いがあるんだ。

 ちょっとだけ付き合ってくれない?」


「いいわよ。

 何をするの?」


「あとで説明するよ。

 ちょっとだけ教えてほしいことがあるだけだから」


「分かったわ」


「おい、エイシ。

 何か面白いこと企んでんのか?」


 ワビスケが興味深そうに聞いてきた。

 説明した方がいいんだけど、ワビスケには情報収集とかを優先してもらったほうがいい気がする。

 話すのはいつでもいい。


「そうだね。

 上手くいったら明日にでも説明するよ」


「お、面白いってのは否定しないのか。

 楽しみにしてるぜ」



 僕はアリアと一緒に外へ出た。

 外はもう暗くなっている。


「で、何を教えてほしいの?」


「これだよ」


 僕はマナウェポンを取り出した。




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