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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
53/86

スキル

「助けてください!」


 僕たちにモンスターを押し付けてきたプレイヤーが叫んでいる。


「何言うてんねん。

 頭おかしいんちゃう」


「ったく、情けねえ。

 ちょっと危ない状況になったら助けを求めるってか」


 ワビスケたちは全く助ける素振りを見せない。


「いいの?

 あんなに必死に頼んでるのに」


「どこがだよ?

 全然必死じゃねえ。

 大体、本当に助けが必要なくらいの戦闘だったらよそ見してる暇なんてねえよ。

 ただちょっとキツイ状況ってだけだ。

 もしかしたら、キツイふりしてまた俺たちにモンスターを押し付けようとしてる可能性だってある」


 めちゃくちゃ言ってる気もするけど、確かにそうだよね。


「どうせ、頼んだら助けてもらえると思ってんだろ。

 あんなことしたくせにな。

 考えが甘すぎて怒りを通り越して呆れてくるぜ」


「ホンマ、あんだけ怒ってた自分があほらしいわ。

 こんなしょうもないヤツらに怒ってたんか」


「おい、お前ら!

 俺たちにやった仕打ちは忘れてねえよな。

 あの大群に比べたら、そんなヤツただの雑魚だろう。

 自力で倒せばいいだろうが」


 ワビスケが突き放した。


「く、くそっ。

 他人事だと思って」


「おい、あんなヤツらに頼るな。

 俺たちだけで倒すぞ」


 二人組はかなり劣勢ながらも、なんとか戦い続けている。


「実際、どう思う?

 勝てはせえへんやろうけど、そんなに圧倒的にやられるほど弱くもないんちゃう」


「確かにな。

 すぐにでもやられそうに見えるのに意外と持ちこたえてるからな。

 レベルは高いんじゃないか。

 ただギリギリの戦闘をした経験があまりないんだろう。

 ちょっと調べてみるか」


 ワビスケがかばんから何かを取り出した。


「ワビスケ、それは?」


「ああ、これはプレイヤーのステータスを一部見ることができるアイテムだ。

 アイツらのステータスを見てみよう」


 いつもモンスターの情報を調べているのとよく似たレンズだった。

 そういえば、ずっと前にプレイヤーのステータスを調べる方法があるとか言っていたっけ。


「お、おお。

 本当に強いじゃないか。

 レベルも110だし、ステータスも全体的に戦闘向きだ。

 なるほどな。

 これならサッサと奥に進みたがるのも分からんでもないな。

 現時点では、ステータスだけならプレイヤーの中では最強に近いだろうからな」


「そうなの?

 とてもそうは見えないんだけど。

 ワビスケたちの方がずっと強そうだよ」


 目の前で戦っているプレイヤーたちがワビスケたちと同じくらい強いとは思えない。

 弱くはなさそうだし動きも速いんだけど、なんだかぎこちない。


「そりゃそうだ。

 強いって言ってもステータス上の数値の話だからな。

 俺たちとは経験が違うんだよ。

 強さってのは数字だけで語れるもんじゃねえ。

 設定が全てじゃないってこった」


「そうなんだ。

 そりゃそうだよね」


 すごく納得できる話だった。

 それに、設定だけで全てが決まるわけじゃないっていうのは、すごくいい話に聞こえた。

 僕はなんでも設定って言われるのが嫌いだからだ。


「ん?

 なんだこりゃ?

 ……スキル、だと?」


 ワビスケの表情が変わった。


「どうしたん?

 なんか変わったことでもあった?」


「熊、マイコ。

 お前らレベルが上がってからスキルとか習得したか?」


「スキル?

 そんなんないで」


「ワシもないぞ。

 アップデートの時に新しく実装されたって言ってたやつだろう?」


「そうだ。

 それだ。

 どうやらアイツら、既にスキルを手に入れてるみたいなんだ。

 どうやったんだ?

 何か特別な操作でもしたのか?」


「目の前におるんやから、聞いてみたらええやん。

 アンタら!

 どうやってスキル手に入れたん?」


 マイコさんは戦っている二人組に大声で聞いている。

 いや、今は答えられないでしょ。


「はあ?

 スキル?

 そんなもん教えるかよ」


 プレイヤーの片割れが無愛想に答えた。

 ていうか、答えるんだ。 

 意外と律儀だな。

 余裕がなさそうに見えて、実はそうでもないんだろうか。


「チッ。

 そりゃタダでは教えないよな。

 俺でもそうするぜ。

 ……お前ら、そのモンスター倒してやる!

 代わりにスキルの習得条件を教えろ!」


「な、なんだって?

 本当ですか?」


 さっきとは別の方だ。

 こっちのプレイヤーは相当参っているみたいだ。

 最初に助けを求めてきたのもこっちだった。


「ああ、嘘はつかねえよ。

 お前たちもこんなとこでやられたくはないだろう。

 悪くない条件のはずだ」


「じゃあ、お願いしま――」

「お、おい。

 勝手に決めるな」

「仕方ないだろ。

 ここでやられたら苦労が水の泡だ。

 せっかくここまでレベルを上げたのに」

「くそっ。

 ……しょうがない。

 ……頼むよ」


 もう一人の方も納得したらしい。


「というわけだ。

 いくぜ!

 情報のために!」


「任せときっ!

 スキルやスキル。

 楽しみや」


 ワビスケは知らない情報が手に入るから生き生きしている。

 マイコさんもスキルに興味があるらしくて楽しそうだ。

 二人は意気揚々と突っ込んで行った。

 熊も少し遅れてそれに続く。


「アリアはちょっと休んでて。

 多分僕たちだけで大丈夫だから」


 他のプレイヤーがいるからアリアが魔法を使うわけにはいかない。


「ええ。

 がんばってね」


 僕も戦闘に加わった。



 クワドロスは強かった。

 だけど、ケルベロスをそのまま強くしたような感じで、特に何か注意が必要なわけではなかった。


「俺たちにはもう遠距離攻撃の手段はねえ。

 とにかく近づいて攻めろ!」


 ワビスケはそう言いながらクワドロスにかなり近づいてアメノムラクモを振っている。

 僕もそれに倣ってかなり近くで攻撃した。

 確かにヤマタノオロチやゴリラより強い。

 戦っていて、それは分かる。

 でも、不思議と負ける気はしなかった。

 ワビスケたちはさっきまでより明らかに強くなっているから、そのおかげかもしれない。

 ただ、僕自身も昨日までより動けている気がする。

 すごく調子がいい。

 もしかしたら僕も強くなってるのかも。

 そう思うとうれしくなった。


「やっぱレベルがこんだけ上がると違うな」


「そやな、随分楽やわ。

 これなら普通に倒せそうや」


 ワビスケたちは戦いながら話ができるくらいに余裕があった。


 そのまま攻撃を続けていると、突然、クワドロスの頭の一つが僕に向かって炎の塊を吐いてきた。

 いきなりの攻撃だったけど、落ち着いて避ける。


「エイシ、良い反応じゃないか」


 ワビスケに褒められた。


「うん、なんだか普通に避けられたよ。

 まあ、そんなに速い攻撃でもなかったしね」


 アリアの黒炎を何度も見た後だから、普通の炎がやたらと弱そうに見えた。

 あれくらいなら慌てるほどじゃない。


「けど、ケルベロスと違ってこんな攻撃もしてくるんだね。

 一応気をつけないと」


「ああ、その通りだ。

 このまま気を抜かずに倒すぜ」



「とどめや!」


 マイコさんのハンマーがクワドロスにとどめをさした。

 多少時間はかかったけど、苦戦することはなかった。


「ま、こんなとこだろ」


 ワビスケが事もなげにそう言った。


「さて、じゃあ色々聞かせてもらおうか」

「そや、スキルやスキル」


 ワビスケとマイコさんが助けたプレイヤーに近づいた。


「おい、スキルについて知っていることを洗いざらい全部吐け」


 顔が悪人みたいになってるよ、ワビスケ。


「へっ、誰が素直に教える――分かったよ。

 話すよ」


 拒否しようとしたプレイヤーの首元にワビスケのアメノムラクモが突きつけられている。


「勘違いするなよ。

 助けたからといって、俺たちはお前らがやったことを許した訳じゃないんだぜ。

 本当なら今すぐにぶっ潰したいんだ」


 普段からは考えられないような冷たい声だ。

 まだ怒っているんだろう。


「すいません、でした。

 はあ。

 ちゃんと話すよ。

 俺たちがスキルを習得したのは今日の朝、レベル110になった時だ。

 ケルベロスを倒してレベルが上がった時に自動的に覚えたんだ」


「自動的に?

 何かやったんじゃないのか?」


「ああ。

 特に何もしてない。

 レベルアップと同時にスキルを習得した」


「お前のスキル、気配探索だな。

 それはどういう能力なんだ?」


「なんで俺のスキルを?」


「アイテムだよ。

 俺はプレイヤーの能力が分かるアイテムを持ってる」


「そんなアイテムが……。

 俺のスキルは多少離れた位置にいてもプレイヤーやモンスターの気配が分かるってものだ。

 大体どこにプレイヤーがいて、どこにモンスターがいるのか分かる」


「え、それって僕――」


 僕も分かると言おうとして、熊に口を塞がれた。

 目で何も話すなと伝えられる。

 迂闊だった。

 仲間でもない、むしろ敵に近い相手にこちらの情報を話す必要はない。

 反射的に言いそうになったけど、気をつけないと。

 僕たちのやり取りに二人組は不思議そうな顔をしている。


「ああ、とにかくお前はアイテムもなしに他のプレイヤーやモンスターの位置を把握できるんだな?」


 ワビスケが無理やり話を戻した。


「まあ正確な位置ってわけじゃないけどな」


「お前、それを使って俺たちにモンスターを押し付けたな」


「うっ。

 その通りだ。

 この遺跡ではモンスターの数が多すぎて先へ進めなくなってたんだ。

 だから、このスキルを習得した時に人にモンスターを押し付けることを思いついた」


「思いついた?

 その割には、かなり手慣れてたじゃないか。

 スキル習得前からのMPK常習者じゃないのか?」


「そんなことは――」


 またワビスケが鋭い目つきで睨んだ。


「その、これとは別のゲームでよくMPKをしてたことがあるんだ。

 これのシステムでは今までできなかったから、やらなかった。

 俺のスキルとコイツが手に入れたアイテムを組み合わせたら簡単にできる条件が揃っちまったから、ついやっちまったんだ。

 ずっと探索してたのに中々先へ進めなくてイライラしてたのもあってな。

 本当だ。

 ここでは今までそんなことはやってない」


「アイテムってのはそのマントのことか?」


「それと、さっき使った壁を作れるアイテムだ」


「両方この遺跡で手に入れたのか?」


「そうだ。

 コイツのスキルで見つけた」


「アイテム探知か?」


「……そうだ。

 なんでも、アイテムの気配を感じ取れるらしい。

 俺のスキルのアイテム版だろう」


 それも僕ができることだ。

 僕のこれはスキルなのか?

 役割に必要な能力だと思って深く考えたことはなかったけど、プレイヤー用の力だったのか。


「なるほどな。

 それにしても、今日の朝にレベル110ってのはかなり早いペースだと思うんだが。

 どうやって上げたんだ?」


「それは、ひたすらこの遺跡でケルベロスとクワドサラマンダーを倒しただけだよ。

 俺たちはアップデートの時たまたまファスタルにいたんだが、ある人間からこの遺跡を探索すればすぐにレベルが上がるって情報をもらったんだ。

 最初は、ここの封鎖が解けているってことも半信半疑だったが、実際来てみるとちゃんと中に入れた。

 俺たちは元々レベル100だったから、なんとかここのモンスターとも戦えたんだ。

 それで、ずっとここに篭って戦ってるうちにどんどんレベルが上がったんだよ」


「ある人ってのは?」


「細かいことは知らない。

 名前も聞いてない。

 やたらと飄々とした感じの男だ」


「プレイヤーか?」


「それも分からない。

 ただ、この遺跡の探索には重要な意味があるとか言ってたな。

 ここを真っ先に調べられるなんて運がいい、とか言われたよ」


「意味、ね。

 じゃあ、最後の質問だ。

 お前らはこれからもMPKを続けるのか?」


 ワビスケの声が一層冷たくなった。


「やらないし、多分やろうとしてもできない。

 今回、せっかく手に入れたアイテムがダメになったからな。

 もう一度同じアイテムを手に入れるってことはできないだろうし、痛い目にもあったから、もうやらない。

 地道にやってればレベルはどんどん上がったから、それで攻略することにするよ」


「本当だろうな?」


「本当だ」


「じゃあ、もしお前らがまたMPKをやってるって話を聞いたら、次は管理者に報告するからな」


「分かった」


「じゃあ、いいぞ。

 今回は見逃してやる。

 行け」


 ワビスケの言葉を聞いて、二人組は帰る方向へ走って行った。




「で、どう思う?

 嘘ついてる感じじゃなかったやろ」


「そうだな。

 多分事実だ。

 俺たちがスキルを覚えられなかったのは、何か理由があるんだろう。

 もしかしたら、人によってスキルを覚える条件が違うのかもしれない。

 アイツらはたまたまレベル110が条件だっただけで、俺たちはもっと違うイベントをこなす必要があるのかもしれない。

 単にレベルが足りてないって可能性もあるしな」


「確か、各プレイヤーのステータスに合わせて固有スキルを覚えられる、やったな」


「ああ。

 そうか。

 プレイヤーによって覚えるスキルが違うから、習得条件も違うのが当然ってことか。

 いずれにしても、もう少し調べておく必要があるな。

 あと、アイツらのスキル自体についてなんだが――」


「僕にもできることばっかりだったね」


「そうだ。

 エイシには何かあると思ってたが、もしかしたらお前はプレイヤーのスキルを使えるのかもしれないな」


「でも、僕はスキルを使ってるって自覚はないよ」


「それはさっきのヤツらも同じだと思うぞ。

 スキルによるとは思うが、習得したら使おうとしなくても勝手に働くようになるんじゃないか。

 エイシはその力をずっと使ってるんだから、それが自然な状態になってるわけで、自覚なんてなくて当然だろう」


「もし僕の力がスキルだとしたら、どうして僕に使えるのかな?」


「分からねえ。

 エイシの能力はスキルなんてシステムが実装される前からのことだからな。

 もしかしたら、プレイヤー以外のキャラが持ってた能力を参考にしてプレイヤースキルが作られたとか……。

 いや、情報がなさすぎて判断のしようがないな。

 とりあえず、その辺りも含めて俺がもう少し調べとこう」


「あとは、さっきの二人組にこの遺跡のことを教えた人間やな」


「ああ、ソイツは色々知ってそうなんだよな。

 まあ、俺の予想では管理者かエスクロだと思うが」


「そうなの?」


「アップデート直後なのに色んな情報を知ってそうなヤツってのが他に思い浮かばないんだ。

 ゴミ屋敷のダンジョンでエイシが出くわしたヤツのこともあるし、できたらエスクロを問い詰めたいところだが。

 居場所が分からないからどうしようもないな」


「そうだね。

 なんか分からないことだらけになっちゃったね」


「それを一つ一つ解明してくのがおもしれえんだよ。

 まあ、情報収集は俺に任せろ。

 今日はもう少し進むか。

 とりあえずはクワドロスだって問題なく倒せるしな」


「そやな。

 行けるとこまで行ってから帰ろか」


 僕たちはさらに奥に進むことにした。





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