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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
45/86

大森林の秘宝

 立ち入り禁止の幕を通り抜けてダンジョンに入る。

 最初は下方向へ伸びる洞窟だ。


「へえ。

 なんか雰囲気あるわね。

 いかにもダンジョンって感じ」


 僕も初めて入った時は全く同じ感想だった。

 やっぱりダンジョンはダンジョンらしい方が気分が盛り上がっていいと思う。


「そういえば、アリアは魔法使いなんだよね?」


「そうよ」


「武器って持ってるの?」


「そんなの持ってないわよ。

 魔法が武器なんだから」


 そういうものなんだろうか。


「でも、モンスターが出てきたら武器を持ってた方が安全だと思うんだけど」


「大丈夫だと思うわ。

 今まで武器を使ったことなんてないけど、困ったことはないもの」


 そう言うなら大丈夫なのかもしれないけど、初めてダンジョンに入るのに丸腰っていうのはどうかと思う。

 本当は、何かあったとしても僕が守ってあげられればいいんだけど、僕だって初心者だしあんまり自信はない。

 まあ、ワビスケによるとアリアはめちゃくちゃ強いらしいから、余計な心配なんだろうな。

 多分、僕よりも強いんだろう。

 というか、そんな危険があったらすぐに帰るけどね。

 今ここで無茶をする意味なんて全くないわけだし。


 とはいえ、一応何か渡せるような武器がないか確認する。

 必要ないとしても、やっぱり何か持っておいてもらった方が僕自身が安心して探索に集中できる。


「どうしたの?」


 立ち止まってかばんを漁りだした僕にアリアが尋ねてきた。


「アリアに使ってもらえるような武器がないかと思って。

 余計なお世話かもしれないんだけど、もしかしたら役に立つこともあるかもしれないし――」



「……ありがと」


 ちょっとした沈黙の後、アリアは感謝の言葉を言ってくれた。

 迷惑がられてないみたいで良かった。


 僕のかばんはワビスケや熊が持っているようなのと違って、見た目以上に物が入ったりはしない。

 まあ、お店にあった中で一番安かったものだしね。

 そんなわけで、当然、それほどたくさんの物を持ち歩いてはいない。


 ポテンシャルナイフ、いくつかの回復薬、柄だけの剣、熊からもらった爆弾、それなりに強いらしい杖、移動石、その他アイテムって感じだ。

 今はアメノムラクモも持っていない。

 戦闘をするつもりなんてなかったから、熊に返しておいたからだ。

 と、かばんの底に光る球体があるのを見つけた。

 そういえば、イベント前にホームの裏で拾ったんだけど、すっかり忘れてた。

 結局、これが何なのかは分かっていない。

 ていうか、調べてもいない。

 存在自体忘れていたし。

 なんかちょっと大きくなってる気がするけど、どう見ても武器じゃないから今は必要ない。

 

 この中でアリアに渡せそうなのって、杖くらいだよね。

 魔法使いっぽい武器だし。

 魔法を使う時には杖があった方がいいとか、ありそうだ。

 キリアラプトルと戦っていた管理者も杖を使って魔法を放っていたし。

 でも、今まで使ったことがないって言ってるから、アリアには必要ないのかもしれないな。

 一番使いやすいのはポテンシャルナイフだと思うけど、これは僕が使うつもりだし。

 うーん。

 やっぱり、ロクな武器がない。


「エ、エイシ!

 それ、どこで見つけたのよ?」


 突然、アリアが僕の広げているアイテムを指さして大きな声で聞いてきた。

 明らかに様子がおかしい。

 すごく驚いているみたいだ。


「え?

 爆弾以外はゴミ屋敷で拾ったんだけど、どうかしたの?」


「拾った?

 それを?

 嘘でしょ?」


「アリア、説明してくれないと分からないよ。

 どれのことを言ってるのさ?」


「だから、それよ!」


 アリアが示したのは、……柄だけの剣だった。


「……これ?」


「そう、それよ。

 それをどこで手に入れたのよ?」


「だから、ゴミ屋敷で拾ったんだってば。

 ワビスケたちには柄だけじゃ使い道なんてないから捨てろって言われたけど、カッコいいから拾ったんだよ」


 一瞬、バカにされたのかとも思ったけど、そうじゃないことはすぐに分かった。

 そんな空気じゃない。


「す、捨てろ?

 それを捨てろなんて、馬鹿じゃないの?」


「いや、だって、これ、柄だけだよ」


 拾った僕が言うのもなんだけど、ゴミ扱いされても仕方ない。


「それはそういうものなのよ」


「というか、アリアはこれを知ってるの?

 これは何なの?」


「それは、大森林の神殿の秘宝よ!」


「え?

 秘宝?

 それってアリアが守ってたっていう?

 これが?」


「そうよ。

 大森林の奥にあった神殿に納められていたものよ。

 どうしてこんなところに落ちてるのよ」


「嘘でしょ?

 偽物じゃないの?」


「違うわよ。

 私が秘宝を間違えるわけないじゃない。

 間違いなく、本物の大森林の秘宝【マナウェポン】よ」


「マナウェポン?」


「そう、それは人のマナを使って思い通りの武器を形作ることができる兵器なのよ。

 使いこなすことができたら、どんな武器よりも強力で使い勝手がいいと言われていたわ。

 みだりに使ったら大変なことになりかねないから、大森林の神殿に安置されて、私が守っていたのよ」


 どうしてそんなものがゴミ屋敷に、と思ったけど、気づいた。

 エスクロさんが言うには、ゴミ屋敷は元々製作者がこの世界を作るときに思いついたすごい装備やアイテムを置いておいた場所だ。

 そして、ワビスケの話では、大森林の神殿は世界が作られた初期の方にだけ存在していた施設で、すぐに消されたらしい。

 世界の製作者は何かの事情があって神殿だけは消したけど、せっかく作った秘宝はもったいなくて消さなかったんだ。

 そして、いつか別のことに使うためにゴミ屋敷に置いておくことにしたんじゃないだろうか。

 それが忘れられて放置されていたものを、たまたま僕が見つけたんだ。

 今思いついた勝手な推測だけど、今までに聞いた話を繋ぐと矛盾はない気がする。

 だとすれば、これは本当に本物の大森林の秘宝なんだろう。

 別にアリアを疑っていたわけじゃないけど、僕の中で話の辻褄が合ったから、これが秘宝だということを素直に受け入れることができた。

 というか、この柄だけの剣もアイテムらしき雰囲気は感じていたから、秘宝だと聞いて納得できる部分はある。


「そうなんだね」


 ただの偶然とはいえ、すごいものを手に入れていたみたいだ。

 エスクロさんもとてもいいものが見つかるかもしれないって言っていたけど、既に見つけていたらしい。

 ポテンシャルナイフもすごくいいものだと思っていたけど、それは僕が使ったらたまたますごい威力になるってことらしいし。

 でも、この秘宝は違う。

 正真正銘のすごくいいものだろう。

 ただ、これはアリアが守っていたもので、彼女の役割に深く関わるものだ。

 役割に縛られ過ぎるのは良くないと思うけど、それは役割を蔑ろにしていいという意味じゃない。


「じゃあ、はい」


 アリアに秘宝を渡した。


「え?

 どうして?」


「どうしてもなにも、それはアリアにとって大切なものでしょ?

 僕たちはガラクタだと思ってたんだから、アリアが持っていた方がいいと思うんだ」


「……ありがとう。

 見つけてくれたのがエイシで本当に良かったわ」


「どういたしまして。

 で、それってどうやって使うの?」


「それが、すぐには使えないのよ。

 本来、これは大森林の神殿の最深部に安置されているものよ。

 手に入れるためには、まずは私を倒すか認めさせるかして、神殿まで辿り着かないといけないわ。

 神殿に辿り着いても、内部にはたくさんの罠があるの。

 その罠も全て潜り抜けて最深部に到達した人だけが、これを手に入れられるのよ。

 数々の困難を乗り越えた者がこれを手に入れた時、神殿に祭られた神が祝福の儀式をしてくれるわ。

 その儀式を受けた者だけがこれの所有者として認められて、ようやく使えるようになるのよ」


「……へえ。

 大変なんだね」


 なんだか僕が手に入れた経緯を考えると、別次元の話過ぎて完全に他人事って感じだ。

 今の話はきっとワビスケも知らないと思う。

 後で教えてあげよう。

 そういうの好きそうだし。


「そうね。

 でも、もう神殿はないわ。

 だから、その儀式を受けることはできないのよ。

 儀式を受けられない以上、これは誰のものにもならないってことになってしまうわ」


「え?

 そうなの?」


「残念だけどね……。

 そうなったら本当に、これはただのガラクタ……ってことになっちゃうわね……」


 アリアはすごく寂しそうな顔をしている。

 今にも泣き出しそうだ。

 自分の全てと言っても過言ではなかったものが、知らないうちにガラクタ同然に成り下がっていたのを知ってしまったんだ。

 仕方ないだろう。

 これはとても残酷なことだ。

 神殿がなくなったことを知ってショックを受けて、それでも秘宝だけは見つけることができて、でもその秘宝はもうガラクタになっていて。

 一度ならず二度までも自分の存在を否定されるような状況に出くわしたんだ。

 アリアの気持ちを考えると、僕も胸が張り裂けそうになる。

 自分とアリアの姿を重ね合わせていただけに、他人事とは思えない。

 意図していたわけではないけど、二回とも僕がその状況を引き起こしている。

 だから、なおさらどうにかしてあげたいと思うし、どうにかしないといけない。

 必死に考える。

 神殿のことも秘宝のこともよく知らない。

 儀式のことなんて想像もつかない。

 でも、今起きている問題は分かる。

 神様が決めるはずの、秘宝の所有者が決められないことだ。

 つまり、所有者を決められたらいいはずなんだ。


 ――所有者?

 その言葉に引っかかる。

 最近、どこかで所有者がどうとかって話をしていた気がする。

 どこでだっけ?

 

 ……ああ、そうだ。

 僕のかばんだ。

 僕のかばんは、中に入れたものがかばんの所有者である僕のものになる、っていう能力があったんだ。

 当たり前のことだと思って意識していなかったけど、今回のことについてはどうだろう。

 この秘宝もずっとかばんに入れていた。

 つまり、今これは僕のものってことになってるんじゃないだろうか。


「ねえ、アリア」


「……なに?」


 アリアは本当に今にも崩れ落ちそうだ。


「この秘宝の所有者を調べる方法はあるの?」


「それは、私が調べる魔法を使えるわ。

 守護を任されていたんだから、これに関する魔法は一通り使えるもの。

 でも、今となってはそれも無駄ね……」


「アリア、辛いのは分かるんだけど、お願いがあるんだ。

 一度、その魔法を使ってくれないかな。

 ちょっと確かめたいことがあるんだよ」


 まだ、秘宝の所有者が僕かもしれないとは言えない。

 だって本来は神様が決めるようなことなんだ。

 僕のかばんの能力で、そんな大それたことができるのかどうか確信がない。

 確信がない以上、期待を持たせるよなことは言えない。


「……分かった。

 じゃあ、いくわ」


 アリアは相当辛いはずだけど、魔法を使ってくれた。

 僕が真剣だから、ふざけているわけじゃないのを察してくれたんだと思う。


 アリアの手が光る。

 それと同時に秘宝も輝き出した。

 その輝きは秘宝だけに収まりきらずに光の束となって、外に伸び始めた。


 そして、その光は僕に届いて、体中を輝きで包み込んだ。


「え?

 どういうこと?

 エイシが、所有者?」


 アリアは驚きとともに僕の体の輝きを見つめている。


「うん。

 良かった。

 どうやら大丈夫みたいだね。

 アリア、安心して。

 この秘宝はガラクタなんかじゃないよ」


 僕に秘宝の所有者になる資格があるのかどうかなんて分からないけど、とにかくアリアを元気づけたくて、そう言った。






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