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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
44/86

二人行動

「えぇぇ。

 これが街?」


 アリアは明らかに失望した顔でそう言った。

 まあ、ゴミ屋敷だし仕方のない反応だと思う。


「いや、ここはちょっと特殊なんだよ。

 他の街もこんな風なわけじゃないよ」


 僕も実際に知っているのはファスタルとゴミ屋敷だけなんだけど、ゴミ屋敷以外はこうじゃないっていうのは知っている。

 そもそも、これだけ汚いからゴミ屋敷なんて名前が定着しているわけだし。


「でも、ここが今エイシたちが拠点にしてる街なのよね?」


「そうだよ。

 ここにもいい所はあるからね。

 案外楽しいことも多いんだよ」


 まあ、元々プレイヤーが多いところが嫌っていう理由で、大きな街を避けてここに来たんだけど。

 来てみたら楽しかったのは事実だから、嘘は言っていない。


「うーん。

 街でこの調子だったらダンジョンなんて想像もつかないわね。

 もしかして、とんでもないところに連れて行かれるんじゃ……」


 なんだかアリアが思い悩んでいる。


「いや、大丈夫だって。

 本当にここが特別なだけだよ。

 だよね、ワビスケ」


 ワビスケに助けを求めた。


「ああ。

 この街基準で考えちまうとおかしなことになるぞ。

 いい意味でも悪い意味でもこの街は特別だからな」


「ふうん。

 でも、しばらくはこの街にいるんでしょ?」


「それなんだがな、ゴミ屋敷の近くにはもうあんまり面白い場所ってないんだよ。

 だから、これからどうするか相談しないといけないんだ」


 ワビスケは僕に対して言ってきた。


「そうなの?」 


「ああ。

 例のダンジョンはまだ公開されてないし、大森林は行ったし。

 もちろん、他にもダンジョンや遺跡なんかはいくつかあるんだが、今の俺たちにはどこも余裕なんだよ。

 それに、俺は全部行ったことがあるから、道やボスの弱点なんかも知ってるんだ。

 ダンジョンに入るだけなら、そういうとこに行ってもいいんだが面白くはないと思うんだよな。

 もう少し足を延ばすんなら、いくつか気になる場所もあるんだが、そういう所に行くならここよりも近い街があるんだ」


「へえ。

 じゃあ、ゴミ屋敷を出た方がいいのかな?」


「そうだな。

 ただ、例のダンジョンの公開まではここで待っててもいいけどな。

 一応、俺たちの意見も反映されるって言ってたからな。

 公開されたら入っておきたいだろ。

 いつ公開なのか分からないのがネックだが」


「うーん。

 他に面白いところがあるんなら、すぐにそこへ行ってみてもいいと思う。

 ダンジョンは入れるようになってから戻ってきたらいいし」


「だなあ。

 よし、その方向で考えることにするか。

 もし俺たちがゴミ屋敷を出るとしたら、マイコと熊はどうする?

 工房のこともあるから移動は俺たちほど気軽にできないだろう」


 熊の工房には物がいっぱいある。

 それを全部持って移動するのはさすがに無理だろう。

 まあ、僕にはほとんどゴミにしか見えないんだけど。


「お前らがゴミ屋敷を出るなら、ワシらもついて行くぞ。

 その方が面白そうだからな。

 工房にある物も、必要な分はかばんに入るから大丈夫だ」


「そや、こんな所であんたらを放すわけがないやん。

 絶対もっと面白いことになるやろうからな」


 二人の面白いの判断基準は分からないけど、一緒に行動してくれるのはとても嬉しい。


「じゃあ、もう少し調べてみて面白いところが見つかったら移動するか」


「うん。

 せっかくだから、アリアにちゃんとした街を見せてあげたいしね」


 僕もファスタル以外の街を見たいし。


「そうだな。

 とりあえずいくつか気になってる場所はあるが、あんまり詳しくは知らないからちょっとこれから調べてみるよ。

 明日の朝までには行き先の候補を考えとくぜ」


「分かった。

 ありがとう。

 手伝えることってある?」


「いや、大丈夫だ。

 エイシはもう休んでくれていいぞ。

 今日はお前が一番動いてたしな」


 そうしてもいいんだけど、まだ寝るような時間でもないんだよね。


「うーん。

 そんなに疲れてないし、久しぶりにビンでも拾いに行ってくるよ」


「そうか。

 分かった。

 気をつけてな。」


「ウチらは工房に戻るわ。

 なんか調べた方がいいこととかあったら協力するから連絡してや」


「おう。

 アリアはどうする?

 疲れてんだったら、俺とエイシが拠点にしてるとこで休めるが」


「私はエイシについて行くわ。

 エイシが何をするのか興味があるもの」


「別に大したことはしないよ」


「いいの。

 ついて行くって決めたんだから」


「まあ、好きにすればいいよ」


「うん、好きにするわ」





「やった!」


 回復薬を見つけた。

 久しぶりのアイテムだ。

 ビン拾いを始めて30分くらいだから、悪くないペースだ。


「ねえ、エイシ。

 なんでゴミ拾いなんてしてるのよ?」


 アリアが不思議そうに聞いてくる。


「なんでって言われても。

 仕事だよ。

 報酬は多くないけど街の掃除にもなるから、やる意味はあるよ。

 それに、今みたいにアイテムが見つかることもあるし、宝探しをしているみたいで楽しいよ」


「アイテムって言っても回復薬なんでしょ?」


「今回はね。

 他のものが見つかることもあるよ」


「そうなんだ。

 例えば何が見つかるの?」


 アリアは何でも聞いてくる。

 多分、色んなことに興味があるんだと思う。

 僕もその気持ちは分かるから、答えられることには答えるつもりだ。


「えーと、今まで見つけたのは、回復薬とレベルアップと筋力アップと武器が色々だね」


「武器ってどんなの?」


 僕はかばんからポテンシャルナイフを取り出してアリアに見せた。


「これとかだよ。

 他にも剣とか杖とかも見つけたよ。

 僕のかばんには入らないから、ワビスケに持ってもらってるけど」


「へえ。

 街ってそんなに色々見つかるものなのね」


「いや、見つからないよ。

 ゴミ屋敷だけだよ。

 そもそも、普通はこんなに物が落ちてたりしないよ」


「そうよね。

 初めて来た街がこれだから、なんだか何が普通なのか分からなくなってきたわ」


「そういう意味では、ここは街って思わない方がいいかもね。

 僕もこことファスタルしか知らないんだけど、全然違うしね」


「ファスタル?」


「ああ。

 僕がずっといた街だよ。

 ゴミ屋敷とは違って普通の街だと思う」


「エイシがずっといた街……。

 ちょっと行ってみたいかも」


「うーん。

 僕はあんまり行きたくないかな」


「そうなの?

 ずっといたのに?」


「色々あったんだよ。

 まあ、もう大丈夫かもしれないんだけど、やっぱり自分から進んで行きたいとは思わないかな」


「……エイシも苦労したのね」


 アリアは僕の気持ちを察してくれたみたいだ。

 あんまり聞かれたくないから助かる。

 プレイヤーに追いかけられて逃げ出した、なんてちょっと言いたくない。


「まあ、次に行くのがどこかはまだ分からないけど、もうこんな場所じゃないと思うよ。

 だから、ここも今のうちに色々見ておくといいよ。

 ある意味貴重な場所なんだし」


「そうね。

 見渡す限りゴミの山だから、何を見ればいいのか分からないけれどね」


 その通りなんだよな。

 お店の方に行けばここよりは面白いんだろうけど、僕自身どこに何があるのかほとんど知らないし、下手をすればはぐれてしまいそうだし。

 他にゴミ屋敷の中にあるものといったら――。


「もう少し奥の方に、昨日まで僕たちが探索していたダンジョンの入り口があるよ。

 今は入れないんだけど、そのうちまた入れるようになるらしいから、そこに行けるようになったらもっと楽しくなると思うよ」


 一応、ゴミ屋敷にも楽しみがあるってことを言っておきたかった。


「そこに行ってみたい」


「え?

 いいけど、入れないよ」


「いいの。

 どんなのか見てみたいの。

 色々見た方がいいって言ったのはエイシでしょ。

 それに、行きたい所に連れてってくれるって言ったじゃない」


 それを言われると断れないんだよね。

 まあ、別にダンジョンの入り口なんていくらでも連れて行くけど。


「じゃあ、こっちだよ」





「ここだよ」


 ダンジョンの入り口に着いた。

 見た目は昨日と何も変わらない。

 まあ、一日で何か変わるわけもないか。


「何この幕?」


 アリアが入り口にかかる幕に近づきながら言う。


「立ち入り禁止を示してるんだよ。

 それがあるから中に入れないんだ」


「え?

 でも、通り抜けられるわよ」


 アリアは幕に手を出し入れしながら言ってきた。

 言葉の通り、大した抵抗もなくすり抜けている。


「あ、そうか。

 その幕はプレイヤーの立ち入りを禁止するものだから、僕とアリアは関係ないのかも」


「ねえ、ちょっと入ってみない?」


 アリアが笑顔で言ってきた。 


「ダメだよ。

 だって、今は立ち入り禁止なんだから」


「それはプレイヤーが立ち入り禁止ってことでしょ?

 私たちには関係ないじゃない」


「それはそうだけど。

 モンスターもいるし、二人じゃ危険だよ」


「大丈夫よ。

 ちょっとだけだし、危なかったらすぐに出てくるから」


 正直、僕もちょっと入りたい。

 だって、ただビンを拾っているより楽しそうだから。

 深い階層まで行かなかったらそんなに危険じゃないと思うし。


「じゃあ、ちょっとだけね」


 結局、誘惑に負けた。


「うん」


 アリアはすごく嬉しそうな顔をしていた。





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