二人行動
「えぇぇ。
これが街?」
アリアは明らかに失望した顔でそう言った。
まあ、ゴミ屋敷だし仕方のない反応だと思う。
「いや、ここはちょっと特殊なんだよ。
他の街もこんな風なわけじゃないよ」
僕も実際に知っているのはファスタルとゴミ屋敷だけなんだけど、ゴミ屋敷以外はこうじゃないっていうのは知っている。
そもそも、これだけ汚いからゴミ屋敷なんて名前が定着しているわけだし。
「でも、ここが今エイシたちが拠点にしてる街なのよね?」
「そうだよ。
ここにもいい所はあるからね。
案外楽しいことも多いんだよ」
まあ、元々プレイヤーが多いところが嫌っていう理由で、大きな街を避けてここに来たんだけど。
来てみたら楽しかったのは事実だから、嘘は言っていない。
「うーん。
街でこの調子だったらダンジョンなんて想像もつかないわね。
もしかして、とんでもないところに連れて行かれるんじゃ……」
なんだかアリアが思い悩んでいる。
「いや、大丈夫だって。
本当にここが特別なだけだよ。
だよね、ワビスケ」
ワビスケに助けを求めた。
「ああ。
この街基準で考えちまうとおかしなことになるぞ。
いい意味でも悪い意味でもこの街は特別だからな」
「ふうん。
でも、しばらくはこの街にいるんでしょ?」
「それなんだがな、ゴミ屋敷の近くにはもうあんまり面白い場所ってないんだよ。
だから、これからどうするか相談しないといけないんだ」
ワビスケは僕に対して言ってきた。
「そうなの?」
「ああ。
例のダンジョンはまだ公開されてないし、大森林は行ったし。
もちろん、他にもダンジョンや遺跡なんかはいくつかあるんだが、今の俺たちにはどこも余裕なんだよ。
それに、俺は全部行ったことがあるから、道やボスの弱点なんかも知ってるんだ。
ダンジョンに入るだけなら、そういうとこに行ってもいいんだが面白くはないと思うんだよな。
もう少し足を延ばすんなら、いくつか気になる場所もあるんだが、そういう所に行くならここよりも近い街があるんだ」
「へえ。
じゃあ、ゴミ屋敷を出た方がいいのかな?」
「そうだな。
ただ、例のダンジョンの公開まではここで待っててもいいけどな。
一応、俺たちの意見も反映されるって言ってたからな。
公開されたら入っておきたいだろ。
いつ公開なのか分からないのがネックだが」
「うーん。
他に面白いところがあるんなら、すぐにそこへ行ってみてもいいと思う。
ダンジョンは入れるようになってから戻ってきたらいいし」
「だなあ。
よし、その方向で考えることにするか。
もし俺たちがゴミ屋敷を出るとしたら、マイコと熊はどうする?
工房のこともあるから移動は俺たちほど気軽にできないだろう」
熊の工房には物がいっぱいある。
それを全部持って移動するのはさすがに無理だろう。
まあ、僕にはほとんどゴミにしか見えないんだけど。
「お前らがゴミ屋敷を出るなら、ワシらもついて行くぞ。
その方が面白そうだからな。
工房にある物も、必要な分はかばんに入るから大丈夫だ」
「そや、こんな所であんたらを放すわけがないやん。
絶対もっと面白いことになるやろうからな」
二人の面白いの判断基準は分からないけど、一緒に行動してくれるのはとても嬉しい。
「じゃあ、もう少し調べてみて面白いところが見つかったら移動するか」
「うん。
せっかくだから、アリアにちゃんとした街を見せてあげたいしね」
僕もファスタル以外の街を見たいし。
「そうだな。
とりあえずいくつか気になってる場所はあるが、あんまり詳しくは知らないからちょっとこれから調べてみるよ。
明日の朝までには行き先の候補を考えとくぜ」
「分かった。
ありがとう。
手伝えることってある?」
「いや、大丈夫だ。
エイシはもう休んでくれていいぞ。
今日はお前が一番動いてたしな」
そうしてもいいんだけど、まだ寝るような時間でもないんだよね。
「うーん。
そんなに疲れてないし、久しぶりにビンでも拾いに行ってくるよ」
「そうか。
分かった。
気をつけてな。」
「ウチらは工房に戻るわ。
なんか調べた方がいいこととかあったら協力するから連絡してや」
「おう。
アリアはどうする?
疲れてんだったら、俺とエイシが拠点にしてるとこで休めるが」
「私はエイシについて行くわ。
エイシが何をするのか興味があるもの」
「別に大したことはしないよ」
「いいの。
ついて行くって決めたんだから」
「まあ、好きにすればいいよ」
「うん、好きにするわ」
◇
「やった!」
回復薬を見つけた。
久しぶりのアイテムだ。
ビン拾いを始めて30分くらいだから、悪くないペースだ。
「ねえ、エイシ。
なんでゴミ拾いなんてしてるのよ?」
アリアが不思議そうに聞いてくる。
「なんでって言われても。
仕事だよ。
報酬は多くないけど街の掃除にもなるから、やる意味はあるよ。
それに、今みたいにアイテムが見つかることもあるし、宝探しをしているみたいで楽しいよ」
「アイテムって言っても回復薬なんでしょ?」
「今回はね。
他のものが見つかることもあるよ」
「そうなんだ。
例えば何が見つかるの?」
アリアは何でも聞いてくる。
多分、色んなことに興味があるんだと思う。
僕もその気持ちは分かるから、答えられることには答えるつもりだ。
「えーと、今まで見つけたのは、回復薬とレベルアップと筋力アップと武器が色々だね」
「武器ってどんなの?」
僕はかばんからポテンシャルナイフを取り出してアリアに見せた。
「これとかだよ。
他にも剣とか杖とかも見つけたよ。
僕のかばんには入らないから、ワビスケに持ってもらってるけど」
「へえ。
街ってそんなに色々見つかるものなのね」
「いや、見つからないよ。
ゴミ屋敷だけだよ。
そもそも、普通はこんなに物が落ちてたりしないよ」
「そうよね。
初めて来た街がこれだから、なんだか何が普通なのか分からなくなってきたわ」
「そういう意味では、ここは街って思わない方がいいかもね。
僕もこことファスタルしか知らないんだけど、全然違うしね」
「ファスタル?」
「ああ。
僕がずっといた街だよ。
ゴミ屋敷とは違って普通の街だと思う」
「エイシがずっといた街……。
ちょっと行ってみたいかも」
「うーん。
僕はあんまり行きたくないかな」
「そうなの?
ずっといたのに?」
「色々あったんだよ。
まあ、もう大丈夫かもしれないんだけど、やっぱり自分から進んで行きたいとは思わないかな」
「……エイシも苦労したのね」
アリアは僕の気持ちを察してくれたみたいだ。
あんまり聞かれたくないから助かる。
プレイヤーに追いかけられて逃げ出した、なんてちょっと言いたくない。
「まあ、次に行くのがどこかはまだ分からないけど、もうこんな場所じゃないと思うよ。
だから、ここも今のうちに色々見ておくといいよ。
ある意味貴重な場所なんだし」
「そうね。
見渡す限りゴミの山だから、何を見ればいいのか分からないけれどね」
その通りなんだよな。
お店の方に行けばここよりは面白いんだろうけど、僕自身どこに何があるのかほとんど知らないし、下手をすればはぐれてしまいそうだし。
他にゴミ屋敷の中にあるものといったら――。
「もう少し奥の方に、昨日まで僕たちが探索していたダンジョンの入り口があるよ。
今は入れないんだけど、そのうちまた入れるようになるらしいから、そこに行けるようになったらもっと楽しくなると思うよ」
一応、ゴミ屋敷にも楽しみがあるってことを言っておきたかった。
「そこに行ってみたい」
「え?
いいけど、入れないよ」
「いいの。
どんなのか見てみたいの。
色々見た方がいいって言ったのはエイシでしょ。
それに、行きたい所に連れてってくれるって言ったじゃない」
それを言われると断れないんだよね。
まあ、別にダンジョンの入り口なんていくらでも連れて行くけど。
「じゃあ、こっちだよ」
◇
「ここだよ」
ダンジョンの入り口に着いた。
見た目は昨日と何も変わらない。
まあ、一日で何か変わるわけもないか。
「何この幕?」
アリアが入り口にかかる幕に近づきながら言う。
「立ち入り禁止を示してるんだよ。
それがあるから中に入れないんだ」
「え?
でも、通り抜けられるわよ」
アリアは幕に手を出し入れしながら言ってきた。
言葉の通り、大した抵抗もなくすり抜けている。
「あ、そうか。
その幕はプレイヤーの立ち入りを禁止するものだから、僕とアリアは関係ないのかも」
「ねえ、ちょっと入ってみない?」
アリアが笑顔で言ってきた。
「ダメだよ。
だって、今は立ち入り禁止なんだから」
「それはプレイヤーが立ち入り禁止ってことでしょ?
私たちには関係ないじゃない」
「それはそうだけど。
モンスターもいるし、二人じゃ危険だよ」
「大丈夫よ。
ちょっとだけだし、危なかったらすぐに出てくるから」
正直、僕もちょっと入りたい。
だって、ただビンを拾っているより楽しそうだから。
深い階層まで行かなかったらそんなに危険じゃないと思うし。
「じゃあ、ちょっとだけね」
結局、誘惑に負けた。
「うん」
アリアはすごく嬉しそうな顔をしていた。