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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
40/86

大森林

 馬を走らせること、およそ1時間。

 目的地に着いた。


「すごい森だね」


 目の前には見渡す限りの森が広がっている。


「ああ。

 大森林って名前の通り、めちゃくちゃデカい森だ。

 正確な広さは分かっていない。

 というか、どこまでも続いてて終わりなんてないって言われてる。

 世界の端を分からなくするための森だから、切れ目なんてないんだとさ」


「へえ。

 よく分からないけど、とにかく広いってことだよね。

 この中にゴリラがいるんでしょ?」


「ああ。

 入ってすぐの場所には出てこなくて、ちょっと奥に進まないといけないらしい。

 まあ、エイシはここは初めてだからな。

 途中で他のモンスターも出てくるからソイツらを倒しながら進もう。

 何事も経験だしな」


 ワビスケがちょっと胡散臭い笑顔をしている。

 ロクでもないことを考えてそうだけど、聞いてもどうせはぐらかされるんだろうな。

 僕はなるべく気にしないことにして、森の中に入って行った。




「うわわわわわっ」


 サルのモンスターに襲われた。


「ひいいいいいっ」


 ヘビのモンスターに襲われた。


「ぎゃああああっ」


 イノシシのモンスターに襲われた。


 その後も色んなモンスターに襲われまくった。

 熊から借りたアメノムラクモを使って、なんとか全部倒しながら進んでいる。



「いや、この森モンスター多すぎない?」


「だから他のモンスターも出てくるって言っただろ?」


「言ったけど、多すぎでしょ。

 全然進めないよ」


「いやいや、これでも十分進んでるよ。

 至って順調だ。

 この森の別名は死の森、進めずの森、戻れずの森、色々あるんだが、どれもモンスターが大量に出てくることから付けられた名前だ。

 そんな場所でこんだけ普通に進めてたら順調以外の何物でもねえよ」


「そやで。

 今んとこ誰も怪我してへんやん。

 これはなかなかすごいことやねんで」


「小僧がすぐにモンスターの気配に気づいてくれるおかげだな」


「だったらもうちょっと手伝ってくれてもいいじゃない。

 僕ばっかり戦ってるよ」


 そう、三人とも最低限のサポートだけで、なぜかほとんど僕がモンスターを倒している。


「いや、なんかエイシがもっと強くなりたいみたいな顔してたから訓練させてやった方がいいかと思ってさ」


「確かに強くなりたいって思ったけど。

 っていうか、口に出して言ってないよ。

 心でも読んだの?」


「いや、エイシは分かりやすいからな。

 バレバレなんだよ。

 それに実際戦う練習をしといた方がいいのは確かだからな。

 もうすぐ目的のゴリラの出現場所だし。

 準備運動にはなったろ?」


「そうなの?

 っていうか準備運動どころじゃなかったんだけど」


「まあまあ。

 ここからはちゃんと戦うよ。

 とりあえず、エイシは周囲を警戒してくれ。

 モンスターの気配を感じたらすぐに言うんだぞ」


「……分かったよ」


 僕は渋々ワビスケの言うとおりにする。


「で、結局ゴリラってどんくらいの強さなん?

 レベル100のヤツがやられてるんやろ?」


「それが、なんかはっきりしないんだよ。

 最初に聞いた情報じゃゴリラが出てくる森でレベル100のヤツが返り討ちに遭ったってことだったんだ。

 だけど、細かく調べてたらゴリラにやられたって言ってるヤツはけっこう少ないんだよ。

 ゴリラはかなり強くて、迂闊に近づいたらヤバイってのはマジらしいし、やられたヤツがいるのも確かだ。

 でも、それなりのレベルのヤツらはゴリラ自体には結構勝ててるんだよ。

 それなのにゴリラを倒した後に、気づいたらやられてたんだとさ。

 だから、よく分からないんだよな」


「なんやそれ。

 ホンマにわけ分からんやん。

 気づいたらやられてる?

 ゴリラよりもっと強いモンスターが出てくるってことなん?」


「いや、そんな情報はねえ。

 だから、今この森では何かが起きてるんだと思うんだよ。

 何かが、な。

 どうよ。

 気になるだろ?

 面白そうだろ?

 だから俺も来てみたかったんだよ」


 ワビスケは嬉しそうな顔をしながらこっちを見ている。


「面白そうというよりはややこしそうだと思うんだけど」


「あほやなあ。

 ややこしいと面白いはほぼイコールやって。

 なるほどな。

 俄然やる気が湧いてきたわ」


「だろ。

 とりあえず、ゴリラと戦わないことには始まらないからな。

 さっさと来ねえかな」


「おもろなってきたな」


 ワビスケとマイコさんがノリ始めた。

 どんどん奥に進もうとしている。

 やっぱりこの二人はとても似ていると思う。

 いいコンビだ。

 この流れになったら、もう止められないだろうな。


 僕は観念して二人に続いた。



 ――――すぐに、そのモンスターは現われた。

 僕が気配を探るまでもなかった。

 大きな雄たけび声を上げながら周りの木をなぎ倒して登場したからだ。

 なぜか既にかなり興奮しているみたいだった。

 いきなりそんな風に出てこられるとすごく恐ろしいんだけど。


「ようやくお出ましか。

 待ちに待った瞬間ってやつだぜ」


 そんな状態でもワビスケは楽しそうだ。

 目にはレンズを付けている。

 ちゃんと情報収集は欠かさないみたいだ。


「かなりデカイな。

 噂どおりだ。

 名前は、……ゴリラだな。

 そのまんまかよ。

 だから、情報収集しても名前はゴリラとしか言われてなかったのか」


「なんか能力は持ってるん?」


「いや、ないな。

 ただ、前情報どおり、攻撃力はかなりえげつない。

 ヤマタノオロチよりも圧倒的に上だ。

 一撃でもまともに食らったらやばそうだ。

 ちゃんと注意しろよ」


「了解や。

 熊、いくで!」


「おう!」


 三人は嵐のようなゴリラの攻撃の中に飛び込んでいった。




 僕はその光景をただただ見ていた。

 すごかった。

 ゴリラの攻撃はひたすら6本の腕を振り回して殴りかかってくるというものだった。

 体が巨大なだけあって、その腕は僕の体より太い。

 それが絶え間なく襲い掛かってくるから本当にどうしようもない攻撃に見える。

 でも、三人はそれをしっかりと避けながら攻撃をしていた。

 ワビスケはアメノムラクモ、マイコさんはハンマー、熊はグローブだ。

 僕もアメノムラクモを持っている。

 でも、ちょっとあの中には入れない。

 何かあったらすぐに援護できるように構えてはいるけど、今のところは役に立てそうな場面はない。


「これ、このまま倒してええんやんな?」


「ああ。

 特に何かカウンター技を持ってるってこともないはずだから普通に倒そう」


 激しい攻防に見えるけど、ワビスケたちにはまだ余裕があるみたいだ。

 戦いながら話している。


「じゃあ、ワシが隙を作るから、一気に攻め込んでくれ」


 熊がそう言ったかと思うと、一層ゴリラに近づいた。


 そして、爆発する拳をゴリラの顔面に叩き込んだ。

 いきなり顔を吹き飛ばされてゴリラは怯んだみたいだ。

 動きが鈍くなった。

 それを逃さず、ワビスケとマイコさんは一気に攻め立てる。


 なす術もなく、ゴリラは倒された。


「ふう。

 なんか思ってたのとは違ったな」


「確かに攻撃の威力はすごそうやったしスリルはあったけどな」


「やはり、レベル100クラスが返り討ちに遭う強さとは思えんな」


「確かに一対一なら多少てこずるだろうが、それにしたって気づかない間にやられるってことはないだろうな」


「うーん。

 どういうことやろ。

 やっぱり他のモンスターがおるんちゃう?」


「かもなあ」


 三人は全然余裕がありそうだ。


「エイシ、どうだった?」


「すごいね。

 全然入れる気がしなかったよ。

 僕にはまだゴリラの相手は無理みたい」


「そんなことはないと思うけどな。

 お前もやったらできると思うぜ。

 というか、むしろ今のエイシにちょうどいいくらいの相手だな」


「いや、それどういう判断なのさ。

 無理だよ。

 潰されちゃうよ」


「それはないな。

 さっきまでのモンスターとの戦いを見てりゃ分かる。

 苦戦はするかもしれないが、簡単にやられたりはしないよ。

 次に出てきたら怖がらずに攻撃してみろ。

 ちゃんとサポートして怪我とかはできるだけさせないようにするから」


「うーん」


 見てるだけなのはどうかと思うし、三人に任せっきりなのも情けないとは思っている。


「分かった。

 やれるだけやってみるよ」


 回復薬は十分持ってきてるから、ちょっとくらいなら攻撃を食らっても大丈夫なはずだよね。


 僕たちはそのまま大森林を進んだ。


「そういえば、ふと思ったんだけどさ。

 今回はゴリラと戦いにここに来たんだけど、普通はこういうところって何しに来るの?」


 ダンジョンと違って探索って感じじゃないし。


「理由は色々だ。

 俺たちみたいに特定のモンスターと戦いに来る場合もある。

 そのモンスターから取れる素材が必要だったりしてな。

 薬草採取とかに来るヤツもいるし、単に散策してるヤツもいる。

 あとは、そうだな。

 街中でやったら迷惑になるようなことをしに来るヤツとか」


「何それ?」


「熊がやってるような兵器の試し撃ちとかだよ」


 その言葉にゴミ屋敷の工房の裏を思い出す。


「ああ。

 確かにあれを街中でやられるのはね……」


「工房の周りは誰も住んでないからやってるんだぞ。

 ワシだって人の迷惑になるなら場所をもっと考えるからな」


 熊が言い訳をしている。


「ホンマやで。

 それもウチらがゴミ屋敷にいる理由の一つやねんから。

 あの街はかなり緩いから大抵のことは許されるしな」


「へえ。

 そうなんだ」


「ま、普通の街であんなことしてたらすぐに管理者からお叱りとペナルティのメッセージが届くやろうな」


 そりゃそうだよね。

 ていうか、今さらだけどゴミ屋敷はちょっと自由すぎると思う。


「っと、また来たよ」


 奥の方からモンスターの気配がする。

 また周りの木々をなぎ倒しながら向かってきているみたいだ。

 音で分かる


「なんか、アイツやたら興奮してんだよな」


「そういうモンスターなんちゃう?」


「その可能性もあるが、ちょっとおかしい気がするんだよ。

 興奮してるせいで攻撃が単調になってるから、相手するのは楽なんだけどさ」


「そうなの?」


「ああ。

 迫力はすごいが、基本大振りで殴りかかってくるだけだからな。

 読みやすいんだよ。

 さっき言ったとおり、今度はエイシも攻撃してみろって」


「なんとかがんばってみるよ」


「話はそこまでや。

 来たで」


 マイコさんの言葉通り、目の前の木をへし折ってゴリラが姿を現した。


 三人はさっきと同じように飛び込んで行く。

 今度は僕もそれに続いた。

 怖いけど、一度ためらったら余計に行けなくなる気がしたから思い切った。


 と、目の前をゴリラの拳が通過した。

 咄嗟に身を捩って避けたけど、前髪をかすった。

 あ、危ない。


「エイシ、大丈夫か?」


「な、なんとか……。

 これホントに大丈夫なの?」


「今のが避けられるなら問題ねえよ。

 そのままどんどん行け」


 確かにギリギリ避けられたけど、ほとんどたまたまだ。

 次も避けられる自信はない。

 だけど、ここで逃げたくもない。

 だから、ワビスケの言うとおり吹っ切って攻めることにした。




「わあっ!」

「くそっ!」

「うわっ!」

「ひっ!」


 全部、僕の悲鳴だ。

 さっきから情けない声を上げながら、必死にゴリラの攻撃を避けている。

 一応、避ける合間に攻撃してはいるんだけど、ちゃんとダメージを与えられているかなんて分からない。

 そんなことを確認している余裕がない。

 必死に避けて、切る。

 避けて、切る。

 それをひたすら繰り返す。


「んっと!

 お?」


 ひときわ大振りになった攻撃を避けたとき、ゴリラに隙が出来た気がした。 


「はあっ!」


 力を込めて剣を振る。

 今までで一番しっかりと攻撃できた。

 それはゴリラの体に大きな傷をつけた。

 ゴリラが怯むのが分かる。

 チャンスだ。


「おりゃああああああああっ」


 僕は渾身の力で剣を振り抜き、ゴリラを深々と切り裂いた。



 一瞬の間の後、ゴリラが崩れ落ちる。


「ふうう」


 大きく息を吐く。

 なんとか、なった。


「やっと倒せたね」


 一体目を倒すのよりも随分時間がかかってしまった。

 やっぱり僕が足を引っ張ったせいかな。

 ちょっと申し訳ない気分だ。

 ワビスケたちに話しかけようとして、近くにいないことに気がついた。


「あれ?

 って、なんでそんなとこにいるのさ?」


 三人はゴリラと僕から少し離れた所にいた。


「いやあ。

 しばらく援護しながらエイシの戦いを見てたんだけど、なんか任せても大丈夫そうだったんだよ。

 な?」


「そやで。

 攻撃はしっかり避けてるし、避けながら反撃もちゃんとしてるし」


「何それ。

 けっこう危ないときもあったよ。

 ヒヤヒヤしたりしたよ」


「がっはっはっは。

 小僧は謙虚だな。

 全然攻撃を食らいそうには見えなかったぞ」


 熊まで。

 ひどい。


「大体、サポートしてくれるって言ったのはワビスケじゃないか」


「大丈夫だって。

 もし危なかったら、ちゃんとこれでけん制するつもりだったよ」


 そう言いながらワビスケは手に持った銃をプラプラ揺らしている。

 一応サポートする気はあったみたいだけど、すごく気が抜けている感じになっていて非常に心もとない。

 多分、離れて僕が戦ってるのを見物してたんだと思う。


「ま、倒せたんだからいいじゃないか。

 それにしても、俺たちが離れたのに気づかなかったのか?

 どんだけ夢中だったんだよ」


「夢中じゃないよ。

 必死だったんだよ。

 周りを見てる余裕がなかったんだよ。

 道理で、途中から厳しくなったと思ったよ」


 僕は抗議の気持ちを込めて必死に訴えた。


「分かった分かった。

 悪かったって。

 もうこんなことはしないよ。

 でも、エイシはもっと自信を持っていいと思うぞ。

 あのゴリラを一人で倒せるヤツなんて、そうはいないからな」


「そや、ホンマにすごいで」


「うーん」


 なんか褒めてごまかそうとしているように見える。

 いや、褒められるのは素直に嬉しいんだけどね。


「とりあえず進むか。

 次からはちゃんと一緒に戦うから安心しろって」


「……分かったよ。

 行こう」


 これ以上言っても仕方ないし、気にするのは止めることにした。


 それから、僕たちはさらに森の中を歩き回った。



 まただ。

 木をなぎ倒す音とゴリラらしき雄たけびが聞こえた。

 興奮して突っ込んでこられるのはとてもおっかないんだけど、見つけるのが簡単なのはいいことだと思う。

 いきなり現われるのを心配してビクビクしなくて済むからね。


「来たぞっ」


 ゴリラが僕たちから少し離れた位置に現われた。

 すぐに武器を構える。


「あれ?」

「へ?」


 ワビスケとマイコさんの変な声が重なる。


 ゴリラは僕たちに構うことなく通り過ぎて行った。

 必死の形相で何かから逃げている感じだった。

 いや、今までのヤツもみんなそんな風だったけど。


「なんやねん今の?」


「さあ?」


 ゴリラが通り過ぎた跡をしばらく見ていたら、急にひどい悪寒がした。


「みんな下がって!」


 僕は叫びながら、自分の感覚に従って後ろに飛び退る。

 僕の声を聞いたワビスケたちもすぐに従ってくれた。


 直後、ゴリラが走ってきた方から巨大な黒い炎が現われた。

 その炎はさっきまで僕たちがいた場所も飲み込んで、森の一部を削り取ってどこかへ飛んで行った。


 僕たちは状況が掴めずに茫然としていた。

 ただ、目の前で“何か”が起きている。

 それだけは分かった。


「こらあ、逃げるなあああああ!」


 そんな、場違いな明るい声が周辺に響いた。





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