雑魚設定モンスター
マイコさんの一撃でモンスターを倒すことができた。
「なんだ?
やたら弱かったな」
「いや、弱くはないんじゃない?
マイコさんの攻撃が強かっただけで」
「そや。
ウチがすごいだけやで。
褒めてええんやで。
称えてええんやで」
マイコさんは胸を張って、へへん、とか言ってる。
物凄いどや顔だ。
実際すごかったんだけど、マイコさんの態度を見てたらすごいって言う気がなくなる。
「マイコの攻撃は確かにそれなりの威力だろうが、流石に間接的な衝撃一撃で倒せるってのはな。
もうちょっと調べといた方がいいな。
エイシ、さっきのヤツは他にもいるのか?」
「えーと、いるよ。
なんかアイテムを囮にしてるっぽい。
うまく隠れてるけど注意したらアイテムの下にいるのが分かるよ」
「そうか。
なるほどな。
11階層は12階層のモンスターへの警戒をなくすための布石だったのかよ。
だが、これを考えたやつはちょっと馬鹿かもしれないな。
布石なんて打ってても、ほとんどのプレイヤーはそもそも11階層のアイテムに気づかないっての。
もっとアイテムの存在を分かりやすくしないと意味ねえだろうに」
「でも、アイテムって見つけにくいものなんでしょ」
「まあなあ。
けど、見つけにくいったって、ノーヒントってのは問題あるだろ。
そんなんじゃ本当に偶然でもない限り見つけられないからな。
せっかく今回みたいな構成にしてても、11階層と12階層の関連に気づけなかったら台無しだぜ。
……これまではそんなことなかったんだがな。
最近ちょっと雰囲気が変わってきた気がするから製作者が変わったりしてんのかもしれないな」
製作者が変わる?
「そんなことがあるの?」
「あるよ。
細かい製作者の都合なんて知らないから、今変わったのかは知らないが。
ただ、なんか揉めたとかいう噂は聞いたことあるな。
製作者が途中で変わることなんて珍しいことじゃない」
本当にワビスケは物知りだ。
僕はそんなこと全く聞いたこともない。
「ま、そんなこと気にしても仕方ないか。
俺たちは誰が製作者だろうと、楽しむだけだしな。
とにかく、このダンジョンの攻略を続けよう」
「そうだね。
じゃあ、とりあえずさっきのモンスターがいるのはあそこだよ」
僕はモンスターの気配がする一番近い場所を指し示した。
「よし、じゃあマイコ、そこに立っててくれ。
ああ、きっちり情報収集しないといけないから、しばらく動かないでくれ。
あと、攻撃もするなよ」
「了解や」
マイコさんは言われたとおり移動しようとして止まる。
「って、なんやねんその指示!
モンスターに食われろ言うんかい!」
「チッ。
冗談だよ。
さっきのやつが出てきそうになったら普通に離れてくれていいぞ」
「へいへい。
ホンマ、しょうもないことばっか言うやつやな」
そう言いながらマイコさんがモンスターの気配の上に移動する。
すると、それに気づいたモンスターが動き始めた。
まだ地面に変化は見られない。
モンスターがマイコさんのすぐ下まで動いた。
「すぐ下まで来たよ!」
マイコさんは気づいていないみたいだから声をかけた。
「ホンマか。
全然分からへんかったわ」
そう言いながらマイコさんは飛んでその場から離脱した。
その直後だった。
地面が大きく凹み穴が開いた。
さっきと同じだ。
「お、来たな。
マジでエイシがいると楽だぜ」
ワビスケがレンズを付けた目で穴の方を見ながら言う。
穴からさっきのモンスターが口を開けて地上に出てきた。
「えーと、コイツはサンドウォームだな。
ステータス的にはかなり弱いな。
スライムより多少マシって程度だ。
雑魚だな。
だが、能力は持ってるな。
陸上無敵?
なんだこれ。
陸上に姿を現している間はいかなる攻撃も無効となる、だってよ。
めちゃくちゃだな」
サンドウォームはすぐに地中に引っ込んだ。
「そんなのどうやって倒すのさ」
「普通はそうやって困るところだろうが、さっき偶然とはいえ倒しちまったからな。
地中にいる間なら能力が働かないんだろう。
能力がなければスライムプラスアルファ程度のヤツだからな。
マイコの一撃程度でも倒せちまうんだ」
「程度ってなんやねん、程度って」
「だから、とりあえずエイシが気配を調べて地中にいるところを攻撃すればいいんじゃないか」
さらっとマイコさんを無視した。
「頼むぜ、エイシ」
「う、うん。
あ!
ワビスケの下に来たよ!」
「来たか。
俺には誰かさんみたいな攻撃はできないからな。
さて、どうするか」
「ワビスケ、来てるって!
そんなにのんびりしてる場合じゃないよ!」
「おう。
そう言われても、ギリギリまで引き付けないと攻撃しづらいんだよ、な!」
ワビスケは足元に穴が開き始めたタイミングで鋭くアメノムラクモを地面に突き刺した。
それはかなり深くまで刺さったみたいだ。
サンドウォームの気配が消える。
「どうだ?」
「うん、倒せたみたい」
「やっぱ弱いことは弱いな。
だけど、コイツはやっかいな相手だな。
攻撃される前に足元に穴が開くから、そこを叩けばなんとかなるが。
この階層では気が抜けないな。
常に足元に注意してないといけないってことか」
「でも、ちゃんと近づいてきたら僕が言うからそれで大丈夫でしょ」
「ああ、俺たちはな。
そのうちこのダンジョンにも他のプレイヤーが入れるようになる。
そうなった時には、かなりここでやられかねないからな。
俺は情報屋だから、そういうやつに攻略情報を流せるように考えとかないとな」
「お、一応ちゃんと情報屋活動をする気はあるんやな」
「当たり前だろ。
こう見えて、俺には常にけっこうな数のプレイヤーから連絡が入ってきてるんだぜ。
俺はソイツらにできるだけ適切な情報をやらないといけないんだからな」
「へえ。
ワビスケってすごいんだね」
「最近は自信がなくなってきてるけどな。
知らないことが増えてきてるし。
まあ、それでもできることはやるさ」
「あんたのそういうとこには頭下がるわ。
ウチには真似できん。
それにしても、コイツはややこしいモンスターなんは確かやけどアホなんかな」
「どうして?」
「だって、陸上では無敵なんやろ?
それやったら地中に潜らんとずっと陸上におったらええのに」
「あ、ほんとだ。
どうしてすぐに潜っちゃうんだろ。
逆だったらまだ分かるのに」
「そういう設定なんだろ。
じゃないと誰も倒せなくなっちまうからな」
「なんか残念なモンスターだね」
「そうだな。
言わば雑魚設定モンスターってとこだ。
能力とは関係なく、存在が雑魚設定ってな。
宝の持ち腐れだが、俺たちとしてはありがたい設定だ。
それに、俺たち以外のやつはもっと苦労するはずだから、バランスとしては悪くないんじゃないか。
ともかく、対処法も分かったことだからどんどん進むか。
アイテムは取れそうなやつだけ取ってくぞ」
「うん、そうしよう」
そのまま12階層を攻略した。
13階層も14階層も同じだった。
モンスターは強くなっていくけど、スライムと同じで弱すぎてほとんど問題にならなかった。
15階層まで来た。
15階層も砂漠だけど、けっこう起伏があって目に見える範囲はそれほど広くない。
砂丘って言うのかな。
「昨日から攻略を始めてもう15階層だけど、ダンジョンってこんなにサクサク進めるものなの?」
「いや、階層だけで考えたらこれはありえないペースだ。
レベルが低ければ5階層のトロールレクスは倒せないだろうし、魔法が使えなければ10階層のスライムレクスは倒せないだろう。
逆に魔法特化だったりしたら、12階層以降のサンドウォームを倒すのは厳しいかもしれないな。
地中に攻撃できる魔法でもあればいけるかもしれないが。
ともかく、相当高レベルでバランスがいいパーティでもない限り、ここまで素早く攻略はできないだろう。
ただ、魔法をそれなりに使えるやつなんてほとんどいないだろうから、やはり10階層が一つの壁になるだろうし、俺たち以外でこんなペースで進めるやつなんていないと思うぞ。
まあ、このダンジョンはボスがいないフロアの内容が薄いから、階層は15階でも、あんまり攻略したって感じはないけどな」
「そやな。
造りが手抜きなんよな。
階層だけ水増ししたみたいな。
まあ、ウチらもエイシ君のあれがなかったらスライムレクスにはもっとてこずってたやろうけど」
「そうだな。
エイシがあれを自在に使えないとなると、次からは10階層攻略はもっと時間がかかるだろうな」
「え?
そんなこと言われたらプレッシャーなんだけど」
「ああ、プレッシャーかけてるからな。
がんばって早くあれを使えるようになってくれよ」
そりゃ僕も使えるなら使いたいけど、まだ本当に僕の能力なのかどうかも分からないんだよね。
「うん?
あの砂の丘の向こうに強そうな気配があるよ」
「お、この階層のボスか。
よし、倒そう」
僕たちは気配の方へ進んだ。
そして、見えていた丘を越えたとき、そのモンスターの姿が目に入ってきた。
「で、デカッ」
マイコさんの言葉通り、めちゃくちゃ大きいモンスターがいた。
サンドウォームのデカイ版だ。
違いは大きさだけじゃない。
アイツは地中に潜ってはいない。
堂々と陸上にいた。
「やっかいだな……」
レンズで情報を調べていたワビスケが呟いた。