11、12階層
「おい、熊。
ビームは出ないんじゃなかったのかよ。
……いや、確かにビームじゃないが。
あれじゃ同じことだろうが」
ワビスケが熊を責めている。
さっき、熊から借りた剣からなんか出たからだ。
「なんでワシに言うんだ。
ワシは知らんぞ」
「馬鹿言え。
あんなもんお前が剣に何か仕込まないとできないだろ」
「何も仕込んでないと言ってるだろうが。
剣自体の能力じゃないのか?」
「アメノムラクモにそんな力はねえよ。
大体、そんなのがあるなら俺がとっくに使ってるよ」
「だったら、小僧自身の能力じゃないのか?」
「いや、そんなわけ……」
ワビスケと熊がこっちを見た。
「……あるのか?」
「いやいやいやいや、あるわけないでしょ。
知らないよ。
僕はただ剣を振ってただけだよ」
「だよなあ。
あんなのプレイヤーの技にはないしなあ」
「僕はプレイヤーじゃないけどね……」
僕の言葉にワビスケがピタッと止まる。
そして、しばらく考え込む素振りを見せた。
「確かに。
プレイヤーのものさしでエイシは計れないよな。
うん。
そうだな。
やっぱりお前は面白いぜ」
「いや、僕は知らないってば。
なんで僕がやったことになるのさ」
「なんでって、実際お前がやったわけだしな。
まあ、さっきのは無意識かもしれないが、あれをできる力は持ってるってことだろ。
いいじゃないか。
悪いことじゃないんだし。
自分でも色々試してみるといいと思うぜ。
あれが自在に操れたらすげえよ」
そう言われても困る……。
……だけど、本当に僕にそんな力があるんだったら、それは嬉しいことだと思う。
僕には、プレイヤーやプレイヤーじゃないけどすごい人たち、例えばファスタルの調査員統括みたいな、そんな人たちのような特別な力はないと思ってた。
プレイヤーの雰囲気が分かるとか、そんなのはあるけど大したものじゃないし。
だからプレイヤーの真似事をしていても、どこか自信が持てないでいたんだ。
よし、全然どうやればいいのか分からないけど、ワビスケの言うとおり色々試してみよう。
「うん、がんばってみるよ」
「期待してるぜ。
とりあえず、せっかく10階層のボスを倒したんだから11階層も行ってみるか」
僕たちはそのまま11階層へ進んだ。
◇
「なんやこれ?」
11階層はそれまでと一転して様子が変わっていた。
「砂漠だな」
「砂漠だね」
「がっはっはっは。
なかなか斬新なフロアじゃないか」
「斬新って言うか、手抜きちゃうん?
だって、どう見ても何もないやん。
ただ砂場が続いてるだけやで。
はよこんなとこ通り過ぎようや」
「え?
何もないってことはないよ。
けっこうアイテムっぽいのが埋まってるみたいだよ」
「ほんまに?
全然分からへんけど」
「確かめないと確かなことは分からないけど、ゴミ屋敷にあったアイテムと同じような気配はたくさんあるよ」
「なんかあれだな。
ここを作ったやつの性格の悪さがうかがえるな。
一見何もないフロアで退屈そうな感じに見せておいて、こっそりアイテムを設置しておくってか。
まあ、アイテムなんて見つかりにくいように置いてあるのが普通といえば普通だが。
10階層であんだけしぶといスライムレクスを相手にした後だから、この階層でねちねちアイテム探ししようと思う奴なんてそうはいないだろ」
「けど、ウチらはラッキーやな。
エイシ君がおったらアイテムは見つけ放題やろ」
「そうだな。
頼むぞ、エイシ」
「うん。
こっちだよ」
近くにあったアイテムの気配に近づいた。
土の下にある。
と言ってもそんなに深くはない。
すぐに掘り出した。
「回復薬だね」
「なんや。
もっとおもろいもんが出てくると思ったのに」
「そりゃ全部が全部レアアイテムってことはないだろ。
エイシ、アイテムはどれくらい埋まってそうなんだ?」
「うーん、そうだね。
11階層全部が見えてるわけじゃないからはっきりとは分からないけど、大体100mおきくらいにあるんじゃないかな」
「それやったらけっこういっぱいあるんやね。
どうする?
全部拾うん?」
「いや、それだと時間がかかりすぎるからな。
さすがに11階層で伝説級のアイテムってことはないだろ。
適当にめぼしいのだけ拾ってくか」
「そやな。
ほな行こ」
僕たちは適当にアイテムを拾いながら進んだ。
回復薬、回復薬、毒消し、回復薬、回復薬。
「ビックリするくらいしょぼいアイテムばっかりやな」
「でもどれも役に立つものだからいいんじゃない」
「そやけど、せっかくのダンジョンやねんからなんか面白いもんが出てくるのを期待してしまうやろ」
「そういうこと考えてるヤツのところには珍しいもんって出てこないんだよなあ」
「なんでやねん。
そんなん関係ないやろ。
埋まってるもん探すだけなんやから」
「いや、なぜか欲丸出しのヤツにはいいもんは回ってこないもんだよ。
つまりお前のことだよ」
「はあ?
またウチのこと馬鹿にしてるんか」
「馬鹿にはしてねえ。
事実だ、事実」
「あんた、一回ぶっ飛ばす」
また始まった。
「平和だね」
「おお。
平和だ」
僕と熊はなぜか二人がいい争いすると平和な気持ちになる。
そんな、いつも通りの感じで探索を続けた。
途中からは熊もアイテムサーチャーを装備してアイテムを探し始めた。
11階層では大したものが見つからないまま、12階層に到達した。
「11階層終わっちゃったね」
「まあ、いいんじゃないか。
どんどん進めばいいだろう」
12階層も同じような砂漠だった。
「このダンジョンの傾向が見えてきたな。
5階層ごとにまとまりがあるんだろう。
そんでその範囲はそのエリアのボスの影響を受けている、と」
「そやな。
11階層以降はどうやろな。
今んとこ砂漠としか言えへんけど。
まだモンスター出てきてへんからボスがどんなんか想像もつかへんしな」
「そうだな。
さすがにこれからはモンスターも出てくるだろうけどな。
砂漠に出てくるやつっていったら、サソリとかトカゲかな」
「そやなあ。
10階層のスライムレクスみたいなんじゃなかったらなんでもええけどな。
ああ、トロールも嫌やけど」
ワビスケとマイコさんはアイテムを探すのを完全に僕と熊に任せて世間話をしている。
適材適所だから別にいいんだけど。
あ、またアイテムだ。
拾おう。
と思った瞬間、足の下にモンスターの気配を感じた。
同時に、足元の砂が大きく凹んで穴ができる。
「あれ?」
その穴に飲み込まれそうになった。
「エイシ、危ねえ!」
ワビスケが僕を突き飛ばして助けてくれた。
「ありがとう、ワビスケ」
「おう。
なんなんだ、今の穴は」
僕が飲み込まれそうになった穴を見る。
そこからは大きな芋虫が出てきていた。
「うお、なんだありゃ」
「キモッ」
「あれも新しいモンスターなの?」
「おう、今までにいたやつじゃない。
とりあえず調べながら戦うぞ!
と、あれ?」
そのモンスターは地中に潜って行った。
「逃げたのか?」
「違うよ!
地中を移動してる。
ワビスケの下に移動したよ!」
僕の言葉でワビスケはすぐに飛んで移動した。
直後、ワビスケが直前までいた場所に穴ができて、さっきのモンスターが口を開けて出てきた。
だけど、標的がいないことに気づくと、すぐにまた地中に潜って行った。
「なんだコイツ。
ヒットアンドアウェイかよ。
めんどくさいヤツだな。
エイシ、気配を探って常に伝えてくれ。
次に出てきたら切り刻んでやるぜ」
ワビスケがアメノムラクモを構えた。
「分かった。
あ、今度はマイコさんの下に行ったよ」
モンスターはワビスケの殺気でも感じたかのように、ワビスケから離れてマイコさんの方へ移動した。
「え?
今下におるん?」
「はい!
もうすぐ出てくると思います」
「おっしゃ任せとき!」
マイコさんはそう言うと、持っていたハンマーを大きく振りかぶって、思い切り地面に叩き付けた。
地中に物凄い衝撃が伝わる。
目で見て分かるほど地面が揺れた。
「どや?
ちょっとはダメージ与えたやろ」
「え?」
「どうしたん?
効いてへん?」
「いえ、どうやら倒したみたいです」
モンスターの気配はなくなっていた。