10階層 中ボス【スライムレクス】
6階層も雰囲気はそれまでとあまり変わらなかった。
「ダンジョンってこんなふうにずーっとおんなじ感じなの?」
「まあ、そうだな。
いきなり変わったりすることはあんまりないな。
中には、突然氷に包まれた階層だとか、溶岩で囲まれた階層だとか、そんなのが出てくるダンジョンもあるが」
「ここはどうなのかな」
「まあ、アップデートに合わせて実装したダンジョンだから、なんかしら特徴はあると思うけどな。
まだ六階層だからな。
もう少し深くまで進まないと何とも言えない。
最低でも10階層までは進まないとな。
まだまだモンスターの強さは余裕だから、今日はその辺りまでは進みたいな」
「そうだね。
10階層にもボスがいるんだっけ?」
「そうだ。
まあ、5階層のやつより強いのは確実だろうな」
「強いのはいいんだけど、トロールはもう嫌だな」
「確かにそれは言えてるな。
俺ももうアイツらの相手は勘弁だ」
ワビスケは苦笑いしている。
「そういえば、銃はどうだったよ?
ナイフ以外の武器は初めてだろ?」
「うーん。
なんか、あれは僕が思ってた銃と違ったし、感想を言えるほど使ってないけどね。
けど、遠くから狙うのは難しい気がする。
さっきは、たまたまトロールレクスがワビスケとマイコさんから離れたから撃てたけど、そうじゃない時にはなかなか撃てそうにないんだよね」
「そうか。
だったら、やっぱり近接系がいいのかもな。
次は剣を使ってみるか?」
ワビスケがアメノムラクモを振りながら言ってくる。
「剣?
ワビスケとマイコさんが使い方を教えてくれたから、ちょっと試してみたいかも」
「俺たちの教えはともかく、使い方はナイフに近い部分もあるからな。
けっこうすんなり使えるかもしれない。
熊は剣なんてあんまり使わないだろうから借りてみるか。
おい、熊、ちょっとエイシにアメノムラクモを貸してやってくれないか?
俺のを貸してもいいんだが、お前が使わないならそっちの方が都合がいいしな」
「構わんが、ちょっといじったぞ」
「ん?
いじった?」
「ああ。
昨日ダイヤゴーレムの素材でな。
さっきの銃もそうだが、色々な武器を改良したんだ」
「アメノムラクモはどう変わったんだ?
まさか剣からさっきのビームが出たりはしないよな?」
それは困る。
あんなのが出たら心置きなく使うなんて無理だ。
「がっはっは。
出たら面白いんだがな。
残念ながらそれはない。
普通の状態よりも頑丈になっているはずだが、それ以外は変わらない」
「だったら大丈夫だろ。
エイシ、良かったな。
貸してくれるってよ」
「うん、ありがとう。
大事に使うよ」
熊から剣を借りた。
少しワビスケのと違う。
と言っても、ちょっとだけ色が違うくらいでほとんど同じだ。
試しに振ってみる。
「どうだ?
使えそうか?」
「そうだね。
多分大丈夫だと思う。
でも、使えなかったらすぐに熊に返すよ。
足を引っ張るのも悪いしね」
「そんなの気にすんなって。
気が済むまで試せばいいんだ」
そう言ってもらえるのはありがたい。
僕はアメノムラクモを適当に振りながら6階層を進んだ。
「ん?
なんか来るよ」
先の方からモンスターの気配を感じた。
「そろそろ違うモンスターが来るんちゃう?
一応、中ボス倒した後の階層やしな」
マイコさんの言葉通り、現れたのは初めて見るタイプのモンスターだった。
「ここに来てスライムかよ」
ゼリー状の体をしたモンスターだ。
「なんでスライムなんか出てきたんやろ?
一応、見たことない種類やけど」
「確かに。
俺も見たことないから、今回新しく実装されたやつだろうな。
でも、スライムはスライムだよなあ」
そう言いながら、ワビスケはレンズを付けた。
口では馬鹿にしてる感じだけど、知らないモンスターの情報はちゃんと調べるみたいだ。
「そんなに弱いの?」
「基本的に初心者でも素手で倒せるようなヤツだよ。
最弱と言っていいんだが、……なんかコイツ一応能力を持ってるらしいぞ」
「能力?
なんなん?」
「なんか、物理攻撃に耐性があるらしい。
この能力自体は今までにもあったやつだな」
「そっか。
なんか対策取らなあかんかな?」
「いや、必要ないだろうな。
元々の防御力が低すぎて、耐性が多少あっても意味がないレベルだ」
そう言って、ワビスケはアメノムラクモで切りつけた。
すると、あっさりスライムは両断された。
「な。
せっかくの能力も元が弱すぎて意味ねえよ」
「うーん。
バランス調整ミスなんかな」
「かもしれねえ。
まあ、俺たちの探索データ見て調整するんじゃないか」
僕たちはそれから6階層を調べたけど、大したものはなかった。
スライムと何回も遭遇したけど、弱いから問題にはならなかった。
「この階層はただ雑魚スライムを倒すだけのフロアなんかね。
特に見るべきもんがあるようにも思えないんだが」
「もうええやん。
先進もうや」
ワビスケとマイコさんは完全に飽きたみたいだ。
まあ、確かにただスライムがいるだけのフロアなんて面白さの欠片もないと思う。
僕ももう先の階層に進みたい。
と、目の前の壁の奥にかすかなアイテムの雰囲気があるのに気が付いた。
すごく気にしなければ気づけないくらいの気配なんだけど、ゴミ屋敷での宝探しで培った感覚がそれを見逃さなかった。
「ワビスケ、この壁の向こうにアイテムがあるっぽいんだけど」
「ん?
アイテム?」
「うん。
ゴミ屋敷で探してたときと同じようなアイテムの雰囲気があるんだよ。
でも、どう見ても壁だし、気のせいなのかな」
「いや、隠し部屋かもしれない。
おい、熊」
「おう」
熊が手にグローブを付けて壁を殴りつけた。
すると、壁が崩れ落ちた。
かなり薄かったみたいだ。
「ほう、小僧の言う通り、何かあるようだぞ」
奥はワビスケの予想通り、隠し部屋になっていた。
そして、その部屋の中央に何か小さいものが転がっているのが見える。
雰囲気の正体はあれみたいだ。
僕たちは隠し部屋に入った。
「これを見つけたのはエイシだから、エイシのもんだぜ」
そう言って、ワビスケが僕にそのアイテムを渡してくれた。
それは小さいガラス玉みたいなアイテムだった。
「何これ?」
「今回新しく追加されたアイテムみたいだな。
えーと、名前は移動石だ。
これを使うと離れた場所にいる人間の所に一瞬で移動できるらしい。
三回使ったら壊れるんだと」
「へえ。
便利、だよね?」
「そうだな。
ダンジョンではぐれたりしたら使えばいいんじゃないか。
プレイヤーはそういう時は連絡を取り合ってどこかで待ち合わせするんだが、エイシはそれはできないからな」
「うん、そうするよ。
まあ、できるだけそんなことにならないようにしたいけどね。
一人でダンジョンにいるのは嫌だし」
「あんまり普段は使う機会はないかもしれないな。
なにか不測の事態が起きたときに使えばいいんじゃないか」
「そうする。
それにしても、ダンジョンってこんなふうにアイテムが見つかるんだね」
「いや、隠し部屋ってのはかなり珍しいな。
全くないわけじゃないが、あったとしてももう少しヒントがあるのが普通だからな。
ここまで何の特徴もない壁にあったら、普通は見つけられないだろうな」
「そやで。
こんなんウチも見たことないわ。
見つけにくい割にアイテムはそこまですごくないもんな。
もっとええもん置いといてくれたらいいのに」
珍しそうに隠し部屋を見ていたマイコさんが話しに入ってきた。
「6階層にしては便利なアイテムなんじゃないか。
例えば、違う街にいる仲間と合流したい時とかに使えるんだろうし」
「ああ、それは確かに便利やな。
けど、三回ってのは少ないと思うんやけど。
使い切ったらそれきりやろ?」
「もしかしたら、これからは店とかで売られるようになるのかもしれない。
まあ、なんにせよ使ってみないと効果が実感できないから、機会があったら一度使ってみた方がいいな」
「もったいなくない?
三回しか使えないんでしょ?」
「俺はそういうことは気にせずにまずは一回使ってみる派だ。
じゃないと、本当に使いたい時に使えるかの判断がしづらいからな」
「うーん。
僕はこういうのは取っておく派かな。
なんかここぞという時に残しておかないと後で後悔することになりそうな気もするし。
でも、せっかくだからワビスケの言う通り、一回目だけはさっさと使ってみようかな」
「その辺の判断はエイシに任せるよ。
使いたい時に使えばいい。
ま、このフロアはそのアイテムがあるくらいかな。
さすがにもう隠し部屋もないだろうし、7階層に行くか」
僕たちは先へ進んだ。
7階層にもスライムがいた。
6階層とはちょっと色が違うスライムだった。
強さは大して変わらなかった。
つまり、めちゃくちゃ弱かった。
8階層も9階層も10階層もスライムだった。
僕もアメノムラクモを使って戦ったけど、戦っている気はしなかった。
落ちているゼリーを切っているだけのような、そんな感じだった。
本当に弱すぎると思う。
ラプトルよりも弱い。
「なあ、今回のダンジョン、敵の出方がおかしいと思わへん?
5階層まではラプトル、ゴーレム、トロールやったからいいけど。
6階層から10階層までずっとスライムやん。
色は違うしちょっとずつ強くなってるけど、全然面白くないで。
大体、5階層までより弱くなってるやん」
「そうだなあ。
なんとなく手抜き感を感じるというか。
まあ、その辺もこれから調整するのかもしれないが、一応もう実装したんだから、もう少しちゃんとしてほしいよな。
この調子で行くと、10階層のボスはスライムなんじゃねえの?」
「いや、流石にそれはないやろ。
そんなん弱すぎて相手にならへんで」
「まあ今までのやつらだとそうなんだけど、ボスだったらさすがにもうちょっと強く設定されてると思うんだよな」
確かにこれだけスライムばっかりだったんだから、ボスもスライム系の気がする。
「お、地図的にはそろそろ10階層も終わりそうな気がするぜ」
そう言ってワビスケが地図を見せてくれた。
10階層の地図はもうかなり道が描かれていて、今から向かう先が最後の空白部分のように見える。
「ほら、やっぱりな。
ここが最後の部屋だろ」
ワビスケの言葉通り、地図の空白部分に差し掛かると、そこは部屋になっていて奥には階段が見えた。
そして、その階段の前にはボスらしきモンスター、巨大なスライムがいた。
「ホンマにスライムがボスなんか。
アイツも新しいモンスターなん?」
「そうだな。
見たことないヤツだ。
一応、情報収集してから倒そう。
今回は俺とマイコとエイシで接近戦だ。
熊は援護だけど、スライムだからな。
必要ないかもしれない」
ワビスケの指示にみんな頷いて戦闘を始める。
まず、ワビスケがアメノムラクモで切りかかった。
ここまでのスライムに対するのと同じやり方だ。
とりあえず様子見するつもりなんだろう。
同時にレンズを使って情報収集をしているみたいだ。
「えーと、コイツはスライムレクスだな。
ステータスはどれもトロールドゥクス以下だ。
雑魚だな。
だが、やっぱりこいつも能力を持っているみたいだ。
能力は物理攻撃無効だ。
って、物理無効?
マジかよ」
ワビスケが驚いて声を上げた。
「無効?
ホンマなん?」
マイコさんも驚いている。
「ああ、どうやらそうらしい。
ちょっと確認してみる」
そう言って、ワビスケはアメノムラクモでスライムレクスを切る。
だけど、切れない。
何度か試している。
でも、全く効いている様子はない。
「マジだ。
コイツ、斬撃が効かねえ」
「ちょっとウチも試すで」
そう言ってマイコさんがハンマーで殴りかかった。
それはすごい勢いでスライムレクスに叩き付けられて、……そのままの勢いで跳ね返された。
「うわっ。
なんやこれ」
試しに僕も切ってみたけど、ワビスケと同じだった。
切れない。
「熊!
ちょっと銃で撃ってくれ!」
ワビスケが離れた場所にいる熊に声をかけた。
「おう」
熊はすぐに持っていた銃でスライムレクスに向けて発砲した。
弾丸が飛んでくる。
でも、それはスライムに当たると、マイコさんのハンマーと同じように跳ね返ってどこかへ飛んで行った。
「銃も物理判定なのか」
「熊、さっきのビームはどうだ?」
「おう、ちょっと待ってろ」
そう言って熊はかばんを漁りだした。
さっき僕が使ったビームを探しているんだろう。
「俺もコイツを試すか」
ワビスケは自分のかばんから火炎放射器を出した。
キリアラプトルに使ったやつだ。
「エイシ、マイコ、離れてろ!」
僕たちはスライムレクスから距離を取った。
ワビスケはそれを確認して、スライムレクスに炎を浴びせかけた。
すぐに、周囲に何かが焼ける匂いが広がる。
「お、効いてるんじゃないか?」
ワビスケはしばらく攻撃した後、炎を止めた。
炎の下から出てきたスライムレクスは炭のように真っ黒になって固まっていた。
「倒したか?」
スライムレクスは動かない。
でも、僕はまだスライムレクスの雰囲気がさっきと変わらないことに気づいた。
「多分まだだよ」
僕がそう言った直後、スライムレクスの体に亀裂が入った。
そして、炭のようになった体が剥がれ落ちる。
中から元の無傷なスライムレクスが現れた。
「うげっ。
今の攻撃でも効いてへんのか」
「くそっ。
物理はダメで焼くのもダメってことか」
「おい!
行くぞ!」
熊の準備ができたらしい。
声をかけてきた。
「いいぞ!」
ワビスケの声を聞いてすぐに熊はビームを撃ってきた。
それは、トロールレクスを倒した時と同じようにスライムレクスに当たる。
そして、スライムレクスを焼いた。
スライムレクスはトロールレクスほど大きくはない。
すぐにビームに包み込まれて全体が焼けていった。
しばらくして熊はビームを止めた。
スライムレクスはさっきと同じように炭みたいになっているけど、気配は変わらない。
「やっぱりダメみたい。
全く効いてないのかな」
「いや、表面だけだが効いてはいるみたいだ」
ワビスケはレンズを付けてスライムレクスの状態を確認している。
あれでダメージが通っているかどうかも分かるんだろう。
「ほな、これをずっと続けたら倒せるってことなん?」
「多分な。
まあ、ちょっと面倒だがそれしかないか。
ああ、それか魔法を使うって手もあるかもしれないな。
物理無効ってことは魔法は通るはずだ」
「魔法?」
そんなのがあるのか。
初耳だ。
「ああ。
一応、俺たちプレイヤーは魔法を使えるんだ。
と言っても、なんでも使えるわけじゃないが」
「どうして今まで使わなかったの?」
「めちゃくちゃ弱いからだよ。
魔法なんて使うんだったら、レベルを上げて物理攻撃した方がよっぽど効率がいいんだ。
だから、最近は誰も使ってない」
「ウチ魔法なんて覚えてへんで。
熊も多分同じや。
あんた使えるん?」
「まあ、火系をちょっとだけな。
とりあえず、使ってみるわ」
そう言ってワビスケは手をスライムレクスの方へ向けた。
いきなり、手から炎が飛び出した。
火炎放射器よりはかなり小さい炎だけど。
「何それ。
すごい。
いきなり火を出せるの?
準備とかいらないの?」
「ああ、準備というか、一応詠唱ってのはある。
呪文を唱えるってことだ。
だが、それは必須ってわけじゃないんだ。
唱えた方が威力は多少上がる。
でも、そんなに変わらないし、恥ずかしいから俺は使わないけどな」
炎はゆっくりしたスピードでスライムレクスに当たった。
そして、表面を焦がす。
大したダメージは与えられてなさそうだ。
「やっぱダメか。
火炎放射器がダメな時点で大体分かってたけどな。
もっと他の魔法を使えばいいのかもしれないが、俺はこれ以外使えないしな」
「もしかして最近魔法が使われなさ過ぎたせいで、アップデートで物理無効とか実装したんちゃう?
無理矢理にでも魔法の使い道を作ったとか。
物理耐性は今までもあったけど、無効なんてなかったやろ」
「それは大いにありえるな。
製作者の中に魔法が好きな奴がいて、ソイツが魔法の存在意義を出すためにやったとか。
ああ、十分ありえる」
「とりあえず、コイツはどうする?」
「まあ、少々面倒だが何か攻撃してくるわけでもないし、熊のビームと俺の火炎放射器でじっくり倒すか」
ワビスケがそう言って火炎放射器を取り出した時、スライムレクスがぶるっと震えた。
「ん?」
そして、なんだか小さくなった。
「なんや?
なんか縮んだで」
次の瞬間、スライムレクスが一気に膨張した。
同時に、体の欠片を大量に周辺に撒き散らした。
まるでスライムを中心に銃を乱射したかのような攻撃だった。
その欠片は一斉に僕たちに降り注いだ。
多少離れていたとはいえ、そんな大量の攻撃は避けきれない。
僕たちはもろに食らって吹っ飛んだ。
「痛たたたたっ」
かなり痛い。
「おい、エイシ、マイコ、大丈夫か?」
ワビスケの声が聞こえる。
「ウチはなんとか」
「僕もだいじょ、痛っ」
腕に鋭い痛みが走った。
見ると、体の至る所から血が出ている。
「回復薬を使え!」
ワビスケはそう言って、回復薬も取り出した。
マイコさんもだ。
僕もすぐに自分のかばんから回復薬を取り出して飲んだ。
体の傷が治って、痛みが引いていく。
「なんやねん、さっきの攻撃。
ウチらにダメージを与えるってかなりの威力やで」
「ああ、ちょっと待て。
調べる」
そう言って、ワビスケはレンズを付けた目でスライムレクスを凝視している。
「さっきのは【スライム達の反撃】って攻撃らしい。
このダンジョンで倒したスライムの数に応じた固定ダメージを与えてくるみたいだ。
防御無視ってやつだろう。
くそっ、迂闊だったな。
ここまでの階層でのスライムにはそんな意味があったのか」
「なんやねんそれ?
そんなん今までなかったやろ」
「ああ。
これも新モンスターならではだな。
今回のアップデートは今までになかった要素を色々取り入れてるってことだろう」
僕たちが話していると、またスライムレクスが縮んだ。
さっきの攻撃をしてくるつもりだ。
「いくぞ!」
熊の声が聞こえた。
直後、ビームが飛んでくる。
それは、縮み始めたスライムを焼いた。
「熊、ナイスやで!」
スライムは縮みかけた状態で焦げて固まった。
でも、すぐにその体に亀裂が入って、中から無傷な状態で現れた。
そして、また縮み始める。
「くそっ」
今度はワビスケが火炎放射器で焼いた。
スライムは焦げて固まる。
「一旦離れるぞ」
ワビスケに従って、僕たちは熊のいるあたりまで退いた。
そして、離れた所からスライムレクスの様子を見る。
スライムレクスはまた無傷な状態で復活した所だった。
そして、また縮んで小さくなった。
「これだけ離れてたら大丈夫やろ」
マイコさんがスライムレクスの方を見て言った。
スライムレクスの体が膨張する。
すると、今度は大量の体の欠片が一直線にこちらに飛んできた。
さっきの無差別な全方位攻撃とは違う。
はっきりと、こちらに向かって飛んできている。
「うおっ、逃げたら追っかけてくるのかよ」
ワビスケがそう言って、防御の姿勢になる。
マイコさんと熊も同じだ。
三人はすぐに最適な行動を取ったんだと思う。
でも、僕はすぐにそんなふうに動くことはできなかった。
どんどん欠片がこっちに飛んでくるのが見える。
脳裏にさっきの痛みがよみがえる。
思えば怪我をしたのは初めてのことだ。
痛みというのがこんなに不愉快な感覚だと初めて知った。
そして、目の前に同じ攻撃が飛んできている。
あれは食らいたくないと心の底から思った。
僕は無意識のうちに手に持っていたアメノムラクモを振り回した。
一応、迫ってくる欠片を切ろうとしたんだと思うけど、自分でも無我夢中で行動の意味なんて考えていなかった。
降り注ぐ欠片に向かって、剣を振る。
なんの計算もない無様な行動だけど、必死だった。
持てる限りの力を込めて剣を振った。
そして、剣から薄い刃のような形状の何かが飛び出した。
それは飛んでくる欠片を消し飛ばしながら真っ直ぐ進み、スライムレクス本体を両断した。