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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
31/86

5階層 中ボス【トロールレクス】

「じゃあ、とりあえず俺が先行して剣で攻める。

 エイシはサポート頼む。

 熊とマイコは遠距離から援護してくれ」


「任せてえや。

 ほら、熊、武器貸して」


「仕方ないな。

 壊すんじゃないぞ」


 熊がかばんから大きな筒状の武器を出してマイコさんに渡した。


「お、バズーカか。

 ええ感じやん」


 マイコさんは小さな体に似合わない大きな武器を構えた。

 バランスは悪いけど、使い方はちゃんと分かっているみたいだ。


 マイコさんが構えたのを確認して、ワビスケはトロールに向かった。

 僕もその後ろをついていく。


「エイシ、あれは新種のトロールだ。

 今まではあそこまでデカいやつはいなかった。

 今回のアップデートで追加された新モンスターの一種だろう。

 だから、俺は最初は情報を収集しながら戦う。

 お前もしばらくは様子を見ながらけん制してくれればいい。

 心配ないとは思うが、どんな攻撃をしてくるかも分からないから、一応俺がいいと言うまで近づき過ぎないようにしてくれ」


「うん、分かった」


 ワビスケは僕に指示を出しながら、ポケットからレンズみたいなものを取り出して右目につけた。

 なんなんだろ、あれ。


「これはモンスターの情報を調べることができるアイテムだ。

 見るだけで名前とかステータスとかが分かるんだ」


 僕の不思議そうな表情に気づいて、ワビスケが簡単に説明してくれた。


「じゃあ、行くぞ」


 ワビスケがアメノムラクモでトロールに切り付けた。

 トロールはドゥクスと同じようにワビスケの攻撃を腕で防いだ。

 だけど、ドゥクスと違ってそれほど切れてはいない。

 表面が傷ついたくらいだ。


「お、ボスだけのことはあるな。

 なかなかの防御力だ。

 さすがにドゥクスとは格が違うってことか」


 ワビスケは特に動揺したりはしていない。

 これくらい想定の範囲内だったんだろう。

 続けて攻撃をしようとしている。


「ウチもいくでーーー!!」


 後ろの方でマイコさんの元気な声が聞こえた。


「お、おい。

 ちょっと待て!

 まだ情報収集が」


 ワビスケは急いで止めようとした。

 だけど、ワビスケの言葉が終わらない内にマイコさんの構えたバズーカから砲弾が飛んでくるのが見える。


「チッ。

 エイシ、もっと離れろ」


 僕は急いで逃げた。

 ワビスケからトロールに近づき過ぎないように言われていたのが幸いした。

 すぐにその場から距離を取る。

 ワビスケはトロールのすぐ傍にいたけど、マイコさんの行動を見るなり即座に逃げていた。

 その判断のおかげで、砲弾がトロールのすぐ横に着弾した時にはそれなりに離れることができていた。


 激しい爆発が起きる。


 ワビスケのロケットランチャーほどじゃないけど、かなりの威力だ。


「たーまやー」


 マイコさんが嬉しそうな声で喚いている。

 そのセリフは前にワビスケが言っていたのと同じだ。

 やっぱり似たもの同士だよね。


 マイコさんはすごく楽しそうだけど、僕とワビスケを巻き込む寸前だった。


「おら、マイコ!

 俺とエイシを殺す気か!」


 ワビスケが怒っている。


「なんでやねん。

 ちゃんと撃つ前にいくでって言ったやん」


「こっちの動きを見て攻撃しろって言ってんだよ。

 いくっつっても、こっちが離れられる状況じゃなかったら意味ねえんだよ」


「そんなん分かってるわ。

 ちゃんと避けられたんやからええやんか。

 ほら、どんどんいくで!」


 マイコさんはワビスケの言葉を聞く耳を持っていないみたいだ。

 連続して砲弾を放ち続ける。


「エイシ、あれはダメだ。

 遠距離支援には向いてねえ。

 危ないから、しばらく離れて様子を見るぞ」


「うん」


 僕たちはちょっと離れた所で、マイコさんがどかどかバズーカを撃っている光景を眺めていた。

 ちなみに熊はマイコさんの横で突っ立って何もしていない。

 止めようとしても無駄だと分かっているんだろう。

 付き合いの長い熊がそうしているんだから、しばらくは放っておいた方がいいんだと思う。


「さっきちょっとだけ戦った時に、いくつか情報を手に入れたぜ」


 ワビスケが話しかけてきた。


「へえ。

 すごいね。

 そんなにすぐ調べられるんだね。

 何が分かったの?」


 情報屋というだけあって、手際がすごくいい。


「アイツの種類はトロールレクスだ。

 ドゥクスの上位種だな。

 ざっと見た限りでも、ステータスはドゥクスより数段上だったぜ。

 ドゥクスの統率者って設定らしい。

 アイツが管理しているドゥクスは通常よりかなり再生力が高くなるらしい。

 このダンジョンのドゥクスが異常にしぶといのはアイツのおかげってことだろうな」


「へえ。

 ボスってそんな効果があるんだね」


「ああ。

 あるやつにはあるって感じだ。

 かなり珍しいけどな。

 それにしても、ここから1階層のドゥクスまで影響を及ぼすってのは中々効果範囲が広いな。

 強さはまだよく分からないが、統率者ってのは飾りの設定じゃないらしい」


 その辺りの判断は僕にはよく分からないけど、ワビスケが言うならそうなんだろう。


「倒せそうだった?」


「まあ、問題ないな。

 イベントに出てきたヤマタノオロチより弱いと思うぜ。

 一人ではちょっとキツイかもしれないが、協力したらどうってことねえ。

 ただ、しぶとさはドゥクスと同じだろうからな。

 仕留めるのは少し骨が折れるかもしれないな」


「分かった。

 僕も手伝うけど、最初のドゥクスみたいな倒し方はやめてよ」


「おう、分かってる。

 だが、それは俺よりマイコに言った方がいいかもしれないぜ。

 アイツ、見境なく攻撃してるからな」


 僕たちの目の前ではまだマイコさんが放つ砲弾がトロールレクスに降り注いでいる。


「あれだけ爆発させてダンジョンが壊れたりしないの?」


「ここは大丈夫だと思うぜ。

 もっと狭いところなら天井が崩落してきたりする可能性があるが、ここはかなり広いだろ?

 こういうところはかなり頑丈にできてるから、大丈夫なはずだ。

 お、マイコのやつ、もう弾切れみたいだぞ。

 ペース配分も何もあったもんじゃないな。

 アイツ、俺が頼んだ援護の意味分かってないな」


「ははは」


 僕は苦笑いするしかない。


 そのまま見ていると、段々爆煙が晴れてきた。


「どや?

 もしかして終わったんちゃう?」


 マイコさんは期待に満ちた目でトロールレクスの方を見ている。


「馬鹿だよなあ。

 あの程度でボスが倒せたら苦労はないっての」


 ワビスケのツッコミは離れているマイコさんの耳には届いていない。

 聞こえてたらいつも通り言い争いが始まっただろうな。


「お、見えてきたぞ。

 って、げっ」


「う、うわあ」


 見えてきたトロールレクスはひどい有様だった。

 元々見た目は醜い化け物って感じだったんだけど、今は爆発の影響で皮膚が溶けてゾンビみたいになっている。

 醜いどころじゃない。

 頭の一部は骨が露出しているし、とても正視していられない。

 怖すぎる。


「うげっ。

 なんやねん、あれ。

 キ、キモすぎるやろ」


 そんな状態にした張本人のマイコさんが勝手なことを言っている。


「お前のせいだよ!

 散々俺の戦い方を悪く言ったくせに、お前だって十分グロいことしてんじゃねえかよ」


「ちゃうわ。

 ウチ、こんなんなるって思ってへんかったもん。

 う、うわ、動き出したで。

 怖い、怖いって。

 ワビスケ、はよ倒してえや」


「はあ。

 ホント、どんだけ勝手なんだよ。

 まあ、言われなくても倒すけど。

 おい、エイシ。

 行くぞ」


 ワビスケは僕の方を向いて言った。


「え?

 僕も行かなきゃダメ?」


「さっき言っただろ。

 一人ではキツイって。

 悪いけど、サポートだけ頼む。

 できるだけそっちには攻撃させないようにするから。

 熊に頼んでもいいかもしれないが、流石に拳であれと戦えってのはな」


 そういえば、熊は接近戦の時はグローブを使っていた。

 素手ではないとはいえ、それに近い装備であの状態のトロールレクスを殴れってのはちょっとかわいそうだ。

 ワビスケが僕のことを気遣ってくれてるのは分かるし、いつまでも怖い怖いって逃げてても仕方ない。


「分かった。

 できることはやるよ」


「おう。

 助かる。

 頼むぜ」


 僕たちは剣とナイフでトロールレクスに切りかかった。







 トロールレクスを倒した。


「うう、もう嫌だ」


 無事倒せたけど、僕はもうダメだ。


「エイシ、よくがんばったぜ。

 おい、マイコ!」


「そ、そやな。

 エイシ君。

 偉いで。

 ほんま、ありがとうな。

 ごめんな、ウチが悪かったわ」


 マイコさんにめちゃくちゃ謝られる。


「さすがに今回のはひどいよ……」


 僕がこんな風になってるのには理由がある。


 別にトロールレクスが強かったわけじゃない。

 というか、ただしぶとかっただけで戦い自体は全然余裕だった。

 マイコさんのバズーカが効いていたのかもしれないけど、動きは大して速くなかったし、特殊な能力なんかもなかったみたいだ。


 ただ、僕の武器はナイフだ。

 そして、トロールレクスの皮膚は溶けてドロドロな状態だった。

 それなりに刀身が長いアメノムラクモを使っていたワビスケはまだしも、ナイフの刀身なんてたかが知れている。

 僕が攻撃する時には、まともなダメージを与えようとすると、どうしてもドロドロの皮膚に手を突っ込んでその奥を切る必要があった。

 ほとんどの攻撃はワビスケが対処してくれていたから、僕は自分の攻撃に集中できたんだけど、集中すればするほど、気持ち悪い感触が手に残って寒気がした。

 思い出しただけでも気持ち悪い。


「まったく。

 熊が武器を貸し渋ったのも分かるぜ。

 マイコ、お前は遠距離には向いてねえよ。

 今回みたいに近接の援護は性格上絶望的だし、遠距離から仕留めるような相手だったとしても、あんだけペース配分なしに撃ちまくる様なヤツには無理だ。

 これからは、お前近距離専門な」


 ワビスケはちょっと冷たく言い放つ。


「うう。

 しゃあないな。

 分かったわ」


 珍しくマイコさんが反論せずに受け入れた。

 それだけ今回のことを反省しているんだろう。


「エイシ、そういうわけだから、もう今回みたいなことはないはずだぞ」


 ワビスケがそう声をかけてくれる。


「うん。

 でも、僕もうナイフではトロールと戦わない!

 決めた!」


 僕は強く宣言した。

 今回はナイフで戦ったから、こんなに気持ち悪い思いをしたんだ。

 確かにこのナイフは強いけど、強いからって万能ってわけじゃない。

 

「そ、そうか。

 まあ、使いたい武器とかあったら貸してやるから言ってくれ」


 僕の突然の宣言にワビスケがちょっと引いている。

 ワビスケには僕が体験した気持ち悪さが分からないんだ。

 いいんだ。

 僕はもっと違う武器も使えるようになるんだ。


「とりあえずもう少し考えてみるけど、決めたら言うよ」


「おう。

 まあ、ボスも倒したことだし、今日の探索はこの辺にしとくか。

 続きは明日だな」


「そやな」

「そうだな」

「うん」


 こうして、僕の初ダンジョン探索と初ボス討伐は幕を閉じた。

 結果だけ考えたら順調そのものだと思うけど、僕に残ったのはロクでもない記憶ばかりだった。

 明日からはもっと楽しく攻略できたらいいなと思った。






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