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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
30/86

初ダンジョン2

 トロールを倒した後もダンジョンの探索を続けている。


 僕とマイコさんが責めすぎたせいでワビスケはしばらくすねていた。

 でも、あれはワビスケも悪いと思う。

 まあ、すぐに元に戻ったけど。


 しばらく先に進むと、下に降りる階段を見つけた。


「階段?」


「おう。

 もう一階層は終わりか。

 余裕だったな」


「え?

 一階層?」


「ああ。

 ダンジョンってのは階層構造になってるのが多いんだ。

 ダンジョン全体の八割くらいはそうだな。

 それ以外のは迷路みたいな洞窟なんかだが。

 とにかく、階段があるってことはここもそういう構造ってことなんだろう。

 こういうところは、基本的に深い所へ進めば進むほど、敵が強くなっていく」


「じゃあ、さっきのゴーレムとトロールは弱いってことなの?」


「このダンジョンの中ではな。

 そりゃそうだろ。

 上限解放された後に実装されたダンジョンなのにレベル100そこそこの俺たちが楽に勝てる敵なんて強いはずがないって。

 大体のダンジョンは20から30階層くらいまである。

 デカいやつなら100階層なんてのもあるけどな。

 ここが何階層まであるか分からないが、深ければ深いほど強い敵が出てくるのは確かなはずだぜ」


「大丈夫なの?」


「どうだろうな。

 どこかでそれ以上進めなくなるとは思うぞ。

 だから、ある程度進んでキツくなったら、その手前の階層でレベル上げってのが基本だ。

 こういう作業も久しぶりだから楽しいもんだぜ。

 エイシだってレベルの設定はなくても戦えば成長するだろうから、どんどん戦ってけばいいんだ」


「そうだね。

 さっきのトロールみたいなのは怖いけど、がんばってみるよ」


 僕たちは階段を降りた。

 二階層だ。

 雰囲気は一階層とあまり変わらない。

 とりあえずワビスケを先頭に進む。


「さて、ダンジョン攻略についてなんだけどな」


 唐突にワビスケが話し始めた。


「うん」


「エイシは方向感覚はしっかりしてる方なのか?」


「え?

 方向感覚?

 どうだろう。

 でも、ファスタルの裏通りでは迷ったよ」


「ああ。

 あそこは誰でも迷うから気にすんな。

 ダンジョンではな、ファスタルほどじゃないにしてもよく迷っちまうんだ。

 似たような道が続くからな」


「それはそうだね。

 ここまでもずっと同じ感じの道だし。

 でも、迷ったら来た道を戻ればいいんじゃないの?」


「それはそうだが、モンスターと戦ったりしてるとどっちから来たのか分からなくなることがある。

 それに深い階層まで進むと、そこまでの道を全部覚えておくってのも大変だ」


「確かにそうかも。

 じゃあ、どうすればいいの?」


 ワビスケの態度からして対策があるのは明らかだ。


「これを使うんだ」


 そう言って、ワビスケが取り出したのは白い紙だ。

 ちょっとだけ道が書いてあるけど、ほとんど何も書いていないのに近い。


「何これ?」


「ダンジョン攻略に必須のアイテムだ。

 これはな、自分が通った道を自動で地図にしてくれるんだ」


「そうなんだ。

 すごい便利だね。

 貴重なものなの?」


「いや、全然。

 どこでも売ってる」


「え。

 そうなの?

 じゃあ、なんでそんなにもったいぶって説明したのさ」


「エイシが初心者プレイヤーの気分を味わえるようにだよ。

 すげーって思っただろ?

 俺はこれを始めて知ったとき、めちゃくちゃ衝撃を受けたからな」


「すごいとは思ったけど、なんていうか今までもっとすごいものばかり見てきた気がするから、今さらそんなに驚けないよ」


 実際、キリアラプトルだとか製作者だとかに比べたらインパクトは小さい。


「つまんねえ奴だな。

 これが道で埋まってくのを見るのは快感以外の何ものでもないんだぜ。

 こういう自分の足でやる情報収集ってヤツがダンジョン攻略の醍醐味だ」


「それはちゃうで。

 モンスター討伐や」


「いや、素材採取だ」


 またこの話になってしまった。

 三人とも譲れないものがあるらしい。

 僕もそれくらい面白い何かが見つかったらいいんだけど。

 まあ、今は何をしてても楽しいんだけどね。


「あ、何か来るよ」


 先の方から気配がする。


「さて、2階層はどうかな」

「まあ、まだ余裕やろ」


 ワビスケとマイコさんが構えた。


 向うから来たのはクワドラプトルだった。

 それも3頭同時に来た。


「ラプトルはもうええのに。

 ワビスケ、任せてええか?」


「ばかたれ。

 流石にクワドラプトル3頭は手分けしないと無理だっての」


「なんか大きくない?」


 前のイベントに出てきたクワドラプトルよりも大きい気がする。


「ああ。

 こっちが普通のサイズだよ。

 イベントの時は生まれたてで小さかったんだ」


 そういえば、あのイベントで出てくるのは弱いやつだったんだっけ。


「とにかく今は酒もないからな。

 油断せずに戦おう。

 基本的に俺と熊とマイコが一体ずつだ。

 エイシはそれぞれを援護して倒すのを手伝ってくれ」


「分かった」


 ナイフを取り出す。


 すぐにクワドラプトルたちが襲い掛かってきた。





 意外とあっさり倒せた。

 ていうか、この間のイベントのおかげでラプトルにはかなり慣れている。

 だから、どうすればいいのか分かっていたし、落ち着いて対処できたんだ。

 まあ、僕はほとんど何もしてないんだけどね。

 三人がそれぞれのクワドラプトルを抑えてくれていて、僕はそれをナイフで攻撃していっただけだ。

 僕の攻撃でそれなりのダメージを与えた後、とどめは三人に任せた。


「ホント、エイシのそのナイフはでたらめな威力だよな。

 それのおかげで簡単に大ダメージを与えられるから楽だぜ」


「そやな。

 さすがにまともにクワドラプトルの相手したらこんなにパパッと倒すのは無理やもんな」


 僕自身はそれほど貢献できたと思ってなかったけど、褒められるのはやっぱり嬉しい。


「まあ、それというのもここ最近の俺による特訓があってこそだな。

 イベントの時よりも動きが数段良くなってるぜ」

「何言うてんねん。

 ウチの指導の賜物や」

「はあ?

 お前の説明じゃなんも分からなかっただろうが」

「あんたかて適当に言ってただけで役に立つようなこと教えてなかったやん」


 このダンジョンに入る前の剣の特訓のことで言い争いだした。

 今日もワビスケとマイコさんは仲良しだ。


「平和だね」

「そうだな」


 もう僕も熊も慣れたものだ。



 それからも2階層の探索を続けた。

 何度かモンスターとは遭遇した。

 ダイヤゴーレム、トロールドゥクス、クワドラプトル、バイラプトル、ラプトルだ。

 今まで遭った事のあるやつが入れ代わり立ち代わり出てくる感じだった。

 ダイヤゴーレムが出てくるたびに熊の目が輝いて、トロールドゥクスが出てくるたびに僕とマイコさんの目が死んでいた。

 まあ、倒し方は分かっているし、2階層でさっきより多少強くなっているとはいえ、それほど劇的に変わったわけでもない。

 大して苦労せずに倒すことができた。

 僕たちは順調に2階層の攻略を進めた。


「そういえばさ、さっきダンジョンにはお宝があるって言ってたよね?」


「おう」


「どうやって見つけるの?

 ゴミ屋敷と同じ感じ?」


「いや、ダンジョンのはもっと分かりやすいぜ。

 宝箱とかに入ってるからな」


「へえ。

 どんなアイテムが見つかるの?」


「そりゃダンジョンのレベル次第だな。

 ここはかなり難易度が高いから、いいアイテムを期待してもいいと思うぜ。

 まあ、もう少し深い階層まで行かないと出てこないだろうけどな」


 そういうものらしい。

 僕はアイテムを見つけるのが得意だと思うから、ダンジョンにあるアイテムについてもちょっと興味がある。


「お、階段だ」


 3階層への階段を見つけた。


「なんだかサクサク進んでるよね。

 もっと苦労するのかと思ったよ」


「まあ、俺たちはアップデート前の上限レベルだからな。

 俺たちがこんな浅い階層で苦労させられたら、現状では誰にも攻略できないダンジョンになっちまうぜ。

 とはいえいつまでも楽に進めるはずはないから、余裕がある階層は一気に進むぞ」



 3階層もそれまでとそれほど変わりはなかった。

 降りてすぐにトロールと遭遇したけど、大して強さは変わらなかった。


「あんまり強くならないね」


「そうだな。

 微妙に変わってはいるが、この程度なら問題ないな」


「まあ、まだあんまりちゃんとバランス調整もできてないかもしれんしな。

 ウチらの攻略データ見て調整するんちゃう。

 ある意味、ウチらで最終調整してるんかもしれへんな」


「そうだな。

 もっとちゃんと調整しとけよって感じだけど、実際の操作に関しては管理者よりも俺たちの方が慣れてるだろうからな。

 俺たちを使って集めたデータの方が、現実に役に立つデータになるんだろうな」


「とりあえずはワビスケの言うとおり、ガンガン進んだらええやろ。

 こんなとこでじっくり攻略する意味ないもんな」


「おう。

 今日中に一体くらいボスと戦いたいんだよな」


 ボス、というのは僕にとってとても気になる存在だ。

 イベントでヤマタノオロチは倒したけど、あれはボスって感じじゃなかった。

 キリアラプトルがボスっぽかったけど、倒せなかった。

 もし、ここでボスを倒せたら僕にとって初のボス打倒ってことになると思う。

 それは楽しみなことだった。

 ファスタルで役割をこなしていた時、ボスを倒したことがあるプレイヤーたちはみんな誇らしそうだった。

 それを見て、なんとなく憧れていたんだ。



 ワビスケとマイコさんが先導して攻略を進めた。

 3階層、4階層と全く問題なく進んだ。

 5階層も今のところ順調に進んでいる。

 相変わらず、モンスターは同じ種類しか出てこない。

 そして、ここまでの感じからしてこの階層もそろそろ終わりだと思う。

 そんなことを考えていると、ワビスケが立ち止まって話しかけてきた。


「さて、ここまで非常に順調に進んできたわけだが」


「なんやねん、改まって」


「別に改まってはねえよ。

 多分、この階層の最後にこのダンジョンで始めての中ボスがいると思う。

 5階層だしな」


「ああ、そういえばそうやな」


「そうなの?」


「大体ダンジョンのボスは5階層か10階層ごとに現れるんだ。

 5階層には現われないこともあるが、大抵出てくる。

 まあ、こんなに浅い階層のボスだから問題はないだろうが、しっかり注意していこう。

 休憩したければ今休もうかと思ったんだが、どうだ?」


「そんなんいらんわ」

「そうだね」

「この程度でバテるやつなんておらんぞ」


 誰も疲れてはいないと思う。

 大したことはしてないしね。


「そうか。

 このパーティは全員ぶっ壊れ性能気味だから、そうだろうとは思ったが。

 自覚がないのはいいことか悪いことか微妙なとこだけどな。

 ……まあいいか。

 じゃあ、行こう」


 それからほどなくして、階段を見つけた。

 ワビスケの予想通り、ボスらしきモンスターがいる。

 ト、トロールだ……。


「ええええ。

 なんなんあれ。

 トロールやん。

 しかもめっちゃでかいやん。

 嫌や。

 ウチあんなんとやりたくないわ。

 ワビスケ、あんたに任せるわ」


「いやいや。

 何言ってんだよ。

 さすがにボス相手だったら協力しないと無理だっての。

 って、おい、エイシ。

 何逃げようとしてんだよ」


 僕は無意識のうちに後退りしていた。

 別に逃げようとはしていない。


「だって、怖いんだよ。

 別にトロール自体が怖いんじゃないよ。

 トロールを見ると、ワビスケが最初に倒したやつのことを思い出して怖くなるんだよ。

 アイツ、すごく大きいから怖さも倍増なんだよ。

 逃げるつもりはないよ。

 でも、あんなのに近づくのは嫌だよ」


「そや、ウチらは遠距離からサポートするから、あんたが接近戦してや」


「逆だよ、逆。

 本来俺の方が遠距離支援型だよ。

 マイコとエイシは近接戦しかできないだろうが」


 確かに僕はナイフしか使ったことはない。


「なんでやねん。

 ウチは遠距離もいけるわ」


 マイコさんはそうでもないらしい。 


「嘘つけ。

 ハンマーしか使えないだろうが」


「はあ?

 ウチなんでも使えるわ。

 熊、なんか適当な遠距離用の武器貸してえや」


「別に貸すのは構わんが。

 本当にマイコが遠距離攻撃するのか?」


 なんだか熊がためらっている。


「やるって。

 ワビスケ、それでもええやろ?」


「使えるなら構わないんだが、熊、大丈夫なのか?」


「大丈夫やって言ってるやん。

 なんで熊に確認するねん」


「いや、なんか熊の態度がおかしいからだよ。

 本当に使えんのかよ」


「使えるわ。

 とりあえず試したらいいやんか。

 あかんかったら大人しくハンマーで戦うって」


「しょうがねえな。

 じゃあ、それで行くか」


 どっちにしても僕はナイフなんだよね。

 僕はため息をついて、覚悟を決めた。





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