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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
19/86

イベント続報

 熊達と協力することにしたけど、とりあえずは何も変わらなかった。

 イベントの内容が分かってないから、それが分かるまではそれぞれ今までどおり行動することにしたんだ。

 僕とワビスケは掃除屋のホームを、熊とマイコさんは熊の工房を拠点に動いていた。

 ワビスケが常に連絡を取り合って情報は共有していた。

 でも、相変わらずイベントの詳細は分からなかった。


 ワビスケは情報収集を続けていたけど、数日は何の収穫もなく僕たちは相変わらずゴミ屋敷でビン拾いとかアイテム探しとかラプトルの討伐とかをしていた。

 なんだかラプトルが大量に出てきているらしくて、常にラプトルの爪の収集の依頼があった。

 それなりに効率のいい仕事だってワビスケは言ってたけど、個人的にはアイテム探しの方が楽しかった。

 でも、放置して大量発生みたいになったら大変だから、できたらこまめに討伐してほしいって掃除屋のリーダーのミナミさんに頼まれて、ちょこちょこ倒している。

 ホームを自由に使わせてもらってるから、それくらいの頼みは聞くことにしたんだ。


 そういえば、僕たちがそんなことをしている間に熊は本当にアイテムサーチャーの改良に成功した。

 と言っても、元がどんなのだったか知らないから、どの程度の改良なのか僕には分からない。

 でも、改良してからマイコさんが二つ回復薬を見つけたから効果はあったみたいだ。

 アイテムを見つけた日にはマイコさんはかなり上機嫌になったらしい。

 その後、出会った時にワビスケにもめちゃくちゃ自慢していた。

 ワビスケは自分ではアイテムを見つけたことがない。

 まあ、そんなに簡単に見つけられるようなものじゃないから仕方ないと思う。

 僕自身は、アイテム探しをした日には一日に三個くらいは見つけている。

 でも、レアアイテムは筋力アップを一つ見つけたくらいで、ほとんどが回復薬だった。

 僕としてはアイテム探しは宝探しみたいなものだから、別に何が見つかっても嬉しいんだけどね。


 今日もアイテム探しをしている。

 メンバーはワビスケ、熊、マイコさん、僕の四人だ。

 いつも集まってるわけじゃないけど、ワビスケとマイコさんがどっちが先にアイテムを見つけられるか勝負だ、とか言ってこうなった。

 マイコさんがワビスケに自慢しまくったせいだ。

 なんでも、今日は公平な勝負にするためにマイコさんはアイテムサーチャーを使わないらしい。

 それだと多分二人ともアイテムなんて見つけられないと思うけど、喧嘩にならないならその方がいいよね。

 多分、熊も同じことを思っているのか、特に口出しはしていない。


 僕たちは四人で話しながらゴミ屋敷の中を動き回った。

 僕は一応空きビンも拾っている。

 でもあんまり拾い過ぎると荷物が重くなるから、本当に少しだけにしている。

 僕が何か見つけたようなそぶりを見せると、ワビスケとマイコさんは敏感に反応して僕が進む方を確認していた。

 多分、僕がアイテムを見つけたら先回りして自分が見つけたことにしようとしているんだと思う。

 普通ならアイテムの横取りになるから、かなり悪質な行動らしい。

 でも、ワビスケもマイコさんもアイテム自体に執着してるわけじゃないから、アイテムは後で僕に渡すつもりだろう、というのは熊の言葉だ。

 単に負けたくないだけだから、相手より先に見つけたという形だけほしがっているんだろうとのことだった。

 多分熊の言うとおりだろうし、別に横取りされたって僕はそんなに気にしないからどうでもいいんだけど、ただ、やり方がセコイなと思った。

 なんだかやってることが子供みたいだと思った。

 まあ、そんな風に四人でワイワイ言いながらアイテムを探し回るのはとても楽しかったから、僕としてはなんでもよかったんだけどね。


 と、なんか光ったような気がした。

 その場所に向かう。

 

「なんだ。

 ただのガラスの欠片か」


 アイテムじゃなかった。

 まあ、よくあることだけど。

 そこで、後ろにいたワビスケとマイコさんが立ち止まっていることに気づいた。

 全く僕の行動に注意を払っていなかったみたいだ。

 さっきまで僕がアイテムを見つけるのをめちゃくちゃ注意してたのに。

 二人とも何やら険しい顔をしている。

 熊もだ。


「どうしたの?」


「イベントの続報だ。

 完全じゃないが、それなりに具体的な情報が来た。

 あんまり良くない情報だが」


「せやな。

 これはちょっと性質が悪いかもしれへん」


「まあ、ワシらがうまく動けばどうにかできるとは思うが」


 三人とも同じような表情だ。

 でも、僕には告知は来てないから、話についていけない。


「どんな情報だったの?」


「ああ、悪い悪い。

 エイシにも説明しなきゃな。

 俺がこの間、街での討伐系イベントはロクでもないって言ってたの覚えてるか?」


「うん。

 なんか急にモンスターが湧いてくるって言ってたやつだよね」


「ああ。

 今回もその類だ。

 いや、ちょっと違うっちゃ違うんだが。

 考えようによっちゃ今回はもっと悪いかもしれない」


「どういうこと?」


「今回のイベントはラプトル種の異常増殖って名前だ。

 どうやら最近ゴミ屋敷付近にラプトルが大量に現れてたのはこのイベントの前フリだったみたいだ。

 それで、どうやらイベント期間中はそういうラプトルがもっと増えるらしい」


「それは大変なこと、だよね?」


 ラプトルは本当に弱いから大変さが伝わってこない。


「いや、それはおまけだから大したことはない。

 まあ、数が数だけに放置はできないだろうが。

 それよりも、問題はここからだ。

 イベント中は一日に複数回、街の中にラプトルの上位種が発生するらしい。

 まあ、クワドラプトルとオクトラプトル、つまりヤマタノオロチのことだろうな。

 それを討伐するのが今回のイベントの趣旨だ。

 討伐者はレアアイテムをもらえるらしい」


「そのモンスターはかなり強いんだよね?」


「そうだな。

 クワドラプトルはともかく、ヤマタノオロチは相当強い。

 まあ、ちゃんと準備していれば勝てない相手じゃないだろうが。

 今回は状況次第だ」


「どういうこと?」


「これまでもヤマタノオロチが出てきたイベントはある。

 だから討伐された実績もある。

 だが、今までのは一体のヤマタノオロチが出てきて、それを倒すだけのイベントだったんだ。

 なんせ、伝説のモンスターって言われてるくらいのやつだからな。

 それでもイベントとしては成り立ってたんだ。

 それなのに今回は街の外には大量のラプトルがいて、その上でクワドラプトルとヤマタノオロチが複数回出てきそうだって感じだからな。

 今までみたいにみんなで協力して一体のヤマタノオロチを倒すってことにはならないだろう。

 正直、どんな状況になるか分からないんだ」


「なんかおかしくない?

 それって厳しすぎるよね?」


「ああ。

 どう考えてもバランス調整ができていない。

 でもなあ、最近ちょっとそういう傾向はあったんだよ」


「そやな。

 多分、最近マンネリ化し始めてプレイヤーの数が減ってきたから、ちょっと過激なイベントでもやろうとか考えてるんちゃうかな」


「そうだろうな。

 これの管理者ならやりそうなことだ」


「それって大丈夫なの?」


「一応、救済措置というか難易度が上がり過ぎないような対策というか、そういうものはとられている。

 それは一緒に連絡されてきた」


「救済措置?」


「ああ。

 なんかな、今回の上位ラプトルたちは街の中に現れるんだが、現れた直後はそれほど強くないんだと。

 でも、一定時間放っておくと強くなるらしいから、できるだけ早く発見して素早く倒せってことらしい。

 ただの討伐イベントじゃなくて、そういう探索的な要素も合わせることで面白味を出そうとしたんだろうな」


「そうなんやろうけど、全然面白いとは思えへんねんなあ」


 マイコさんはため息をついている。


「どうも最近イベントの方向性がおかしいんだよな」


「まあ、色々試行錯誤してるんだろ。

 ワシらが文句を言っても、イベントの内容は変わらん。

 とにかく、対策を考えんとな」


「そうだな。

 まずは、俺たちの方針だけどな。

 二手に分かれて外の雑魚と中の上位種の両方に対処するか、雑魚は他のプレイヤーに任せて上位種に専念するか、どっちかだな」


「そんなん上位種専念や。

 そうじゃないとおもろないって。

 決まってるやん」


「俺もそう思うけど、外が厳しそうならそっちも対処した方がいいかもしれないだろ。

 他のプレイヤーも全員上位種専念で、雑魚を放置したら大変なことになるぞ。

 ていうか、この街って今戦闘で使いものになるやつっているのか?」


「いやあ、あんまりおらんのちゃうかな。

 有名なプレイヤーなんか数えるくらいしかおらんと思うで。

 多分、レベル上限までいってるんはウチら三人を入れても10人くらいやろ。

 まあ、ワビスケは戦闘はあんまりやから、そういう意味ではウチと熊が一番強いんちゃうか。

 他でめぼしいプレイヤーって言ったら、あんたらが手伝ってる掃除屋のリーダーとかかな。

 他にもいくつかのグループがあるから、それのリーダー連中はそれなりのレベルやけど、みんなあんまり戦闘向きちゃうしなあ」


 マイコさんはワビスケが強くないって言った。

 本人も言ってることだけど、ラプトルと戦ってるのを見た時は相当強いと思ったんだけどな。

 世の中にはそれより強い人がいるんだな。


「まあ、ゴミ屋敷にいて戦闘特化になるわけはないわな。

 今までレベルが上がるようなイベントもなかったしな。 

 じゃあ、やっぱり外のラプトルたちも他のやつだけに任せるってのはきついんじゃないか?」


「けど、それで街の中が手薄になったらそっちの方がやばいやろ」


「そうだなあ」


「ワシが爆弾をそれなりの数、作ってやろう。

 それを掃除屋を始め、各グループのリーダーに渡す。

 それでレベルが低めの連中で外を担当してもらったらどうだ?」


「そうだな。

 それならなんとかなるか。

 あと、イベントまでにはもう少しプレイヤーが集まるだろうから、それに期待するか」


「せやな。

 でも、思ったよりイベントが早いからもう間に合わへんのちゃうか」


「え?

 イベントってそんなにすぐなの?」


「明後日やって。

 まあ、告知自体は何日も前にあったわけやから、別に驚くことやないけど。

 でも、ゴミ屋敷は近くに街があんまりないからなあ。

 すぐに来られるプレイヤーって限られてると思うわ」


「まあ、遠くにいてもすぐに来られる道具を持ってるやつもいるけどな。

 そういうのを持ってるレベルのやつにとっては、わざわざ来るほど魅力的なイベントってわけでもないからなあ。

 ファスタルにいるやつならすぐに来られるだろうが、あの街にいるのは大概が初心者だからな」


「他から来るやつはあんまり期待せんほうがいいだろうな。

 まあ、外のラプトルは爆弾があれば誰に任せても大丈夫だろうから、問題は中のやつらだ。

 何か対策はあるか?」


「クワドラプトルの弱点は知ってる。 

 というか、ラプトル種全般の弱点だが」


「え?

 そんなのあるの?」


「ああ。

 酒だ。

 アイツら酒に弱いんだ。

 だから、強い酒をかければすぐに酔っぱらって極端に動きが鈍くなる。

 ヤマタノオロチにどこまで効くかは知らないが、もしかしたらそれなりに有効かもしれない。

 だから、酒を大量に用意しといた方がいい」


「酒か。

 どっかの店に安酒が売ってるやろうから、それでええやろ。

 じゃあ、とりあえず熊には爆弾を作ってもろて、ウチらで酒集めしよか。

 あと、ゴミ屋敷にいるプレイヤーにはその方針を伝えとくわ。

 まあ、ウチが連絡取れるやつだけやけど。

 それでええやんな?」


「ああ、頼む。

 俺からのイベント攻略情報ってことにしといていいから」


「そやな。

 助かるわ。

 情報屋のワビスケからって付けといたらけっこうな奴が協力してくれそうやしな」


 ワビスケって有名なんだな。

 そういえば、エスクロさんも知ってたもんな。

 僕はすごい人と一緒にいるのかもしれない。

 普段はけっこうちゃらんぽらんな感じだけど。


「じゃあ、早速準備だ。

 熊、ある程度爆弾が用意できたら連絡してくれ。

 掃除屋の方に話は通しとくから。

 他のグループへの連絡はマイコ頼む」


「はいはい。

 了解や」

「おう。

 任せろ」


「エイシも俺とマイコと一緒に酒を買いに行くぞ」


「うん」


 それから、僕たちはイベントに向けての準備を進めた。





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