イベント告知
ホームに帰ってきた。
空きビンはそれなりに拾えた。
アイテムは見つからなかった。
というか、暗くなってきてたからあんまりしっかり探してもないけどね。
ホームのカウンターでいつも通りビンを渡す。
最近、僕のおかげでビンが安定的に集まって助かってるってお礼を言われた。
なんだか嬉しい。
人に感謝されることってほとんどなかったから、とても気分が良くなった。
「じゃあ、今日は俺はもう落ちるわ。
エイシはどうする?」
「うーん、僕も今日はもう寝るよ。
疲れてはいないけど、初めてモンスターと戦ったしちょっと休むことにする」
「そうか。
それがいいかもしれないな。
自覚がないだけで体は疲れてるかもしれないしな」
「うん」
それからいつもの寝部屋で寝た。
まだ寝るということに慣れてないけど、横になって色々なことを考えていた。
最初はラプトルとの戦いを考えたけど、なんだか僕自身が何かをした気はあんまりしていなくて、戦ったという実感はそれほどなかった。
それよりも、今日はマイコさんと熊に会ったことの方が大きな出来事だった気がする。
二人ともすごく個性が強かったけど、確かに面白そうな人たちかもしれない。
ファスタルにいた頃、数えきれないくらいのプレイヤーに会ったことがあるけど、あそこまで第一印象から強烈な人はそう多くなかったと思うんだよね。
ワビスケの知り合いは個性的な人が多いのかな。
熊の工房に行くのが楽しみだ。
人が作ったアイテムって普通のとどう違うんだろう。
そんな風に取り留めのないことを考えていたらいつのまにか眠りについていた。
◇
「うーん、良く寝たな」
実際どれくらい寝ていたのかはよく分からなかったけど、なんだか体が軽くなった気がする。
もしかしたら疲れていたのかな。
横を見るとワビスケはまだ寝てるみたいだ。
全く動かない。
昨日はワビスケもかなり動いていたから疲れていたのかもしれない。
ワビスケはそういうのを態度に出さないから、あんまり分からないんだよね。
起こすのも悪いと思うから適当にホームの周りでビンでも拾うことにした。
外に出て、周りを見渡す。
改めて見ると本当に汚い。
朝なのに清々しさなんて微塵も感じない。
最初はこの周りに固執したらまずいと思ってあえて無視していたけど、今日はワビスケが起きてくるまでホーム周りのビン拾いをすることにした。
というか、本当はビン以外のゴミもなんとかしたい。
ビンだけ拾っても、結局はゴミの山はあまり変わらない。
一応、ホームの中にはビン以外のゴミを捨てる箱も置いてあるんだけど。
でも、あんな箱じゃすぐにいっぱいになってしまうだろうなあ。
ビン以外の物にも何か使い道があればいいんだけど、どう見てもゴミだしね。
本当にゴミ屋敷の名前は伊達じゃないと思う。
僕は諦めて大人しくビンを拾うことにした。
◇
ホームの周りのビンを手当たり次第に拾いまくった。
拾い始めてからそれなりに時間は経っていると思う。
ワビスケはまだ起きてこない。
もしかしたら起きていて中で何かしているのかもしれないけど、外には出てきていない。
何かあったら外に出てくるだろうと思ったから、気にせずビン拾いをしていた。
まだまだ落ちているんだけど、始めた時よりは少しだけ綺麗になった気がして、ちょっとした達成感がある。
今日だけですでに2回換金した。
そろそろ3回目の換金に行けそうだ。
もしかしたら、ここでビン拾いをしていれば生活には困らないんじゃないかな。
ビンを100個拾った所で、3回目の換金をした。
カウンターの人はさすがに苦笑いしていたけど、いくらでも使い道はあるみたいだから、嫌がられはしなかったと思う。
もらった報酬を財布Aに入れる。
まだ全然少ないけれど、財布にお金が貯まっていくのは少し嬉しかった。
自分のがんばりが形になっている気がするんだよね。
3回目の換金を終えてもう一度外に出ようとしていたら、ワビスケが走ってやってきた。
「おい、エイシ。
何してんだよ?」
「ああ、ワビスケ。
起きたの?
なかなか起きないから、ホームの周りでビン拾いをしてたよ」
「別にずっと寝てたわけじゃねえよ。
いや、そんなことはどうでもいい。
それに、ビン拾いなんてしてる場合じゃねえぞ」
「え?
なにかあったの?」
ワビスケは興奮しているみたいだ。
「おう。
イベントだ、イベント。
しかも驚くべきことに、このゴミ屋敷でだ。
ゴミ屋敷でイベントなんて初めてなんじゃないか」
エスクロさんが言ってた通りだ。
思ったより早かったな。
「どんなイベントなの?」
「詳細はまだ分からねえ。
告知だけあったんだ。
でも、ちょっと調べたら討伐系のイベントの可能性が高いんじゃないかって話だ。
ゴミ屋敷で討伐系ってのはちょっと引っかかるが」
そう言ったワビスケの顔がちょっと曇った。
「どうかしたの?」
「いや、街で討伐系イベントってのは今までロクでもないやつばっかだったからな。
今回もひどい可能性がある」
「ロクでもないってどんな?」
「いきなり街の中に強力なモンスターが現れて倒せばレアアイテムが手に入る、とかだな。
まあ、モンスターが街に来るってのはそうおかしいことじゃない。
大量発生イベントなんかでも、街の近くに現れたモンスターは大体街の方に向かっていく。
そういうのは別に悪くないイベントだと思う。
普通だ。
でも、俺がひどいと思うやつは前後の流れも何もなくいきなり街にモンスターが現れるんだ。
一応告知はあるからプレイヤーは準備してはいるんだが、何もない所からドバっと街中にモンスターが発生するってのはめちゃくちゃだろ。
ストーリーも何もあったもんじゃない。
インパクトのためだけに無理やり作られたイベントだった印象がある。
俺はそういうイベントは嫌いだ」
確かにそれは怖い。
「へえ。
そんなイベントがあるんだね。
今回もそうなりそうなの?」
「いや、まだ全然分からねえ。
だから、俺はもう少し情報を調べようかと思ってる。
まあ、分からないものを心配してもしょうがないから、今はただ楽しみにしとけばいいと思うぞ」
「分かった。
そのイベントってどうやったら参加できるの?」
「それもまだ公開されてないから分からないが、多分特別に何かしなくても参加できるタイプだと思う。
ゴミ屋敷にいたら参加、みたいな感じだな。
ただ、今回かなり変わってることがあってな。
どうも今回の告知は今ゴミ屋敷にいるやつだけに届いてるみたいなんだ。
他の街にいるやつには告知がないから、このイベント自体ほとんど気づいてないらしい。
とは言っても、情報なんてすぐに出回るから告知があったこと自体はけっこうな数のやつに知られ始めてるはずだけどな。
でも、今までは特定の地域にいるやつ限定で告知が来ることなんてなかったから、その情報には半信半疑なやつが多いらしい」
「そうなんだ。
……今更な質問なんだけどさ、告知ってどうやって受け取るの?」
「うん?
ああ、そうか。
エイシには教えてなかったか。
プレイヤーにはお互いに連絡するための手段があってな。
メッセージをやり取りできるんだ。
イベントの告知も同じ方法でメッセージが来るんだ。
この世界の管理者がイベントも管理してて、そいつらからイベントの告知って連絡が来るんだよ」
「世界の管理者?
それはなんだかすごそうな人たちだね」
「まあ、そうだな。
直接何かしてくることは少ないから、あんまり関わることはないけどな。
今回みたいなイベント告知とかアップデートの連絡とか、そんなんを寄越すやつらだな。
基本的にはプレイヤーしか関わらないからエイシは気にしなくてもいいと思うぞ」
「ふうん。
じゃああんまり気にしないことにする。
その告知っていうのはいつきたの?」
「昨日の夜遅くだ。
エイシが寝てからだな」
あれ?
そんな時間までワビスケは起きてたのか。
すぐに寝たのかと思ってた。
それにしても、プレイヤーの人ってそんなメッセージのやりとりができたんだ。
全然知らなかった。
「じゃあホントに来たばかりなんだね。
それにしても、そのメッセージって便利だね」
「ああ。
便利だ。
というか、必須の機能だ。
これがないとプレイヤー間で連絡が取れなくなるしな」
熊が言ってたワビスケとの連絡ってそれのことだよね。
僕には使えないみたいだけど、ちょっと羨ましい。
「まあ、それはいいとして、イベントの話に戻るぞ。
もしも本当に討伐系のイベントなんだったら、俺たちはけっこういい思いができるかもしれない。
だから楽しみにしてていいと思うぞ」
「どうして?」
「エイシにはあのナイフがあるし、俺も弱いわけじゃないからな。
元々ゴミ屋敷にいるプレイヤーで戦闘に特化したやつってあんまりいないから、俺たち以上の戦力ってのはほとんどいないはずだ。
別に目立ちたいわけじゃないが、最大戦力だったら当然一番活躍できる可能性が高いだろう。
討伐系ってのは活躍したやつの方がいい報酬がもらえるのが基本だからな。
俺たちは今回、それなりの報酬が期待できるってわけだ」
「そんなにうまくいくかなあ。
僕のナイフだってラプトル相手だったらすごかったけど、強い相手に効くか分からないし」
「……なんだよ。
意外と冷静だな。
折角のイベントだぜ。
もっと楽しまないと」
「そりゃそう思うけど。
イベントって言われても初めてのことだから、どう反応していいのか分からないんだよね」
「それもそう、かなあ?
俺は初めてのイベントの時は興奮しっぱなしだったけどな」
ワビスケっぽい。
そういうところは見習った方が楽しめるんだろうなあ。
「まあ、内容もまだ分からないからな。
とりあえず、俺は今日は情報収集に徹することにするぜ。
エイシはどうする?」
「じゃあ僕はビン拾いをしてるよ。
何か面白いことが分かったら教えてね」
「ああ、任せろ。
寝部屋にいるから、なんかあったら言いに来い」
「うん」
ワビスケは寝部屋の方に走って行った。
よっぽど楽しみなんだろうな。
あの様子を見たら僕も楽しみになってきた。
全然想像もつかないけど、面白いイベントだったらいいな。
それにしても、どうやって寝部屋で情報収集なんてするんだろう。
他のプレイヤーの人に連絡するのかな。
ワビスケだったら、なんか色々情報網とか持ってそうだしね。
情報屋らしいし。
残念だけど情報収集では僕は全く役に立てないと思うから、ワビスケに完全に任せて大人しくビン拾いに戻ることにした。
◇
ビンを拾い続けて数時間。
さらに2回換金した。
ほとんど休みなく朝から拾い続けて5000円。
あんまり効率は良くないかもしれない。
でも、ホームの周りが少しずつ綺麗になるのは気持ちいい。
日が落ちるまでにあと一回くらいは換金できるかもしれない。
再びビン拾いを始める。
それにしても、ホームはそれなりに大きな建物だけど、その周りだけでこれだけビンが落ちてるなんてちょっと普通じゃない。
世界の製作者という人たちが置いていったらしいけど、何を考えていたんだろう。
と、光っている物体を発見した。
久々のアイテムかな。
相変わらずゴミの下に埋まっている。
なんだかかなり深い所にある気がする。
がんばって上にあったゴミを全部どけて、ようやく光に辿り着いた。
自分でもよくこんなのに気づいたなと笑ってしまうくらい深い所にあった。
それは球体だった。
ちょっと歪な形だけど。
直径5cmくらいかな。
手のひらに収まるサイズの小さなものだ。
初めて見る物体だけど、これは何なんだろう。
雰囲気的に何かのアイテムなのは確かだと思うんだけど、全然見当もつかない。
もしかしたらゴミかもしれない。
アイテムなんだけどゴミっていうのもたくさんあるもんな。
というか、ゴミ屋敷にあるものなんてほとんどそんなのばっかりだしね。
そう考えるとこの球もゴミな気がしてきた。
ビンの場合は中身が入ってたら大体アイテムっぽいんだけど、それ以外なんてゴミがほとんどなんだよね。
昨日見つけたナイフみたいに分かりやすいアイテムだったらいいんだけど、球だもんなあ。
うーん。
捨ててもいいような気がしてきたけど、見た目が光ってて綺麗だからとりあえず持って行こう。
もう少しでビンが換金できるから、球はかばんAにしまってビン拾いを続けた。




