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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
16/86

熊さん

 目の前にいる巨漢が熊という人らしい。

 本当に熊みたいな人だった。

 ぬいぐるみとかの熊じゃない。

 もっとモンスター寄りな感じだ。

 僕よりもワビスケよりもはるかに身長は高いし、体つきもかなりがっちりしている。

 伸び放題のひげのせいでむさ苦しさがすごい。


「科学者ってみんなこんな感じなんですか?」


「ん?おかしいか?」


「だって、想像よりもずっとゴツイし荒らそうだし。

 科学者ってもっと繊細そうな人かと思ってました」


 自然とそう言ってしまった。

 別に悪気はなかった。

 買い物をして機嫌がよくなっていたせいで、考えなしになっていたのかもしれない。

 思ったままのことを口にしていた。


 僕のその言葉に熊さんとワビスケはきょとんとした顔をした。

 一瞬、静寂が訪れる。

 熊さんが震えだした。

 僕は自分の失礼な物言いに気づいて、怒らせてしまったのかと思ってビビった。


「す、すいません。

 悪気はなかっ」


 と謝ろうとした僕の言葉は熊さんに遮られた。


「がっはっはっはっは。

 本当に面白い小僧だ。

 まさかノンプレイヤーキャラにそんなことを言われるとはな。

 プレイヤーを含めても初対面でいきなりそんなことを言われたのは初めてだ。

 なるほど。

 ワビスケが面白がるわけだ」


 熊さんはゴツイ手でひげをわしわしとこすりながら笑っている。


「そうだな。

 ワシは外見も態度も科学者らしくはないだろうな。

 それは事実だし、みんな思っていることだろうよ。

 思ってても遠慮して言えんみたいだがな。

 別に気にしてないしワシも自分でそう思うから、小僧も謝らんでいいぞ。

 素直なやつは嫌いじゃないからな。

 思ったことははっきり言ったらいいんだ」


 その言葉はマイコさんのパートナーらしいと思う。

 あの人は思ったことをなんでも言いそうだしね。


「なるほどなあ」


 熊さんは頷きながら僕に近づいてきた。

 そして、かがんで僕の顔を凝視してきた。

 ひげまみれのゴツイ顔が接近してくるのは、ちょっとおっかない。


「あ、あの、何か?」


「小僧はファスタルの入り口にずっといたキャラらしいな。

 いつからこんな風に変わった?」


「え?」


「ワビスケからはファスタルの入り口にいたやつが動き始めて面白くなりそうだとしか聞いてない。

 いつからこうやって動いて考えるようになったんだ?」


 僕は自分が動くようになったきっかけを話した。

 狼に襲われそうになったことだ。

 別に隠してないから素直に話した。


「ほう。

 なるほどな。

 それは興味深いな。

 そんなことがあるのか」


 エスクロさんに話した時と同じような反応をされた。

 僕の話を聞いて何か考えているみたいだ。

 この人も色んなことを知っている人なのかな。


「動くきっかけはそれだったとして、今みたいに色々考えるようになったのはいつからだ?」


「え?

 考える、ですか?

 最初から考えてたと思うんですけど」


「最初というのは、小僧が最初にファスタルの入り口に現れた時からか?」


 うん?

 そう言えば、いつからファスタルの入り口にいたのかは覚えてない。


「うーん、どうでしょう。

 あんまり覚えてないです」


「その質問になんか意味あんのか?」


 ワビスケが熊さんに聞いている。


「いや、ちょっとな。

 分からんならいい。

 ちなみにそのかばんはそこのかばん屋で買ったものだな?」


 かばんAのことを聞かれた。


「はい、そうです。

 さっき買いました」


「なんでそれを選んだんだ?」


「え?

 なんとなくですよ。

 雰囲気が僕に合いそうだと思って」


「ほう。

 そのかばんの雰囲気が他と違うと思ったのか?」


「そうですね。

 他より地味でしたし。

 アイテムっぽい雰囲気がなかったですし」


「おお?

 アイテムっぽい雰囲気?」


「ああ、お前今日まだマイコと会ってないのか?」


 ワビスケが聞いている。


「マイコ?

 朝別れてから合流してないが。

 どうかしたのか?」


「そうか。

 今日の朝、ちょうどマイコに同じ説明をしたとこなんだよ」


「マイコに会ったのか?」


「ああ、久しぶりにな。

 相変わらず騒々しいやつだったぜ」


「騒々しいのはお前も変わらんだろう」


「一緒にすんじゃねえよ。

 って、マイコの話はどうでもいい。

 今はエイシの話だ。

 コイツはすげえんだぜ。

 お前が作ったとかいうアイテムサーチャーの上位互換の能力を持ってる」


 ワビスケがそう言いながら僕がアイテムを見つけられることを説明した。

 マイコさんに説明したのと同じような話だ。

 ワビスケが話してくれるおかげで僕は説明する必要がなくて助かるんだけど、どうしてあんなに得意気なんだろう。


 熊さんはワビスケの話に頷いている。


「ほほう。

 ますます面白いな。

 逸材ってやつだな。

 小僧、今度ワシの工房に来い」


「工房?」


「ワシがアイテムを作ってる場所だ。

 ゴミ屋敷の建物を勝手に使ってるだけだが」


「熊、お前エイシを解剖でもしようってんじゃないだろうな?」


 ワビスケがそんなことを言いだした。


「え?

 そうなんですか?」


 怖い。

 こんな巨漢に襲われたら僕は逃げられない気がする。


「こら、そんなわけないだろうが。

 お前ら、ワシを何だと思ってるんだ?」


「いや、熊だったらそれくらいできそうだからな」


「やらんわ。

 ただ、アイテムの気配に敏感なんだったらワシがアイテムを作るのを見るのが面白いかと思っただけだ。

 そこまで怖がるなら来んでいいが」


「いえ、ごめんなさい。

 興味あります。

 面白そうです。

 ぜひ行かせてください」


 急いで謝った。

 ワビスケは謝らない。

 ひどいことを言ったのはワビスケなのに。


「まあいいだろう。

 じゃあ、時間ができたら連絡しろ。

 連絡はワビスケを通じていつでもできるからな」


「はい。

 ありがとうございます。

 じゃあその時はよろしくお願いします、熊さん」


 僕は頭を下げて熊さんにお礼を言った。


「くまさん?」


 熊さんが固まった。


「え?

 熊さんでしょ?

 間違ってましたか?」


 ワビスケは何度も熊って呼んでるし、自分でも熊って言ってたはずだから間違いないと思うんだけど。


「いいや、間違ってねえよ。

 そうだ。

 くまさんで合ってる。

 はっはっは。

 完全に合ってるよ。

 な?

 くまさん。

 いっそ、くまたんとかでもいいんじゃないか?

 はっはっは。

 俺もこれからはくまさんって呼ぼうかな」


 なんだか、僕から見てもイラッとする表情と態度でワビスケが笑いながら熊さんに言っている。

 僕は何かおかしいことを言ったのかな。


「ふんっ!!」


 突然、熊さんが気合のこもった声とともにワビスケを投げ飛ばした。


「あーれーーー」


 ワビスケは間抜けな声を上げて飛んで行った。

 読んで字の如く、本当に飛んで行った。


「小僧」


 今度は僕の方に近づいてきた。

 怖い。

 僕も飛ばされるのかな。

 身構えた。


「ワシは熊だ。

 さんはいらん。

 熊と呼べ」


「え?

 でも、目上の人にはさん付けをした方がいいかと思うんですけど」


「いい心がけだが、ワシに限ってはいらん。

 いや、ワビスケにもさんなど付けてないだろう。

 熊と呼べ」


 なんだか、目が怖い。

 別に断る理由もないからいいかな。


「分かりました。

 じゃあ、熊。

 これでいいんですか?」


「ああ、二度とさん付けで呼ぶな」


 なぜかとても怖い。

 僕やワビスケが失礼なことを言っても笑って許してくれてたのに、熊さんと呼ぶのはダメらしい。

 確かにちょっと可愛らしい響きに聞こえるけど、そんなに気にすることだろうか。

 まあ、人にはそれぞれ気にしてることってあるもんだよね。

 嫌な思い出でもあるのかもしれない。


「すみませんでした。

 じゃあ、熊、これからもお願いします」


 僕は改めて頭を下げた。


「ああ。

 こっちこそよろしく頼む」


 もう機嫌は直ったみたいだった。


「じゃあな。

 なんかあったら連絡しろ」


「はい」


 そう言って熊は立ち去って行った。


 僕一人になった。

 うーん。

 ワビスケはどっか飛んでっちゃったけどどうしよう。

 ていうか、ワビスケ大丈夫かな。

 飛んで行った方を見に行った方がいいかな。

 と思ったら向こうから元気に走ってきた。


「ふう、危ないとこだったぜ」


 全然平気そうだ。

 あれだけ飛んだのに。

 ワビスケってめちゃくちゃ頑丈だったんだな。


「あれ?

 熊は?」


「もうどこかへ行っちゃったよ」


「そうか。

 まあいいか。

 なんかあったら連絡すりゃいいし。

 で、熊はどうだった?

 面白いやつだろ?」


「うーん、よく分からないよ。

 なんだか豪快そうな人だったね。

 あの人がラプトルを吹き飛ばした爆弾を作ったんだよね?」


「ああ、そうだ。

 俺の知る限り、プレイヤーの中ではアイテム製作能力はアイツが飛び抜けてるからな。

 工房を見に行ったら多分面白いと思うぜ。

 貴重な経験ができるだろうな」


 茶化してダメになりかけたのに。

 ホント、ワビスケって適当なところあるよね。


「まあ、エイシもかばんを買えたみたいだし、とりあえずここでの用事は済んだな。

 いったんホームに帰るか?」


「うん。

 帰りは空きビンを拾っていくよ」


「真面目だなあ。

 まあ、俺もアイテム探ししながら帰るよ」


 僕たちはホームに戻ることにした。

 気づいたら結構時間が経っていたみたいだ。

 外は日が落ち始めていた。





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