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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
15/86

初買い物

 ゴミ屋敷に帰ってきた。

 そのまま掃除屋のホームに戻る。


「とりあえず換金するか」


「うん」


 僕とワビスケはラプトルとバイラプトルの爪を換金した。

 ラプトルの爪73個で7300円、バイラプトルの爪13個で6500円だった。

 バイラプトルの爪がラプトルの爪の5倍だったけど、強さに違いは感じなかったから、ラッキーな気がした。

 ラプトルの爪1個で空きビン10個分だから、労力的にはラプトルの方が効率がいい気がする。

 まあ、危険度的には空きビンの方が安全なんだろうから妥当なのかな。

 僕たちはラプトルに危険は感じなかったけど。

 でも、ゴミ屋敷ならアイテムが見つかる可能性もあるから空きビン拾いの方が面白いかもしれない。


「普通は報酬は山分けにすることが多いんだが、とりあえずは今は俺は楽しむのが目的だから金はエイシにやるよ」


「え?

 それは悪いよ。

 分けようよ」


「いや、こんな額の金を分けてもしょうがねえ。

 もっとでかく儲けた時に分けてくれたらいいぜ」


 そう言ってワビスケは僕にお金を無理やり渡してきた。


「うーん、すごく悪い気がするんだけど」


「はっはっは。

 こんくらいで恩が売れるなら、俺としてはそっちの方がおいしいからな。

 存分に悪いと思いながら受け取ってくれ」


 裏表のない笑顔のワビスケにそう言われると、なぜか素直にお金を受け取ることができた。

 ワビスケは人に遠慮させないようにするのが上手いと思う。

 最初に仲間には遠慮しないしさせないって言ってたのも頷ける。

 でも、ちゃんといつか恩は返すつもりだ。

 まあ、これまで数え切れないくらいお世話になっているから、このお金のことがなくてもワビスケには感謝しているけどね。


「とりあえず、かばん買いに行くか?」


「うん」


 僕はワビスケに連れられてホームを出た。


「店はゴミ屋敷の一角に固まってる。

 一応、この街の中ではその辺りはちょっとだけ片付いてる。

 あくまで他の場所と比べてってレベルなんだがな。

 ずっと連れて行こうとしてたんだが、お前がビン拾いに夢中だったから行けなかったんだよ。

 毎回そっち方向に歩いてはいたんだぜ」


 あ、やっぱり?

 そんな気はしてたんだよね。

 ワビスケがどこかに連れて行ってくれようとしているような。


「今日はもうビンは気にしないことにするから、真っ直ぐお店に行ってくれて良いよ」


「ああ。

 でも、もし良さそうなアイテムを見つけたら言ってくれ。

 面白いもんを見逃す手はないからな」


「うん、分かった」


 まあ、そんなに簡単にアイテムなんか見つかるわけないけど。



 案の定、何も見つからないままお店らしき建物がいくつかある一角に着いた。

 ワビスケが言ったように、確かにこの辺りはちょっとだけゴミが少ない。

 まあ、本当にちょっとだけだけど。

 ワビスケはその中の一つの建物の前に立った。

 この辺りではかなり大きい部類の建物だと思う。


「ここだ。

 ここが雑貨屋、というか何でも売ってる建物だ。

 普通の街では武器屋と防具屋とアイテム屋って感じで建物が分かれてることが多いんだが、ゴミ屋敷はそんな風には分かれてない。

 ていうか、売りたいもんがあるやつが適当にこの辺の建物を使って店をやってる。

 もしエイシも売りたいもんがあったらここで売ってもいいんだぜ」


「許可とか取らなくていいの?」


「誰に取るんだよって感じだからな。

 ゴミ屋敷はプレイヤーが集まって街を作った場所だ。

 だから、細かい決まりなんてないんだよ。

 街の管理をしている人間ってのも、いるようないないような状態だしな。

 プレイヤーみんなが暗黙の了解の上で自由にやってる感じだ。

 とは言え、プレイヤー以外の人間もいるにはいるけどな。

 入り口にいた女の子とかがそうだ。

 でも、あの子が現れたのも最近だからな。

 基本的にゴミ屋敷はプレイヤー主体で自由に動いてる」


「へえ。

 それって変わってるんだよね?」


 ファスタルとゴミ屋敷しか知らない僕にはこの街がどの程度変わっているのかピンときていない。

 と言っても一応知識では街がどんなものなのか知ってるから、おかしな街だという認識はある。


「ああ。

 多分この世界でこんな街はここくらいだ。

 普通の街では、個人的な売買を除けば、プレイヤーが勝手に店をやるなんてできない。

 そういう意味では、この街にはこの街なりの面白さと楽しみ方があるわけだ。

 まあ、しばらくはここにいるつもりだが、エイシがこの街に飽きたら他の街も連れてってやるよ」


「うん」


 この街に飽きることがあるのか分からないけれど他の街にも行ってみたいのは確かだ。


「とりあえず入るぞ。

 この建物では何人かのやつが集まって、いくつかの店を開いてるんだ。

 複数の店が出てるだけあって、そこらへんの街で買えるようなもんは大抵揃ってる。

 便利ではあるんだが、かなりごちゃごちゃしてるから迷子にならないように気をつけろよ」


 そう言って注意してくるワビスケに連れられて建物の中に入った。


 中は大勢の人で賑わっていた。

 ほとんどがプレイヤーだ。

 大量のプレイヤーがいる中に入るのはちょっと怖かったけど、追いかけられるような所にワビスケが連れてくるはずないし気にしないことにした。


 実際、中にいた人たちは僕たちが入って行っても、こちらを見向きもしなかった。


「じゃあ、かばんを探すか。

 どんなのがいい?」


「うーん、別に希望ってないんだけど」


「そうか?

 身に着けるようなものは色々好みがあるだろうから自分で選んだほうがいいと思うんだが。

 でもまあ、確かにいきなり聞かれても答えにくいか。

 そうだな。

 大雑把に説明すると、機能性重視ならあの店がお勧めだ。

 流行の見た目のものがほしいならあの店がいいだろうな。

 ただし、ゴミ屋敷にあるような店だからな。

 どっちもちょっと胡散臭いところはある」


 ワビスケはそう言いながら2つのお店を教えてくれた。

 僕としては流行とかはどうでもいい。

 というか、お洒落の感覚なんて全然分からないから気にしようがない。

 そんなことよりも使いやすい方がいいに決まっている、と思う。

 だから、ワビスケが言った機能性重視の方のお店に行くことにした。




「うーん。

 機能性重視ってこういう意味?」


 店の前にはおかしな形の商品が並んでいた。

 言われないとかばんとは気づかなかったかもしれない。

 外側が盾みたいになっていて亀みたいな感じのやつとか、トゲトゲがついていてハリネズミみたいなやつとか。

 いや、この二つはまだ分からないこともない。

 防御力重視って書いてあるし、実際そうだと思えなくもない。

 でも、かばんに大きな羽が生えているやつなんかは本当に何に使うのかよく分からない。

 あれで飛べるわけではないと思うし。

 飾りにしては邪魔すぎると思う。

 他にもたくさん意味の分からない装飾がついたかばんが置いてある。


「違う違う。

 そんなの通りがかりの客の目を引くためのおもちゃだよ。

 役に立つのは奥にあるんだ」


 ワビスケは笑いながら奥に案内してくれた。

  

 奥に入ると、もっと奇抜なデザインのかばん、ラプトルの頭の形をしたやつとか、と一緒に比較的シンプルなかばんがたくさん置いてあった。

 ワビスケが言っているのはこの辺りのやつのことらしい。

 うん、見た目が普通なのはいいことだと思う。

 僕はいわゆるファッションにはかなり疎いけど、ファスタルでずっと色んな人を見ていたから、どんなものが普通なのかくらいは分かっているつもりだ。

 

 とりあえず置いてあった普通のかばんの中から選ぶことにした。

 いくつかのかばんを見比べていて、その値札に気づいた。

 似たようなデザインで同じようなサイズのものなのに3000円のと30万円のがあった。


「ワビスケ。

 これってなんでこんなに高いの?」


「ああ、それは特別な機能がついてるからだな。

 この世界のプレイヤーアイテムには特殊な機能がついてるものがけっこうあるんだ。

 かばんの場合は、空間拡張効果とかだな。

 その効果を持っているかばんは実際の見た目よりも中に入れられる物の量が多いんだ。

 そういうアイテムはかなり便利な分、値段もめちゃくちゃ高い。

 さらに重さを軽減する効果付きのやつなんかもあるが、それならちょっとした財産になるくらい価値があったりする。

 他にも、中に入れた物の時間が経過しない効果を持ったやつなんかもある。

 まあ、挙げたらキリがないくらい色んな効果があるんだが、その中でもリスクが少なくて使いやすいやつってのは値段が上がりがちだ。

 でも、ゴミ屋敷では比較的安めで手に入れられるんだぞ。

 ニグートとかだったらもっと高いからな」


「へえ。

 すごいんだね」


「ああ、すごい。

 と言うか、お前のナイフだって多分それの一種だぞ。

 あんだけ切れ味がすごいんだからな」


 そういえばそうだった。


「まあかばんに関しては、特殊なのが必要かって言うと微妙だったりするな。

 旅でもするなら必須アイテムってことになるんだろうが、そこらへんをうろつくのにそんな機能なんて必要ないからな」


「じゃあ、とりあえず僕は普通のかばんでいいよね」


「そうだな。

 エイシは今のところ荷物自体がほとんどないから、大げさなものは必要ないだろう。

 もしもこれからもっといいのが必要になったら、その時に買い換えればいい」


「うん。

 じゃあ、その辺のやつから選ぶよ」


「ああ、いいんじゃないか」


 僕は特に効果のないかばんが積まれたかごの中から選ぶことにした。


 安物だからだろうか。

 かなり適当に並べられている。

 けっこうな数があるけど、どれもそんなに変わらない大きさで、デザインも似通っている。

 でも、これが初めての買い物になる僕はちょっとうきうきしていた。

 一つずつ手にとって見てみる。

 ほんと同じようなシンプルなかばんばかりだし、どれを買っても同じだと思うんだけど、選ぶ作業自体が楽しい。


「俺は向かいの薬屋を見てくるから、ゆっくり見てて良いぞ。

 終わったら薬屋に来てくれ」


「うん、分かった」


 ワビスケを待たせるのは悪いと思っていたから良かった。


 ワビスケの言葉に甘えさせてもらって、じっくり選ぶことにする。


 同じような見た目に同じような中身のものばかりだったけれど、その中で一つ気になるものを見つけた。

 それは安物のかばんの中でも、とびっきり地味なやつだった。

 他のやつはシンプルとは言っても、一応プレイヤーアイテム特有の雰囲気は持っている。

 でも、この地味なかばんは全くそんな雰囲気がなかった。

 なんとなく、プレイヤーばかりのゴミ屋敷の掃除屋の中にいる自分に重なるように感じて気になった。

 値段は2000円。

 正真正銘の安物だ。

 でも、どこか破れているわけではないし、極端に小さかったりもしない。

 別に使うのに不便はしなさそうだ。

 よし、これにしよう。

 僕はそのかばんをかばんAと名づけることにした。


 かばんAを持ってカウンターに行く。

 そこで、カウンターの脇に安物の財布が置いてあるのに気づいた。

 今はポケットに直接お金を入れていたけど、落としそうで怖かったんだ。

 ついでに財布も買うことにした。

 その財布も財布Aと名づけることにした。

 意味なんてないけど、市民Aが持っているかばんAと財布Aというフレーズが面白く感じた。

 初めての買い物で機嫌がよくなっているみたいだ。


 店員さんにお金を払って早速かばんAと財布Aを使うことにした。

 かばんAはちょっとした外出に便利そうなバックパックだ。

 お金を入れた財布AをかばんAに入れて上機嫌な市民Aが店を出る。

 うん、買い物って思ったより楽しいかもしれない。


 ワビスケは向かいの薬屋にいるって言ってたから、薬屋に行くことにした。

 かばん屋の前の道を渡って向かいの店に入る。

 と、そのお店に入ろうとしたら、中から出てきた人とぶつかった。

 ぶつかった、というか一方的に吹っ飛ばされた。

 僕を吹っ飛ばした人は2mくらいあるんじゃないかという巨漢だった。


「おう、悪い悪い。

 小さすぎて見えんかったわ」


 僕を見てその人はそう言った。

 その人は顔中にひげを蓄えた熊みたいなおじさんだった。


「うーん?

 大丈夫か?

 怪我でもしたか?」


 僕が動かないのを見てその人は心配してくれているみたいだ。


「だ、大丈夫です。

 こちらこそ前をちゃんと見てなくて。

 すみませんでした」


「おう、できた小僧だな。

 いいことだ、がっはっはっは」


 そのおじさんは豪快な笑い声を上げている。


「僕は小僧じゃないんですけど」


「おう?

 そうか。

 小僧じゃないか、がっはっはっは」


 何が面白いのか、おじさんは笑っている。


「おい、熊、何してんだよ?」


 おじさんの後ろから声が聞こえた。

 おじさんがでかすぎて見えないけど、ワビスケの声だ。


「おお?

 なんか面白そうな小僧を見つけてな」


「面白そう?

 ああ、エイシか」


 ワビスケがおじさんの前に出てきた。


「そうだろ?

 コイツがさっき言ってたおもしれえやつだよ。

 一目見て見抜くとは、さすが熊だな」


 ワビスケは呆然としている僕の方を見た。


「ああ、エイシ。

 コイツが熊だよ。

 朝言ってただろ。

 マイコの相棒のマッドサイエンティストだよ。

 たまたまこの店で会ったんだ」


「おう、ワシは熊だ。

 科学者だ。

 小僧がエイシか。

 相当面白そうなやつだな。

 これからよろしく頼むわ、がっはっはっは」


「エイシです。

 別に面白くはないと思うんですけど、よろしくお願いします」


 それが、僕と熊さんとの出会いだった。






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