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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
14/86

初戦闘

 僕とワビスケはラプトルの群れに向かった。

 群れもこちらに向かっている。

 ワビスケの爆弾でそれなりに数は減ったけど、まだたくさんいる。

 数だけだったら、どう見ても多勢に無勢なんだよね。

 でも、ワビスケは特に気負った様子もない。

 むしろゆるい感じで、いつもと変わらない。

 その雰囲気は本当に問題ないんだと僕に感じさせた。


「ワビスケ、僕はこのナイフで戦うけど、ワビスケはどうやって戦うの?」


 そう言ったものの、僕はナイフでの戦い方なんて知らないんだけどね。

 ここに来るときにワビスケから好きにやればいいって言われた。


「俺か?

 俺は普段は決まった武器を使うわけじゃないんだが。

 さて、今日は何を使うかな」


 見たところワビスケは大した武器は持っていない。

 まあ、あの大きなかばんには何が入っているか分からないんだけど。


「エイシがナイフだからな。

 俺もそれを援護しながら戦った方がいいから、今日は接近戦にしとくか。

 剣か斧か、俺もナイフでも良いが。

 そうだな。

 久しぶりの戦闘だからな。

 ちょっとリハビリがてら体を動かすことにするかな。

 男らしく拳で戦おう」


 ワビスケは走りながらかばんからグローブみたいなものを取り出した。

 そしてそれを両手に嵌めた。 


「え?

 それ?」


「おう。

 グローブだ。

 まあ、見とけって。

 これ、こう見えてかなり優秀な装備なんだぜ。

 激レアってやつだからな」


 確かになんだか強そうな雰囲気はある。

 そのグローブを嵌めたワビスケからも、いつもと違う雰囲気が漂っている気がする。


「ああ、ちなみにラプトルの攻撃は噛み付きと体当たりと尻尾での打撃だからな。

 どれもそんなに速くはないから注意していれば避けられるぞ。

 まあ、ダメージを受けても回復はしてやる。

 それに、もしエイシが囲まれそうになったりしたら俺がサポートしてなんとかするから、目の前のやつに集中していいぞ」


 ワビスケは頼りになる。

 初めてだから仕方ないんだけど、僕は完全にお荷物だ。

 でも、できるだけは足手まといにならないようにしよう。


「うん。

 がんばってみるよ」


「おし、じゃあ行くぞ」


 ラプトルが目の前に迫ってきている。

 やっぱり大量のモンスターが迫ってくるのは恐ろしいものがある。

 ちょっと狼に襲われたときのことを思い出しそうになったけど、意識して考えないようにする。

 不思議と僕に真っ直ぐ向かってくるやつはほとんどいない気がして、恐怖は思ったよりも大きくなかった。

 とりあえずワビスケの言うとおり、目の前に集中する。

 一番近くにいたやつにナイフで切りかかった。



 なんと言えばいいんだろうか。

 サックリ、というか。

 ほとんど抵抗を感じることなくラプトルの体が両断された。


「え?」


 僕は戦闘中なのに間抜けな声を出してしまった。

 それくらい、あっさりとラプトルを倒すことができた。


「はあああ?

 なんだよそれ?」


 ワビスケが変な声を出して驚いている。


「分からないよ。

 ただ、ナイフで切っただけだよ」


「いや、ナイフで切っただけでそうはならないだろ。

 こわっ。

 エイシこわっ。

 なんて恐ろしい子!」


 ワビスケがふざけている。


「僕じゃないよ。

 なんか勝手に切れたんだよ」


 僕は2体目のラプトルに攻撃した。

 また簡単に両断できた。

 うわっ。

 確かに自分でやっていても、これは怖い。


「もしかしたらそのナイフの効果なのかもしれないな。

 そんな効果は聞いたこともないが。

 まあ、そんだけやれるならエイシも問題ないだろ。

 このままどんどん倒すぞ」


 ナイフの効果?

 これってそんなすごい武器だったのか。

 よく分からないけど、確かにこれなら問題はなさそうだ。


 ワビスケもさっきからベラベラしゃべっているけど、それでもどんどんラプトルを倒している。

 雑魚って言いまくってただけあって、全然相手になっていないみたいだ。


 それから僕たちはラプトルを倒しまくった。

 ラプトルたちは簡単に倒されていくのに、全然こちらを怖がってはいないみたいだ。

 怖がるとかそういう感覚はないんだろうか。

 普通これだけあっさり倒されまくったら逃げるやつが出てもいいと思うんだけど。


「お、エイシ、ついにバイラプトルがお出ましだぞ。

 基本はラプトルをちょっと強くした感じだが、頭が二つあるから噛み付きがちょっと増える。

 まあ、大して変わらないから問題ないだろうが、ちょっとだけ気をつけろよ」


 ワビスケの言葉通り、数が減ったラプトルの後ろからバイラプトルが迫ってきた。

 バイラプトルはラプトルよりも数は少なかった。

 と言ってもそれなりの数がいるけど。


 僕は近くのバイラプトルに攻撃してみた。


「ん?」


 あっさりと倒すことができた。

 ラプトルとの違いは感じなかった。


「おいおい、少々強くなってもお構いなしかよ。

 すげえな」


 ワビスケが呆れたような声で言っている。


「なんかこのナイフの切れ味がすごいんだよ」


「そうかもしれないけど、そこまで簡単に倒されると笑っちまうな。

 初心者だったら普通は苦労するもんなんだがな」


 そう言うワビスケだってラプトルだろうがバイラプトルだろうが関係なくどんどん倒している。

 というか、ワビスケが言っていた通り本当にラプトルは雑魚みたいだ。

 全然脅威に感じない。

 まあ、ナイフのおかげなんだろうけれど。


 そのままワビスケと僕はどんどんラプトルを倒していった。

 そして、最後の一頭をワビスケが倒した。


「ふう、お疲れさん。

 な?

 雑魚だったろ?」


「そうだね。

 なんか思ったより戦ってるという感じはしなかったよ。

 一方的だったからかなあ」


「まあ、ただでさえ作業モンスターとか言われたりするようなやつだからな。

 エイシみたいな戦い方だったらなおさらだろうな。

 ただこんだけの数がいたら普通はもっと苦労するんだがな」


 そう言ったワビスケは僕の持っているナイフを見ている。


「これのおかげだよねえ。

 そんなにすごい武器なのかな」


 僕自身、自分が強いおかげだとは全く思っていない。

 今回の戦いはナイフのおかげだということは分かっている。


「わっかんねえ。

 分かんねえけど、ちょっと普通じゃないと思うぜ。

 まあ、もうちょっと使ってたらどんな効果があるのかも分かってくるかもしれないな」


「うーん」


 今回けっこうな数のラプトルを倒したけど、ナイフの効果が何かと言うのは分からなかった。

 ただただすごい切れ味だとしか感じなかった。


「今考えてもしょうがない。

 とりあえずラプトルの爪を集めるか。

 こんだけいたら倒すより爪を集めるほうが大変だぜ」


「そうだね。

 どうしたらいいの?」


「いや、普通に爪の部分だけ切り落とせばいい」


 そう言ってワビスケはかばんから小さなナイフを取り出して近くのラプトルの屍骸から爪を切り落とした。


「倒してから時間が経ったら死体は消える仕組みだから、さっさと集めるぞ」


「え?

 消えるの?

 どうして?」


「そういう設定なんだよ」


「そういうものなの?」


「そういうもんだよ」


 ワビスケはどんどん作業していく。

 僕だけボケッとしているわけにもいかないから、僕も作業を始めた。

 手の先から爪だけ切り落とすというのは、なかなか残酷で気分のいい作業ではなかったけど、ラプトルを両断しまくった僕が言うのは今更だと思った。


 結局、爪は全部でラプトル73体分、バイラプトル13体分集まった。

 全部かどうかは分からない。

 死体が多すぎてちゃんと全部は確認できなかったからだ。

 それに、最初にワビスケが爆弾で吹っ飛ばした分は回収できなかった。

 バラバラになっていたから。


「それにしても、すごい数だよね」


「ああ、なんかのイベントの前触れかもしれない。

 ちょっとマメにチェックすることにするか」


 エスクロさんももうすぐイベントが起きるって言ってた。

 それのことかな。


「とりあえず帰るか。

 爪を換金したらそれなりの収入になるはずだから、それでエイシのかばんでも買いに行くか」


「うん」


 僕たちはゴミ屋敷に帰ることにした。

 帰る頃には、最初の爆弾で倒したラプトルの屍骸が消え始めていた。

 ワビスケの言う通り、そういう設定みたいだ。

 設定ってなんだろう、そう思った。


「おーい、何してんだよ?

 さっさと帰るぜ」


 ワビスケの声で我に返った僕はゴミ屋敷への道を歩き出した。






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