武器
ワビスケと一緒に大量のゴミをどけている。
下にアイテムらしきものを発見したからだ。
ゴミの隙間から差し込む日の光を反射して微妙に光っている。
今まで見つけた中身入りのビンも光ってたりしたけど、ちょっと違う光沢の気がする。
しばらく二人がかりでゴミと格闘して、ようやくそれを取り出すことができた。
ナイフだった。
「ワビスケ、これナイフだよね?
どんなものなのか知ってる?」
「いや、こんなナイフ見たことないな。
プレイヤーアイテムとかプレイヤー用装備で俺が知らないものなんてないはずなんだが。
まあ、オリジナルアイテムだったら知らないものもあるかもしれないが。
ちょっと見せてくれ」
「はい」
ワビスケに手渡す。
「えーと。
うん?
なんかおかしいな、これ。
どういうことだ?」
「どうしたの?」
「いや、なんか変だ。
昨日話したステータス覚えてるか?」
「うん。
強さを表すって言ってたやつ?」
「そうだ。
そのステータスなんだがな。
プレイヤーの攻撃力も数値化されてるんだ。
それでな、武器を装備したらその武器の攻撃力が加算された数値がプレイヤーの攻撃力になるんだ。
だが、このナイフは装備しても俺の攻撃力が上がってないんだよ。
というか、多分装備できてないんだよ」
「え?
どういうこと?
ナイフを持ったら装備したってことじゃないの?」
「いや、それはそうなんだが。
プレイヤーとして武器を装備するってのは、厳密にはちょっと違うんだ。
そもそもな、普通に考えて武器を手に持ったからってすぐに攻撃力が上がったりするはずないだろ。
使って始めて攻撃力が上がったことが分かる。
でも、プレイヤーが武器を装備したらその時点でステータスの攻撃力の数値が上がるんだよ。
それは多分そういう設定になってるからなんだが、このナイフにはそう設定されてないみたいだ。
プレイヤー用の装備じゃないんじゃないかな。
武器でもそういうやつは他にもあるからな。
プレイヤー以外のキャラ専用の装備とか」
「え?
でも雰囲気は今まで見つけたアイテムと同じだよ。
それって多分プレイヤー用のアイテムってことだよね?」
「そういえばそうだったな。
うーん。
じゃあなんだろうな。
バグかな。
製作者も万能ってわけじゃないからな。
今までもバグはそれなりに見つかってるし」
製作者?
そういえば昨日エスクロさんはこの世界を作った人を製作者って言ってた。
それで、その人たちが置いていったものがこの街にあるゴミだって。
ということは、このナイフもそうだってことだよね。
それに、エスクロさんは製作者が置いていったものの存在を忘れたとも言ってた。
ということは、このナイフはプレイヤー用に作られたけどワビスケの言うような設定を忘れられたアイテムってことなんじゃないかな。
まあ、僕の勝手な予想なんだけど。
ワビスケには内緒のことだから聞いてみることはできない。
エスクロさんに聞いてみたいけど、どこにいるのか分からないもんな。
「じゃあ、そのナイフは装備しても意味がないってことなの?」
「いや、どうなんだろう。
そうとも限らないと思うけどな。
ただ、装備できないとなると効果が分からないんだよな。
なんかの能力があった場合、普通は装備した時点でそれが分かるんだけど、これは装備できないからそれが分かんねえ。
まあ、少なくとも武器であることは間違いないから意味がないってことはないんじゃないか。
とりあえずエイシが見つけたもんなんだから、エイシの装備にすりゃいいと思うぞ。
武器なんて持ってないだろ?」
「うん。
じゃあそうしようかな。
でも、あんまり使わないかもしれないね」
「そうだな。
いや、待てよ。
せっかく武器を手に入れたんだから戦闘もしてみるか?
エイシが怖いって言うならやめとくが」
「え?
戦闘?」
「ああ。
掃除屋のホームの掲示板にラプトルの爪の収集って仕事あっただろ?
あれなんかちょうどいいんじゃないか?
ゴミ屋敷に来る途中でラプトルは見ただろ?
あれを倒せばいいんだよ」
「危なくない?」
「大丈夫だよ。
クワドラプトルとかの相手をするならともかく、普通のラプトルとかバイラプトルだったら余裕だよ。
そんくらいの相手なら俺一人で問題ないレベルだからな」
「じゃあ試してみたいかも」
「おう、いい心がけだぜ。
やっぱ何事もやってみねえとな。
早速行くか?」
「あ、ちょっと待って。
今日拾ったビンを置いてから行くよ」
「ああ、そうか。
そうだな。
それ持って行ったら邪魔だな」
僕たちは一度ホームに帰って空きビンを引き取ってもらった。
その日はまだそれほど作業を進めていなかったから大した数は集まっていなかったけど、昨日集めた分と合わせて報酬がもらえた。
「ついでに一応ラプトルの依頼も確認してくか」
「うん」
「お?」
「あれ?」
掲示板を確認した僕とワビスケの声が重なった。
ラプトルの爪の収集の依頼のすぐ横に新しい依頼が増えている。
【バイラプトルの爪の収集】
「ワビスケ、これは?」
「おお。
なにやらラプトルだけじゃなくてバイラプトルも増えてるらしいぞ。
これは都合が良いな。
報酬もラプトルのやつよりかなりいいぞ」
「バイラプトルは強いんでしょ?
危なくない?」
「大丈夫だ。
ラプトルよりは強いが所詮雑魚だ、雑魚。
数がいようが大したことねえよ」
「ふうん。
じゃあ行く?」
「おう」
ワビスケと僕はゴミ屋敷の外に出た。
「で、あの依頼では場所の指定はしてなかっただろ?」
「うん」
「つまりどこで狩ってもいいわけなんだけど」
「だよね」
「だが、ちゃんと大量にいる場所は調べてある」
「え?
いつの間に?」
「昨日お前が2回目の空きビン拾いに行ってからだよ。
ちょっと落ちてから調べてた。
んで、その場所なんだけどな。
ここから歩いて行ける場所なんだ。
こんなに街の近くにモンスターが大量に出てくることなんて、そう多くないんだけどな。
それを早々に処理させるためにあの依頼が出てるのかもしれないな。
とりあえずそこに行けばラプトルとバイラプトルがいることは間違いないはずだから、そこに向かうぞ」
「うん」
ワビスケの案内でラプトルがたくさんいるらしい場所に向かった。
◇
「ワビスケ、これはちょっとさすがに、ねえ?」
「そうだなあ。
まあ、どうしようもないってことはないが、ちょっとめんどくせえかなあ」
僕たちがいる所から見える場所にかなりの数のラプトルの群れがいた。
まだ向こうはこちらに気づいてはいない。
「ラプトルってこんなに集まるものなの?」
「いや、ここまでの群れはそうそうお目にかかれないんじゃないか。
大量発生イベント、とは言わないがそれに近い数だな」
大量発生イベント、僕はそのフレーズにちょっとドキッとした。
僕が狼に襲われたときのイベントだ。
「でもまあ、そんなイベントの告知はなかったから、たまたま大量に集まってるんだろう。
たまたまでここまで集まることがあるのかは大いに疑問ではあるけどな」
「たまたま、ねえ。
これを二人でどうにかするってのはどうかと思うんだけど。
さすがに危ないでしょ」
「いや、こんくらいなら俺一人でもなんとかできるレベルだ。
だから、このまま行こう」
「え?
ホントに?
ワビスケってそんなに強いの?」
「いやあ、そうでもないけどな。
単にラプトルが弱えんだよ」
「でも見た目は強そうだよ?」
「見た目だけな。
設定はマジで最弱そのものだ。
数がいるからちょっと鬱陶しいだろうが、まあ問題ねえよ。
はっはっは、怖がるなって。
大丈夫だよ」
「本当に?」
ちょっと疑わしい。
なーんかいい加減なことを言ってるように見える。
笑顔が胡散臭い。
「おい、失礼なこと考えてるだろ。
ホントに大丈夫だって。
最悪逃げりゃいいんだから」
それはそうかもしれない。
まあ、せっかくここまで来たんだから何もしないってのも確かに嫌かな。
「そうだね。
じゃあ、このまま突っ込めばいいの?」
「いや、初めてのエイシの戦闘だからな。
最初の一撃は派手にいこう」
そう言ってワビスケはいつも背負っている大きなかばんをごそごそ漁り出した。
派手ってどういうことだろ。
「えーと、これこれ」
そして、何かを取り出した。
筒のような形のものから線が出ている。
見たことのないものだ。
「何それ?」
「これはな、昔熊が作った兵器だ。
一緒にダンジョン攻略してた頃にもらったんだ。
結局そのときは使わなかったけどな。
それからも使いどころがなくて、ずっと持ってたんだ。
だが、まさに今が使いどきだと思う」
兵器?
ワビスケはその筒から伸びた線に火をつけた。
そして、ラプトルの方に投げた。
けっこう距離があるのに、それは群れの真ん中に飛んでいった。
すごい投擲力だ。
そして、それが地面に着いた瞬間、すごい衝撃と共に周辺に轟音が轟いた。
物凄い爆発だった。
爆発の近くにいたラプトルが吹っ飛んでいるのが見える。
かなりの数のラプトルを倒せたみたいだ。
「たーまやー」
ワビスケは緊張感のないのんびりした調子でそんなことを言っている。
「な、何なのあれ?」
僕はそんなに落ち着いていられない。
あんなの見たことない。
耳が痛い。
「すげえだろ?
熊特製爆弾。
いやあ、やっぱ迂闊にダンジョンの中とかで使わなくて良かったわ。
こんなもん使ったらダンジョンごと崩落してただろうからなあ」
「いや、すごいなんてものじゃないでしょ。
こんなの作れるなんて熊って人はホントに何者なの?」
「本人は科学者って言ってたけどな。
俺に言わせりゃ、マッドサイエンティストってやつだよ。
相当面白えやつなのは間違いないぜ」
「うーん、面白いって言っていいのかなあ、これ」
ワビスケの面白いの基準がよく分からない。
だけど、目の前の惨状は面白いで片付けていい話なのかな。
「エイシ、そんなこと言ってる場合じゃないぞ。
ラプトルたちがこっちに気づいた。
向かってくる。
俺たちも行くぞ」
僕とワビスケは会話をやめてラプトルに向かうことにした。
僕はちょっと怖いと思ってはいたけど、同時にワクワクしてもいた。