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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
12/86

変わり者

 今日もビン拾いをしている。

 ワビスケも一緒だ。

 昨日エスクロさんから聞いた話をしたかったけど、ダメだって言われたから我慢している。


 今日はワビスケも手伝ってくれている。

 と言っても、ワビスケはほとんど空きビンを拾ってはいないんだよね。

 アイテムがないか探しているみたいだ。


「あー、これもゴミ。

 それもゴミ。

 あれもゴミ。

 どれもゴミだ。

 エイシ、どうやってアイテムなんて見つけるんだよ」


「だから、そんなに簡単じゃないって言ったじゃないか。

 僕だって昨日一日中ビン拾いをして5個だよ。

 珍しいのは2つだけだったし、それでもすごい確率だってワビスケも言ってたじゃないか」


「そりゃ言ったけど、俺だってこう見えて結構腕は立つんだぜ。

 とんでもないアイテムとは言わねえけど、回復薬くらいは見つかってくれてもいいだろ」


 ワビスケはうるさい。

 まだ今日の作業を始めてから30分くらいしかたっていない。

 そんなに簡単に見つけられたら苦労はないよね。


「ワビスケってせっかちだよね。

 別にアイテムじゃなくたって空きビンを拾ったらいいじゃない。

 100個拾ったら1000円だよ」


「そんな子供の小遣いみたいな金で満足できるわけねえだろ。

 いや、別にビン拾いの報酬を馬鹿にしてるんじゃないぞ。

 というか、報酬なんて1000円だろうが100万円だろうが関係ねえんだよ。

 金がほしいんじゃないんだからな。

 俺はただ宝が見つかる瞬間の感動を経験してえんだよ。

 エイシはいいよなあ。

 昨日5回も味わったんだから。

 それもそのうちの2個はレアアイテムだぜ」


 最初はゴミ扱いしてたくせによく言うよね。

 ホント、ワビスケは現金だ。


「たまたまだよ。

 大体こんなゴミの山からアイテムだけ探すことなんてなかなかできないんでしょ。

 僕は雰囲気で探してるけど、ビン以外だと全然いいアイテムの探し方なんて分からないよ。

 ん?

 あれ?」


 ちょっと離れたゴミの山の中に光るものが見えた気がした。

 雰囲気的にアイテムっぽい。

 ちゃんと外見は見えないけど、雰囲気だけならいつもの中身入りのビンと似ている。

 僕はそのゴミの山に駆け寄る。


「お、おいエイシ。

 なんか見つけたのか?

 おい、ずるいぞ」


 ワビスケが騒いでいるけど、気にしない。


 目的のゴミの山にたどり着いた。

 また大量のゴミの下にあるみたいだ。

 隙間からなんか光ってるように見えるけど、はっきりとは見えない。

 僕が積み上がったゴミをどけようとしたとき、横から人が突っ込んできた。


「よっしゃー!

 今度こそ本物やろ。

 やっと見つけたで。

 ほんまめっちゃ苦労したわ」


 それは、不思議な話し方をする小柄で可愛らしい感じの女の子だった。

 小さくて可愛い顔に不釣り合いな大きめの眼鏡をかけていて、おかしな印象を受ける。


「ん?

 なんなんあんた?」


 その子はそこで始めて僕に気づいたみたいだ。

 僕に話しかけながらどんどん近寄ってくる。


「それはウチのんやからな。

 あんたにはあげへんで」


 すごい勢いで詰め寄ってくる。

 どうやら、ゴミの下のアイテムのことを言っているみたいだ。


「えーと」


 ていうか僕の方が先にここにいたんですけど。


「なんなんその顔?

 文句あるん?」


 この人怖い。

 言葉も変わってておっかないけど、それより勢いが怖い。

 興奮したときのワビスケみたいな感じだ。


「うげっ。

 お前はエセ関西人」


 追いついてきたワビスケが女の子を見て言う。


「誰がエセやねん!

 ウチは本物の関西人や!

 ってワビスケやん。

 久しぶりやな」


「お、おう。

 ここんところお前の話を聞かないとは思ってたが、ゴミ屋敷にいたのか」


「そやで。

 ここ一ヶ月くらいずっとここでアイテム探ししててん。

 そんでやっと本物っぽいもんを見つけたと思ってんけど」


 そう言って僕のほうをじろっと睨んできた。


「いやあ、えーと」


 僕が先に見つけたとは言いにくい。

 まあ、別にこれ一個くらい譲っても構わないんだけどね。

 なんか、あなたにあげますよとも言いにくい。


「おいおい、そりゃ言い掛かりだろ。

 エイシの方が先に見つけてたぜ」


 ワビスケははっきりと言った。

 こういう時ワビスケが一緒にいてくれると便利でいいよね。

 すごく助かる。


「はあ?

 なんでやねん。

 ウチの方が先やろ」


「何言ってんだよ。

 明らかにエイシの方が先にここにいただろうが」


「そやかて、ウチかって、ずーっと苦労して探して、ようやく見つけてんで。

 そんな簡単に諦められへんわ」


「そんなの誰だって一緒だろうが」


 いや、僕はそんなに苦労してないんだけどね。

 でも、そのワビスケの言葉は女の子にとって理解できるものだったらしい。


「うーん。

 ……。

 そやな。

 ウチとしたことがちょっとテンパってたみたいやわ。

 大人気なかったな」


 少女が大人気ないとか言うのは違和感がすごい。

 どう見ても大人じゃないしね。


「キミ。

 エイシ君って言うんやんな?

 ごめんな」


 あっさり謝ってくれた。

 意外だ。


「別に僕は何もされてませんからいいですよ。

 それに、そんなに苦労したんなら、そのアイテムだってあなたに譲ってもいいですし。

 いいアイテムかどうかもまだ分かりませんけど」


「おいおい、エイシ。

 そこは譲っちゃダメだぜ。

 このエセ関西人相手に下手に出たら、これからずっと調子づかれるんだぞ」


 ワビスケの言い方はすごく失礼だと思う。


「そやで。

 気持ちは嬉しいけど、せっかく見つけたもんをそんなすぐ人に譲ったらあかん。

 ちゃんと自分の権利は主張せなあかんねんで」


 あれ?

 なぜか僕が説教された。


「そうですか?

 じゃあ、遠慮なくもらいますけど」


「うん、そうしとき。

 ウチもその方がすっきりするし、がんばって次のんを探す気になるわ」


 意外とサバサバしている人みたいだ。

 良かった。


「ところで、二人は知り合いなの?」


 ワビスケに聞いた。


「ああ、昔ちょっとな。

 コイツはエセ関西人…」

「だから、それやめえや。

 誰がエセ関西人やねん。

 ウチは正真正銘関西人や」


 さっきから何を言い争っているのか分からない。

 エセ関西人ってなんだろ。

 仲は悪くなさそうに見えるんだけどな。


「始めまして、エイシ君。

 ウチはマイコや。

 京都の舞妓さんのマイコやで。

 ワビスケとはちょっとした昔なじみやねん。

 まあ、会うのはめっちゃ久しぶりやけどな」


「エイシ、こいつは変人だからな。

 あんまり仲良くならなくていいぞ」


「あんたさっきからめっちゃ失礼やん。

 エセとか変人とか。

 あんたに言われたないわ。

 なんでそんな突っかかってくるねん」


「はあ?

 突っかかってねえよ。

 事実だろうが。

 別に関西人なのを否定してんじゃねえよ。

 お前は存在が色々詐欺だからエセ関西人つってんだよ」


「だから失礼な。

 ウチはなんも嘘ついてへんわ」


「はあ?

 じゃあ、なんだよその姿は?

 中身はそんな美少女じゃねえだろうが」


「あんた、失礼なこと言うて。

 ウチのリアルの姿なんか知らんやろ」


「知らねえけど、そんな歳の女の子がこんなとこに入り浸ってるわけねえだろうが。

 俺はそういうあざとい外見が好きじゃねえんだよ。

 前にも言ったことあるだろうが。

 そもそも中身おっさんじゃねえのか?」


「うっ。

 ち、ちがうわ。

 ウチはおっさんちゃう」


「ほーれ、なんか怪しいぞ。

 ったく、すぐばれるような嘘つくからだよ。

 おっさん」


「おっさんちゃうて言うてるやろ」


「はいはい。

 お疲れ、おっさん。

 って、話が逸れたな。

 別に中身の話なんてどうでもいいんだよ」


「そや、そんな話何の意味もないやんか。

 大体、あんたかて実際はそんなイケメンちゃうやろうに」


「はいはい、悪かったな。

 俺も詐欺だよ。

 で、俺とコイツは昔一緒に遺跡の攻略をしたことがあるんだよ。

 それから、ちょこちょこ付き合いがあるんだ」


 ワビスケが説明してくれる。


「へえ、つまりワビスケの仲間ってことだね」


「ああ、不本意ながらそういうことになるな。

 まあ元仲間って言った方が正しいけどな。

 ところで、今は熊は一緒じゃねえのかよ?」


 熊?


「いや、一緒やで。

 今日は別行動やけど」


「そっか。

 あのオヤジも元気なのか?」


「まあ、相変わらずや。

 ゴミ屋敷で一緒に宝探ししてるんやけど、まだなんも成果は出てへんからな。

 ちょっとテンションは低めやわ。

 あんたこそ、こんなとこに何しにきたん?」


「俺か?

 俺はエイシと一緒にブラブラしてるだけだよ」


「ふうん。

 あんたが何の意味もなく行動するとは思えへんな。

 その子がなんかあるんやろ?」


「まあな。

 コイツ、昨日だけでゴミ屋敷の中でアイテム5個も見つけたんだぜ」


 ワビスケはペラペラ話してるけどいいのかな?

 多分、あんまり人に聞かれたくないと思っているはずなんだけど。

 昨日もその話をするときは、わざわざ外に出たのに。

 まあ、元仲間相手だからいいのかな。


「なんやて?

 ホンマか?」


 マイコさんは僕の方に確認してくる。


「え、ええ。

 まあホントです。

 でも珍しいのは二つだけで、後は回復薬でしたけど」


「珍しいの?

 なんなん?

 なに見つけたん?」


「筋力アップとレベルアップだよ。

 まあ、ランクはそんなに高くないやつだけど、一応イベントアイテムだぜ。

 すげえだろ?」


 なぜかワビスケが誇らしそうに胸を張っている。

 多分、ゴミ扱いしたことはもう忘れてるんだろうな。


「ふうん。

 なるほどな。

 確かに君おもろいみたいやな。

 どうやって見つけたん?」


「ええと、僕にはなんとなく雰囲気の違うゴミが分かるんです。

 それがなんかアイテムらしくて。

 そういう雰囲気のビンを探してたら見つかりました」


「雰囲気?

 なんやそれ?」


「なんかプレイヤーアイテムの雰囲気が分かるんだと。

 すごいだろ?」


「そんなんどうやったら…」


 そう言ってマイコさんは僕の方を凝視してくる。


「え?

 君、もしかしてプレイヤーちゃうんちゃうん?」


 ちゃ、ちゃうちゃうん?

 意味が分からない。


「はい?

 僕はプレイヤーじゃありませんよ」


「なんだよ。

 今頃気づいたのかよ。

 お前もエイシには会ったことあるはずだってのに」


「え?

 ホンマ?

 そんなに有名なキャラなん?」


 そう言って、さらにマイコさんはこちらを凝視してくる。


「うーん。

 こんな有名なキャラおったっけな?

 有名キャラって言えばもっと特徴的やと思うねんけど。

 どっちかというと村人Aって感じやん」


 惜しい。

 市民Aです。


「有名ってわけじゃないんだけどな。

 誰もが最初に会うキャラだよ」


「最初に?

 って、あ、もしかしてあれか。

 あのファスタルの入り口の?」


「やっと気づいたかよ」


「え?

 でもあのキャラってあそこから動かへんのちゃうん。

 なんでこんなとこにおるん?」


「な、面白いだろ?」


「なるほどな。

 あんたの企みは分かったわ。

 それでこの子をストーキングしてるんか」


「ストーキングって人聞きわりいな。

 俺はただエイシがやりたいことの協力をしてるだけだよ」


「一緒やんか。

 エイシ君、気を付けなや。

 コイツ、ほんましつこいからずーっとついてくるで」


 まあ、ワビスケには色々助けてもらってるからそれはいいんだけど。


「僕についてきても面白いかどうかは分からないよ?」


「いやいや、十分楽しんでるから大丈夫だぜ。

 エイシは変なこと気にせずやりたいようにやっててくれていいんだ」


 うーん。

 なんだかワビスケとマイコさんは話が通じてるみたいだ。

 僕だけついていけてない気がする。

 まあ、好きにしてていいならそうするだけなんだけど。


「で、お前はどうやってそのお宝を見つけたんだよ?」


 今度はワビスケがマイコさんに聞いている。

 っていうかお宝かどうかはまだ分からないんだけどね。


「ウチか?

 まあ、あんたらにやったら内緒にせんでもええやろ。

 教えたるわ。

 聞いて驚け、見てもっと驚け。

 このメガネはな、熊特製のアイテムサーチャーや」


 マイコさんは掛けている変な眼鏡を外して、それを高く掲げながら説明した。

 自分でテッテレーとか効果音を付けている。

 ちょっと寒い。

 ワビスケが変人とか言うのはこういうところだろうか。


「アイテムサーチャー?」


「そや。

 まだあんまり精度はよくないねんけどな。

 見えてる範囲にアイテムがあったらその部分の色が変わって見えるって優れもんや。

 ゴミ屋敷の中はどこも色が変わりまくるから今まで全然アイテムを見つけられへんかってんけど、そのお宝は割とはっきり見えたんや」


「へえ。

 今度は熊そんなもん作ったのかよ?」


「すごいやろ?」


「すげえけど、エイシを知った後だとな。

 エイシの下位互換って感じか」


「ぐっ。

 確かに。

 でもな、その子が異常なだけで、これだって結構すごいねんで」


「そりゃそうだな。

 使えるオリジナルアイテムってのはなかなか作れるもんじゃねえしな。

 流石熊だ。

 熊とそのアイテムはすごい。

 お前はすごくねえ」


「ぐぬぬ」


 ワビスケは一言多いと思う。


「ね、ねえ」


 僕はワビスケに話しかけた。

 全然話が分からないけどちょっと気になったからだ。


「ん?

 どうしたエイシ?」


「熊って人はどんな人なの?

 というか人なの?」


 さっきから名前は出てくるけど、僕は知らない人だ。


「うん?

 はっはっは。

 そやな。

 そりゃエイシ君は熊知らんわな。

 人かって?

 うーん、どやろな。

 人のはずやけど、色々人間離れしてるわ」


 マイコさんが爆笑しながらそう話した。

 その答えはあいまいで分かりにくい。

 まあ、人であることは確かみたいだけど。


「ワビスケとエイシ君はまだしばらくゴミ屋敷におるん?」


「ああ、そのつもりだぜ」


「なら、どうせそのうちまた会うこともあるやろ。

 そんときにはちゃんと熊も紹介するよ。

 せっかく会ったんやしもっと色々話したい気もするんやけど、今日はなんかめっちゃアイテム見つけられそうな気がするから、ウチもう行くわ。

 ほなね。

 自分らもがんばりやー」


 そう言ってマイコさんは去って行った。


「なんだかすごい人だね」


「まあ、騒々しいやつであることは間違いない。

 ああ見えて中々の実力してんだけどな。

 ずっと熊とコンビを組んで色んな遺跡とかダンジョンを攻略してる。

 あいつも言ってたけど、次はちゃんと紹介してやるよ」


「うん」


 あの人はなんだか面白そうな人だと思う。

 僕に執着もしないし、嫌な感じもしなかった。

 ワビスケは変人って言ってたけど、あれも仲が良いからこそ言えることなんだろうし。

 掃除屋のミナミさんにしてもそうなんだけど、ワビスケの知り合いは別に僕のことを知っても追いかけたりしてこない。

 ファスタルではプレイヤーの人が怖くなったけど、思い違いだったのかもしれないな。

 自意識過剰だった気もする。

 まあ、ワビスケが気を使って大丈夫そうな人にだけ会わせてくれてるのかもしれないけど。


「ま、とりあえずそのアイテムを掘り出すか」


「そうだね」


 僕とワビスケは見つけたアイテムを掘り出すことにした。

 今回はワビスケも手伝ってくれた。





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