ゴミ屋敷の成り立ち
拾った空きビンを換金した後、ワビスケについて外に出てきた。
「それでだ。
エイシ」
改まった様子でワビスケが話しかけてきた。
わざわざ外で話すような用事でもあるのかな。
「うん?」
「さっきのアイテムだけどな」
「うん。
使いたいなら使っていいよ」
「いや、そうじゃなくて、どうやって見つけたんだ?
あんなレアなアイテムがそんなに簡単に見つかるはずないんだが」
「ああ、そうだよね。
実際、かなり変なところにあったよ。
僕が見つけたのも偶然みたいなものだし。
なんとなく他とは違う雰囲気があったから見つけられたんだけど、ビンに注目してたから分かっただけだしね」
「そうなのか?
どんな風に違ったんだ?」
「説明しづらいんだけど、プレイヤーの人っぽい雰囲気だよ」
「うん?
プレイヤーは他の人間と雰囲気が違うのか?
俺には全然分からないんだが。」
「けっこう違うと思う。
なんか存在感が強い感じかな。
それが分かるから僕はファスタルで役割をこなせたんだよ」
僕の役割はプレイヤー限定だったからね。
「へえ。
じゃあ、例えば今見渡す範囲にプレイヤーがどれくらいいるのかとか分かるのか?」
「大体は分かるけど、そんなに細かくは分からないよ。
ホームの中にいる人なんか大抵プレイヤーみたいだし」
「ほうほう。
じゃあ、さっきのアイテムみたいに雰囲気の違うゴミは他にもあるのか?
ビンに限らず」
「うーん、けっこうあると言えばあるんだけど、例えば、そこに転がってる靴とか」
ワビスケの後ろに転がっている靴を指さす。
ボロボロな上に片方しかないから、どう考えても貴重なアイテムではない。
僕はビン拾いで中身が入っている物を見つけてから、注意して雰囲気が違うゴミを探すようになっていた。
中身入りのビンを宝物扱いしてたから、自然とそうなったんだ。
そうしていると、意外とゴミ屋敷に転がっている物にはそういう物が多いことに気づいた。
ビンはただの空きビンがほとんどだったけど、ビン以外のものだったら結構違う雰囲気の物はあるみたいだった。
「これか?
ああ、これは革靴だな。
一応、プレイヤーの装備品だ。
誰かの使い古しだろうし、もはやゴミと言っていいような状態だけどな。
なるほど。
どうやら、エイシはプレイヤー用のアイテムを判別することができるみたいだな。
もしかしたら、それで探したら効率よくいいアイテムが手に入るんじゃないか。
ビン拾いなんてけち臭いこと言わずに、それで一攫千金って手もあるかもしれないな」
なんだかワビスケが胡散臭いことを言いだした。
「いや、多分それは難しいよ。
だって、結構そういう物って多いんだ。
さっきの靴だってそうだし、その布もそうだし、あの穴の開いたやかんだってそうだし」
目についた物を挙げる。
「ああ、それはボロキレってアイテムだし、あれも穴の開いたやかんってアイテムだな。
そうか。
エイシは珍しい物だけが分かるんじゃなくて、プレイヤーに関係する物の雰囲気に敏感なのかもしれないな。
多分、ファスタルでの役割のためなんだろうけど、そういう設定があったのか。
初耳だけど面白いな。
裏設定ってやつだな」
ワビスケはちょこちょこ設定って言葉を口にするけど、なんのことなのかはっきりとは分からない。
まあ、ぼんやりと言いたいことは伝わってくるから別にいいんだけど。
何が面白いのかは分からない。
「じゃあ、適当にそういう雰囲気の物で面白そうなのを見つけたら拾えばいいか。
何が面白そうなのかはエイシに任せるよ。
俺にはさっぱり分からないからな。
噂によると、ゴミ屋敷ではとんでもないレアアイテムが見つかることがあるらしいから、いい物が見つかることもあるかもしれないぞ」
「へえ。
宝探しみたいで面白いね」
「みたいっていうか、まんま宝探しだけどな。
この街にいるやつの大半はそれ目当てのはずだぜ。
こりゃ面白いことになってきたな。
ニグートじゃなくてゴミ屋敷に来て正解だったかもしれないぜ」
ワビスケは楽しそうだ。
「ま、今日の所はとりあえずこの辺にしといて続きは明日ってことにするか」
疲れた様子はないけど、ワビスケは今日はもう満足したみたいだ。
「そう?
僕はもう少しビン拾いをしようかな」
「元気だなあ。
じゃあ、俺はいったん落ちるからエイシは好きなだけ続けてくれ。
昨日の寝部屋で寝てるから、なんかあったら言ってくれ。
張り切るのもいいが、あんまし無茶するんじゃないぞ」
「うん、わかった。
行ってきまーす」
僕は、そう言って一人で街の方に戻って行った。
◇
ビン拾いを続ける。
基本的には目についたものだけを拾うようにしている。
そうじゃないと全然進まないからだ。
それと、ワビスケに言われてから僕も一段とアイテムが気になるようになった。
基本的にはゴミばかりなんだけど、すごそうなのが見つかったら拾おうと思っている。
まあ、僕にはすごいものかどうかの判断はつかないから、それっぽいのを見つけたら持って帰ってワビスケに見てもらわないといけないんだけど。
そんなことを考えながらするビン拾いは、さっきよりも断然楽しかった。
あ、あれもそうだ!
また中身入りのビンを見つけた。
大量のゴミの山の中にあった。
邪魔なゴミをどけていく。
このどけたゴミもどうにか処分できたらもっと街をきれいにできると思うんだけどな。
今のところは処分の仕方が分からないから、ただどけるしかない。
がんばってゴミをどけると、きれいな液体の入ったビンが出てきた。
多分回復薬だと思う。
さっき見つけたのと色が似ている。
ワビスケに見てもらおう。
「お疲れ様」
そんなことをしていると、後ろから声を掛けられた。
ちょっと驚いて声の方を振り向く。
この街に来て初めて人に話しかけられた。
「やあ、エイシ。
何をしているんだい?」
エスクロさんだった。
「あ、エスクロさん。
こんにち、こんばんは。
ちょっとビンを拾う仕事をしてるんです。
エスクロさんもこの街に来てたんですね。
何か用があったんですか?」
こんなところでエスクロさんに会うとは思わなかった。
僕が持っている勝手なイメージではエスクロさんはどこかの偉い人っぽいんだよね。
こんなゴミの山の中にいるのは少し不思議な感じがする。
「いいや、ちょっと立ち寄っただけだよ。
ふうん、ビンを拾う仕事ね。
何か収穫はあったかい?」
「はい。
珍しいアイテムを見つけました」
「へえ。
それは良かったね。
エイシとゴミ屋敷の組み合わせか。
ふふふ、興味深いね。
確かにこの街には色んなアイテムが眠っているからね。
がんばって探せばとてもいいものが見つかるかもしれないよ。」
やっぱりそうなんだ。
ワビスケもそんなこと言ってたもんな。
「やっぱりそうなんですね。
なんでそんなアイテムがゴミの中にあるんでしょうね」
「ああ、理由は知らないんだね。
うん、エイシにだったら教えてあげてもいいかもね。
エイシはこの街がゴミ屋敷って呼ばれていることは知っているのかい?」
「はい。
本当はクインタ・フロンティエって名前なのに、ゴミだらけだからゴミ屋敷って呼ばれてるんですよね?」
「いいや、それは違うよ。
逆だ。
この辺りは元々ゴミ屋敷って呼ばれていたのさ。
ゴミ屋敷をプレイヤーたちが開拓し始めて、街になったんだ。
だから、開拓都市クインタ・フロンティエっていうのは後からついた名前で、元の名前がゴミ屋敷だったんだよ」
「へえ、そうなんですか」
エスクロさんは物知りだなあ。
そんなこと、ワビスケも知らないんじゃないかな。
「それで、このゴミなんだけどね。
この世界の人たちが捨てたものではないんだよ」
「え?
どういう意味ですか?」
「元々この付近は一帯に街も何もない、ただの広い平地だったんだ。
それで、この世界を作った者たちが物を置くのにちょうど良いって判断したらしい。
この場所に世界を作った時の残骸を置いていったんだよ。
そんな残骸がどんどん溜まっていくうちに、いつの間にか単なるゴミを捨てる場所ってことになったのさ。
それでゴミ屋敷と名付けられたんだよ。
まあ、ゴミ捨て場とかの方がしっくりくる気もするけれど、それは名付けた人間のセンスだね。
とにかく、そんな成り立ちだから使えるものや珍しいものがたくさんあるんだよ」
「世界を作る残骸、ですか」
僕は話についていけてない。
神様とかそういう話なのかな。
「まあそんなに難しい話じゃないよ。
この世界を作ったやつらはかなりいい加減だって話さ。
彼らは世界を作り始めた時に、次々にすごい装備やアイテムなんかを思いついて、勢いに任せてどんどん作ったんだよ。
だけど、作ったはいいものの、使い道を考えてなかったんだ。
それで、いつか使う時のためにここに仮置きしたのさ。
でも、他の物を作っている間に、その存在自体を忘れてしまったらしいんだよ。
普通はそういう使わないものは消した方がいいんだけど、忘れられてるわけだからね。
消しようがなくて、今もここに残っているんだ。
まあ、いくつかはプレイヤーが発掘したみたいだけど、まだ大半は見つかっていないだろうね」
なんだか世界の裏事情を聞いている気分だ。
「すごい話ですね。
神様の話ですよね」
「神様とは言えないだろうね。
製作者とでも言った方が正しいと思うよ。
まあ、本当にバカな話なんだけどね」
「エスクロさんは物知りなんですね」
「僕はそういう、普通の人が知らないことを調べるのが好きだからね。
ああ、でも今の話は他の人には内緒だよ。
エイシだけに特別に教えてあげたんだから」
「え?
そうなんですか?
僕の仲間にも教えたらダメですか?」
ワビスケは今の話とか喜んで聞きそうなんだけど。
「仲間?
誰だい?」
「ワビスケって言うんですけど」
「ワビスケ?
情報屋の?」
エスクロさんはワビスケを知っているらしい。
「そうです」
「なるほど。
ワビスケが仲間ね。
それはいいね。
ああでも、今の話は内緒だよ。
彼なら、ある程度は知っているだろうし薄々感づいているだろうけれど、教えたらダメだよ」
うーん、残念。
でも、ダメって言われたんだからダメだよね。
エスクロさんにはお世話になったし、裏切ることはできない。
「分かりました。
内緒にします」
「うん、ありがとう。
それで、エイシはいつまでここにいるつもりなんだい?」
「決めてないですけど、この街はなんだか面白そうなのでしばらくはここで働いてみようかと思ってます」
「そっか。
いいんじゃないかな。
僕の予想ではしばらくしたらこの付近でイベントがありそうだから、少なくともそれまではここにいた方がいいよ。
面白いことがしたいんだろ?」
「イベント?
それは僕も参加できるようなのですか?」
「あんまり細かいことは僕も知らないんだけどね。
大丈夫だと思うよ。
イベントが近づいたらワビスケが教えてくれると思うしね」
あ、確かに。
ワビスケはそういうの詳しそうだもんな。
「まあ、僕からはこれくらいにしておくよ。
邪魔をして悪かったね。
じゃあ、仕事がんばってね」
「あ、ありがとうございました」
僕がお礼を言うと、すぐにエスクロさんは立ち去ってしまった。
偶然なんだろうけど、会えてよかった。
面白い話も聞けたしね。
あ、今日手に入れたアイテムをファスタルでお世話になったお礼として渡したら良かったかな。
でも、あれは今ワビスケが持ってるし無理か。
いつか、ちゃんとお礼をしないと。
僕はそれからビン拾いに戻った。
日が暮れそうになったので僕はホームに戻ってきた。
ビンはかなり集まった。
ただ、最初に見つけた回復薬以外に中身入りのビンは見つからなかった。
まあ、こんなもんだよね。
僕はカウンターにビンを持って行った。
そうしたら、また100本以上集まっていて、報酬をもらえた。
今日の収入はこれで2000円だ。
多いとは思えないけど、初めて働いて手に入れたお金だから満足だ。
明日からもがんばろう、そう思えた。