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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
10/86

アイテム

「なあエイシ」


 ビンを拾っていたら、ワビスケが話しかけてきた。


「何?」


「お前、それ重くないのか?」


 それというのは僕が背負っている袋のことだ。

 最初は手に持って歩いていたんだけど、ぶら下げて歩けないくらいにビンが集まったから、さっきから背中に背負って歩いている。


「重いよ」


「疲れないか?」


「うん?

 大丈夫だよ。

 僕、今まで疲れたことなんてないし、これくらいで疲れたりしないと思う」


 ファスタルでプレイヤーに追いかけられた時も精神的には疲れたけど、体力的には問題なかった。


「マジか?

 そりゃすごいな。

 どんな体力してんだよ」


 ワビスケは驚いた顔をした後、少し考える素振りを見せた。

 ワビスケだって負けないくらい大きな鞄を持っている。

 それでも疲れたような雰囲気はないし、人のことは言えないと思う。


「エイシ、お前ステータスって知ってるか?」


「知らない。

 何それ?」


「強さを表す数値とかのことなんだが。

 体力もステータスに含まれてる。

 エイシはプレイヤーじゃないから、ステータスがあるのかどうか分からんけど」


 そういえば、ファスタルでプレイヤーの人たちがそんなことを話しているのを聞いたことがある気がする。

 細かいことはよく知らないけど。


「それってプレイヤーの人しか持ってないものなの?」


「いや、そうでもない。

 ファスタルの調査員の統括なんかには設定されてる。

 あの人は化け物みたいなステータスだ」


「へえ。

 さすが統括」


「でも、普通の街の住民なんかには設定されてなかったと思う。

 まあ、細かい情報は公開されてないから分からないんだけどな。

 エイシがどうなのかも分からないな」


 ああ、じゃあ僕市民Aだからないかも。


「それって調べられるの?」


「どうかなあ。

 プレイヤーとかモンスターだったら調べる方法はいくつかあるんだが、プレイヤー以外のキャラには使えなかったと思う」


「そうなんだ。

 それで、なんで今ステータスの話をしたの?」


「いや、エイシの体力値はすごそうだと思ってさ」


 うーん。

 言いたいことがよく分からないけど、プレイヤーにとって重要なことなのかもしれない。

 

「そうなのかな。

 ワビスケはどうなの?」


「俺か?

 俺はそこそこだな。

 一応、レベルは上限まで上げてあるし、能力はそれなりだ。

 ただ、戦闘向きな能力にしてないから戦いは得意じゃないけどな」


 言ってる意味はちょっと分からないけど、ワビスケが強いんだろうなってことは伝わった。

 レベルがどうとかって話はプレイヤーの人がよく口にする話題だ。

 ファスタルで聞いたことがある。


「へえ。

 ワビスケって強かったんだね」


「強くはないな。

 ただ、俺は古参プレイヤーの一人だからな。

 それなりではあるはずだ。

 だからこそ最近はやることがなくなってきてたんだが。

 まあ、俺の話はいい。

 そのうちエイシの体力を調べる方法が見つかったら調べてみたいな。

 面白い数値が見られそうだ」


 未だに僕はピンときていない。

 ワビスケは面白そうと言うけど、何が面白いのかもちょっとよく分からない。

 でも、なんだか今の会話はプレイヤーらしくてちょっと楽しかった。

 僕はプレイヤーじゃないけど、気分だけは味わえた。


「とはいえ、今はそんな方法なんて見当もつかないから、いつかの話だな。

 一度掃除屋のホームに戻るか。

 さすがにその袋にもそれ以上は入らないだろう。

 換金しに行くぞ」


「うん」


 僕は初めての収入が楽しみで、ステータスの話題はすぐに忘れた。



 真っ直ぐホームに帰ってきた。

 一応空きビンは100本以上回収したはずだから、すぐに換金できると思うんだけど、先に中身の入ったビンをどうにかすることにした。

 結局全部で4本見つけた。

 ワビスケはゴミだって言ったけど、どうもそうは思えないんだよね。

 なんかきれいな液体だし。


「ワビスケ、これなんだと思う?」


 僕は中身の入ったビンの一つをワビスケに見せる。


「んん?

 ああ、中身が入ってるって言ってたやつか。

 そんなゴミの中から出てきたもん、って、んん?

 これってもしかして。

 おまえ、これをゴミの中から見つけたのか?」


「そうだよ。

 ワビスケも近くにいたでしょ」


「いや、そうなんだが。

 俺はちゃんと見てなかったからな。

 でも、こんなもんがゴミの中に埋もれているのか?

 本物か?

 偽物なんて聞いたことないけど、ゴミ屋敷だからなあ。

 何があるか分からんよなあ。

 いや待てよ。

 そう言えば、一時そんなことを言ってる連中がいたか。

 確かちょっと話題になってたもんな。

 あれ、本当のことだったのか」


 ワビスケは一人で話している。

 段々興奮してきたのか声が大きくなってきた。


「ワビスケうるさい。

 なんなの?」


「おまえ、これは多分筋力アップの秘薬だぞ。

 ちゃんとしたアイテムだ」


「すごいものなの?」


「まあ、効果はそう大きくないが、一度飲んだらずっと効くタイプのアイテムだからな。

 かなりレアだ。

 これを飲むと永続的にプレイヤーの攻撃力が上がる。

 店では売ってなくて、古代遺跡とかダンジョンでのイベントの時しか手に入らない」


「ふうん。

 勝手に持ってきちゃったけど良かったのかな。

 誰かが隠しておいたものだったりしない?」


 どの程度貴重なのかよく分からないけど、ワビスケの態度だとかなりのものなんだろう。


「いや、それは大丈夫だ。

 問題ない。

 この街で拾ったものは拾ったやつに所有権があることになってるからな」


「そうなんだ。

 じゃあ、僕のものってことでいいんだよね。

 それで、このアイテムってプレイヤーにしか使えないの?」


「ああ。

 いや、どうだろうな。

 多分そうだと思うが。

 エイシに効果があるかどうかは俺にも分からんな」


 そうなんだ。

 ちょっと残念だけど、そんないいアイテムを僕が使って効果がなかったらもったいないよね。


「じゃあ、ワビスケにあげるよ」


「はあ?

 お前、これはそんな簡単に人にあげるようなものじゃないぞ。

 大体、売ったら結構な金になるんだぞ」


「別にそんなのいいよ。

 そんなにお金が必要ないって言ったのはワビスケじゃないか。

 とりあえず僕が持ってても仕方ないものなんだったらワビスケにあげるよ。

 僕は無駄な荷物なんて持ってられないんだから」


 僕は手ぶらだから余計なものを持ってるつもりはない。

 ワビスケにはお世話になってるし、あげてもいいと思う。


「だったら、これを売ってその金でかばんを買えばいい」


「でも、貴重なものなんだったら売るのもったいなくない?

 ワビスケが使ったほうがいいんじゃないの?」


「そうだなあ。

 確かに売るのがもったいないくらいの品ではある。

 じゃあ、とりあえずは俺が預かっとくか。

 かばん代はビン拾いで稼げばいいし」


「うん」


 何かほしいもののためにがんばって働くっていうのはとても良いことだと思う。

 今までそんな目的なんて持ったことがないから、とても新鮮な気分になるし、やる気もでる。


「他にもいくつかあるんだけど」


「おう、見せてみろ」


 僕は他の3つも見せた。


「この二つは普通の回復薬だ。

 店で手に入るし珍しいもんでもない。

 まあ、便利なもんだから持ってて損はないな。

 あとの一つは、レベルアップ薬だな。

 名前の通り、レベルを上げることができる。

 レアアイテムだが、あんまり使い過ぎるとズルをしたって嫌われるやつだ。

 まあ、手に入ること自体が稀だから使い過ぎるってほど持ってるやつなんていないだろうけどな」


 どれもちゃんとしたアイテムだった。

 ゴミだと思ってたワビスケは驚いたみたいだ。


「どうしよう。

 売った方がいいのかな」


「とりあえず持っとけばいいんじゃないか。

 お前がかばんを買うまでは俺が預かっといてやるよ。

 そのうち必要になることがあるかもしれないしな」


「うん、ありがとう」


「じゃあ、空きビンを換金するか?」


「そうだね。

 あのカウンターに持って行ったらいいんだよね?」


「ああ」


 僕はホームの中のカウンターに行く。

 そこで、背中の袋から空きビンを出した。


「これを引き取ってほしいんですけど」


「ああ、空きビン収集の依頼ですね。

 ちょっと数を数えるから待っててください」


 そう言って受付の人が数えてくれた。


「全部で134個です。

 引き取り単位の100個は、すぐに換金できます。

 残りの34個もここで一時的に引き取って、次に持ってきてくれる分と合わせて換金することができます。

 一時保管の有効期間は一ヶ月でそれを過ぎるとこちらで勝手に処分します。

 どうしますか?」


「あ、じゃあ一時保管でお願いします」


 よかった。

 端数は持って帰らないといけないのかと心配してたんだ。

 そんなに空きビンを持っていたくはない。


「じゃあ、これが100個の分の報酬1000円です。

 これからもお願いしますね」


「はい、お願いします」


 そう言って、僕は報酬を受け取った。

 初めて自分で稼いだお金だ。

 子供の小遣いみたいな額だけど別にいいんだ。


「良かったな」


 ワビスケが言ってくれる。


「うん。

 やっぱりワビスケが言った通り、初めての仕事は成功した方が良かったよ」


 こんなに嬉しい気分になれるんだからね。


「まあ、1000円じゃ大した買い物もできないだろうが、これからもっと稼げばいいんだからな。

 金が必要になったらアイテムを売るって手もあるしな。

 かばんを買うなら、さっきの回復薬二つを売ればなんとかなると思うけどどうする?」


「うーん、とりあえずはいいかな。

 もうちょっとビン拾いを続けてから考えるよ。

 そういえば、カウンターに渡したビンはこれからどうなるの?

 ゴミなんでしょ?」


「ああ、あれは綺麗に洗った後、道具屋とかに売られるんだ。

 お前が見つけた回復薬みたいな薬にはビンが必要だからな。

 意外と高値で売れるらしいぞ。

 まあ、俺たちが直接売ることはできないけどな」


「へえ。

 じゃあ、あれはまたどこかで役に立つんだね。

 それだったら、空きビン拾いの仕事も役に立ってる気がするし、しばらく続けるよ」


「そうか。

 まあ、確かにこの依頼は思ったより面白そうだし、いいんじゃないか。

 俺も最初は馬鹿にしてたが、一日でレアアイテム2個となりゃなかなかのもんだ」


 ワビスケって現金だよね。

 悪いとは思わないけど。

 とにかく、僕はもうしばらくは空きビン拾いを続けることにした。




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