だまされて貰います
――甘美なアイスクリームをぺろりと舐めて、口福。漢字が違うよと、野暮を言っちゃいけない。お札になった夏目漱石だって、よく当て字をしていたじゃないか。
――べっとりと甘くなった口でキスを……いいや困るね。僕は、潔癖症なのだ。きちんと口をゆすいでくれたまえ。
――背徳の関係はアイスクリームに喩えられるだろうか。それなら瞬く間に溶けてしまうね。残るのは不快にベタつく汁だけさ。蟻がたかって......そんなおぞましいことを、考えるべきじゃない。
――日頃の不摂生が祟って、このざまさ。君は笑うかね。笑ってくれたら、いい。あからさまな悪意は、僕を楽にしてくれる。質が悪いのはそう、日本人的な、べっとりとしたやつだ。これもちょうど、アイスクリームのそれに似ている。
――いつかある子が言っていた。「君は、自覚なき人たらしだ」と。自覚のない人たらしなどあるものか。それは、天性の技巧だ。意図してはいないが、自覚はあるのだよ。ああ、騙されてくれているな、と。僕はこれでも善人のつもりなんだ。騙しになんて、かかっちゃいない。ただ、sportsにおけるファウルと同じさ。君の過失さえ大きければ、非は君にある。僕はただ、そこにつったっていただけ。
――だまされて貰います。
「ピリリリリリ! ピリリリリリ!」
――さあ、時間だ。とっとと帰ろう。君はきっと、性懲りもなくまた僕に抱かれるだろう。