~デート。そして…~
それからというもの、時間のある時は仕事終わりでも会う様になった。平日はファミレスで色々な世間話しをし、明け方まで喋っていた事もあった。案の定、眠気眼で会社へと出勤するはめになるのだが、不思議と苦ではなかった。だが、そんなデートを繰り返していくうちに彼女の異変に気が付いた。彼女の仕事は某税理士事務所の事務員らしいのだが、定時の五時半にはきちんと終わる仕事と聞いていた。だが顔色があまりすぐれていないのだ。しつこく問い詰めると、定時には終わるが朝起きて支度の時間を考慮すると朝起きる時間がとても早いと分かった。平日は明け方まで一緒にいる事もあった為、彼女は寝る時間がかなり削らていたのだ。もっと早く気が付いてあげるべきだった。でも、それ程までに会いたいと思ってくれているのだと感じ問い詰めた後、二人とも顔が赤くなっていた。
その日を境に、会う時間を平日は減らし休日に思う存分遊ぶ決まり事が出来た。この頃からすでに彼女に恋心を抱いていたのはいうまでもないだろう。休日の夜はよく二人でドライブがてら海へ行った。夜の海は人が昼間よりいなく、小波の音が良く聞こえた。ベンチに座り、堤防の灯りに照らされ反射した海を眺めながら過ごした。このくらいの時期からだろうか、何も話すこともなく一緒にいるだけでも時間が過ぎて行く事が増えた。それだけ心が通じ合ってきていたのだろう。
この頃のデート代は全て男である僕が払っていた。前にも話したが僕の月に遊びで使えるお金は三万円だ。案の定、足りるはずもないなが現実である。だが、生活費と貯金する事は絶対に止めたくは無かった為、お金が無くなってきた月はいらないゲームなどを売ってお金を工面していた。彼女にはこんな事は黙っていたし付き合ってもないのにそんな醜態を晒せる訳がない。しかし、売るゲームも尽き、お金に困りだす。会いたいがお金の計算をしてしまう。そんなある日、いつも通りデートをし、ファミレスで話し終え会計を済ませようとした時、事件は起きた。財布を見るとお金が足りなかったのである。やばい!心の中で叫んだ。
彼女(どうしたの?お金なら私払うよ。)
僕(え?でもそんなの悪いし…。)
もじもじしている僕を差し置き彼女が笑顔で会計を済ませた。車内に戻るとなぜか涙が流れ出した。今までかっこつけていた自分が一気に崩れさり、彼女に払わせてしまった現実が情けなかったからなのかもしれない。
彼女(どうしたの?何か嫌な事でもあったの?話し聞くから話して。)
僕(…。)
優しい言葉を掛けられ余計涙が流れ出す。こんな男が世の中にいるだろうか?自分が恥ずかしく思えた。でも、彼女なら受け入れてくれる気がして今までのお金の事について話した。
彼女(何で早く言わないの?二人でデートしてるんだから私だって払うよ。いつも先に払っちゃうから、失礼かと思って私もなかなか言い出せなかったんだけど…。)
僕(ごめん。もうお金無いんだよ…。)
彼女(全然良いよ。二人のデートなんだからある方が払えば良いし、嫌だったら割り勘だって良いんだし、これからはそうしようよ。
ね?良いでしょ?)
僕(ありがとう。でも俺かっこ悪いね。)
彼女(何言ってんの。全然かっこ悪く無いじゃん。話してくれてありがとう。)
この事件で僕の心は完全に決まった。彼女が好きだ!多分こんな事がなくても必然的に惚れていたに違いない。ただ、タイミングがこの瞬間だっただけなのだ。
仕事中も彼女の事で頭が一杯になった。それと同時にいつ告白しようか計画を考える。二人とも海が好きだから海で告白しようと決めた。とある日、仕事終わりに少しだけ会う事になりいつものようにファミレスで喋り合った。その時、彼女の携帯が鳴る。多分メールだと思うが彼女はすぐに話しに戻る。だが、僕自身は気になって仕方ない。一体誰からのメールなのだろう?会ってる時もよく彼女の携帯は着信音をつげる。なぜか女友達とは考えず、男友達に違いないと決めつけていた。要するに僕は馬鹿なのである。もう恋に溺れた魚のように心は右へ左へと動き周り焦る。
ファミレスを出て車内で少し話しているとまた彼女携帯が鳴る。もう僕の心は溺れかけの魚状態だ。必死に海面目掛け泳ぐ。すると思わず、
僕(僕と付き合ってくれませんか?)
あ!言ってしまった。しかも計画していた海じゃなく、ファミレスの駐車場で…。やはり僕は馬鹿なのだと改めて確信した。いきなりの事で彼女も焦っている様子だった。
彼女(いきなりだね。あはは、びっくりしたよ。はい!喜んで☆)
僕(えぇぇぇ!)
言った自分が驚いた。だが、とてもとても嬉しかったしこの日がいつか来たら良いなと望んで止まなかった事が現実となった。車内でなければ走り回って喜んだであろう。
七月六日。この日が僕らの記念日となった。