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~大きな失敗そして変わりゆく自分~

僕の業務は主にデスクワークだが、機械製造会社なので開発の段階で実技テストなるものを行わなければならない。要するに簡単な肉体労働もあるという事であり、実際に現場で機械を触り作業を行う必要もある。この日は連携会社が開発した機械を使い我が社の機械との相性を測定し実用性を検証する。連携会社の開発した機械は手の平に乗る程のコンパクトな機械である。だがしかし、一個何百万もすると聞き、片手から両手を添えて持つ。

模擬テストを繰り返さなけラバならないのだが、値段が値段だけに作業が一つ一つ慎重になる。と言うよりかは脅えながらと言った方が良いくらいだ。模擬テストの手順は決まっており所定の位置に取り付け機械を始動させて、次の手順ではこちらあちらと移す必要性がある。手順を間違えると機械の破損へと繋がるし、場合によっては作業者の怪我にも繋がりかねない為、指差呼称が義務付けられている。確認こそが安全な作業の第一歩なのである。途中、会議が入っていた為、現場を離れ会議室へと向かう。予定よりも会議が長引き少々疲れたなと感じてはいたが、期限が迫っていた事もあり、休憩も取らず現場へとそそくさと戻る。だがこの判断がまずかった…

この時、手の平サイズのコンパクトな機械の事がすっかり頭から消えており気が付かずにそのまま模擬テストの続きを間違えて始めてしまった…違和感を感じとっさに機械を止めるが時すでに遅く小さな機械は粉々になっていた。愕然として声も出せず数分間であろうか、ただその場に立ち尽くしている自分がいた。足は震え冷や汗が頬をつたって行くのが分かる。どうしよう、どうしようとただただ焦る。まずは上司に報告しなくてはと思い出す。我が社では何か不具合が起きたら、[報告・連絡・相談]の手順が徹底されていたので急いで上司の部屋へと急いだ。向かう最中になんと報告すれば良いのか、責任をどう取れば良いんだと頭中パニックだった。上司の部屋の前に辿り着く。生唾をゴクリと飲み込み部屋をノックし入室する。

上司(ん?どうかしたのか?)

僕(申し訳ありません!作業ミスをしてしまい連携会社の機械を破損させてしまいました…。)

上司(そうか…一体どうしてそうなったのか詳しく聞かせて欲しい。)

僕(はい。原因は私の確認不足による不注意です。機械の事を忘れ手順を間違えそのまま模擬テストを始めてしまい破損させてしまいまいました。申し訳ありませんでした。)

上司(君の頑張りや誠意は充分見てきたし分かってはいるが、このプロジェクトの期日は確か来月の初旬頃だったな…。このままだと間に合いそうに無いな。)

この時、改めて自分の犯してしまった事の重大さに真正面から突き付けられた。順調にこなしてもギリギリの納期だった為、ミスして遅れが出るとなると何処かしらには必ず迷惑がかかるのは誰にでも想像は出来た。上司がサポートしている先輩を呼び急遽ミーティングを開いた。先輩も状況を知り愕然としていた。先輩の顔を見れない自分がいた。毎日遅くまで残ってくれて、自分の業務より優先してくれる日だってあった…申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうだった。すぐに連携会社に電話をかけ代替え品が無いか確認する。用意は出来るが届けるまでには最速でも二時間はかかるとの事だった。時刻は定時を過ぎ八時をまわっていた。二時間…この時間先輩は待ってくれた。先輩の背中はとても大きく心強く尊敬の念しかなかった。連携会社の社員さんが慌てて持ってきてくれた。まず謝らなければと思い席を立とうとした瞬間、先輩が先に頭を下げていた。

僕(え?なんで僕の責任なのに…)

小さな細々とした声が漏れた。不思議と目頭が熱くなっていた。それ程先輩にさせている姿が自分自身を許せなかったからなのかもしれない。

先輩(こんな時間に無理言ってすいません。有り難うございました。)

社員さん(いえいえ。こういう場合ってお互い様ですから。持ちつ持たれつですよ。)

僕(本当にすいません。全て私の責任なので必ず挽回しますし、期限には間に合わせますので。)

只々頭を下げるしかなかった。社員さんが帰り時刻を見ると残業規制の時間が刻々と迫っていた。

先輩(ほいっ。)

目の前に缶コーヒーが置かれた。

先輩(誰にでもミスはあるし、お前の気持ちは言わんでもよく分かる。だけど、今日はもう帰るぞ!)

僕(本当にすいませんでした。)

涙が溢れるのを必死に必死に堪えた。

先輩(大丈夫!大丈夫だから心配すんな。)

僕にとって先輩の【大丈夫】と言う言葉がいつも励みだったし一番安心する言葉だった。

胸の奥の疲れや焦りがスーっと消えるのが分かる程に。

この日を境に、仕事の方法を変えなければと思い胸にぶら下げている社員証に付箋を付けて、そこにチェックリストなるものを書き、出来たらチェックし確認する様にした。必ず目視でも確認を行い細心の注意をはらいながら仕事を進めた。だがこのくらいの時期から確認癖が体につき始めてしまった。仕事中なら分かるがプライベートでも確認癖が消えなくなった。最初は婚約者と職業病だねと笑っていた程度だった。

だがある日の事である。仕事中に荷物を倉庫に置き自分のデスクへ戻ると、

僕(あれ?荷物ってちゃんと置いたっけ?)

このくらいの事はチェックリストに書かなかった為、この場で確認は出来ない。でも確かに置いた記憶はある。数分経つがまだまだ気になる。僕はこの瞬間から自分の変化にもっと目を向けるべきだったのかもしれない。


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