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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 17 * LAST DAYS
99/119

* Report

 十二月二十六日。

 報告メールによると。

 痛いと泣かれながらもどうにか、ヤーゴはアウニを喰ったらしい。これでオレも男になったとかいう、アホっぽいセリフがつけくわえられていた。

 一方、アニタの元生徒会長を庇う発言がわりとうざかった。ブレインだけどブレインではなくなっているだとか、以前私と一緒にセンター街で会った、アドニスやルキアノスみたいだとか。意味がわからなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 十二月二十七日、朝。

 アゼルとふたりでバスに乗り、センター街へと向かった。と思ったら、バスを乗り換えただけだった。乗り込んだのはベネフィット・アイランドを南へと向かうバス。どこに行くのか、なぜそんなことをしているのか、まったく教えてくれなかった。

 辿り着いたのはベネフィット・アイランド・シティのはずれに位置する、ビッグ・タンドラという町だった。なんとなく覚えがあった。小学校の時に遠足で来たことがある。近くにデイ・ピーク海岸と、大きな公園があって、遠足でそこに行ったことがある。町の印象としては、とりあえず車屋が多い。

 バスを降りると、少し歩いた。なんてことのない田舎道──というか住宅街。目に入ったのは、免許塾、病院、煙草屋、喫茶店──ここまで来ると、左前方の敷地内に違和感を感じた。低いコンクリートの中に道路がある。駐車場というわけではないらしい。もう少し歩くと、右側にまた免許塾があることに気づいた。

 私は悟った。運転免許だ。そこにあるのは運転免許センター。バイクだ。

 アゼルはやっと教えてくれた。単車は十七歳にならなければいけないが、スクーターなら十六歳から免許を取得できる。ブルとマスティが免許をとる。

 彼らは今日、まさかの午前二時半頃から、朝八時三十分までの予定で、私が二軒目に見つけた免許塾に入っていたらしい。もしかしたら会うかと思っていたけれど、会わなかったから、おそらくもう免許センターに着いているのではないかとのこと。私たちは免許センターへと向かった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 免許センターは、まるで学校のようだった。当然といえば当然なのかもしれないが──校舎に似た建物がふたつあって、特に飾り気のない正面入り口は左側の建物に、これが本館らしい。ウェスト・キャッスル中学と同レベルの古さだ。

 中のロビーは、まるで駅のホームだった。右側に番号と目的が決められた窓口があり、左側にはオレンジ色のベンチが設置されている。平日の朝九時前という時間にもかかわらず、三十人くらいはいそうだ。これも当然なのか、学生らしきヒトたちの姿もある。心なしか、みんな眠そうだ。

 「見つけた」と、アゼルは人だかりの中の一点をあごで示した。

 それを目で追い、こちらもマスティとブルの姿を確認した。

 「ほんとだ」

 彼らもこちらに気づいた。私を見るなりものすごく不機嫌そうになったマスティの第一声は、やはり不機嫌だった。

 「なんでお前がいるんだよ」

 「なんでいちゃだめなの」

 気にせずブルが報告する。「適正検査は合格。これから試験、三十分くらいだと。で、五十点中四十五点以上取ったら完全に合格。けどなんか色々と面倒らしいわ。合格しても手続きして、飯食ったら実技講習受けなきゃなんねえし。そんでやっと免許取得だと」

 私は口をはさんだ。「四十五点て、受かるの?」

 「アホ」アゼルが私に言う。「なんのために夜中から塾行ったと思ってんだ。これで受からなきゃ本気でアホだぞ。金かかってんのに」

 「いや、けど受からない奴もいるらしいぞ」ブルが答える。「毎回塾行って、もう三十回くらい? 落ちてるばーさんもいるんだと」

 私はまた質問した。「その塾がダメってわけじゃないの?」

 「そこの塾、オレらが行ったところだけど、それはどっちかっつーと評判のいいほう。かなりキモかったけど」

 「ふーん? なんか知んないけど、受かるよね」

 彼ははぐらかした。「どうだかな。今はなんとか元気だけど、そろそろ本格的な眠気が来ると思う。そうなったらまずいかも」

 「やだよ、せっかくこんなとこまで来たのに、落ちました報告聞くなんて」

 「誰もお前は呼んでねえよ?」と、マスティ。

 なんだかこいつ、トルベンに似てきたような気がするのだが。

 「まだ怒ってんの? 一昨日のこと」

 ブルが言う。「眠いからだろ」

 「キスでもしてやりゃ目覚めるかもよ」アゼルはさらりと言った。

 「いやいや、しないから」

 「ああ、それいい」

 そう言うと、マスティは私を抱きしめた。

 「もしもし、お兄さん」ハグのレベルではない。

 アゼルとブルは笑っている。

 「キスすんのはいいけど、フレンチにしろよ」アゼルが彼に言う。「嫉妬じゃねえけど、俺があとからしにくくなる」

 もしもし。「なに言ってんのあんた」

 「眠い」マスティは半分寄りかかるようにして、まだ私を抱きしめている。「こんなしんどい思いして落ちたら、もう免許なんて一生いらね」

 なに言ってんだお前。重い。

 「車の免許は要るだろ。つーかこの試験落としたら、スクーターが手に入らなくなる。受かれよ」

 「そこまでアホなつもりはねえよ。ちゃんと手に入れてやる」

 ブルがアゼルに答えたところで、彼らの後方から、今日スクーターの免許を取りに来たヒトを試験会場に案内するという声がした。

 彼が声をかける。「行くぞ、マスティ」

 「んー」

 マスティはやっと私から身体を離し、肩に手を置いたまま、私と目を合わせて口元をゆるめた。

 イヤな予感がした。

 次の瞬間、マスティは私にキスをした。

 アゼルとブルは笑った。ブルにいたっては天を仰いで笑った。

 「マジでしたし!」

 ほんの三秒ほどのキスだろう。私は目を閉じることがないまま、とりあえず呆気にとられた。

 「これで落ちたらお前のせいにしてやる」

 そう言って、マスティは笑いながらアゼルとハイタッチをした。

 「ついでにオレもしとこ」

 ブルは私を抱きしめた。思いっきり。そして、右頬にキスをした。

 「よし、行ってくる」

 彼らは警察官らしき人物のあとに続き、校舎の奥へと消えていった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 私とアゼルはひとまず、オレンジ色のベンチに腰をおろした。

 「ねえ、なんでああいうこと、平気で言えんの?」

 「気にしてねえだろ。落ちられるよりマシだし」と、アゼル。

 意味がわからない。「私、キスしすぎだと思う」

 「同期の奴とケイと──あとマスティだろ。三人じゃねえか」

 「変だよね。なんでつきあってる男に言われて、目の前で他の男とキスしなきゃなんないの?」

 「だから、眠気覚まし?」

 「アホ」

 「最初にしたのはお前だろ」言いながら、彼は私の肩に左腕をまわして顔を近づけた。「フレンチはキスのうちに入んないんじゃなかったっけ」

 「どうかと思う」

 「気にすんな」

 アゼルは右手の親指で私の唇を撫で、キスをした。

 キスが深いキスに変わると、警察官らしき人物に、用がないなら出ていきなさいと注意された。私が暇つぶしになるものはないのかと訊くと、彼は呆れながらも、自動車運転をシミュレーションできる機械があると教えてくれた。私たちはさっそく行った。

 私は二度歩行者に衝突し、三度ガードレールや電柱に激突、四回は道路交通法を無視をした。アゼルは二度速度オーバーで警告が出たものの、他は完璧だった。お前に免許は無理だとアゼルに言いきられた。一度ずつ遊んだところで講習に使うからと追い出された。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 十一時頃、合格発表だとかで、一階ロビーの電子掲示板に合格者の番号が表示された。ブルもマスティも合格していた。余裕だとか言っていたものの、ものすごく眠そうだった。試験中文字ばかりを見ていたら、本気で眠くなったらしい。

 面倒そうな手続きを済ませたあと、行き道にあった喫茶店で四人揃ってランチを食べた。

 ブルが免許塾を気持ち悪かったと言ったのは、塾長のおじいさんが講習用に声を吹き込んだテープをヘッドフォン越しに聞かされただけでなく、その音量が妙に大きかったせいで、おじいさんの細かな息遣いがこまめに聞こえていたからだという。さすがに吐きそうにだったと彼は苦笑っていた。

 その後十三時から実技講習。敷地内の道路を使い、指導を受けながら用意されたスクーターで実際に走るというもので、私とアゼルはそれを少し離れたところから観察した。彼らはブルのお兄さんが持っていたスクーターに乗ったことがあるので、本当は実技講習なんてものは必要ない。すいすい乗っていた。それでも速度オーバーで怒られたうえ、乗ったことがあるのかと疑われていたが。他の合格者の何人かも一緒にいたので、実技講習は二時間ほどかかった。

 それが終わると、再び手続きに戻り、午後十五時すぎ、彼らはやっと免許を受け取った。

 ちなみにスクーター、アゼルが祖父に二台、買わせたらしい。しかも新品。午前中には彼らの家に届く手はずになっていて、親が諸々の手続きをしてくれて、自分たちが帰る頃にはぜんぶ終わってるだろうという話。

 アゼルはスクーターなどに興味はなく、ただちょっとしたアシになるものが欲しかっただけだという。だから彼らに免許をとらせ、スクーターを祖父に買わせた。自分は無免許で乗るつもりらしい。彼の祖父がそれに気づいているかは知らないけれど、恐ろしい男だと思った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ウェスト・キャッスルに戻ってマスティの家に行くと、スクーターは予定どおり、いつでも乗れる状態になっていた。なんだか聞き覚えのある──どこかのエイリアンのような名前で、カラーはパープルとオレンジ。派手だ。パープルがマスティ用でオレンジがブル用らしい。どちらも座面は黒だが。

 ナンパ目的でセンター街に行ったニコラとリーズがまだ戻っていないので、四人でヴァーデュア・パークへと向かった。私はアゼルのうしろに乗った。爽快だった。夏ならもっといいだろう。今は寒い。スピードを出せば出すほど、冷たすぎる風で顔がひりひりする。

 二人乗りは道路交通法違反だし、制限速度なはずの三十キロなど余裕で超えていたし、ヘルメットをつけないノーヘル状態も当然禁止されている。けれどヴァーデュア・パーク内なら道路ではないから、そんなことをいくらしても問題はなかった。アゼルのうしろだったり前だったりに乗って、彼の運転で散々バランス感覚を養ったあと、アゼルにうしろに乗ってもらい、私も運転した。普通に乗れた。実物なら平気なのだ。修学旅行でテーマパークに行った時、私がカーアトラクションを当然のように乗りこなしたように。

 ちなみに彼ら、職場には基本バスで行くというスタイルを変えないものの、暇な時には職場に持って行き、職場に迷惑がかからない程度に改造するつもりらしい。なんだかよくわからないけれど、そういうのができるのだとか。

 ナンパがスカだったニコラとリーズから戻ったと連絡が入ると、彼女たちをパークに呼んだ。二人とも興奮していた。マスティのうしろにリーズが、ブルのうしろにニコラが乗って、パーク内を走りまわった。そのうち彼女たちも運転をはじめ、最初はフラフラだったもののそのうち乗りこなし──マスティとブルとリーズは、まさかの三人乗りなんてことにも挑戦したりして、寝ていないはずのブルとマスティが、実はものすごく眠いことに気づくまで、散々騒いで遊んだ。

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