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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 16 * CHRISTMAS DAYS
97/119

* Practical Joke

 朝六時すぎ。

 ふと起きた私は、ふとした思いつきでそのままベッドを出ると、財布を持ってコンビニへと向かった。買ったのは五百ミリリットルの炭酸アップルジュース六本と、二リットルのミネラルウォーターが入ったペットボトルを二本。と、ついでに朝食。さすがに重かった。

 マブに戻るとまず、ミネラルウォーターの中身をキッチンのシンクに捨てた。ぜんぶだ。そのあとリビングで、炭酸アップルジュースの中身をすべて、空になったミネラルウォーターのペットボトルに移し替えた。これは冷蔵庫へ。

 そして空いた炭酸アップルジュースのペットボトルの中に、冷蔵庫から出したビールを入れた。ペットボトルのラベルはそのまま、六本ともだ。おもしろいことに、色がほぼ同じ。たぶんバレない。

 泡が完全になくなるのを待ってから、ビールの入ったペットボトルを一本持って部屋に戻ると、ブランケットごと寝ているアゼルの上にまたがり、彼を起こした。

 うなりながら仰向けになり、うっすらと目を開けた彼から返ってきたのは、ものすごく不機嫌そうな声だった。

 「──なに」

 「ねえ、起きて。ブルの家に行く」

 「あ?」

 「あ、違う。その前に」ビールを一口飲み、ペットボトルを彼に差し出した。「目覚まして」

 「今何時」

 「朝の七時」

 「お前マジでうざい」

 「いいから」

 彼の脚まで下がると、右手で彼の腕を引っ張り、身体を起こした。

 「起きてよ。渡すもんがあるの忘れてたの」

 「なんでそんな元気なんだよ」不機嫌そうに文句を言いながら、私が左手に持っているペットボトルを手に取り、目を細めてラベルを見た。「──炭酸?」

 「さっき買ってきた」

 「怪しい」

 そうつぶやいたものの、彼はそれを喉に流し込んだ。

 どうにか飲み込んだものの、思いっきり咳き込んだ。

 「お前マジでふざけんな!」と、笑いながら怒る。

 私は天を仰いで笑った。笑って、笑い転げそうになった。

 「なにくだらねえことしてんだボケ」などと言いながらも、またビールを飲む。「朝っぱらからアホなことやってんじゃねえよ」

 寝起きがいちばんだ。「でも騙された」

 「アタマ半分寝てたからだっつの」と、アゼル。「目覚めた」

 「それはよかった。これをみんなのぶん用意してるから、届けに行くの」

 「アホだろお前。二本くらいは思いっきり振っとけよ」そう言うと、またビールを飲んだ。「けど渡したらすぐ帰るからな」

 「うん、それでいい」

 彼の手からペットボトルを取り、ビールを飲んだ。妙に甘みがある気がするのはアップルのせいなのか、それとも気のせいなのか。

 アゼルはブランケットを引き抜くと、私の身体を自分の脚の上でさらに引き寄せた。私は右手を彼の背中にまわし、またビールを飲んだ。

 彼の手が私の身体を撫でまわす。唇が、私の肌のいろんな場所にキスをした。

 「すぐ終わらせる」と、彼が言う。

 「すぐはイヤ」

 「あ、すぐお前ん家行けばいいのか」

 「確か家出るのは八時半くらい」

 「微妙だな。一回戻ってきて二度寝してからのが確実」

 「まあそうだけど」

 「ってことでやめる」

 「は?」

 私の手からビールを取り上げ、また飲んだ。

 「着替えるからどけ」

 「なんの嫌がらせなの、これ」

 「先にやったのはお前だっつの」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 中学校の正門前へと通じる道りを東へとまっすぐ進むと、そのうちブルの家に辿り着く。左側には車庫もある。私たちは勝手に敷地内に入り、彼の部屋がある裏手へと回りこんだ。

 部屋は角部屋で、淡いブルーのカーテンは一部が少し空いていた。遠慮なく中を覗きこむ。それほど広くない部屋で、正面右にドア、左にクローゼットがあり、クローゼットの扉にはフライヤーやポスターがいくつも雑に貼られていた。その左手前、南側の窓際にベッドが置かれ、そこにはリーズとニコラが眠っている。床には小ぶりなテーブルがあり、その上は大量のビールの空き缶とつまみの残骸、山盛りになった大きな灰皿が散らかっていた。ブルはテーブルの右側に、マスティは奥に眠っている。

 「力加減してよ」私はアゼルに言った。「ガラス割ったらシャレになんない」

 「わかってるっつの」

 ふたりで一斉に、窓ガラスを両手で叩いた。ドンドンというか、ガンガンというか、とにかくガラスが割れない程度に力加減をし、笑いながら連続で何度か。そのあいだ、中を観察したりはしなかった。そのうち出てくるだろうから、それを待つ。

 と、ガラスの内側になにかが当たった。誰かが起きたらしい。ガラスを叩くのをやめ、カーテンに隠れるようにして、アゼルは私にキスをしはじめた。

 「ここでヤるってどうよ」

 「バカ言わないでくれる?」

 アゼルはカーテンの開いた部分から部屋を覗いた。

 「あれ、また寝てるわ」

 「まじで」

 「つーかたぶん──」彼が窓に手をかけると、窓ガラスは簡単に空いた。鍵がかかっていなかったらしい。

 なんて物騒な。「本気か」

 「静かにしろ」

 しゃがんだ彼は足元に置いていた白いビニール袋からペットボトルを二本出し、こちらに渡した。私はそれを一本だけ、できるだけ思いきり振った。アゼルもさらに二本のペットボトルを袋から出し、一本を思いきり振る。ちなみにペットボトルには四本とも、油性マジックで“メリークリスマス”と書いてある。

 再び立ち上がると、アゼルは音を立てないよう、窓を、そしてカーテンをゆっくりと開けた。どうやらさきほど投げられたのは、月発行の分厚い漫画本らしい。床に転がっていた。

 「クローゼット」アゼルが声を潜めて言う。「狙え。できるだけ音たてろ。ぜんぶ投げたらすぐ帰るからな。走れよ」

 「わかった」

 奥にあるクローゼットを狙って、私、アゼル、私、アゼルと、一本ずつ、わざと音を立てるようにペットボトルを投げ入れた。

 二本目でおそらくニコラがうなり、三本目でマスティが低い声でうなって仰向けになり、四本目で寝ぼけたままのニコラが飛び起きた。ブルもうなった。

 だがかまわず、私たちは逃げた。窓も閉めずに。

 マブへの帰り道は、やっぱり炭酸アップルジュースのペットボトルに入れたビールを飲みながらだった。行き道もそうだったのだが、これなら飲んでいても怪しまれないのだ。我ながらいい方法だと思う。それを悪戯に使っていいのかどうかは別として。

 途中、アゼルははじめて、自分の父親がどこに住んでいるかを教えてくれた。エステイトを出たあとに引っ越した賃貸の家だ。通りの端にあるその家は、レンガ造りではないものの、祖母の家と似たような、赤茶色の外壁の家だった。しかも意外と近い。祖母の家から歩いたとしても、おそらく十分もかからないだろう。

 アゼルによると、その家はもともと、白い家だったという。小学校六年の時、生活の拠点をマブにうつす際に、マスティとブルと一緒に、カラースプレーを使って外壁に落書きをしたらしいのだ。それを隠すため、父親が今の色──赤茶色に塗りなおしたのだと。しかもどこかの悪ガキが悪戯で落書きしたことにして。それがバレてブルとマスティの親に散々怒られたから、けっきょくそれ以来、スプレーで落書きなんてことはしていないらしい。

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