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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 16 * CHRISTMAS DAYS
96/119

* Love

 「──誓う」私は顔を上げ、彼と視線を合わせた。「もう二度と、支配しようとなんてしない。そんなことをしたつもりはないけど、そう思われるようなことはしない。わざわざ怒らせるようなことはしない」

 私はきっと、信じたのだろう。確かに怒るということ以外、どんな反応をするかは、まったくわからなかった。だけど、アゼルなら理解してくれると、だいじょうぶだと、信じたのだろう。

 右手で私の頬に触れ、アゼルは微笑んだ。

 「なら頼まれてももう、あれはやらねえ」

 「頼まないし」

 「正直言ってみ、ちょっときもちよかったんだろ?」

 「ぜんぜん」

 「嘘ついたらまたやる」

 「ねえ、今さっき、あんた私になんて言ったの? やらないって言ったよね」

 「誓ってはないし」悪びれることなく彼が言う。「約束もしてないし」

 「ふざけんな」

 「正直に言えって。誰にも言わねえから」

 「信用できない」

 「信じないならまたやる」

 思わず笑った。「まじでムカつく」

 彼も笑う。「これいいな、お前を脅せる」

 「最悪。最低。なんなのほんとに」

 「言えって」

 もうやだ。「──きもちよかった」

 顔が真っ赤になっただろう私がつぶやくと、アゼルはまた笑った。

 「よく言った」

 そう言って、私にキスをした。

 「──で」と、彼。「きもちよかったからムカついてんのか。つまり逆ギレ」

 「されたことにだってムカついてる。最初はほんとに痛かった。死ぬかと思った。ほんとに、二度としたくない。絶対やだ。でもそれ以上に、それで感じた自分がムカつく。まじでやだ」

 「ぜんぶは入ってねえよ」彼は額を合わせて目を閉じた。「俺も一緒」

 「なにが?」

 「南京錠にはマジでムカついた。一瞬本気で殺してやろうかとも思った。けど、そこまでイヤだとも思ってない自分がいたってのもほんと。いちばん、そう思わせるお前にムカついた」

 ──“支配”に対する自分の域を超えたのは、どちらも同じだ。

 南京錠がどれほど“支配”と結びつくのかはよくわからないけれど、アゼルは嫌っている“支配”を、ある意味受け入れた。というか、そうなってもかまわないと思った。私相手なら。

 私は、ベッドの上以外では絶対、アゼルに“支配”などされないと決めていたいた。それが復讐だった。だけど自分にも南京錠を用意した。アゼルがそれを“支配”だと思いこみ、突き返して終わりにしたとしても、私はきっと、それをつけただろう。自ら彼に“支配”されることを望んだと、そうともとれる。

 私たちは、いろんなところで矛盾している。

 「ならもう、今日限りだ」私も目を閉じた。「次があったらどっちも、たぶん本気で殺し合いになる気がする」

 「だな。殺さねえ自信はない」

 「でも殺されるなら、あんたに殺されたい」

 「去年もそんなこと言ってたな」

 「気持ちは変わってない」

 「俺はお前なんかに殺されたくない」

 「じゃあどうやって死ぬの?」

 「処刑」

 「それは支配されてることにならないの?」

 「お前を殺して捕まって死刑になるとか」

 「そんなことさせない。だったら私が殺す。地獄から這い出て殺す」

 「突っ込んだまま死ぬか」

 「やだよ。気まずいよ。あとからどうすんの、それ。発見者どうしようもないよ」

 「死後硬直がはじまってたら、もしかしたら抜けねえかも。それはないか」

 「よくわかんないけど、とりあえずイヤよ。ものすごくまぬけっぽい」

 「実際、なにがいちばんいいんだろうな。やっぱ凍死か」

 「そうね。っていうか、死んでもすぐは見つかりたくないような気もする」

 「白骨化? 棺ん中で骨になるんだからべつによくね。むしろ俺らの場合、ちゃんと皮残して人目についたほうが絵になる」

 「ポスターにでもするの?」

 「すればいいんじゃね。呪いのポスター」

 私は笑った。「ホラーなのか知らないけど、センター街に貼りまくってもらおうか。“殺し合いの果て”とかいうタイトルで」

 「だな。っつーか“TWD”の意味訊かれたらなんて言うんだ」

 「“Trouble With Dead”」

 アゼルも笑う。

 「ある意味俺もお前も死んでるしな」

 「でしょ。もしくは“Tongue Walks Deeply”」

 「さすがにないわ。舌が深く歩くってなんだ。意味わかんねえ」

 ですよね。「じゃあ“Troubled Winner Destroy”」

 「──なに? 困った勝者が破壊する? 通用しねえよ」

 「文句多いな」

 「最初のでいいか。っつーか知らねって言えばいいんだけど」

 「せっかく考えたのに!」

 「似たり寄ったりな言葉をな。知るかボケでいいか」

 「そうね。周りにとっては、意味候補なんて大量なわけだし」

 「わざわざ彫ったって言わなきゃいいんだし」

 「鍵はサメに食べられたって言えばいいんだし?」

 「実は殴り合ったとか言っときゃいいんだし」

 「あんたが私につけたから、私も同じの用意したって言えばいいんだし」

 「そんな時間がどこにあった」

 「風の噂で知りました」

 「アホ」

 好きだと言えないのが、つらい。

 「アゼル」

 「なに」

 「アゼル」

 「なんだ」

 「アゼル」

 「黙れ」

 怒られた。他にどう言えばいいのだろう。

 「もう眠い」、と、アゼルは言った。「寝る」

 私は目を開けた。「空気読めよこのやろう」と、言ってみる。

 「なに? ヤりてえの?」

 「ちょっと違う。そわそわしてる。文化祭の時みたいに。触りたいし、触ってほしい」

 彼は額を離して私の視線を受け止めた。

 「お前の言うことなんか聞かねえよ」

 ショックだ。「三百六十の打撃を受けた」

 「微妙だなそれ。体力いくらあんだ」

 「今百五十くらい」と、私。「普段は三百二十です」

 「即死じゃねえか」

 「でもね、私は呪われてるから、二度生き返れるの」

 「お前、実はわりと眠いだろ」

 ばれた。「超眠い」

 彼はまた目を閉じる。「寝ろ。寝たら起こしてやる。俺が起きてたらの話だけど」

 「やだそんなの」

 「言いたきゃ言え」アゼルが言う。「今だけは許してやる」

 言っていいの?

 「アゼル」私は、ずっと手元にあった彼の南京錠を離し、彼の頬に触れた。「好き」

 「知ってる」

 足りない。

 彼の首に腕をまわした。

 「愛してる」

 そう言って、アゼルにキスをした。

 彼も、応えた。

 「愛してる」私はまた言った。「愛してる」

 そしてまた、キスをした。

 お互いが、お互いの身体を引き寄せた。

 お互いが、お互いの身体を撫でた。

 お互いが、お互いの身体を求めた。

 心、を。

 愛、を。

 「愛してる」

 「愛してる」

 「愛してる」

 私は、何度も彼に言った。

 「アゼル、愛してる」

 そのすべてに、彼は彼のすべてで応えてくれた。

 彼は、二度と口にはしないだろう。アゼルは躊躇する。それが彼だ。

 “アゼルとずっと一緒にいたい”

 私は、本気でそう思っていた。

 もう他にはなにもいらない。これ以上、なにも求めない。

 愛してる。

 愛してる。

 愛してる、アゼル。

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