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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 16 * CHRISTMAS DAYS
93/119

* Christmas Present

 アゼルとの時間は、ほとんどいつもどおりだった。夕食を食べに行き、マブへ帰ると、テレビゲームをして遊んだ。

 夜十一時頃、一緒にシャワーを浴びて──部屋に戻ると、ナイトスタンドの明かりだけを灯し、ベッドの上に腰をおろした。

 「なにする気だよ」

 彼の背後に座った私に、アゼルが言った。

 「なにって、だから、プレゼント」

 私は脇に置いた紙袋から箱をふたつ取り出し、蓋を開けた。

 「見ないでよ、まだ」と、念を押す。

 「イヤな予感がする」彼はつぶやいた。「すげえイヤな予感がする」

 「うっさい黙れ」

 「ちょっと待て。クッションの下にナイフあるから、それ取れ」

 従った。クッションの下に手を入れて探り、ナイフを見つけた。一年ぶりのフォールディングナイフだ。彼の肩越しに渡す。

 「はい」

 アゼルは呆れた様子でナイフを受け取った。

 「お前の神経が本気で謎」

 「私も自分でわかんないよ」

 箱からチェーンを取り出す。程いい重さ。冷たい。

 彼がまた訊く。「なんでうしろからなわけ?」

 「向き合ったほうがいい? 目閉じてくれる?」

 「微妙」

 その言葉は受け答えとしてはおかしいと思うが。「わかった、ちょっと待って」

 自分のチェーンと南京錠を右脚の下に隠すと、チェーンを右手に、アゼルの南京錠を左手に握った。少し金属音がするけれど、この段階ではチェーンには気づいても、南京錠のことまではわからないだろう。

 「こっち向いて」

 そう言うと、彼は渋りながらも私のほうを向いた。ものすごく不機嫌そうだ。手にはフォールディングナイフを持っている。当然、いつでもブレードを出せるようにかまえて。

 だが気にしない。両手を彼の首にまわし、首にチェーンをかけた。アゼルは目を閉じていないけれど、ただ不機嫌そうに視線をそらしたまま、なにも言わないし、見ない。私も彼と目を合わせない。

 チェーンはちょうどいい長さだった。これなら、もしまだ成長しても、苦しくはならないだろう。簡単にはずせたりもしないだろう。

 左手に握った南京錠を、チェーンの両端の穴にかけた。

 私はアゼルを愛してる。信じてる。もう浮気なんてしないんじゃないかとさえ思ってる。

 南京錠の鍵を、閉める。

 カチャ。

 約束を、忘れてほしくないだけ。

 「──なにした」アゼルが言った。

 私は無視した。脚の下から自分の南京錠とチェーンを取り、彼の右手を広げて置いた。

 「つけて」

 アゼルはそれを見た。数秒固まり、自分の首にかかった南京錠を確認した。

 「──喧嘩、売ってんのか」視線を合わせる。「本気で喧嘩売ってんのか」

 怒るということは、わかっていた。「売ってない」

 「お前、俺がなにを嫌ってるか知ってるよな。知っててこれか? なにがしてえんだ」

 私は反論した。「これは“支配”じゃない。刻印の意味を理解してよ。あんたならわかるでしょ」

 「意味ならわかる。去年の約束だろ」彼は、怒っている。「それにしたってこれはねえ。守れって言いたいんなら、忘れんなって言いたいんなら、他にだって方法はいくらでもあるはずだろ。なんでこれなんだ。ふざけんな」

 理由を訊かれてもわからない。ときどき自分ですら自分の考えが、本当にわらかなくなる。なぜそれを貫こうとするのか、自分でもわからない。

 私は箱からアゼルの南京錠の、青いリングのついた鍵を取り、アゼルの胸に押しつけた。

 「イヤならやめればいい。言ったでしょ。逃げ道はある。最初から鍵を隠すなんて卑怯なことはしない。はずしたきゃはずせばいい。ふたつとも私がつける」

 彼は鍵を押しつける私の手を見つめた。

 「──お前、マジでうざい」

 そうつぶやくと、ナイフを手放し、チェーンを使って私の首に南京錠をつけた。かなり乱暴だった。

 その南京錠を掴んで私の顔を引き寄せ、言った。

 「タクシー呼べ」

 「なんで」

 「さっさとしろ」

 突き放すように手を離すと、フォールディングナイフと、南京錠の鍵を私のぶんとアゼルのぶん、ふたつとも奪って立ち上がり、彼は部屋を出た。

 わけがわからないまま、私は従った。

 アゼルは数分して戻ってきた。南京錠は首につけたままだ。ブランケット二枚を持っていて、タクシーを呼んだかと確認すると、ブランケットを私に投げつけた。クローゼットから紙袋──私が修学旅行で買ったおみやげを入れていた紙袋を出し、それもこちらに投げつけて、ブランケットを入れるよう言った。

 私は、従った。

 着替えを持ち、彼は再びリビングへと向かった。そこに置いていた私のコートをこちらに放り投げると、大きな音を立ててドアを閉めた。

 わけがわからないまま、コートを着た。

 今、私は黒いドルマン・チュニックを着ている。買ったもので、部屋着用ではあるものの、外に出ても問題はない。でも、今はジーンズを履いていない。ショートパンツすら履いていない。寒そうだ。

 今日死ぬのか、と思った。山奥にでも行って、殺してくれるのかもしれない。アゼルにつけた南京錠と一緒に、鍵も一緒に、埋めてくれるのかもしれない。

 私はアゼルを怒らせた。約束は破棄。終了。

 もしくは心中? するわけがない。私ひとりが死ぬ。終了。

 しばらくすると、外からクラクションの音が聞こえた。

 アゼルがドアを開けた。

 「さっさと来い。それ持てよ」

 彼は玄関に向かった。

 従う。

 外は寒かった。アゼルは喋らなかった。無言でマブの鍵を閉め、タクシーに乗り込んだ。

 私があとに続くと、ドアが自動で閉まった。アゼルは運転手に、リバー・アモング・ビーチに行くよう言った。

 どうやら死に場所は海らしい。溺死かもしれない。

 タクシーが走り出した。

 重い空気のタクシーの中、アゼルは無言で窓の外を眺めていた。

 私は刺殺と溺死のどちらだと訊いた。

 無視された。

 運転手がラジオの音量を上げた。

 アゼルはうざいから切れと運転手に言った。

 運転手はラジオを消した。

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