* Christmas Present
アゼルとの時間は、ほとんどいつもどおりだった。夕食を食べに行き、マブへ帰ると、テレビゲームをして遊んだ。
夜十一時頃、一緒にシャワーを浴びて──部屋に戻ると、ナイトスタンドの明かりだけを灯し、ベッドの上に腰をおろした。
「なにする気だよ」
彼の背後に座った私に、アゼルが言った。
「なにって、だから、プレゼント」
私は脇に置いた紙袋から箱をふたつ取り出し、蓋を開けた。
「見ないでよ、まだ」と、念を押す。
「イヤな予感がする」彼はつぶやいた。「すげえイヤな予感がする」
「うっさい黙れ」
「ちょっと待て。クッションの下にナイフあるから、それ取れ」
従った。クッションの下に手を入れて探り、ナイフを見つけた。一年ぶりのフォールディングナイフだ。彼の肩越しに渡す。
「はい」
アゼルは呆れた様子でナイフを受け取った。
「お前の神経が本気で謎」
「私も自分でわかんないよ」
箱からチェーンを取り出す。程いい重さ。冷たい。
彼がまた訊く。「なんでうしろからなわけ?」
「向き合ったほうがいい? 目閉じてくれる?」
「微妙」
その言葉は受け答えとしてはおかしいと思うが。「わかった、ちょっと待って」
自分のチェーンと南京錠を右脚の下に隠すと、チェーンを右手に、アゼルの南京錠を左手に握った。少し金属音がするけれど、この段階ではチェーンには気づいても、南京錠のことまではわからないだろう。
「こっち向いて」
そう言うと、彼は渋りながらも私のほうを向いた。ものすごく不機嫌そうだ。手にはフォールディングナイフを持っている。当然、いつでもブレードを出せるようにかまえて。
だが気にしない。両手を彼の首にまわし、首にチェーンをかけた。アゼルは目を閉じていないけれど、ただ不機嫌そうに視線をそらしたまま、なにも言わないし、見ない。私も彼と目を合わせない。
チェーンはちょうどいい長さだった。これなら、もしまだ成長しても、苦しくはならないだろう。簡単にはずせたりもしないだろう。
左手に握った南京錠を、チェーンの両端の穴にかけた。
私はアゼルを愛してる。信じてる。もう浮気なんてしないんじゃないかとさえ思ってる。
南京錠の鍵を、閉める。
カチャ。
約束を、忘れてほしくないだけ。
「──なにした」アゼルが言った。
私は無視した。脚の下から自分の南京錠とチェーンを取り、彼の右手を広げて置いた。
「つけて」
アゼルはそれを見た。数秒固まり、自分の首にかかった南京錠を確認した。
「──喧嘩、売ってんのか」視線を合わせる。「本気で喧嘩売ってんのか」
怒るということは、わかっていた。「売ってない」
「お前、俺がなにを嫌ってるか知ってるよな。知っててこれか? なにがしてえんだ」
私は反論した。「これは“支配”じゃない。刻印の意味を理解してよ。あんたならわかるでしょ」
「意味ならわかる。去年の約束だろ」彼は、怒っている。「それにしたってこれはねえ。守れって言いたいんなら、忘れんなって言いたいんなら、他にだって方法はいくらでもあるはずだろ。なんでこれなんだ。ふざけんな」
理由を訊かれてもわからない。ときどき自分ですら自分の考えが、本当にわらかなくなる。なぜそれを貫こうとするのか、自分でもわからない。
私は箱からアゼルの南京錠の、青いリングのついた鍵を取り、アゼルの胸に押しつけた。
「イヤならやめればいい。言ったでしょ。逃げ道はある。最初から鍵を隠すなんて卑怯なことはしない。はずしたきゃはずせばいい。ふたつとも私がつける」
彼は鍵を押しつける私の手を見つめた。
「──お前、マジでうざい」
そうつぶやくと、ナイフを手放し、チェーンを使って私の首に南京錠をつけた。かなり乱暴だった。
その南京錠を掴んで私の顔を引き寄せ、言った。
「タクシー呼べ」
「なんで」
「さっさとしろ」
突き放すように手を離すと、フォールディングナイフと、南京錠の鍵を私のぶんとアゼルのぶん、ふたつとも奪って立ち上がり、彼は部屋を出た。
わけがわからないまま、私は従った。
アゼルは数分して戻ってきた。南京錠は首につけたままだ。ブランケット二枚を持っていて、タクシーを呼んだかと確認すると、ブランケットを私に投げつけた。クローゼットから紙袋──私が修学旅行で買ったおみやげを入れていた紙袋を出し、それもこちらに投げつけて、ブランケットを入れるよう言った。
私は、従った。
着替えを持ち、彼は再びリビングへと向かった。そこに置いていた私のコートをこちらに放り投げると、大きな音を立ててドアを閉めた。
わけがわからないまま、コートを着た。
今、私は黒いドルマン・チュニックを着ている。買ったもので、部屋着用ではあるものの、外に出ても問題はない。でも、今はジーンズを履いていない。ショートパンツすら履いていない。寒そうだ。
今日死ぬのか、と思った。山奥にでも行って、殺してくれるのかもしれない。アゼルにつけた南京錠と一緒に、鍵も一緒に、埋めてくれるのかもしれない。
私はアゼルを怒らせた。約束は破棄。終了。
もしくは心中? するわけがない。私ひとりが死ぬ。終了。
しばらくすると、外からクラクションの音が聞こえた。
アゼルがドアを開けた。
「さっさと来い。それ持てよ」
彼は玄関に向かった。
従う。
外は寒かった。アゼルは喋らなかった。無言でマブの鍵を閉め、タクシーに乗り込んだ。
私があとに続くと、ドアが自動で閉まった。アゼルは運転手に、リバー・アモング・ビーチに行くよう言った。
どうやら死に場所は海らしい。溺死かもしれない。
タクシーが走り出した。
重い空気のタクシーの中、アゼルは無言で窓の外を眺めていた。
私は刺殺と溺死のどちらだと訊いた。
無視された。
運転手がラジオの音量を上げた。
アゼルはうざいから切れと運転手に言った。
運転手はラジオを消した。




