* Succeed
「思ったより笑いとってたな、オレら」傍らで、ケイがにやつきながら言った。「文化祭でこれやってれば、お前のクラスに勝ってたかも」
「ステージと教室じゃ、争いどころが違うわよ」と、私。
カルロも褒めた。「いや、けどマジでおもろかった。オレらずっと爆笑してたもん」
「特にあれ」セテが言う。「二本目の、男と女が話してて、会話がずれて、いつのまにか男と女の声が逆転するとこ。“声が逆になってる”、“お前いつ女になったんだ!”ってあたり」
イヴァンも同意した。「あれおもろかった。他に比べりゃ特に役の置き換えなんてなくて、わりと普通の会話っぽいのに、それが逆によかった」
そんな褒め言葉に、ケイは得意げな顔をした。「あれはベラとオレが考えたとこ。なんか置き換えやりすぎて、逆にくどい気がしてきてたから、ベラにこれでいいのかって訊いたんだ。したら、じゃあ普通の会話やろうかっつって。映像流しながらオレとベラが普通に会話始めて、ベラがどんどん急かしてきて、いつのまにか声が逆になってた状態。他の奴らが爆笑してたから、ほとんどそのまんま使った」
「あんたのセリフはわりと変えたけどね」私は意地悪く返した。「まだまだゲルトみたいにはなれないな」
彼はきょとんとした。「え、ゲルトがなに」
ゲルトが苦笑う。
「会話のテンポ的に、あれーとは思ってたけど、やっぱそっちなわけ?」
「そっちよ。あんただったらどういう反応するかっての、わりと頭に置いて考えた」
「ああ、だから妙に馴染んで聞こえたんだ!」セテは納得した。「会話のテンポがすげえ馴染んでた。つっこむ暇もない感じ」
「うそ、ゲルト基準? あんなテンポなわけ? 普段から?」
ダヴィデが応じる。「毎日ってわけじゃないけど、こいつらが爆走しはじめたらあんな感じ──あれ以上? 二人で勝手に喋ってる」
「オレらずっと爆笑」と、セテがつけたした。
「なんだよ。じゃあゲルトにも来てもらえばよかったんじゃね? そのほうが、もっとなんかなったかも」
彼らは笑った。
「来年やりゃいいじゃん」カルロは言ったものの、すぐ思い出した。「違うか、来年はホラーハウスか」
ケイが肩をすくませる。
「どっちもやりたいんだよな。ホラーハウスの小道具と、仕掛け書いた紙はもらったし。けどアテレコもわりとおもろい。アテレコそのものはどっちでもいいけど、セリフ考えんのがすげえおもしろかった」
「ベラ式で言えば」ゲルトが切りだした。「ホラーハウスを自分のクラスでやる。アテレコは他のクラスにやらせる。けど、セリフは当然しゃしゃり出て考える」
「ねえ、なんでそれが私式になるの?」
「あ、そっか」ケイは納得した。「そうすりゃいいんだ。そうしよ。くだらないことやってんじゃねえよとか言って、アテレコやらせばいいんだ」
おいおい。
セテが笑う。「歴史はこうやって引き継がれてくんだな」
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「では、最後のゲームになります」ステージの上、マイクを持ったアニタが言った。「ごくごくシンプルなゲーム。ものすごく地味な気がするけど、それでも商品は」口元をゆるめ、左手に持った三枚の白い封筒を高々と揚げて見せた。「中学生にはちょっと嬉しいもの。しかもちょっとレアだったりします。なんなら、タイミング的には最高かもしれません」
彼女の隣、ペトラはよけいなことを言いだした。
「ちなみに元の持ち主は、これを手に入れてから、引き出しの中で一年も放置してたらしい。さっさとくれればよかったのに、偶数だから、当然カップルで行くもんだよね、みたいに決めつけやがって」
体育館は苦笑いと中身を予想するざわつきに包まれた。
リーズが遠い目をしてつぶやく。
「ほんとにね。相手のいないうちらには、ちょっとどうでもいいもんのような気がするんだけどね。っつーか彼氏がいた時ですら、くれなかったわけだけど」
一段と大きな苦笑いが溢れた。
「まあ、そういう愚痴は置いといて」と、リーズの隣からニコラが割って入る。「カップルだとかどうだとかってのも、とりあえずどうでもいい。でも、来週はクリスマス。カップルでも友達でも、映画を観たいってヒトは多いかもしれない。っていうかこれ、どうやら期限なんかは関係ないらしいから、さすがに一年放置はどうかと思うけど、観たい映画が見つかるまで、置いておくことはできる」
彼女の隣、エルミが軽い口調で続ける。「誰かを誘うきっかけになるかもしんないよ。誘いたいヒトも特にいないってなると、わりと哀しい感じなんですけどー」
今度はくすくすと笑いが起きる。
「ってことで」アニタが掲げる封筒を再び示しながら、リーズは笑顔で切りだした。「商品はセンター街の全映画館、曜日も日付も時間も関係なく使える、三百フラム割引券、二枚入りペア一組! それが三セット!」
笑顔のアニタがあとを引き継ぐ。「ゲームっていうか、ジャンケン大会! 勝ち抜きジャンケン大会!」
「ルールは簡単」ざわつきまじりの歓声の中、エルミが説明をはじめる。「まずはテーブル内、勝ち抜け方式でジャンケンしてテーブルから抜け出す!」
「テーブルからひとり、ひとりが勝ち抜けたら、ステージ前に集まって」
ペトラのセリフにニコラが続く。
「そしたら今度は、ジャンケンの相手が先生たちになります」
「最初の相手は──」
エルミが促すと、向かって右の袖から、カンニネン教諭が現れた。
「カンニネン教諭!」
ニコラが補足する。「カンニネン教諭は、ジャンケンに自信がないそうです。ここは一発勝負。カンニネン教諭にジャンケンで勝つか、あいこになれば、残れます。負けたヒトはおとなしくテーブルに帰ること。ズルはなし!」
「そして次が」
リーズが言うと、今度はボダルト教諭が出てきて、カンニネン教諭の隣に立った。
「我らが恐ろしのボダルト生徒指導主事!」苦笑う主事を無視して彼女は続けた。「生徒に負けてたまるかとか言ってました。勝ってください。ここでもやっぱり一発勝負、勝つか、あいこになるかで、残ることができます」
「それに勝ち残れば」ペトラが続ける。「今度は教頭先生です」
教頭が出てきた。
「ここも一発勝負」彼女が説明する。「あいこか勝つか。ここまで来れば、よっぽどじゃない限り、人数はかなり絞れるはず」
「そしてラスボス!」アニタは封筒を持った手で、袖から登場した校長先生を示した。「ラスボスという言葉が不似合いすぎるけど、今日この体育館をこうして使うことを許可してくださった、このウェスト・キャッスル中学の校長先生!」
生徒たちから一段と大きな拍手と歓声が上がった。
「校長先生とは、最後の三人になるまでジャンケンをしてもらいます」ニコラが説明した。「突然五人からひとりにまで減ってしまったら、負けたヒトたちと校長先生とで勝負。つまり一度負けたくらいじゃ、勝負はわからない」
アニタが続ける。「チケットは、値段にすれば小さいかもしれません。でもこれは、値段じゃない。月曜のクリスマスイヴ、火曜のクリスマス当日に、誰かを誘うきっかけになるかもしれません。もしくは、友達と仲良く二人で出かけることも可能です。友達にプレゼントしてもいいよね。使い道は自由! 使用時期も自由! “割引券があるから”、なんてのは、もはや十八番のセリフだけど。実際あったら、そこからなにかが変わるかも?」
「妄想を膨らませるのもいいけど、とにかく手に入れないことには始まらない!」リーズは明るい口調で言った。「ズルはなし! 割引チケット争奪ジャンケン大会、スタート!」少々ヤケ気味にも思える。
大音量の音楽が流れ、生徒たちは一斉にジャンケンを始めた。
「すごい文句言ってたけど、あの割引券、お前のなの?」セテが訊いた。
「そう。一年放置してた」
「六枚ってすごいな」カルロが言う。「めったに手に入らねえんだろ? あれ」
イヴァンが応じた。「なんか噂では、ガキにはあんまくれないって話。高校生でもあんまもらえないって」
ゲルトは不思議そうな顔をした。「なんで? 金がないから?」
「さあ。けど姉貴は、大学生になってやっともらえたって」
「マジか」セテが言う。「ま、べつにいらんけど」
「センター街すら、そう行かないしな」と、ダヴィデ。
「で、お前らどうすんの?」ゲルトが訊いた。「べつにいらないけど、やんの?」
ダヴィデははっとした。
「誰かにあげるのでもいいわけだから、妹にやれば、あのわけのわからんアニメの映画、観に行くかな」
カルロがつぶやく。「うちはまだそんな年じゃねえ」
イヴァンもはっとする。「姉貴にやったら、貸し作れるかな」
「んじゃとりあえずやるか」セテが言った。「こん中の誰かが勝ったら、そん時はイヴァンかダヴィ、どっちかにやるってことで」
「え、マジで?」イヴァンがこちらに訊く。「いいのかそんなんで」
「お好きにどうぞ。私はいらないからやらない。ステージにあがる可能性なんていらないからやらない。男同士の勝負だ、行け!」
けっきょくセテが順調に勝ち上がっていき、だけど対教頭先生で負けた。彼によると、カーリナはカンニネン教諭のところで負け落ちたらしい。
結果、映画館の割引券は、三年の女子ふたり、一年の男子ひとりが、それぞれペア一組の封筒を持って帰った。
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パーティーが終わり、生徒たちが解散すると、実行部とボランティアの手伝い組、そして教師たちで後片づけをした。
それも終わってボランティア組や教師のほとんどが退散すると、体育館の袖近くで、私はアニタたちと一緒に改めて、校長と教頭、ボダルト教諭に挨拶した。
「おつかれさまでした」
微笑む校長が応じる。「こちらこそ、長い時間、おつかれさまでした。君たちの結束はすごかったですね。正直、なんらかのトラブルはあるものだと思ってたんですが」
「軸がしっかりしてたので」私の右隣、主に裏方を引っ張ったヒンツが答えた。「散々ああだこうだと話し合いましたからね。主軸は、なぜか昼休憩にしか出て来たがらなかったですが」悪戯っぽく口元をゆるめてこちらを見やりながら言うと、また校長へと視線を戻した。「それでも、その主軸の勘はすごかったですよ。思ったより時間は長かったですが、対応しきれないほどの誤算というのはなかったので、ほとんど予定どおりに事を進められました。もちろん彼女たちの司会っぷりも」今度は私の左隣にいるアニタやペトラたちを示す。「すごかったですが」
彼の言葉に、彼女たちは顔を見合わせて照れくさそうに笑った。
「ええ、ええ」教頭も満足気にうなずく。「監督の立場だったものの、楽しかったですよ。ジャンケン大会なんかは、思わず負けたくないとさえ──」
校長は笑って同意した。「ええ、わたしもです。何年ぶりでしょうね、ジャンケンなんて」
「大人ももっとジャンケンするべきですよね」エルミは見当違いのことを言いだした。「童心に返るためにも」
「子供ほど、そういう単純な勝負事がないんだよ」と、ニコラ。
「それはそうと」主事がリーズとニコラに言う。「お前ら、ずっとこういうのがやりたかったわけだよな。目立つ役。引っ張る役。大勢の前での司会。満足したか?」
「言いかたがいちいち嫌味くせえ!」リーズは冗談交じりに怒った。「けど」ニコラに言う。「楽しかったよね」
「楽しかった」彼女は笑顔で同意した。「特になんもないまま卒業するもんだと思ってたから、よかった」
校長も言う。「こちらも楽しかったですよ、本当に。できれば来年もまた、やりたいですね」
「え、ほんとですか?」アニタが訊き返した。「恒例行事化?」
「まじっすか」と、ペトラ。
「こうやって、三年と二年、二年と一年、三年と一年、という繋がりができていれば、できるでしょう、きっと」
「その時は」リーズは口元をゆるめて前かがみになり、アニタとペトラに言った。「アニタたちがメイン司会だね」
「新しい伝統、ですね」ヒンツの隣で元生徒会長が言う。「いつまでも続いてほしいです」
校長が応じる。「こちら側も、努力はしますよ。誰がいつ転勤になるかはわかりませんが、生徒たちの中にこのイベントの記憶を残しておけば、それが楽しければなおさら、なくなったりはしないでしょう」
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家に着いたのは、夕方十六時半頃だった。荷物を部屋に置くと、“今帰った。シャワー浴びてちょっと寝る”とアゼルにメールを送り、バスルームへと向かった。四時を過ぎたらマブには行かないと、アゼルには言ってある。
彼も、マスティとブルも、今日は三人揃って仕事だった。というか、アゼルがわざわざそう仕向けてくれた。仕事は午後三時までだから、もう帰ってるとは思うが。
部屋に戻って携帯電話を確認すると、アゼルからメールが入っていた。届いたのはほんの二分前。
《今やっとマスティとブルにパーティーのこと話した。すげーキレられた。なんで俺がキレられんの? 黙ってただけなのに。なんかムカつくから俺も寝る》
思わず笑った。ベッドに寝転び、返事を打つ。
《ごめん。でも怒られる筋合いはないよね。中学は、中学を卒業した人間に用はない。何時かわかんないけど、夜電話する。サビナとちょっと話した。クリスマスがちょっとおもしろいことになるかもしれない》
送信した。
リーズとニコラは数日前、サビナとエデとカーリナに、恋愛についての探りを入れたらしい。サビナは、私を介してアドニス、ルキアノスと知り合ったことを話した。紹介してもらった男もいるけれど、エデはルキアノスと、カーリナはアドニスとメールすることを優先しているらしい。
リーズもニコラも彼らのことを知らないふりでとおし、おもしろがって応援したと。それでも陰では、どうせ相手にされないよ、と言っている。
サビナはまだ気まずさが残っているらしいものの、一年の時のバレンタインの一件を、リーズに許してもらおうと必死らしかった。“関わるな”と言った相手に自分の名前が入っていなかったからか、時々私に話しかけてくる。どうしたいのかはわからない。
アゼルから返事が届いた。
《電話より押しかけてこいよ。なんなら俺が行くけど。クリスマスまでに一回はヤらせろ》
「カラダ目当てか」と、私は声に出してつっこんだ。
まあ、どうでもいい。“会いたい”なんて言葉、アゼルが言うはずがない。でも押しかけてこられるのは勘弁だ。返事を打った。
《こっちに来るのは勘弁して。見つかった時、なんて言えばいかわかんないし、夜中に起こしたくないから。でも努力はする。おやすみ》
十分待っても返事がないものだから、諦めて眠った。アゼルはメールですら、“おやすみ”なんて言う気はないらしい。
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午後二十三時すぎ、ベッドに寝転んでアゼルに電話した。
「ん」
彼の第一声は、いつもこんな調子だ。“ん”、か、“なに”。だが私もヒトのことを言えない。アゼルより少しバリエーションが多いだけで、中身的にはほぼ変わらないのだから。
「まだあの二人、いるの?」私は彼に訊いた。
「いや、ちょっと前に帰った。ニコラとリーズも、五人で飲んでたんだけどな、空き缶放置して帰った」
「また? 片づけるのどうせ、私なのに。まあいいや。エデとカーリナがね、あのアドニスとルキを誘いたいって言ってるらしい」
「へえ。誘われたって報告はねえの?」
「ない。さっきアドニスとちょっとメールしたけど、なにも言ってなかった。明日用済ませたら、また三人でランチ」
「ふーん。他は?」
私はサビナたちの予定と、ケイネル組が合コンに行くことを説明した。
「あとね、アニタに好きな男を誘ったりしないのって訊いたら、相手の受験が終わるまで待つとか言ってた」
「は? マジか」
「らしいの。よくわかんないけど、受験する高校がね、レベル高いらしくて。だから揺さぶりかけたくないらしい」
「受験っつったって二月だろ? あと二ヶ月もある。それまで待つってどんなだ」
「見習わなきゃいけない部分かも。二ヶ月間、ベッド禁止にしてみようか」
「殺す気? お前がそうしようとしても、確実に無理やりヤることになる」
「クリスマスのあともそうやって、ふざけてくれてるといいんだけど」
不機嫌そうな声が返ってきた。「思い出させんな。考えないようにしてんだから」
ごめんなさい。「ナイフ磨いとけばいいよ。で、クッションの下にでも忍ばせておく」
「ああ、そりゃいいな」反抗的。「で、またお前の血舐めりゃいい。舐めるどころじゃなくて、もう飲めばいい。そしたらその無神経さに習って、俺もどうでもいいって思えるかも」
無関心な部分が誰かを傷つけることになるとは思っていなかったけれど、無神経な部分が誰かを傷つけるということは、私も知っている。ただ私は、誰かの無神経な部分で傷ついたことはたぶん、ほとんどないのだが。
「言ったでしょ」私は静かな口調で言った。「会ったとしても、逃げ道はある。拒否されてまで渡そうとは思わない。見てから決めてよ」
数秒、どちらも沈黙した。
「──明日」アゼルが切りだす。「コンビニ行く程度の時間でいいから、家出ろ。夜。あいつらが帰ったらメール入れる」
逆らうべきところではないというのは、鈍感すぎる私にもわかる。
「わかった」




