* Party
十二月二十一日。
ウェスト・キャッスル中学校での新しい試み、体育館でのパーティー当日──参加人数は約三百数十人程だった。やはり三年生、受験組の出席率が少々悪いのと、真面目で奥手な生徒や予定のある生徒の不参加の結果だ。けれど不参加組からも謎の善意があり、お菓子やジュースは想像以上の数が集まった。もちろん教師陣や、楽しそうだと賛成にまわってくれたPTAからの差し入れもあってのことだが。
ちなみに、一年にポスターの色塗りを頼んだ際、絵の具があまりすぎてもらうには悪いと彼女たちに言われたので、“クリスマスパーティー・イン・ウェスト・キャッスル中学”などという、ありきたりすぎる看板タイトルも書いてもらった。体育館のステージの隅と入口脇に置くためのもので、ものすごく派手に。ポスターは女子を中心に進めたものの、その看板では男子のめちゃくちゃな性格が、いい意味で味を出している。
そして私、昨日は下準備を手伝ったものの、今日は完全に実行部から抜けている。というか、実行部としては表立って活動していない。チラシに書いた問い合わせの連絡先に私の名前はないし、気になることがあった時に呼び出されはしたものの、その会議は主軸メンバーだけで秘密裏に、昼休憩時間を使って行った。朝のお菓子類の回収にも、実行側としてはまったく関わっていない。
おもしろかったのは、ハヌルや学級委員が、パーティーの実行部としてテキパキと動くアニタたちを、ものすごく羨ましそうに見ていたことだ。今回実行部としては、彼女たちには一切の声をかけなかったから。
パーティーは、実行部だとわかるよう赤いTシャツを着てステージに上がったリーズとニコラ、アニタ、ペトラ、エルミの合図で、生徒たちがそれぞれ、ひとつかふたつ持ったパーティークラッカーを鳴らすところからはじまった。太っ腹な校長と教頭が用意してくれたのだ。
そしてそれを鳴らし終えてすぐ、リーズとニコラの去年のクラスメイトがステージにあがり、去年文化祭でやったように歌と踊りをはじめた。不参加組がいるから、去年よりは少ない人数、ショートバージョンだったけれど。
それも終わると、今度は各クラスがステージに上がり、それぞれにプログラムを披露しはじめた。
私はゲルトたちと一緒に、出入り口に近い部分にある後方の端テーブルに着いていた。クジなど当然引いていない。ナンネとジョンアは一応、C組の子と一緒に席をとっている。クジを引かないとなると、他の女子たちからうるさく言われる可能性があるし、その気になればいつでも来ることができるからだ。
ちなみに、私はアニタによって右手の甲に赤いハートマークを、ペトラによって左手の甲に黄色い星マークを描かれてる。やめろと言ったのに。
ゲルトは右手甲に星マーク、セテは左頬に星マーク、ダヴィデは左手にダイヤを、イヴァンは右頬に星を、カルロは左頬にダイヤのマークを描かれた。
騒がしい体育館内、テーブルをはさんだ向かい。ジュースの入ったペーパーカップ片手にカルロが私に訊いた。
「今さらだけどお前その格好、先公に怒られなかったわけ? アニタたちは実行部だってわかるように赤い服着てるけど、お前は違うじゃん」
私は冬セーラーの上服を脱いで、祖母に作ってもらったドルマン・チュニックを着ている。
「え、ぜんぜん。一応スカート履いてるし」
右隣でセテが笑う。「見えてねえよ」
「見えないからいいんじゃない。理想は私服だったな、マジで」
「女の冬の私服、あんまときめかねえんだよな」カルロは不満そうに言った。「モコモコしてる」
ゲルトが口をはさむ。「え、俺は冬のほうが好きだけど。着ぶくれはイヤだけど、マフラーがあんだろ。あれだけで、なんか残念な女でも、女らしさ? みたいなのが、ちょっと上がって見えんだよ。そりゃ例外はあるけど。がっかりすることがほとんどだけど」
「あ、わかる」ダヴィデが同意した。「寒いっつってちぢこまってたり、息白かったりすんのが、すごい可愛く思える。顔はまあ、可愛いほうがいいに決まってるし、当然ミニスカのほうがいいけど。なんていうか、寒いとか文句言いながら、ダウンジャケット着てマフラー巻いてんのに、脚だけは出してるってのがいい」
ゲルトは笑った。
「それそれ。すげえわかる。ルーズだとさらにいい」
理解できないといった様子でカルロが訊き返す。「マジで? んじゃ、夏休みにベラがしてたみたいな格好は? ショートジーンズはいいんだろうけど、タンクトップとか」
ダヴィが首を横に振る。「あれは違うな。肩出しとかいらね」
「違う違う」ゲルトも続いた。「普通にTシャツとショートジーンズでいい」
「ベラのはなんつーか、いちいち派手だよな」セテが言った。「オレは正反対がいい。もっとこう、乙女っぽいの」
イヴァンが質問を返す。「乙女っぽいってなに? レースとかついてるやつ?」
「そうそう、白くてふわふわでふりふりな感じ」
ゲルトがにやつく。「ベラには絶対に着てほしくない系統だよな」
セテはけらけらと笑った。
「間違いない!」
私は無愛想に答えた。「はいはい。一生着ないから安心してくれてけっこうです」
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ポケットの中で携帯電話の着信に気づいた。クッキーを口に放り込んで食べながら画面を確認すると、アドニスからだった。私は電話してくると言って体育館の外に出た。
「はいはい」
「あ、ベラ?」アドニスの声。「悪い、昨日寝てたわ。しかも充電し忘れてて、夜中のうちに電源落ちてた。気づかなくて学校行って、朝もメールできなかったっていう。メールに気づいたの、今さっき。帰ってから」
「べつにいいよ。急ぐことでも頼んでるわけでも、誘ってるわけでもない。単に、明日センター街に行くって送っただけなので」
電話のむこうで彼が笑う。「だよな。何時くらい?」
「十二時過ぎるくらいだと思う。朝から店を二軒まわるから」
「CDショップ? と、なに?」
「それは内緒。たぶんお昼には用終わると思う」
「ふーん? んじゃまた飯、ルキと三人で食うか。クリスマスの前祝い」
「クリスマスって、祝うもんなの?」
「いや、知らね。けどクリスマスはお前、オトコといるんだろ?」
「二十四日の夜からはその予定。昼間は仕事なんだって」
「へー。夏休みとか冬休みとかだけでもバイトしようかと思ってたけど、めんどくさくてやめたわ。けどオレ、イヴは合コン行く」
「まじで? また中学生引っかけんの?」
アドニスは空笑った。
「違うわアホ。ロリコンみたいに言うな。インゴが高校で女集めた。全員タメ。ルキには激しく拒否されたけど。またあいつ、家で勉強してるとか言ってる。どうにかしてくれ」
「いいじゃない。しないよりマシ」
そう言いながらも、私は正門のほうから紙袋を抱えてこちらに歩いてくるサビナとカーリナの姿を目視した。
しかし気にしない。「来年は期待してるよ、留年」
「は? 誰がするか!」彼はふざけた調子で怒った。「冬休みはちょっと真面目に勉強する。つもり。なんならお前も一緒にするか? ルキに教えてもらえばたぶん、すぐ成績伸びるぞ」
乗るべきところなのだろうが。「学年が二年も違うんだから、邪魔になるだけよ」
体育館の入り口を指差したサビナが、口の動きだけでなにかを言ってきた。
「ごめん、ちょい待って」私はアドニスに言った。
「あれ、忙しい? 悪い、普通に長話してたわ」
「ちょっとね。大丈夫なんだけど、サビナがなんか言ってるから切る。また夜にでもメールする」
「りょーかい。じゃーな」
「ん」電話を切ってサビナに言う。「なに」
「ごめん、入って平気なのかな。お菓子は」紙袋を示す。「買ってきたんだけど」
「ペトラに呼ばれたから」と、カーリナは無愛想につけたした。エデを放置してきたらしい。
「お菓子はペトラか、そこらにいる赤いTシャツ着た奴に渡して、適当なテーブルに着けば。歩きまわれば誰かは見つかる。ちなみに私はすぐそこにある、ゲルトたちの席だけど」
わかったとサビナが答えると、カーリナは一足先に体育館に入った。
サビナは続けてこちらに訊く。「今の電話、誰? あたしの知ってるヒト?」
「アドニスよ」携帯電話をポケットに戻しながら答えた。「明日また、ルキと三人でランチでもするかって」
「ああ、そっか」騒がしい体育館の中を見やってから再びこちらに言う。「うちら日曜に、紹介してもらったヒトたちと六人で遊ぼうって話になってる」
「クリスマスじゃないんだ」
「ああ、さすがに。けど──」悩ましげな表情で視線をそらすと、また口を開いた。「エデとカーリナが、ルキとアドニスを誘いたいって言ってんだよね」小声で続ける。「いきなり二人きりは気まずいから、あたし入れて五人でとか──」
「四人じゃないの?」
肩をすくませた。
「よくわかんない。気遣われてるのかもだけど──」さらに声を潜める。「でもクリスマス、あの二人、予定ないのかな」
イヴは合コンらしいが。「どっちかは空いてるんじゃないの、知らないけど。でもぐずぐずしてたら、予定が埋まる可能性はあるよね」
「だよね。よくわかんないけど、四人で遊んでって言ってみるほうがいいかな」
私が知るはずない。「日曜に紹介された男と会って、それが問題なきゃ、一緒に遊べばいいじゃん。もしくは他の男を連れてきてもらうか。恋愛感情が絡んでるんだとしたら、ものすごくくだらないとは思うけど、二対三っていうのはわりと気まずい」
「絶対そう。今日これが終わったら、もう一回ちゃんと話してみる」
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体育館、テーブルに戻ると、なぜかトルベンがいた。
「なんでまたあんたがいんの」
彼はこちらを見たものの、すぐには答えず、手に持ったペーパーカップの中身を飲み干した。そして視線を戻して答える。
「お前がいなかったから」
「じゃあもうどっか行け」
「クリスマスくらい、喧嘩すんのやめらんねえの?」
そう言って、セテはコーラの入ったペーパーカップをこちらに差し出した。
「炭酸は無理だって。キライだって知ってるじゃん」
「ビールと思って飲めばいい」
「こんな甘ったるいの飲むくらいなら本物のビール飲んだほうがマシ!」
「はーい、注目!」ニコラと一緒にステージに上がったリーズがマイクを使って言い、生徒たちの視線を集めた。「ではここで、一回目のメールアドレス交換会をしまーす」
体育館が一気にざわついた。ニコラが説明する。
「どのテーブルにも、紙とペンのセットを置いてあります。誰でもいいから異性のメール相手が欲しいってヒトは、その紙に自分のアドレスを書いてください。クラスや名前は、書いても書かなくてもかまいません。が、電話番号は書かないほうが無難です。あとから勝手に交換してください」
リーズがあとを引き継いだ。「メールアドレスは、ひとり三枚まで書くことができます。実行部が──」
彼女が言葉を切ると、ステージの向かって左袖から、赤い紙袋を高々と揚げたアニタが、反対側から青い紙袋を揚げたエルミが出てきた。
「この紙袋を持って、みんなのところをまわります」二人が持つ紙袋を示しながらリーズが続ける。「この中に、メールアドレスを書いた紙を四つ折りにして入れてください。男子は青い紙袋に、女子は赤い紙袋に。すべて回収したら、よくよくシャッフルしたうえで、再びみんなのところをまわりまーす」
ニコラがさらに続ける。「男子は赤い紙袋から、女子は青い紙袋から。ひとりにつき二回まで、このクジを引くことができます。メールアドレスを入れなくても、このアドレスを引いてかまいません。アドレスを三枚入れて、二回それを引けば、新しい知り合いが増える可能性はずっと高くなります。アドレスを入れずに、自分で一枚のみそれを引けば、ひとりとだけ知り合うことができることになります。そこはみんなしだい。男女になってるけど、無理やり恋愛に結びつけなくていい。先輩後輩としての新しい繋がりや、まったく仲よくなかった同期の子と仲良くなるチャンスでもある。ゲーム感覚でやってください。誹謗中傷はなし。無理だと思う相手なら、メールアドレスを変えるか拒否して、それっきり」
「今から五分後に、紙袋を持って回収に行きます。引く紙が残ってなかったら、あとで二回目があるから、そっちに期待して。先輩と後輩の繋がり、新しい友達を増やすチャンスだと思って、さあ、アドレスを書いてみよう!」
どうしても合コンのノリが欲しかったリーズが笑顔で後押しすると、音楽が流れるよりも先に、体育館内は一段と大きなざわつきに包まれた。目に見える範囲では、すぐに紙とペンを取り、アドレスを紙に書きはじめる生徒たちが何人もいた。
ダヴィデが苦笑う。「ベラの気配がぷんぷんする」
「充満してるな」と、ゲルト。「なにこの合コンみたいなノリ」
「違うよ? アドレス交換のノリが欲しいって言ったのはリーズだもん。私は方法を提案しただけです」
「恐ろしい」セテがつぶやく。「とんでもないのにぶち当たる可能性があるから恐ろしい」
「超怖いけど、お前ら入れんの?」
カルロが訊くと、彼らは全員首を横に振り、拒否した。
「一枚だけ入れればいい」私は言った。「で、自分は引かなきゃいい。相手に自分を引き寄せてもらうなら。もしくは逆。自分は引く。でも入れない。自分が相手を引き寄せる」
イヴァンが言う。「引き寄せるほうがいいんだろうけど、とんでもないのを引き寄せたらイヤ」
「逆もイヤだよ」セテも言った。「とんでもないのに引き寄せられたらイヤ」
「そういうお前は?」ダヴィが私に訊く。「入れんの?」
彼に微笑みを返した。「入れるわけないじゃない。そんな恐ろしいことをするくらいなら、トルベンにでも教えたほうがマシだから」
「お前のアドレスなんか知ったら電話が壊れる。もしくは迷惑メール送り続けることになる」
「あら、超笑える。五倍にして返してやる」
「お前は入れんの?」ダヴィはカルロに訊いた。
「んー、とりあえず二枚入れるかな。で、引かない」
「なんか意味あんの、それ」
「なんとなく?」
「んじゃオレも一枚だけ入れてみよ」セテが言った。「で、やっぱり引かない」
イヴァンは少々ヒき気味だ。「よくそんな怖いことできるな。同じクラスのアレが来たらどうすんの?」
名前を口にせずとも、この場にいる全員がハヌルのことだとわかり、みんな笑った。
ゲルトがひらめく。「あ、相手が同期の奴なら、アニタたちに訊けばわかるか」
「あ、そうだ」セテが言う。「ベラはともかく、アニタやペトラならわかるかも。伝説ゴリラのアドレスなら、お前も知ってるよな」私に訊いた。
今年の夏にやっと携帯電話を手に入れたらしいハヌルのこと。
「一応知ってる。アニタは知らないけどね。高くつくよ」
「金とんのかよ」




