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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 14 * HOLE DAYS
85/119

* Coloring

 翌日、職員室。

 今年四月に赴任してきたばかりの美術担当教諭が、職員室の自分のデスクの上に、チラシ兼ポスター用に下書きしたB4画用紙を並べて見せてくれた。

 「三パターン、考えてみたんだけど」

 どれも鉛筆で描かれいた。一枚はすっきりとしたイメージでサンタクロースとトナカイ、そしてツリーが。もう一枚は、もっとくだけた感じの、マスコット的サンタクロースとトナカイ、そして雪景色が。最後の一枚には、横を向いたトナカイの姿がシンプルに描かれている。

 「ありがとうございます」彼女の左隣、私は愛想よく答えた。「ごめんなさい、突然無理を言って」

 「いえいえ、それはいいの」彼女の声は、普段から少し高めだ。そういう声らしい。「でもよかったの? 一年に描いてもらうつもりだったんでしょ?」

 「よく考えたら、わけのわからないまま突然ポスターを描けと言われても、まとまらない可能性がありましたし。昨日先生が会議室に来てくれて、この方法のほうが迅速に事を進められると思いました」自分のロボットっぷりに、カマトトっぷりに、自分で自分を褒めたくなった。「時間もないですし、色塗りだけをやってもらうことにします。しかも三枚、ぜんぶもらってもいいですか?」

 「あら、無理しなくていいのよ」

 「いいえ、もらいます」言いきった。「一枚を大勢で仕上げるより、三グループに分かれてくれたほうが、作業もしやすいと思いますし」

 彼女が笑う。「じゃあ、仕上がりを楽しみにしてるわね」

 教頭から、昼休憩もしくは放課後まで一年に第一校舎二階の会議室を使わせるという許可、そしてその会議室の鍵をもらって、職員室を出た。

 階段をあがって二階、一年フロアへと向かう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 一年フロアを平然と歩く私は、やっぱり視線を浴びる。声もかけられる。主にケイやマルユトやサイニの友達に。

 C組の教室の後方引き戸を閉めて廊下を歩き、前方戸口から教室に入った。やっぱり注目されるがかまわず戸を閉め、つかつかと教卓へと歩く。

 「ここ、一年C組だぞ」窓際から二列め、前から二番目の机に座ったケイが言った。「とうとう自分が二年だってことも忘れたか」

 ちなみに彼、私が修学旅行のおみやげで渡したクロスモチーフのペンダントをいつも身につけている。教師に怒られたこともあるらしいのだが、おまもりだからと無視し続け、あげく諦めさせたらしい。お前は私か。

 教卓の前に立ち、私は彼に微笑みを返した。

 「残念ながら、私はB組出身なんだよね。去年ここにいたのは、私の大嫌いな奴らなんだけど。まあ、そんなことはどうでもいい」

 右手に持った三枚のB4画用紙を教卓に置き、三十人前後いるだろう一年C組の生徒たちに向かって切りだした。

 「みんなに頼みがある。ここにポスターの下書きが三枚あるから、これに絵の具使って、色塗りして欲しいの。絵の具は」今度は左手に持った白いビニール袋を教卓の上に置いた。「一箱だけど、三十六色入りを買ってきた。道具は何人かの、使ってくれると嬉しい。もちろん全員でとは言わない。このクラスだけでとも言わない。手伝ってくれる子がいるなら、他のクラスの子を呼んできてもらってもかまわない」

 生徒たちが顔を見合わせる中、ケイがいち早くこちらに来る。

 「なんのポスター?」教卓の脇に立った。「──クリスマス?」

 「そう。終業式の日、三年と二年の一部の生徒主催で、昼から体育館を使ってクリスマスパーティーをするの。お菓子とジュース持ち寄りで」

 彼は目を丸くした。「マジで?」

 「マジなんだな、これが」

 左側、マルユトとサイニもこちらに来た。

 「パーティー?」訊き返し、サイニが一枚目のポスターを見る。「うわ、可愛い! これ、誰が描いたの?」

 「ぜんぶ美術の先生。すごいよね。これにね、色つけてほしいの。カラーリングはみんなに任せる。あとから文字を入れるから、余白は余白でちゃんと、単色だけにしてもらってたほうがいいんだけど。どうしてもなんか描き足したかったら、描いてもかまわない。縮小して文字入れてチラシにして、学校中に配りもするから、それでもいいならだけど」

 説明しているうちに、何人かの生徒たちも、彼や彼女たちの周りに集まった。

 ざわつきの中でケイが切りだす。「え、終業式の日って、昼までだよな? そのあとって、飯は?」

 「家で作って持ってくるか、球技大会の時みたいに、買ったのを持ってくる。LHRのあと、教室でそれを食べる。パーティーはそのあと。参加は強制じゃなくて自由。細かい説明をするにはあと一日か二日、必要になるんだけど。そのためにも、早くチラシを配らなきゃいけないのね。これがその下書き。みんなが色つけてくれたら、PCだか手書きだかわかんないけど、台無しにしないよう、こっちで説明の文字を入れる」

 マルユトは絵の具が入った箱を袋の上に出した。

 「絵の具、使っていいの? こっちの使ってもいいのに」

 「ううん、頼んでるのはこっちだから」アニタには内緒にしてくれるとありがたい。「残ったのは美術室に放置してもいいし、適当にもらってくれてもいい。このフロアの会議室の鍵も借りてきて、そのビニール袋の中に入れてある。一応放課後あたりまで許可はとってあるから、そこを使って。休憩時間が終わる時に鍵さえ閉めれば、片づけなくても大丈夫だから」

 「わかった、やる」サイニは笑顔で答えた。「他のクラスの子にも頼んでみる。絵がめちゃくちゃ上手い子がいるんだ。よくわかんないけど、事情話して手伝ってもらう」

 彼女がそう言うと、女子のほとんどは自分もやると言ってくれた。

 悪戯っぽく微笑んだサイニが続けて言う。「男子は邪魔になるよね。雑だし」

 「台無しにしたくないし?」と、マルユト。

 女子たちはみんなうなずいたものの、男子たちと一緒になってケイが反論した。

 「お前らに言われたくねえ! 特にサイニ! お前かなりガサツだろ!」

 「はあ!?」

 彼女が声をあげたのをきっかけに、男女の言い合いがはじまった。

 平和だ。「はいはい、わかったから」とりあえず止めた。「まあ男子がするかしないかは、そっちに任せるけど。なんかあったら、ケイ使って私に連絡して」マルユトとサイニに言う。「乾かす時間も必要だろうから、五時限目の休憩時間にでももらいに来るつもりだけど、焦らなくていい。早めに仕上がっても遅れてても、電話で教えてくれればいいから。鍵は二人のどっちかが預かってて。モメられるのは困るけど、あとはみんなに任せる」

 マルユトが笑って答える。「うん。がんばる」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 放課後──第二校舎二階、東側の、昨日と同じような内装の会議室。昨日の放課後と同じメンバーが顔を揃えた。

 「おー。可愛いじゃん」テーブルに並べた三枚のポスターを見たニコラが言った。

 「完璧だよね。見た瞬間、思わず叫んだもん」と、アニタ。

 彼女が完成したポスターを見たのは五時限目の休憩時間だ。私が第一校舎から戻ってきたあと。

 リーズも感心している。「状況わかってないはずなのに、この出来ってすごい気がする」

  ちなみに完成したこのポスターと引き換えに私が差し出したのは、三十六色の絵の具代がすべてというわけではない。協力した奴にジュースでも奢ってやるかと、にやつき顔で言ってきたケイに渡した四千フラム。決して強制ではない。むしろ彼は、サイニやマルユトに怒られた。でも私は渡した。気にしない。それだけではなく、なぜかケイの男友達三人にお礼のハグをするはめになったことには、少々違和感を感じるけれど。それも気にしない。

 ポスターを見ようと集まっていた彼女たちは、様々な感想を言い終えたあと、また昨日と同じように席に着いた。

 ヒンツが切りだす。「生徒に説明する部分の言葉を考えないとね」

 「けどどうやって入れんの? これ。直接書く度胸はないよね」ペトラが言った。

 アニタが応じる。「PCのほうが失敗はないよね。ただ、時間がかかる気もする」

 私は腕と脚をそれぞれに組み、パイプ椅子に背をあずけた。

 「紙に書けばいい。白い紙に書く。文字から五ミリか一センチくらい離れたところで切り取る。軽く糊付けして、コピー機で印刷。あっというま」

 ペトラは納得した。「あー、なるほど。で、誰が?」

 「ベラのセンスは好きだけどな」ニコラが言った。「うちら、字がキレイとは言えないし」

 「読めればいいじゃん」と、私。

 リーズがつぶやく。「ポスターが完璧なのに、字が汚いって残念だよね」

 私は字がキレイというわけではない。むしろ統一できないタイプだ。その時の気分によって、字体が変わる。

 ペトラとアニタに、ひとり一枚を手がける度胸はあるかと訊いた。二人で一枚じゃないのかとアニタに返された。エルミに同じことを訊いた。無理だと言われた。

 私は思わず天を仰いだ。

 「わかった」再びアニタとペトラに言う。「お前ら二人でやれ。三枚とも。なんなら家に持って帰れ。で、明日学校に持ってくる。朝職員室に持ってって、コピーしてもらって。生徒に配るぶんと、学校に貼るポスターぶん」

 アニタと顔を見合わせ、ペトラは苦笑った。「鬼だ」

 「そりゃ遅くなってもいいんなら、今日うちに持ってきてもいいけどさ。おばあちゃんに言って、夕食作ってもらってもいいけどさ。頼めば帰りも送ってもらえるし」

 「あ、そっちのがいい」アニタがペトラに言う。「三人でやったほうが、効率はいいかと思われます。確実に明日持ってこれる」

 「間違いないね。あとでママにメールしよ。やっとベラの家に行ける」

 「はいはい。ごめんね我慢させて」と、私。

 「よし」ヒンツは切り替え態勢に入った。「じゃあ説明文、決めようか」

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