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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 14 * HOLE DAYS
82/119

* Big Planning

 校長と教頭は仲良くコーヒーを用意し、並んでソファに腰をおろした。生徒指導主事のボダルト教諭にもコーヒーを渡して、私にはミルクティーをくれた。インスタントだけど、それなりにおいしい。

 私と主事が話の流れを大まかに説明すると、二人とも笑ってくれた。

 「それで」向かって左、カップをテーブルに置いた校長が切りだす。「君の思いつきというのは?」

 こうなっても、まだ気がすすまない。

 「終業式の日に、体育館で自由参加、飲食料持ち込み型のパーティーです。当然、実行部というのが数人から十数人は必要になりますが。ひとりあたりが持ち込む値段の上限は決めておく。それを朝から体育館付近で回収、担当クラスのない先生方と実行部が終業式のあと、二時限目、三時限目のあいだに準備する。邪魔になるし時間がかかるのでパイプ椅子は並べず、必要ならという程度に。ペーパープレートもペーパーカップも、当然生徒たちに用意させます。

 名目は“クリスマスパーティー”兼“三年生受験合格祈願”。なので、三年の受験組には用意してもらわなくてもかまいませんが。イメージは高校の卒業パーティー──プロムですが、それは高校のイベントでしょうし、しかも制服でそんなに華やかなことはできない。するつもりもない。ただ、音楽は絶対。なんなら吹奏楽部もステージで演奏したり、文化祭の時の再現で、舞台コースのクラスが再びそれを演るとか。もちろん真面目な感じではなく、ただ楽しめればという雰囲気ですが」

 足の上で手を握り合わせる校長の口元は、穏やかにゆるんでいた。

 「すごいですね。ボダルト教諭から話には聞いていましたが、なんというか──」

 「計画を練ったというわけではないはずなのに、細かいですよね」教頭が言った。「思いつきだからこそ、ですかね」

 主事が苦笑う。

 「しかも、今日のは本当に乗り気じゃないですね。いつもならもっと強気なんですが」

 「ああ、それもそうですね」教頭がこちらに訊く。「それは、実行側に入れば目立つからやりたくないんですか? それとも、学校を巻き込んでというのができると思ってないから?」

 「どちらもあります──実行側に入るつもりはありませんが、やっぱり、目立ちたくないのは大きいです。実行側に入らなくてもけっきょく、数人にはそれを説明しなきゃなりません。それすら面倒ですし。それ以前にやっぱり、さすがに許可が出るとは思ってません。先生方が許可をくれても、PTAがなんて言うかわかりませんよね。これから追い込みをかける受験生には、たかが二時間か三時間ていうその時間すら、もったいないかもしれませんし。一年と二年は、喜んで参加するかもしれませんが──」

 「確かに、PTAの反応はわかりませんね」校長はソファに背をあずけた。「ならたとえば、学校側が体育館を使用する許可を出し、そのパーティーそのものを学校側のパーティーとして実行することを認めたものの、二時限目と三時限目に生徒に準備させることを拒否したとして、且つPTAがそのパーティーそのものに反対したら──君ならどうしますか?

 昼食抜きというのも気になります。生徒たちが平気だと言っても、教育者側や親の立場としては、昼食を省いてお菓子やジュースをというのは、あまり勧められませんが」

 もっともだ。視線を落とし、少し考えた。だから。

 「──なら、球技大会の時のように、コンビニで買ってくることを許可する。可能なら家で作って持ってくる。LHRのあと、それを教室で食べる──。実行部は、そのあいだにすばやく準備──ある程度は先生方に任せて──」かなり勝手を言っているが。「PTAが拒否するなら、そこはもう」

 一度言葉を切り、校長の視線をまっすぐに受け止めた。

 「学校側は、体育館と必要なものを貸してくれるだけですよね。先生方は、ボランティアで手伝ってくれるだけ。体育館を使用するということで、見張り? 監督? の、立場が必要にもなりますし。去年から時々、特に秋──私たちは昼休憩時間、体育館で遊ぶ許可をもらっています。その延長。

 昼で終わるはずの学校で、生徒たちが持ち込んだ昼食を食べるのは異例ではありますけど、校則違反にはならないはずです。終業式の日は確か、部活もなかったはず。主催は生徒数人と、監督にまわる先生が数人ついてくれる状態。段取りを決めてチラシを配る。強制ではなく自由参加。ツリーや飾りつけがなくても、クリスマスの音楽を流せば、それなりになります。

 クリスマスパーティー兼親睦会でもかまわないかもしれません。高校の話を出してしまうと、高校に行かない三年はちょっと、来づらいかもしれませんし」

 「ふむ──」校長は脚に両肘をつき、口元の前で手を合わせて視線を落とした。数秒沈黙し、口元をゆるめて再び私に言う。「やってみますか」

 私はぽかんとした。「え」

 「PTAには報告程度でいいですかね」教頭は何食わぬ顔で校長に言った。「制服の件や球技大会の時のように、わざわざ召集までかけなくても」

 「メールを送って、個々に対応するくらいで大丈夫かと。生徒に体育館や備品を貸し出すのに、わざわざPTAの許可が必要だとは思えませんし」

 「小さな文化祭ですよね。遠足気分で大きなデザートタイム、小さなパーティー」どうやら教頭は乗り気らしい。

 「校内での、違った形の集団行動ですよね」校長もなぜか楽しそうだ。「団結力もより強くなるかもしれません。三年生はこれから受験の追い込みですし、その前の息抜き。卒業すれば知らない人間と接する機会も多くなる。その予行演習も兼ねつつ、彼女の言ったように、一年と二年、三年の親睦会。三年にとっては、卒業式に参加できない一年生との最後の思い出作り。

 開始時間と終了時間を決めたとしても、自由参加だから、途中で来ても抜けてもかまわない。十二時前にLHRを終えたとして、三十分程度で昼食をとってもらい、そのあいだに協力してくださる先生方と、実行側の生徒たちが準備に入る。ステージでなにかするとなれば、実行側の生徒たちもそのあいだに昼食をとれます。となると、十二時半くらいからでしょうか。準備期間はかなり短いですが、どうにかなるでしょう」

 「ちょっと待ってください」私は思わず、身を乗り出して口をはさんだ。「──本気ですか?」

 「さっきの後半」主事が言った。「お前、自分で気づいてないのか? いつものように強気になってた」

 「──そうでしたっけ」どうでしたっけ。

 「ミズ・グラール」身を乗り出して校長が微笑む。「わたしはね、もう何十年も教員をやってますが、今年や去年ほど、楽しいことはなかったですよ。クラスを受け持っていた頃ならともかく、立場が上になるにつれ、生徒と関わる機会がぐっと減りました。それが当然なことはわかっていましたが。

 でも去年、ただ報告を受けるだけだった日常に、ひとりの生徒の話が飛び込んできました。反発とは少し違う、“個”の主張。でもそれは“個”に見えて、実は“全体”だった。

 今年、球技大会を実行してから少しずつですが、わたしも生徒と話す機会が増えました。制服の件でさらに。楽しくてしかたないんですよ。君はこちらの立場も考えてくれる。こちら側としては、それが嬉しい。しかも、わたしたちもこの年になって“挑戦”ができる。とても幸せなことです。

 君たちに──子供たちに不可能な部分は、大人であるわたしたちが埋め合わせをします。君は一年にも三年にも、少々繋がりがあるようですし、そこから話を広めてもらえば、大きな失敗にはならないでしょう」

 ──なんという、か。「──そんなにいいものじゃ、ないんですけど──」

 教頭は笑った。

 「確かに、いいとは言えないかもですね。修学旅行の件は、生涯僕の記憶に残りそうですよ」

 私は忘れたいのですが。「ゴメンナサイ」

 校長も笑う。「話を聞いて、思わず笑いました。特にテーマパークと最終日の件は。とりあえず」背筋を伸ばす。「人選は君に任せます。もうすぐ休憩時間が終わってしまうので──」

 「そのイベント」

 右方向──テーブルをはさんで主事の正面にある太く白い柱から、やっぱり眼鏡をかけていない元生徒会長が現れた。

 「──僕にも手伝わせてもらえませんか」

 関わってきたよおい。

 「おやおや、ミスター・ブランカフォルト」校長が言った。

 教頭が訊ねる。「かまわないんですか? 準備期間が短いうえ、君は最近、進路を変えたと聞きましたが」

 「勉強はしてます」彼は微笑んで答えた。こちらのソファ脇に立つ。「落ちたら落ちた時、考えます」

 主事が口をはさむ。「どうしたんだお前。いつからそんなに冒険好きになったんだ? もっと堅実だっただろ。しかもオープンな空間とはいえ、立ち聞きするような生徒でもなかったはずだが」

 彼は苦笑った。

 「最近、そうでもないですよ。このあいだ、はじめて遅刻を経験しましたし。もらったお菓子を教室で食べるってのもしました。なんかもう、常識がわかんなくなって」

 なに言ってんだこいつ。

 校長はまたも笑う。

 「“常識”はわかってるでしょう。それを守るか守らないか、その“常識”を間違いだと思うかどうか、“常識”そのものを変えるか変えないかです」そう言って、視線をこちらに戻した。「彼もこう言ってくれてますので、君さえよければ、サポートしてもらってください。実行側は君とその周囲に任せます。

 そうですね──とりあえずこちらは放課後、職員会議を開いて先生方に話さなければならないので、君たちには第一校舎二階の会議室に集まってもらいましょうか。終業式のあとを予定とし、話をまとめていてください。職員会議が終われば、教師側の何人かがそこに行きます。それで打ち合わせましょう。目立つのがイヤで、君なしでも会議が進むのであれば、君はいなくてもけっこう。時間がないので慌ただしくはなりますが、出来る限りのことはしましょう」

 なんだかおかしなことになってきた。「はい、わかりました」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 五時限目が終わったあと、二年D組の教室の隣にある空き教室。話を大雑把に話すと、彼らは声をあげた。

 「マジで!?」

 D組からはアニタ、ゲルト、セテ、イヴァン、ダヴィデ、カルロ──C組からはエルミ、ナンネ、ジョンアと、B組からペトラ、そして三年のリーズとニコラが集まっている。

 職員室を出たあと、わざわざ元生徒会長を避けて教室へと戻りつつ、この時間に集まるようメールした。

 「なんだこれ」カルロがうわついた様子で私から彼らへと視線をうつす。「なんだこれ」

 「ありえねえ」セテとダヴィデのあいだでゲルトがつぶやく。「さすがにありえねえ」

 「お前、ここらで人生の運、ぜんぶ使ってないか」ダヴィデが心配そうに私に言った。「大丈夫か」

 私は左手で彼の視線を遮った。

 「もうやめて、頼むから。本気でイヤ」

 イヴァンは私の背後で私と同じく教師用デスクに腰かけている。「イヤだよな。っていうか、この座り方もイヤだよな。なんか追い込まれてる感じ」

 みんな私たちを囲むように集まっている。

 「泣きそうだよ」私は彼の背中にもたれて目を閉じた。「自信なさげに喋ってたはずが、いつのまにか強気になってたらしい。たぶんそのせい。しかも元生徒会長まで出てきた。手伝うとか言ってやがる」

 女全員が呆気にとられる中、アニタがいち早くその存在に反応した。

 「え、マジで?」

 「マジよ」

 今の私の言いかた、おそらくきっと、ものすごくうざそうな物言いだったと思う。

 「ああ」セテが口をはさんだ。「あの、お前が学校でいちばんキライっていう」

 私は空笑った。「そう」しゃしゃりでてんじゃねえよブレインが。「とりあえず」

 身体を起こすと、私はリーズとニコラに司会を引き受けるか否かの意思を確認した。彼女たちは「やる」と即答した。続いてアニタ。「当然」という答えを返してくれた。

 ペトラへと視線をうつす。「あんたは?」

 「そりゃ、やってもいいけど」アニタに言う。「失敗が恐ろしいよ、これ」

 「失敗なんかさせないわよ」私は言った。「学校を巻き込んでんのよ。去年のあれとは違う」球技大会とも少し違う。「なんでまた自分から墓穴掘ってんのかわかんないけど、規模が大きすぎるけど、スケッチブックと一緒。影の部分はできるだけやるから、表はあんたたちがやって。そんで」うずうずした様子のエルミへと視線をうつす。「あんたもやるんでしょ」

 瞬間、笑顔になった。「やる!」

 「いや、ホントに墓穴もんだわ、これ」ゲルトがダヴィデに言う。「お前、煽った責任とってやれよ。特に失敗した時。一生ベラに恨まれるよ? それどころかこいつらにも」

 「ええ」彼は不安げな表情をこちらに向けた。「──まじで?」

 「だから、失敗させる前提で話をすんなよ。そりゃ失敗したら恨むかもしれないけど」

 私はいったい、アゼルになにを言われるのだろう。完全な墓穴だ最悪だ。

 そんなことを考えながらも私は続けた。「六時限目の授業のあいだに、できるだけのことは考える」リーズとニコラに言う。「だから、それまで待ってもらうしかないけど。放課後、第一校舎二階の会議室に来てもらえる? 教師たちと会議することになってるから。三年のほうも人数増やしてもらう可能性はあるけど、先に大雑把なことを考えてみなきゃよくわかんないから、声かけるヒトに目星つけといてくれる程度でいい。ちゃんとした会議は明日か明後日からでも。一応、教師の提案てことになってる。そこにたまたま元生徒会長と二年生がいただけ。昼休憩が終わりかけてて時間がなかったから、その元生徒会長と二年がそれぞれの学年に声をかけて主催チームにしたっていう、曖昧な流れにしとく」

 「わかった」ニコラがリーズに忠告する。「まだ言っちゃダメだかんね、誰にも」

 「言わねえよ!」勢いよく言ったかと思えば、心配そうな表情をこちらに向けた。「──平気?」

 私は苦笑った。「わかんない。正直ものすごく後悔してる。でもやるしかない。引き下がれないもん」

 彼女も苦笑った。「だね。できるだけのことはする」ニコラの腕をとる。「たぶんこれが最後のチャンスだもん。うちらのクラスが別ってのがアレだけど、六時限目のあいだに、こっちも色々考えてみる」

 ニコラも続く。「だね。なんならベラの存在が薄れるくらいに」

 「それどころか、そのままフェードアウトさせてやって」ゲルトが言った。「じゃないと、とばっちり受けるのはこっちだ」

 遠い目をしてセテがつぶやく。「ああ、またあの状態か。ヤなんだよな、あれ。いちいち小声で喋んなきゃいけないし、なぜかいきなり腕相撲はじめるし、負けてやんなきゃいけないし」

 ストレス発散。「本気でやって負ける時があるくせによく言うよ」

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