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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 13 * WARNING DAYS
77/119

* Looking For Reason

 店内に戻ると、ルキアノスは私がさっきまで座っていた席に詰め、私はアドニスのうしろに座った。

 「っていうか、どうやって知り合ったの?」サビナが私に訊いた。

 さっさと帰れ。「ナンパされたの、二人に」チェアの背で左腕を支えて手にあごを乗せ、私は答えた。「センター街で」

 「マジで?」カーリナが意外そうな表情でルキへと視線をうつす。「──するんだ」

 アドニスが口をはさむ。「ちょっと待て。え、なに? オレはしそうなわけ?」

 彼女が苦笑う。「しそう」

 「失礼すぎだろ。そりゃするけど!」

 笑う彼女たちをよそに私は続けた。

 「しかも状況がひどい。ひとりでクレープ食ってるところに、男二人で声かけてくるんだもん。怖くて怖くて」

 ルキも笑う。「よく言うよ」

 「彼女は?」エデが訊いた。「二人とも、いないの?」

 アドニスが答える。「いないいない。いないけど、今はいらない」

 「え、なんで?」サビナが訊いた。

 「なんとなく。今はダチと遊ぶほうが楽しいし」

 カーリナが私に質問する。「いつも三人で遊んでんの?」

 「うん」はい嘘答えました。「まだ数えるほどだけど。普段は電話かメールだし」

 「先輩、知ってんの?」

 そこに話を、持っていきたいだけ。「当然知ってる。でもそんなのいちいち気にしない。しかも今喧嘩中」

 「まじで?」ルキが訊いた。「なんで?」

 避妊具が。「それは言いたくない。ものすごくくだらないことだから」くだらないということは、わかっているのだが。

 アドニスは話題を変え、彼女たちに質問を返した。「お前らは? ナンパされたりしない? センター街で」

 三人は顔を見合わせた。

 カーリナが応じる。「されたことはあるけど、相手にしなかった。なんかそういうの、イヤだと思ってたし」

 将来的にはカルロも、普通にすると思いますけど。というか、アゼルたちもしますけど。

 「いや、ナンパなんかするもんじゃないって、本気で思った」ルキアノスが言う。「アドニスはともかく、俺にとっては人生初ナンパが」左手で私を指差す。「こんなのだったわけだから」

 こんなのってなに。

 彼女たちは笑いをこらえたものの、アドニスは笑った。

 「そうそう。第一印象最悪。アホだのバカだの言ってくるし」

 「うざいとかロリコンとかも言われた」ルキは遠い目をしている。「女の子にめんどくさいとか言われたの、はじめてだし」

 よく覚えていないのだが、私はあやまった。「なんか知らないけどごめん」

 アドニスはやっぱり笑っている。

 「ひどすぎだよな。なにこいつって、マジで思ったもん」苦笑うカーリナに向かって続ける。「けどまあ、なんだかんだで普通にトモダチしてる。オトコいるのは知ってるし、口説いたりもしてねえよ。っていうかこんな変な女、イヤだし」

 耳にタコができるくらい聞いたことのあるセリフだった。彼女たちは小さくふきだし、控えめに苦笑った。

 カーリナが彼らに訊く。「タイプはどんなの? 女の子の」

 「可愛い子」アドニスは即答した。「あとおもしろくて、っていうか明るくて楽しくて、よく笑う女。性格のいい女。わがままじゃない女。嘘つかない女。嫉妬しない女。わりとアホっぽいのが好き」

 「注文多すぎ」と、ルキがつっこんだ。

 彼は自覚している。「けど現実はそんな理想、叶うわけないよな。けっきょくわがままだったり、嫉妬したりすんだもん」

 うなずいて同意するルキアノスに、テーブルに身を乗り出したエデが訊ねる。

 「ルキは?」

 「俺? んー」彼は一度そらした視線を彼女に戻し、続けた。「そんなつもりはないけど、面食いだとか言われる。うるさいのよりおとなしい子が好きなんだと思ってたけど、そうでもないっぽい。派手なのより真面目な子のほうが好きなんだと思ってたけど、それも違うっぽい。自己中なのはイヤだと思ってたけど、そんなこともないっぽい」

 またカーリナが苦笑う。「ぜんぶ曖昧」

 彼も苦笑った。「な。よくわかんない」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夕方十八時を過ぎた頃。

 「エデがルキに?」再びの電話越し、再びのリーズが訊き返した。「アドレスを?」

 祖母の家、屋根裏部屋。私はアイボリーカラーのラグの上、赤いビーズクッションに寝転んでいる。

 「うん」と、私。「帰りがけに訊いてた。あいつらが帰ったのは三時くらいで、私たちはダイナーに残ってたんだけど。こっちも帰ろうかって頃になって、エデからルキにメールが届いた。今日はありがと、楽しかった、みたいな」

 「へー」彼女の返事はあっさりだった。「アゼルの次はルキなんかな。なにこれ。アゼルはともかく、タイプ一緒?」

 私は苦笑った。「さあ。でもサビナはともかく、エデは焦ってる部分、あるかも。短いあいだではあるけど一応、カーリナは男とつきあったことあるわけだし。プライド的に」

 「あー、それはあるだろーな。アゼルにはアタックする前に玉砕したし、気づけば二年も終わりに近づいてるし。でも気にすることじゃないな。エデじゃルキは落とせないよ」

 「そうなの?」

 「絶対無理」リーズは自信ありげに答えた。「自分にできなかったからってのじゃねーよ。でもそれは言いきれる。言いきれるから、むしろ煽ってやりたいな。そんでまた玉砕しちまえ、みたいな」

 私は笑った。「じゃあサビナたちに今度、恋愛話でも持ちかけてみたら? もちろん三人でいる時。もしかしたら、なんか喋るかも。リーズと話せるの、きっと喜ぶよ」

 「だね。喜ばれても困るけど、やってみる。応援してるフリして玉砕しろって念じてやる──あ、待って、マスティが代われって言ってる」

 「話したくないから、もう切る」

 「マジか」

 「うん、喧嘩したくないから。放置しといてって言っといて。ごめん」

 「んー、わかった。じゃね」

 通話を終えると携帯電話の電源を落とし、両腕で顔を覆った。

 なぜこんなにイヤなのだろう。誰かをからかって遊ぶことも、周囲の眼を気にせずめちゃくちゃすることも、わけのわからない言葉を交えながら下ネタを話されることも、そこまでイヤだとは思っていない。

 人前でアゼルとキスをすることも、アゼルのベッドでマスティやブルが眠ることも、校舎の中でしたことも、体育倉庫でしたことも、外でしたことも、結果的には、なにもイヤじゃなかった。

 ならどうして今こんなに、ひどくモヤモヤした気持ちになってるのだろう。

 “ムカつく”

 そうだよ、ムカついてる。あんなこと、したくなかった。

 “なんで?”

 理由などわからない。アゼルと一緒に買いに行った時は、なにもイヤじゃなかった。楽しかった。

 その記憶を塗り替えられたからというわけではない。操られたようになっていたのがイヤというわけでもない。そんなことはどうでもいい。

 だけどなにかが、間違っている気がする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 真っ暗な屋根裏部屋のベッドの上、重いまぶたを閉じたままナイトテーブルに手を伸ばして携帯電話を取り、手探りで電源を入れた。

 いつも携帯電話のアラーム機能を使って朝起きているのに、電源を落としてしまったら、アラーム鳴らないじゃない。アホか私。

 こすった目をゆっくりと開き、画面を確認した。──午前二時前。

 なぜか、眠れない。ものすごく眠いのに、ぜんぜん眠れない。

 “なんで?”

 その問いかけが、ずっと頭の中を駆け回っている。

 手の中で携帯電話が鳴った。溜まっていたメールを一気に受信している。ブルとマスティから、何件かずつ。

  《なにそんなにキレてんの?》

  《え、マジ切れ?》

  《話したくないってなんだアホ》

  《そのうちおさまんの?》

  《電源落とすのは卑怯だろ》

  《いつまでふてくされてんだ》

  《わかった、悪かったって》

  《あやまるから、とりあえずメールか電話かよこせ》

  《明日の夜になってもマブに来なかったら、リーズでもアゼルでも連れて、家に乗り込んでやるからな》

 卑怯? なぜ私が卑怯になる? 非通知で電話して起こしてやろうか。家の窓ガラス、割ってやろうか。

 シーツを頭までひっかぶり、身体を丸めて目を閉じた。

 ──このベッドですることだって、この部屋ですることだって、イヤじゃなかった。

 なら、“なんで”?

 “自由が欲しい。なんにも考えなくていい世界”

 “ベッドだけあればいい”

 “そこにふたりでいるの。それだけでいい。世界とまではいかなくても、空間。狭くていいから、ドアを開けて閉めたらもう、誰にも邪魔されない”

 “真っ赤な空間”

 “棺も赤にしないとね”

 “墓は黒だろ?”

 “棺の中でもいいや。地獄でもいい”

 “そこに、ふたりだけで”

 勢いよくシーツを引き剥がし、身体を起こした。

 やっぱり、間違ってる。

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