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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 13 * WARNING DAYS
76/119

* Malicious

 後方から自分の愛称を呼んだ聞き覚えのあるその声に、私は振り返った。

 サビナだ。その背後にカーリナとエデも立っている。

 「ハイ」

 私はとりあえず挨拶した。なぜいるのだ。というかなぜ声をかけたのだ。

 「びっくりした」とサビナが言う。「ごめん、いたから」

 アドニスが私に訊く。「友達?」

 違います。「同期なの。三人とも」

 「へー。やっぱレベル高いな、ウェスト・キャッスル」

 なんか言ってるよ、こいつ。

 サビナの左隣に立つカーリナも、私に同じ質問をした。「友達?」

 勘ぐるなようざいから。「友達。ふたつ上。アゼルたちと一緒」

 「そうなんだ」サビナが応じ、カーリナとエデを見やった。「とりあえず、座ろっか」

 「そこに座ればいいじゃん」アドニスは私のうしろにある席を指した。「んでオレとベラが席を替われば──」

 彼の言葉を遮るよう、バッグの中で携帯電話が鳴った。ルキアノスからだ。私はそれを取り出して応じた。

 「はいはい」

 「今着いた。どこ?」

 「ハイウェイ側の奥、窓際の席にいる。まえに来た時、一緒に座ったところの、間仕切り挟んだ隣」

 「ああ、了解。切るよ」

 「ん」

 電話を切った私にアドニスが言う。「やっと来たか」

 携帯電話をバッグに戻す。「遅いよね」

 「あいつの家、でかいからな。迷路だぞ」

 「どんなよ」

 「ちょっとごめん」と、ルキアノスが現れた。

 エデの隣に立った彼に、ぎょっとした様子のサビナとカーリナが道を開けると、彼はさらに進んでこちらに来た。

 「なにこの仕返し風な感じ」

 笑うアドニスは「気にすんな」と彼に言って、サビナたちに視線をうつした。「これもダチ。とりあえず座れよ。そっちに」

 言われたとおり真うしろの席、サビナとカーリナがこちら側に、エデが奥に座った。アドニスはルキアノスを奥の席に座らせたので、私は彼にバッグを渡して席を詰めた。アドニスが私の右隣に座り、私のうしろにカーリナが、アドニスのうしろにサビナがいる状態になった。

 彼女たちはランチを食べに来たらしく、店員を呼んでメニューをオーダーした。すでにランチは済ませていたルキアノスはカフェオレを注文した。

 「三人とも彼氏いんの?」アドニスが彼女たちに訊いた。

 サビナが答える。「ううん」

 彼はさも意外そうな反応をした。「マジで? もったいない」

 あとで蹴っていいかな、こいつ。

 「んじゃさ、ダチ紹介していい? うるさいんだよ、女紹介しろって」

 「え」サビナが不安げな表情でこちらを見る。「けど──」

 今さらどうしようもない。「イヤだったら断ればいいじゃん。ちょっとでも恋愛する気があるんなら、とりあえずメールでもしてみればいい。無理に恋愛に結びつけなくても、友達でもいいけど。微妙だったらアドレス変えてブチればいいんだし」

 「ひどいなお前」とは言ったものの、彼は彼女たちに向かって続けた。「まあ暇つぶし感覚でいいし、変なのは紹介しないから大丈夫だって。いろいろいるぞ、みんな高校一年だけど。遊び人だったり、うるさいのだったり、頭がよかったり、不良だったり、おとなしいのだったり。タイプあんの? こんなのがいい、みたいな」

 「ええ──」サビナは苦笑ってカーリナと顔を見合わせた。「よくわかんないよね」

 彼女も苦笑を返す。「わかんない」

 “顔のいい奴”という答えは、さすがに言わないらしい。

 「写真ないの?」私は彼に訊いた。

 「あ、あるある。ちょっと待て」

 彼はポケットから携帯電話を取り出し、操作しはじめた。

 「なにが起きてんのかさっぱりなんだけど」向かいの席でルキが言った。「どうなってんだ」

 苦笑うしかない。「私もよくわかんない」かなり面倒なことになっている。

 私は彼らに、エデとカーリナを紹介した。名前だけ。続いてサビナを示す。

 「この子はサビナ。サビナにはね、私たちと同じ中学の三年に、イトコがいるの。リーズっていうイトコが。めずらしいよね」

 「へ?」アドニスは呆気にとられた様子で顔を上げた。ゆっくりサビナへと視線をうつす。「──イトコ?」

 彼女は口元をゆるめている。「うん。同じ地元なんだ。家はそんな近くないけど。あたしのママのお姉さんの娘が、リーズっていうイトコなの」リーズからはなにも聞いていないらしい。

 「へー」彼はほとんど棒読みかと思うような返事をし、ぎこちない様子で携帯電話を彼女に渡した。「オンナいない奴のフォルダ作って、写真入れてやった。右に動かしてったら見えるから、じっくり見て。顔がどうこうとか言っても、チクったりしねえから」

 サビナは受け取った携帯電話をテーブルの上に持っていき、カーリナとエデと三人で覗きこむように見はじめた。

 呆れたのか片手で頭を抱えるルキに向かい、彼女たちには見えないよう胸の前で両手の平を合わせると、アドニスは声に出さず口を動かしながら彼にあやまった。

 だがルキは店員からカフェオレを受け取りながら、やっぱり呆れた様子でそれを遮った。こちらに訊く。

 「デザートは食べた?」

 「まだ」と、私。「時間引き延ばそうと思って、小出しにしてる」

 アドニスが小声で口をはさむ。「っつーかアレは、今日お前がオレらと会うこと、知ってんの?」

 おそらくリーズのことだ。「知ってる。でもどうでもいいって」リーズはわりと、彼らに会う前のリーズに戻っている。「私のつきあってる相手は、そんなこと気にする奴じゃないし」

 「それは──」彼は悩ましげな表情をルキに向けた。「そんなもんか?」

 彼は苦笑う。「知らないよ」

 リーズのショックは、失恋よりも自分の人間性に対するもののほうが大きかっただけだ。

 「頼むから気にしないであげて」

 私がそう言うと、アドニスは肩をすくませた。

 「そーだな」そう言って再び彼女たちのほうを向く。「どーよ?」少し調子が戻ったらしい。

 振り返ったカーリナの口元はゆるんでいた。

 「かっこいい子がいっぱい」

 「だろ? なんならぜんぶイチから説明してやる」完全に調子が戻ったらしい。「ランチ食い終わったら言って」

 「ほんとに?」サビナも乗り気らしい。「じゃあこれ、とりあえず返しとく」

 彼女は彼に携帯電話を返した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 彼女たちのところにランチが届き、私たちはデザートを注文した。ちょうど食べ終わった頃に彼女たちも食べ終え、サビナがエデの隣に移動。アドニスはカーリナの横に座って、誰がどういう奴かというのを、ほんとに説明しはじめた。

 そんな彼ら眺めながらルキアノスがつぶやく。「あの才能はすごいな。さすがに初対面の女の子三人相手に、あんだけ盛り上がったりはできない」

 思い出話も含んでいるらしく、後方はなぜか盛り上がっている。

 私は身を乗り出して声を潜めた。

 「ちょっと責任感じてんのかも。声かけてきたのは向こうだけど、引き止めたのは彼だから」

 ルキも曲げた両手を交差させてこちらに身を乗り出す。

 「あんま仲よくない感じ?」

 「ぜんぜん」小声に小声で答えた。「むしろ仲悪い。なんで声かけられたのかわかんないくらい」おそらくアゼルのことが気になったのだろう。浮気なのか、別れたのか、そんな疑問があったのだ。「やっぱここ、ダメかも。ウェスト・キャッスルじゃなきゃだいじょうぶかと思ったけど、なにげに来るっぽい」

 「近いからな。ショッピングセンターってのがダメなのかも。ワンコインショップとか、隣にはドーナツショップもあるし──」思いついたような顔をした。「ダイナーにランチ食べに来てるってだけで、アドニス的にはポイント高いのかもな。気取ってないみたいな」

 思わず納得して苦笑った。

 「そういえば、なんでダイナーなんかにいるんだろ。絶対カフェとか行きたがるタイプだと思ってたのに、あいつら」

 「マジで?」彼女たちを見やる。「ああ──」視線をこちらに戻した。「カフェタイプだな。いや、知らないけど。でもデートってなったら変わるって女の子は、わりといる。自分が金出すのはダイナーで、男が金出すのはカフェ、みたいな」

 笑える。「これからナンパする時は、ダイナーとかバーガーショップですればいいよね。そしたらカフェタイプに当たる確率は少ないかも」

 彼も笑った。「やだよそんなの。っていうか、ナンパはほんとにしないから。けどアドニスにはそう言おう。あいつ、ほんとにやるかも」

 「ぜひしてほしい。そんで店員に注意されて恥かけばいい。私は動画を撮る」

 「そこまで言ったらやらない可能性があるから、言っちゃダメだって。でもぜひ挑戦してほしい」

 相手を仕込んでおくってのもおもしろそうだ。「あとで言ってみよ」

 ちなみにこの話は当然、あとからきっぱり断られた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「サビナたちに?」電話越し、リーズが訊き返した。「すごい偶然だな」

 「うん」私はダイナーの外、出入り口脇のベンチに座っている。「そもそもなんで声かけられたのかが、本気でわかんないんだけど。リーズのイトコだって教える前に、アドニスが男紹介するとか言いだして。教えた時にはもう手遅れで。リーズのこともニコラのことも、ぜんぜん知らない的な流れで話してる。知ってるなんて言っちゃったら、なんで今連絡とってないんだってことになるだろうから」

 「あー、だよね。うん、そっちのがいいと思う。よかった話さなくて。ミッド・オーガストの時、ちょっと悩んだんだけど。どうせ言ってくる言葉は決まりきってるから、やめた。超セーフ」

 「だね。で、今ルキも一緒になって話してる。私が電話してくるって言ったら、ルキも会話にまざった。三人とも、わりと楽しそうなんだよね」

 「ふーん。私もちゃんと紹介、受けとけばよかった」

 「なに言ってんすか」

 彼女が笑う。

 「だって、なにげにレベル高いんだよ、あの二人の友達。インゴみたいなのもいるけど、なんつーか、あからさまに残念! みたいなのがいない。っつーかたぶん他にもいるんだろうけど、紹介されたのはほとんど、普通か、けっこうかっこいい子たちばっかりだった。話延ばしてたら、アドレスとかも手に入ったかもしんないけど。いつもなら乗ってた気がするけど、それどころじゃなかったし」

 ある意味初恋だ。「なんならサビナに、あとから誰か紹介してもらえばいいじゃん。なんか変なことになりそうだけど。ルキには仲悪いグループだって言ってあるから、それほど面倒なことにはならないと思う」

 「ん、そっか。まあもしサビナたちにそのこと言われても、ぜんぜん知らないフリしとく。ニコラにも言っとく。っていうかベラ、今日マブに来ないの?」

 「行きたくないから行かない」私は即答した。「っていうか、会いたくない。あの三人に会いたくない。会ったら蹴り入れそうだから」

 「やっぱ怒るよね、あれは──」リーズとニコラは昨日、ただただ苦笑っていた。「クッションくらいは投げとこうか」

 そんなのでは、足りない。「ううん──そのうちおさまるだろうから、おさまったら行く。最悪避妊具ぜんぶ切り裂いてやるからって、あのアホ共に言っといて」

 リーズは苦笑した。「わかった。言っとく」

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