* Agency Call
夜二十二時すぎ。自室にいると、ルキアノスからメールが入った。
《今平気? 電話していい?》
リーズのことがあったし、昨日のアドニスとのやりとりで、彼らとはもう、終わったと思っていた。アドニスから連絡はなかったし、私もしなかったから。少し悩んだものの返事をすると、彼は電話をかけてきた。
「ひさしぶり」と、ルキは切りだした。「とりあえず、どうだった? 修学旅行」
私はベッドに仰向けに寝転んでいる。「面倒もたくさんあったけど、それなりに楽しかったわよ。でもそういう世間話はいいから、さっさと本題に入ればいいと思う」
彼は苦笑った。
「ん──ごめん、アドニスが昨日、変なこと言って」
「あなたがあやまるのは変よ。私にあやまられても困るし、ちょっとムカついただけで、怒ってはないんだから」
「まじで? かなり怒らせたって言ってたけど」
なにをどう説明したのだろう。「かなりってほどじゃない。言葉を待たずに電話を切ったのは、それがいちばん効果的だと思ったから。弁解を聞くつもりはなかったし、彼はなにも言ってこないんだから、もうそれで終わりでいいじゃない」
「いやいや。なにから言えばいいのか、正直よくわかんないんだけど──」
「頭のいいあなたでもそうなるのね。てっきりぜんぶ整理してる状態でメールしてきたんだと思ってた」
「いや、さすがに無理──昨日アドニスに言ったの、半分は俺にも言いたかったんだろ。文化祭のこととか」
「そうね。でもそこにはそれほど、ムカついてはない。あなたにもアドニスにもその気がないんだろうなってことは、なんとなくわかってたから。彼の言いたいこともわかるのよ。ただ私は立ち位置的に面倒だと思ってただけで、彼が言うような気まずさを感じることはないし、むしろその気まずさを壊してやりたいほうなの。陰で愚痴るのも愚痴られるのも、あんまり好きじゃないから」
「うん、だろうな──確かに気まずいなってのは、俺も思ってた。ベラは気にしないかもしれないけど──なんかリーズに悪い気がするし、せめてもうちょっと時間おかなきゃ、無理かなと思ってたり。こんな早くに連絡入れる気はなかったんだ。ただ、アドニスが相当へこんでるから」
どうでもいい。「ざまあみろって言っといて」
彼はまた苦笑った。「うん、言っとく──あいつさ、なんでも言える女友達っての、中学の頃から欲しがってたんだよ。女の子の嫉妬とか、わがままな部分とか──まえにアーケードのファミレスで話したようなこと、話せる女友達。性格があんなだから、わりとなんでも言う奴だったんだけど──中学の時にいろいろあって、とりあえず周りにそういうこと言うの、やめてて」
やはり変人扱いされている気がするのは気のせいか。
ルキアノスは続けた。「ベラと知り合って、こういう娘もいるんだって思って、それが楽しくて、調子に乗ったんだと思う。言っちゃいけないことってのは、あいつもわかってるはずなんだけど。気まずいからやめてほしいなんていうわかりきった本音、俺もはじめて聞いたし。あいつに恋愛感情はないけど、トモダチって意味でベラと気まずくなるのがイヤで暴走したんだと思う。ごめん」
つくづく変な奴らだ。「だから、あなたがあやまることじゃない。私もあやまる気はないし、彼があやまる必要もない。怒ってるわけじゃないし、ちょっとムカついたから言っただけ。怒るほど親切じゃないの。それに気まずいだのなんだのってのは、私にはないわけだから、そういうのはそっちで勝手にやって。あなたたちとリーズたちがどんなことになろうと、私はどうでもいいのよ」
その言葉で、彼はまたも苦笑った。
「よくわかんないな、ほんとに──じゃあアドニスがまた連絡入れたとして、普通にトモダチ続けられる?」
「どっちでも。わざわざイエスって答えるのも変だと思うけど。でもそれってけっきょく、愚痴聞き役でしょ? そんなの、男友達でじゅうぶんだと思うんだけど」
「ああ。なんていうか──あいつあれで、変にヒトの目、気にするんだよ。中学の時、ひとりの女の子のことをめちゃくちゃに言ってて、しばらくしてその子が男友達とつきあいはじめたんだけど、悪口言ってたことがバレてモメたことあるし──普通にしてたら対人運が悪いから、他人の目っての、どんどん気にするようになって、どんどんヒトに本音言えなくなって。変な話だけど、友達に飢えてるってのはある。女の子とつきあっても、ちょっと本音言ったら幻滅されたり、それですぐ終わったり。ベラなら大丈夫だって思い込み? が、けっきょく、暴走に繋がったわけだけど」
「変に期待されても困るわよ。小学校からの友達ですらいまだに首をかしげるほど、私は複雑なわけだから。自分でも怒りのツボってのがわからない。ほとんどのことはどうでもいいし、面倒だから反応もしないけど、無関心なわりに短気な部分もあるから、なにでどう反応するかは、本気でわかんないわけで」
「うん、あいつもわかんなかったんだと思う──ついでに言えば、あのあとどうすればいいかってのも、わかんなかったんだよ。相当へこんでた。久々に見た、あんなの。とりあえずもう遅いから、明日電話してみるとは言ったんだけど。今もたぶん、携帯電話片手にもやもやしてるんじゃないかな」
笑える。「それであれよね、あなたは明日学校で会うまで放置したりすんのよね」
「そうしたいところだけど、十一時までに電話がなかったら家に来るとか言ってたんだよ。それはさすがに勘弁してほしいから、とりあえず電話しなきゃいけないっぽい」
つまらない。「考えこみすぎな気がする」
「まあ──かなり後悔してるっぽいし、貴重な存在だから。ベラは? 友達とモメたりしない? なんか面倒なのが多いみたいなの、言ってたじゃん」
「モメたりってのは、あんまりない。それなりに仲のいい友達なら、まず私を本気で怒らせるようなことは言ってこないし。小さいのならいくらでもあるけど、相手にしないことのほうが多いのよ、ほんとに。私の性格をわかってるのが裏目に出て、女友達がものすごくうざいことをしてきたこともあったけど。その時私は、怒ってもないのにあとの授業をサボッて家に帰ったりもしたけど、次の日はどっちも普通に話してた。それが正解なの。無駄に引き延ばしたりしない」
「あ、じゃあアドニス、普通に電話かけなおしてもよかったんだ。悩み損か」
「損とか言うほどのことでもないけど、まあそういうことね。私が復讐に動かないうちは、気にしなくていいのよ。気にされても困る。私ほど気まぐれな女はきっと、どこにもいないんだから」
さらりと言うと、彼はふきだして笑った。
「わかった。そう言っとく──アドニスが今日電話するとか言いだしても、平気?」
「今日はもういい。眠いから。っていうか、私から電話する、そのうち」
「ああ、わかった。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」




